第8世代でi7 7700Kからi7 8700Kで大きな仕様変更があったように、第9世代の「i7 9700K」も同様に大きな仕様変更が入った。スペックがどのように変わり、肝心の性能はどれくらい進化したのか?
i7 8700Kと比較しながら、PC初心者にも分かりやすいように詳しく解説。
更に2コア増えた「i7 9700K」
カタログスペック(仕様)の比較
まずはカタログスペック(仕様)から確認していこう。特に、最近のCPUはAMDが頑張っているおかげで本当に進化のペースが速くなっているため、常にスペックを確認しておきたいです。
CPU | Core i7 9700K | Core i7 8700K | Ryzen 7 2700X |
---|---|---|---|
ロゴ | |||
世代 | 9th Coffee Lake R | 8th Coffee Lake | 2nd Zen+ |
プロセス | 14nm++ | 14nm++ | 12nm |
TIMCPU内部の熱伝導材 | ソルダリング | サーマルグリス | ソルダリング |
ソケット | LGA 1151 v2 | LGA 1151 v2 | Socket AM4 |
チップセット | Intel 300 | Intel 300 | AMD 300 / 400 |
コア数 | 8 | 6 | 8 |
スレッド数 | 8 | 12 | 16 |
ベースクロック | 3.60 GHz | 3.70 GHz | 3.70 GHz |
ブーストクロックシングルコア使用時 | 4.90 GHz | 4.70 GHz | ~ 4.30 GHz |
ブーストクロック全コア使用時 | 4.60 GHz | 4.30 GHz | 3.95 ~ 4.25 GHz |
手動OC | 可能 | 可能 | 可能 |
L1 Cache | 512 KB | 384 KB | 768 KB |
L2 Cache | 2 MB | 1.5 MB | 4 MB |
L3 Cache | 12 MB | 12 MB | 16 MB |
対応メモリ | DDR4-2666 | DDR4-2666 | DDR4-2933 |
チャネル | x2 | x2 | x2 |
最大メモリ | 64 GB | 64 GB | 64 GB |
ECC対応 | 不可 | 不可 | U-DIMM |
PCIe | 16 | 16 | 20 |
構成 | 1×16 + 2×8 | 1×16 + 2×8 | 1×16 + 1×4 |
1×8 + 2×4 | 1×8 + 2×4 | 3×8 + 1×4 | |
内蔵GPU | UHD 630 | UHD 630 | なし |
GPUクロック | 350 ~ 1200 MHz | 350 ~ 1200 MHz | – |
TDP | 95 W | 95 W | 105 W |
MSRP | $ 385 | $ 359 | $ 329 |
参考価格国内Amazon(平常時) | 51480 円 | 40400 円 | 36200 円 |
参考価格国内Amazon(品薄時) | – | 53800 円 | 45800 円 |
進化したスペックは青字で強調し、劣化してしまった部分は赤字で強調しました。
インテルは最大のライバルであるAMDが投入した「AMD Ryzen」に対抗するべく、第8世代からコア数の増量で対応してきました。今回の第9世代でも、コア数の増量が行われている。
- 第7世代以前:4コア / 8スレッド
- 第8世代:6コア / 12スレッド
- 第9世代:8コア / 8スレッド
そして、よく見ると第9世代のCore i7では、今まで実装されていた「Hyper-Threading Technology」(略 : HTT)が省かれていることに気づくと思います。
「HTT」とは、CPUのコア数をWindows側から2倍に見せることで、処理を効率化して性能アップを狙うという技術のこと。i7 8700KにはHTTが入っていたので、6コアで12スレッドに。
だから、いつも通りHTTを実装していれば、i7 9700Kは「8コア / 16スレッド」に…なるはずが、16スレッドは更に上位の「Core i9 9900K」に譲られてしまい、i7 9700Kは8スレッドのままになってしまった。
本当にここ最近のインテルは「Core i7の伝統」にザックリとメスを入れていくスタイルですね。4コアを捨て6コアになり、8コアになったと思ったらHTTを捨ててしまいました。
最大の特徴は「ソルダリング」の復活
