2020年ごろから、HDRの性能をアピールするゲーミングモニターが増えています。
「HDR 400」「HDR 600」「HDR 1000」などなど、モニターのHDR性能を示す定番規格がVESA社の「Display HDR」です。本記事では、それぞれの規格と仕組みについて、分かりやすく解説します。
(公開:2022/3/16 | 更新:2022/3/16)
この記事の目次
【明るくて広色域】HDRの表示性能とは?
「HDR対応」と肝心の表示品質はまったく別
「HDR対応」とだけスペック表に書いてあるモニターは、HDRの映像信号を受け取ってHDRとして表示ができますが、肝心のHDR性能が優れているかどうかはまったく別なので注意。

「HDR対応」や「HDR10」と記載のあるモニターの大部分は、ただHDR映像を表示するだけです。
表示するだけなので、製品によっては「SDRとの違いが分からない・・・」「コントラスト比が低いしSDRと大差ない」「黒色がまったく黒くないような?」となりがち。
明るい画面と広色域 = HDRの表示性能
ではHDRの表示性能に必要なスペックは何でしょうか?
ややこしい専門用語を抜きにして、ものすごくざっくりと解説すると・・・
- 明るい画面(全白輝度が高いほど良い)
- 真の黒色(黒色がちゃんと黒に見える)
- 広色域(表示できる色が多いほど良い)
優れたHDR性能に求められるスペックはたったの3つだけです。なぜ、明るい画面と真の黒色と広色域の3つがあれば良いのか。

HDRの基本思想は「より現実的な映像表現」です。
たとえば、窓を開けて太陽を見ると、肉眼では直視できないほど明るいはず。逆に深夜の廃坑トンネルは本当に暗闇で、液晶パネルの光漏れよりも暗い完全な暗闇です。
現実世界に存在する色の多さも、一般的なモニターをはるかに上回ります。一般的なモニターの色域はsRGB規格に準拠していますが、現実世界の色域はsRGBよりずっと広いです。

sRGB規格と広色域規格(代表的な規格であるDCI P3とRec.2020)を比較したカバー図です。見ての通り、DCI P3やRec.2020はsRGBと比較して圧倒的に広い色を表示できます。
よって、HDRが目指す現実的な映像表現を実現するためには、とにかく「明るい画面(高輝度)」「真の黒色」と「広色域(少なくともsRGB以上)」の3つが必要です。
【全5グレード】Display HDR規格のスペック解説

俗に言う「なんちゃってHDR」モニターにユーザーが騙されないように、PCモニターの業界団体であるVESAが、PCモニター向けのHDR認証規格として「Display HDR」を立ち上げました。

2022年3月時点、液晶パネルのモニター向けに「Display HDR」規格が5グレード、有機ELパネル向けに「Display HDR True Black」規格が3グレードあります。
- Display HDR:液晶パネル向け
- Display HDR True Black:OLEDパネル向け
液晶パネルと有機ELで輝度の限界が違うので、2種類の規格に分類されています。有機ELは熱の問題でどうしても輝度に限界がある一方、液晶パネルは1000 cd/m2以上の輝度を出せます。
認証ロゴ | 規格 | ピーク輝度 | 黒色 | 色域 |
---|---|---|---|---|
![]() | Display HDR 400 | 400 cd/m2 | 0.4 cd/m2 | sRGB:95%以上 |
![]() | Display HDR 500 | 500 cd/m2 | 0.1 cd/m2 | sRGB:99%以上 DCI P3:90%以上 |
![]() | Display HDR 600 | 600 cd/m2 | 0.1 cd/m2 | |
![]() | Display HDR 1000 | 1000 cd/m2 | 0.05 cd/m2 | |
![]() | Display HDR 1400 | 1400 cd/m2 | 0.02 cd/m2 | sRGB:99%以上 DCI P3:95%以上 |
![]() | Display HDR True Black 400 | 400 cd/m2 | 0.0005 cd/m2 | sRGB:99%以上 DCI P3:90%以上 |
![]() | Display HDR True Black 500 | 500 cd/m2 | 0.0005 cd/m2 | |
![]() | Display HDR True Black 600 | 600 cd/m2 | 0.0005 cd/m2 |
Display HDR規格のスペックを表にまとめました。グレードの高い規格になればなるほど、ピーク輝度と黒色の比率が大幅に上昇(高コントラスト化)し、表示できる色域も広いです。
HDR 500規格になった途端に、要求されるコントラスト比がいきなり5000 : 1(500 / 0.1)まで跳ね上がっており、並の液晶パネルでは絶対に規格を取得できません。