さて、「8コアになったけどHTTを捨ててしまった。」のは残念な話ですが、第9世代のCore i7は「TIMがソルダリングに変更された。」ということを忘れてはいけない。
「TIMとは?」と、初めてCPUについて調べている人は疑問に思うはずなので、ここでカンタンにTIM(Thermal Interface Material = 熱伝導材)について解説しておく。
CPUのチップ本体(ダイ)はヒートスプレッダと呼ばれる殻で保護されています。その殻とチップ本体の間に、熱伝導材として「サーマルグリス」が従来のインテルCPUでは使われていた。
そのサーマルグリスは米国のダウコーニング社が製造しているモノで、正直に言ってそれほど優れたモノではない。安価で高耐久なだけで、別売りのCPUグリスと比較すれば熱伝導率はそれほど良くないのです。
つまり、従来のインテルCPUは非常に冷えにくいという欠点を持っていた。だからヒートスプレッダをわざわざ剥がして、グリスを液体金属に置き換える「殻割り」という行為が、一部のガチな自作erの間で行われていました…。
そして、今回の第9世代から「ソルダリング」(はんだ付け)が復活。インジウムという金属を使ってはんだ付けされているので、従来の安物グリスと比較してずっと熱伝導率が高い。
結果的にソルダリングが施されたCPUは冷えやすくなり、クロック周波数も高めに設定されているというわけ。i7 8700Kは4.3 GHzで、i7 9700Kは4.6 GHzです。しかも8コア。
自分で殻割りをしようと思えば、殻割り専用の器具(5000~10000円)と交換用のグリスや液体金属(1000~3000円)が必要になる。そして失敗して破損するリスクまで抱えてしまう。
そういったコストや手間とリスクを考えれば、最初から液体金属に換装済みのソルダリング仕様のCore i7は、そこそこ魅力的に映ります。
従来のチップセットを利用可能
次はプラットフォームについて解説。嬉しいことに、第9世代は第8世代のプラットフォームと互換性を維持しています。
CPU | Core i7 9700K | Core i7 8700K | Core i7 7700K |
---|---|---|---|
対応ソケット | LGA 1151 v2 | LGA 1151 | |
対応チップセット | Intel Z390 | – | |
Intel Z370 | Intel Z270 | ||
Intel H370 | Intel H270 | ||
Intel B360 | Intel B250 | ||
Intel H310 | – |
第9世代向けに新しいチップセット「Z390」が登場しているが、従来の「Z370」や「B360」マザーボードでもBIOSを更新することで引き続きCore i7 9700Kを使うことができる。
なので、既にZ370マザーボードなど従来のIntel 300チップセット搭載のマザーボードを持っている人は、わざわざZ390マザーボードを購入する必要は無い。
あえてZ390マザーボードを買う必要性を挙げれば、派手にオーバークロックをする人くらいです。Z390搭載のマザーボードは電力供給の設計が強化されたので、従来のマザーボードより(理屈上)オーバークロックがしやすい。
と言っても、i7 9700Kは消費電力がi7 8700Kと比較して大幅に変化したわけではないで、Z390マザーボードは更に上位のi9 9900Kを使う場合にのみ価値があると思います。
というわけで、オーバークロックをするつもりで新しいマザーボードを買うなら、Z370がまだ売っている内は「Z370」で。もし販売終了して入手できなくなったら「Z390」一択になる。
「i7 9700K」のスペック要点まとめ
最後に、i7 9700Kの覚えておいて欲しい仕様の要点をまとめておきます。
- 2コア増えて「8コア」に
- ただしHTTは無いので「8スレッド」
- クロック周波数が大幅にアップ(4.3 → 4.6 GHz)
- ソルダリング仕様になったので冷えやすい
- 冷えやすいのでオーバークロックの難易度も下がる
- 希望小売価格は26ドルの値上げ
HTTを外されたのは残念ですが、8コアの方が性能は高いですし、ゲーミング性能(ボトルネック)も期待できる。それに加えて、ソルダリングの復活によってクロック周波数が更に上昇。
おおむね「進化した。」と言えるスペックに仕上がっている。これからCore i7を買うなら、i7 8700Kを選ぶ理由はあまり無い…
…。
と言う前に。実際にどれくらいi7 8700Kとi7 9700Kの間に性能差があるのか。データで分かりやすく確認していこう。
「i7 9700K」のCPU性能 : 8コアの実力は?
CPU性能に与える影響は「コア数 > スレッド数」と言っても、実際に「6 / 12」から「8 / 8」になったことで、どれくらい性能が変化するのか。各種ベンチマークデータで確認していく。
The Intel 9th Gen Review: Core i7-9700K Tested
レンダリング速度
Cinebench R15はCPU用の超有名なベンチマーク。CPUにレンダリングという非常に負荷の重い処理を行わせて、終わるまでに掛かった時間でCPUの性能をスコア化してくれる。
Cinebenchのもっとも優れているポイントは、CPUの持つ(理論上の)最大性能が分かりやすく、かつシングルスレッド性能とマルチスレッド性能の両方を確認できること。そのため、CPUの性格も分かりやすい。
Cinebench R15 / シングルスレッド性能
i7 9700K歴代のi7R7 2700X
まずは、シングルスレッド性能(コア1個あたりの性能)を。見ての通り、ぶっちぎりでi7 9700Kが高速ですね。まぁ…i7 9700Kはシングル処理の時に4.9 GHzで動作するため、速いのは当然と言える。
Cinebench R15 / マルチスレッド性能
次はマルチスレッド性能(すべてのコアを合わせた性能)を確認。
さすがに8コア16スレッドのRyzen 7 2700Xが猛威を振るう結果になっています。i7 9700Kは負けてしまったが、i7 8700Kより7%高速化です。やはり2コアの増量は効いている。
これでHTTが実装されていて16スレッドなら、Ryzen 7 2700Xを圧倒できたが…16スレッドは上位のCore i9 9900Kにお預けです。
Cinebenchと同様、Blenderもレンダリングソフト。「BMW」と言う、比較的軽いプリセットを使って、レンダリングが終わるまでの時間でCPU性能を競う。
Blender 2.79 / BMWテスト(単位 : 秒)
Cinebenchとだいたい同じような結果になりました。やっぱりRyzen 7の8コア16スレッドは速い。
計算速度
Geekbench 4は主に計算速度を中心に、多種多様なベンチマークを実行し、総合的なスコアを叩き出す。基本的にクロック周波数が高い方が、やや有利なスコアになりやすいベンチマークです。
Geekbench 4 / シングルスレッド性能
シングルスレッド性能はやっぱりi7 9700Kがトップクラスに速い。
Geekbench 4 / マルチスレッド性能
マルチスレッド性能も、クロック周波数が高いi7 9700Kがトップクラスに。クロック周波数が上がりにくいRyzen 7にとっては、苦手なテスト内容になっています。
一般的なタスク
PCMark 10はパソコンの性能をスコア化する。内容としては、ビデオチャットやOfficeソフトの処理、ブラウザの動作スピードや写真編集などを行って、総合的なスコアを算出してくれる。
PCMark 10 / 一般的なタスクの処理速度
5000点以上のスコアなら、十分に速いので体感的にはあまり意味のないベンチマークになりつつある。それでも、i7 9700Kがシンプルなタスクを得意とすることは十分に分かりますね。
動画エンコード
Handbrakeは無料の動画エンコードソフトです。エンコードを終えた後、ログに「平均フレームレート※」を残してくれるので、CPUのエンコード速度を比較しやすいのが特徴。
※「1秒あたりエンコードを何回処理できたか」を意味する。数値が大きいほど「速い」という意味。
Handbrake x264 / エンコードの処理速度(単位 : fps)
もっともよく使われる「x264」エンコードの結果はこの通り。
スレッド数はRyzen 7 2700Xが一番なのに、なぜ8スレッドのi7 9700Kがここまで速いのか。理由は単純で、HandbrakeはRyzenとの相性が今のところはあまり良くないため。
Handbrake x265 / エンコードの処理速度(単位 : fps)
更に複雑なエンコード「x265」になると、更にRyzen 7の処理速度が低下してしまった。一方、Core i7たちは低下するどころか、むしろ処理速度が上昇していることが分かる。
i7 9700Kはスレッド数がRyzen 7の半分しか無いのに、エンコード速度は約28%も速い。なぜか…と聞かれれば、エンコードを高速化する「AVX」機能に違いがあるから。
詳しい話は以下にまとめておくので、興味のある人だけどうぞ。
「AVX 2」は複雑な処理を高速化するアクセラレータの一種。インテルは256 bit長のAVX演算器を1個搭載する。一方、AMDは128 bit長のAVX演算器を2個使って、256 bit長を実現している。
- インテル : 256 bit x1 = 256 bit
- AMD : 128 bit x2 = 256 bit
どちらも同じ256 bitの演算が可能ですが、AMDはAVX演算器を2個使っているので、2つのAVX演算器の間をデータが行き来する際のレイテンシ(遅延)が発生してしまう。
多くのエンコードソフトが、このレイテンシを考慮した設計になっていないため、動画エンコードはどうしてもインテルの方が速くなりやすい。ちなみに筆者の検証では、AviutlだけがRyzenに最適化されていました。
圧縮 & 解凍
7-Zipは無料の解凍ソフト。付属のベンチマークツールを使うことで、CPUの圧縮と解凍の速度を計測できる。単位は「MIPS」という見慣れないものだが、スコアや点数だと思って構わない。
7-Zip Benchmark / 圧縮の速度(単位 : MIPS)
「圧縮」はインテルの方が速い傾向。i7 9700Kはi7 8700Kより若干高速化しています。
7-Zip Benchmark / 解凍の速度(単位 : MIPS)
逆に「解凍」はAMD Ryzenの方が速い。i7 9700Kは、i7 8700Kより10%ほど速くなった。ただ、16スレッドになっていればRyzenに勝てたかもしれない。
7-Zipと同じく、非常に有名なフリー解凍ソフト。
WinRAR / 圧縮に掛かった時間(単位 : 秒)
だいたい7-Zipと同じような結果になっているが、8コア8スレッドより6コア12スレッドの方が速いですね。インテルは上手いこと性能を調節した印象です。
ブラウザの処理速度
ブラウザ上で動作するベンチマーク。Javascriptの処理速度で、CPUがどれだけブラウザの処理やWebアプリを高速に実行できるかをスコア化する。単位はミリ秒なので、小さいほど高速です。
Mozilla Kraken 1.1 / Webアプリの処理速度(単位 : ミリ秒)
結果はこの通りで、クロック周波数が高い(=シングル性能が高い)Core i7 9700Kがトップクラスの速度を記録。
CPU性能のまとめ:若干だが「i7 8700K」より高速化
CPU | i7 9700K | i7 8700K | 性能差 |
---|---|---|---|
Cinebench R15 / シングル | 218 cb | 203 cb | +7.4% |
Cinebench R15 / マルチ | 1515 cb | 1411 cb | +7.4% |
Geekbench 4 / シングル | 6155 | 5934 | +3.7% |
Geekbench 4 / マルチ | 28404 | 24982 | +13.7% |
Blender | 305 秒 | 317 秒 | +3.9% |
PCMark 10 | 5736 | 5488 | +4.5% |
Handbrake / x264 | 194 fps | 174 fps | +11.5% |
Handbrake / x265 | 196 fps | 175 fps | +12.0% |
7-Zip / 圧縮 | 45843 | 44143 | +3.9% |
7-Zip / 解凍 | 63525 | 58520 | +8.6% |
WinRAR | 49.0 秒 | 47.4 秒 | -3.3% |
Kraken 1.1 | 781.0 ms | 921.0 ms | +17.9% |
平均パフォーマンス | +7.6% |
平均的に見ると、i7 9700K(8コア / 8スレッド)は、i7 8700K(6コア / 12スレッド)より約7.6%の性能アップです。インテルもまた…絶妙なところを狙ってきたな~、という印象を受ける。
- 8700K → 9700K : 7.6%の進化(伸びは鈍化)
- 7700K → 8700K : 34.0%の進化(大きな躍進)
エンコード速度は10%強、レンダリングは7%も速くなったので、確かに進化したと言える。しかし、i7 7700Kからi7 8700Kの時ほど衝撃は感じないですね。HTTを失った影響は大きい。
「i7 9700K」のゲーミング性能 : ボトルネックは?
次はゲーミング性能がどれくらい伸びたかを見てみる。ゲーミング性能とは、いわゆる「ボトルネック」と呼ばれる現象のことです。同じグラボでも、CPUが足を引っ張ってフレームレートが伸びないことがある。
過去の流れでは、Core i7は常にトップクラスのゲーミングCPUとして君臨してきた。特に8700Kは圧倒的。9700Kは更なるゲーミング性能を得ることができたのか?
ボトルネックが非常に出やすいグラボ「GTX 1080 Ti」で見ていく。
Intel Core i7 9700K Review / PC GAMER
Ashes Escalation
Ashes Escalation / 1920 x 1080
i7 9700K歴代のi7R7 2700X
CPU性能の影響が出やすいAshesではこの通り。i7 9700KはGTX 1080 Tiの性能を更に引き出せている。
Assassin’s Creed Origins
Assassin’s Creed Origins / 1920 x 1080
オリジンズではそれほど伸びず。
Civilization VI
Civilization VI / 1920 x 1080
Civilization 6でも、それほど変化なし。
Deus Ex : Mankind Divided
Deus Ex : Mankind Divided / 1920 x 1080
DXMDも4コア以上のCore i7から、ほとんど変化していない。
Far Cry 5
Far Cry 5 / 1920 x 1080
Far Cry 5では5%ほど性能アップ。
Grand Theft Auto V
Grand Theft Auto V / 1920 x 1080
GTA Vは更に伸びた。コア数が増えた影響というよりは、クロック周波数が伸びたことによる影響が大きいと思われる。
Hitman
Hitman / 1920 x 1080
Hitmanでは約9%も伸びました。ゲームによってはまだまだGTX 1080 Tiの性能を引き出せていなかった…ということになる。
Shadow of War
Shadow of War / 1920 x 1080
Shadow of Warでは、わずかに伸びた。
Rise of the Tomb Raider
Rise of the Tomb Raider / 1920 x 1080
トゥームレイダーはおおむね頭打ち。
The Witcher 3
The Witcher 3 / 1920 x 1080
Witcher 3もそれほど伸びず。
ゲーミング性能:「i7 8700K」を更に上回る
平均ゲーミング性能 / GTX 1080 Ti
というわけで、i7 9700Kはi7 8700K以上のゲーミングCPUに進化している。やはりブースト時のクロック周波数が大幅に引き上げられた影響は無視できないですね。
それと、ゲームの場合はHTTが無い方がボトルネックが出づらい傾向が若干見られるので、i7 9700KはHTTが省かれたことでゲーミング性能が向上した可能性があります。
CPU温度と消費電力
Core i7 9700Kは、8コアになり、クロック周波数も大幅に引き上げられています。それにも関わらず、インテルによれば「TDP : 95W」とのこと。にわかに信じがたい話です。実際のところはどうなのか?
消費電力とワットパフォーマンスは悪化
消費電力(CPU単体) / レンダリング実行時
i7 9700K歴代のi7R7 2700X
レンダリングを実行すると、CPU単体の消費電力は公称値の95Wを大きく超えて、約124Wに達している。
基本的な設計は第7世代からほとんど変わっていないのに、コア数とクロック周波数のゴリ押しで性能アップを実現しているわけですから、消費電力が上昇するのは仕方がないですね。
ただ、TDP = 消費電力と思っている人は少なくないので、インテルはそろそろTDPの記載を95Wから改めた方が親切だと思う。95Wだと思って、95W対応のクーラーを使ってしまったら…目も当てられない。
ワットパフォーマンス(1Wあたりの性能)
というわけで、ワットパフォーマンスも悪化です。i7 9700Kはi7 8086K(=i7 8700Kと同等)と比較して、13.5%もワットパフォーマンスが悪化してしまった。
今のところ、1Wあたりのマルチスレッド性能がもっとも優秀なのは「Ryzen 7 2700X」ですね。
ソルダリング化で確かに冷えやすく
ソルダリング(はんだ付け)に変更されたことで、従来のCore i7と比較してどれくらい冷えやすくなったのか。とりえあずソルダリングの効果さえ分かれば良いので、i9 9900Kとi7 8700Kの比較で確認。
CPU温度(消費電力160W時 / チラー冷却)
Intel Core i9-9900K 9th Gen CPU Review : Temperatures
TIMがサーマルグリスからソルダリングに置き換えられたことで、同じ160Wの熱でもソルダリングの方が18℃も温度が低い。やはり、ソルダリングによる冷却性能への影響は大きいと言えるでしょう。
なお、オーバークロックの専門家である「der8auer」氏によれば、依然として殻割りの効果は大きいとのこと。
Core i9 9900K / 5.0 GHz @1.35 V
「Bad sTIM? Why is the 9900K so hot? / der8auer」より。
殻割りしてはんだ付けを剥離して、「Conductonaut(液体金属)」に置き換えると更に8℃も冷えるように。それに加えて、チップ本体(ダイ)の表面を研磨すると更に5.5℃冷えるようになっている。
合計で13.5℃も冷えるようになったため、確かに殻割りの効果は依然として大きい。しかし…、はんだ付けを剥がしたり、分厚くなったチップ本体を削ったりと、従来の殻割りと比較して大幅に難易度が上がっているのが難点。
ちなみにチップ本体の厚みが増えている理由は、おそらくソルダリング(はんだ)の経年劣化に耐えるためと推測されている。
ソルダリング(はんだ)は時間の経過と共に、固化・変形する可能性がある。本当に変形してしまった場合は、ダイが引っ張られて破損する可能性があります。このはんだの張力を考慮して、ダイを分厚くしている…というのが今の説。
オーバークロックとCPU温度
i7 8700Kと比較すると、TIMがソルダリング化されたことと、HTT(ハイパースレッディング)が省かれたことが効いてオーバークロックの難易度は低下している。
Core i7 9700K / Blender(BMW)実行時
The Intel 9th Gen Review: Core i7-9700K Tested – Overclocking
Blenderは非常に負荷が大きく、筆者のCore i7 8086Kの場合は5.0 GHz(@1.275V)にすると軽く90℃をぶち抜けていた。
対するCore i7 9700Kは、1.250V時に74℃なので、ソルダリングの効果がしっかりと出ていることが分かる。そして、ハイパースレッディングが無いことも幸いしている。
まとめ:順当な性能アップを果たした
結論として、i7 9700Kは順当に進化したと言える。あらためて、ここまでの解説をまとめますね。
i7 9700Kとi7 8700Kの「違い」まとめ | ||
---|---|---|
CPU | i7 9700K | i7 8700K |
コア数 | 8 | 6 |
スレッド数 | 8 | 12 |
ブースト時のクロック | 4.6 GHz | 4.3 GHz |
オーバークロック | 難易度 : 低 | 難易度 : 普通 |
CPU性能 | やや上昇 | – |
ゲーミング性能 | 更に良好 | 良好 |
消費電力 | 2割アップ | – |
温度 | 冷えやすい | 冷えにくい |
価格 | 若干「値上がり」 | 品薄で値上がり中 |
表にザックリと詰め込むと、両者の違いはこんな感じ。
「i7 9700K」のデメリットと弱点
- 消費電力が2割ほど増えている
- 「HTT」が省かれてしまった
- (今のところ)単品での入手性が悪い
- (上級者向け)「殻割り」の難易度が高い
- ゲームを重視しないなら「Ryzen 7」が競合する
CPUの性能に関わる弱点は、消費電力がi7 8700Kと比較して2割増加したこと。
とはいえ、Core i7 9700Kを買い求めるユーザーは恐らくゲーマーが多いと思うし、それほど省電力性を気にかけるようなユーザー層では無い。よって大きな弱点とは考えていません。
次に「HTT」(ハイパースレッディング」が省かれたことも、今までのCore i7と比較すれば仕様上の下方修正と言える。ただ、肝心の性能は8700Kより高いので、これも大きな問題ではない。
そしてCPU本体以外の問題点は、「価格」と「単品での入手性」。インテルCPUそのものが供給不足に陥り、価格が上昇しているのでi7 9700Kだけの問題ではないが、5万円はやはり高い。
加えて供給不足による信じられないほどの品薄状況。5万円出せるから速く買いたいと思っても、カンタンには手に入らない状況です(※BTOは除く)。
「i7 9700K」のメリットと強み
- 最強クラスのシングルスレッド性能
- CPU性能のさらなる向上(約10%)
- 現実的な予算における「ゲーミングCPUの王者」
- ソルダリングによって改善された冷却性能
- 歴代のCore i7でもっともオーバークロックしやすい
(ゴリ押しとはいえ…)ちゃんと性能アップしているのが、i7 9700Kの強みです。
第3~4世代あたりの古いシステムを使っていて、そろそろパソコンを刷新してみようかな…と考えているなら、基本的には8700Kではなく9700Kを選んだ方が賢明。
性能は改善しているし、殻割りをしなくても冷えやすく、オーバークロックも今まで以上にカンタンになっている。わざわざ8700Kを選ぶ必要はほとんど無い。
i7 8700Kは5.3万円くらいで、i7 9700Kは5.1~5.2万円が想定されているので、価格から見ても8700Kを選ぶ理由はほぼ無い。
なお、ゲーミングCPUの王者と書いたが、厳密には上位ランクのi9 9900Kが真の王者です。しかし、6.5万円という価格を考えるとi7 9700Kが現実的な落とし所と思っている。
というわけで、「8コア化による性能アップ」「ソルダリング化による冷却性能のアップ」を素直に評価して、筆者の評価は「A+」ランクです。4万円で普通に購入できるなら…Sランクでしたね。
以上「i7 9700Kとi7 8700Kの違いをPC初心者向けに徹底解説」について、解説でした。
Core i7 9700Kを入手する
Amazonなどで入手可能。他にも、主要なPCパーツショップのサーチリンクをまとめておきます。
販売店 | Core i7 9700K |
---|---|
Amazon | 「Core i7 9700K」を検索する |
ドスパラ | 「Core i7 9700K」を検索する |
パソコン工房 | 「Core i7 9700K」を検索する |
TSUKUMO | 「Core i7 9700K」を検索する |
PCショップアーク | 「Core i7 9700K」を検索する |
Yahoo Shopping | 「Core i7 9700K」を検索する |
発売当初は51480円でしたが、一時的に46800円まで値下がり落ち着いています。しかし2019年3月末から再び在庫が不足気味で、高値に戻りつつあります。
Core i7 9700K搭載BTOは?
大手BTOなら問題なくCore i7 9700Kを搭載したBTOマシンを購入可能です。
コスパ重視で選ぶなら「i7 9700K + GTX 1660 Ti」を搭載するガレリアZTをおすすめする。フルHDゲームなら敵なしの性能で、軽いゲーム配信までこなすバランスの良いPCです。
パーツのカスタマイズ性を重視するなら、自作代行メーカーとも言われている「サイコム」がおすすめ。ようやく第9世代対応のBTOモデルが解禁されたので紹介しておく。
ただ…ドスパラと比較してしまうと、かなり「お高い」ので、PCパーツに対して相当の知識を持っている人向けです。
NVIDIAの最新世代Turingの最上位グラボ「RTX 2080 Ti」のレビュー記事です。i7 8700K(定格)だとボトルネックが発生しているので、i7 9700Kの真価が発揮されそうな気がします。
在庫不足による値上がりに対処するべく、内蔵グラフィックスと企業向け機能を省いた「F版」CPUが登場しました。「9700Kは高すぎ!!」という方は、Core i5 9400Fをチェック。
今回のソルタリングは冷えにくいみたい
ヒートスプレッダの薄型化があったらしいね
civ6のベンチマークはfpsとターン送りの待ち時間測定の二種類あって、CPUの影響が大きいのはターン送りのほうだからそっちを測定してほしかった
生産能力と言うより流通の問題って話を昨日某放送でしていましたね
まあどっちにしろ早く出てほしいですが
HTTなくしたらやっぱ発熱量減るよね、その分OC出来るんだろうけど9900Kはきちんと9700Kより発熱低くなるかな?HTTアリナシだけにしか見えないからそこ気になる。
ソルダリングは素直に嬉しいけど、前までグリスやってたのはやはりコストダウンの為か。理由あるんだなーと、やかもちさんが書いたの見て思ってたけど今回に限って復活とか意味わかんないや。
>ただ、TDP = 消費電力と思っている人は少なくないので、インテルはそろそろTDPの記載を95Wから改めた方が親切だと思う。95Wだと思って、95W対応のクーラーを使ってしまったら…目も当てられない。
クーラーは消費電力ではなくTDPの値に対応しているわけですし、TDPが95Wなら95W対応クーラーでいいのではないでしょうか?
TDP=消費電力だと思って痛い目見るのは電源選びだと思います。
ただ、消費電力あがってるしTDP95Wはゼッテェ嘘だわってことなら分かります。
2700Xが35000円だしもうちょい安くなって欲しい感はあるな
Ryzenは殻割りしても温度変わらないらしいです
発熱量の問題かソルダリングの上手さか私は知らないですけど…
素材の問題みたいですね
Intelで使われてる素材はイリジウムですが、熱伝導性で言えば最適とは言いづらいみたいで。
耐久性やコスト等の問題もありますから一概に選んだ素材が悪いとまで言い切れませんが、Ryzenのソルダリングより冷えないのは確かでしょうね
i7 8700Kのブーストクロックは4.7Ghzでは
スペック表のブーストクロックは、全コア使用時のクロックを掲載していますが、言われてみれば…不親切なので追記しました。
5.0 GHz @1.150V
これで安定するのか怪しい予感
正直なところ、インテルがメディア向けに選別に選別を重ねた「超当たり石」を使っている可能性は否定できないです。
一応、ES(エンジニアサンプル)品を使っているとのことですし。
9900k 9700k 爆熱ってデータみたけど
そこんとこも調べて記事にしてほしい
9900k見たけどあんな爆熱みちゃったら8700kから買える気なくなっちまったよ
>ヒートスプレッダを剥がして液体金属化したCPU
とありますがこれは殻割りした直後なのでは・・・?
ご指摘ありがとうございます。もう少し、分かりやすい画像(i7 7700K)に差し替えました。
値段次第だねぇ
i9 9900kの実際に使用した性能と、2080tiを組み合わせた場合の性能のレビューもお願いします
9900KでのOCはアチアチ過ぎて定格運用前提って感じ
そうなると9700Kが最も動かしやすいという
9900Kは性能は凄いんだがじゃじゃ馬過ぎて普通の人には持て余す
9700Kの一番の不満はHTが省かれたことかな…とはいえ8コア以上をフルに使う場面ってそんなにないし、一般人ならコレになるのかなぁ
殻割りOC勢からしたら逆にがっかりな仕様なのかもと思ったり(はんだを削るとか流石にリスキーすぎる)
ソルダリングにして性能アップ(というより仕様変更)したよアピールしてるようにみえなくもない…
9世代からハードウェアレベルでセキュリティ対策云々とかあるけどみんな気にしないんだろうなー
ゲーム目的だと8世代から買い換えようと思えるほど顕著なアップグレードじゃないな
6Cの8700KはOBS配信 & 録画でドロップしまくりでしたが8Cの9700Kではどうなんでしょうか?まだどこもちゃんとした検証はしてないようなので。
コア数・スレッド数の差というよりは、単純にクロック数の差かと
フォトショとTMPEGncが主な目的なのでRyzenが有利と思いきや、freqとoptimisationの良いIntelを選びました。
Haswellからの買い換えなので声が出るくらい速くなって笑いが止まりません。(笑)
ただ、管理人さんが書かれているように温度と消費電力が悪いので、95W化していますが、それでも8700Kよりパフォーマンスは良いと思います。
だいぶ前の記事に今更ですがWinRARはフリーソフトじゃないのでは…
2019年3月現在、相変わらず値段高いですけど、ヨドバシで46000円ですね。
ほかのショップだと未だに50000〜なのを考えると品薄の影響はまだまだ続くか…?
冒頭の
だから、いつも通りHTTを実装していれば、i9 9700Kは「8コア / 16スレッド」に…なるはずが、16スレッドは更に上位の「Core i9 9900K」に譲られてしまい、i7 9700Kは8スレッドのままになってしまった。
この、「i9 9700Kは「8コア / 16スレッド」に…」ってところ、i7 9700kは~じゃないんですか?
ありがとうございます。誤植なので修正しました。
質問なのですが記事内に「レンダリングを実行すると、CPU単体の消費電力は公称値の95Wを大きく超えて、約124Wに達している。」ってあります
自分はASRockのZ390 Pro4を使用しているのですが、公式の規格ページ、CPUの所に
「最大 95W までの CPU に対応」って書いてありますが、このMBでは定格でも使えないという事でしょうか?
今回購入を検討しているのは9900KF+風魔弐なのですが、9700KFとどちらにしようか記事を見ていてこの点が気になりました
またこのMBは海外の検証でVRMが113℃とかになっているので、9900KFはやめた方が良いのかな?と思いまして
OCは現状するつもりがないので、とりあえず定格で3Dゲームが遊べればいいのです
ASRock Z390 Pro4は確かにVRMフェーズ回路が少し心もとないですね。「動くか?」と聞かれれば動きますが、Core i9 9900Kなら少なくともASRock Z390 Extreme4や、Gigabyte Z390 AORUS ELITEの方が安心ですね。
Core i7 9700K程度なら、Pro4でも問題ないです。
ありがとうございます助かりました
グラボと違って9700KFと9900KFは1万円で1つ上のランクが買えるので
少し予算オーバーしても・・・と思いましたがマザボから変えないと厳しそうですね
Z390 Extreme4に変更を含めて無理をするか、9700KFにするか考えたいと思います