SDRと大差なし:Display HDR 400
Display HDR 400 | |
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画面の明るさ |
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黒色の黒さ |
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必要な色域 |
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色深度 |
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ローカル調光 |
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「Display HDR 400」はもっとも低グレードなHDR規格です。
書いてある要求スペックを読むとなんとなくスゴそうに見えて、実はほとんどのPCモニターがすでに満たしている内容です。だからHDR 400規格を取得していなくても※、HDR 400の性能を発揮できるモニターが存在します。
実際にちもろぐでテストしたモニターだと「BenQ EX2510S」や「Huawei MateView GT 34」がHDR 400以上、HDR 500未満のHDR性能を出しています。
※Display HDR 400をあえて取得していない理由は、おそらくコストカットのためです。HDR 400程度の規格をわざわざアピールする必要はないと考えての判断でしょう。

HDR 400の性能は、見るコンテンツやモニター側の設定次第で「SDRと大差ない」と評価される可能性が高いです。
モニターによっては、HDRモードを有効化しなくてもピーク時に400 cd/m2以上の明るさを出せるため、SDRでHDR並の映像を見られます。
とにかくHDR 400は普通です。多くのユーザーからSDRとHDRに大差がないと思われてしまう原因が、HDR 400にあると言ってもいいくらいに・・・HDR 400の性能はノーマルです。

現行品は対応なし:Display HDR 500
Display HDR 500 | |
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画面の明るさ |
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黒色の黒さ |
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必要な色域 |
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色深度 |
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ローカル調光 |
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「Display HDR 500」はVESAの規格としては存在しますが、2022年時点で対応モデルが販売されていないので、実質存在しない規格です。
まともなHDR性能:Display HDR 600
Display HDR 600 | |
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画面の明るさ |
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黒色の黒さ |
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必要な色域 |
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色深度 |
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ローカル調光 |
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「Display HDR 600」は、今もっともコスパ良くまともなHDR表示性能に期待できる規格です。
要求スペックを見ると、画面の明るさは600 cd/m2以上、黒色は0.1 cd/m2以下が必要。コントラスト比にして、なんと6000 : 1を要求します。
しかし、一般的な液晶パネルは6000 : 1なんて不可能です。
- TNパネルで1000 : 1
- IPSパネルで1000 : 1 ~ 2000 : 1
- VAパネルで3000 : 1 ~ 4000 : 1
- OLEDパネルで100000 : 1以上(ほぼ無限)
黒色が締りやすいVAパネルですら、せいぜい4000 : 1が限界で、やはりDisplay HDR 600で要求される6000 : 1は実現できません。ではどうやったらHDR 600に合格できるでしょうか?
答えは「ローカル調光(Local Dimming)」技術です。

液晶パネルを使ったモニターは、画面を光らせるためにLEDバックライトを使っています。普通のモニターはLEDバックライトが画面1枚分しか無いです。

ローカル調光ではLEDバックライトを複数枚使って、画面の中で明るい部分と暗い部分を分けて表示できるようにします。
暗いシーンを表示している部分だけ、LEDバックライトを消灯して、明るシーンの表示部分でLEDバックライトを点灯するだけです。バックライトを消灯してしまえば、かんたんに「真の黒色」を表示できます。
LEDバックライトを複数使っている分だけ、画面の明るさを稼ぎやすくなるので、HDR 600で要求される600 cd/m2以上の明るさも実現できます。

なお、ローカル調光は主に2つの方式があります。1つは「エッジライト方式」、もう1つが「フルアレイローカル調光(FALD方式)」です。
エッジライト方式は画面の端っこにLEDバックライトを配置する方法。低コストで高コントラスト比を実現できるため、HDR 600対応モデルの多くはエッジライト方式を採用します。
フルアレイローカル調光は、複数のLEDバックライトを液晶パネルの直下にタイル状に配置する方法です。コストが高いのでHDR 600では、あまり使われていません。

エッジライト方式だと光がぼんやりと拡散する「ハロー現象」に悩まされるため、HDRコンテンツの内容によってはスペックほどのコントラスト比を体感できないリスクがあります。
とはいえ、エッジライト方式でも600 cd/m2以上の明るさと0.1 cd/m2以下の黒色をかんたんに両立できるのは事実ですし、HDR 400とは別次元のHDR性能を発揮します。
実際にHDR 400とHDR 600を見た経験からも、HDRコンテンツを楽しむためにモニターを選ぶなら「Display HDR 600」が必須です。

高品質なHDR性能:Display HDR 1000
Display HDR 1000 | |
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画面の明るさ |
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黒色の黒さ |
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必要な色域 |
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色深度 |
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ローカル調光 |
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「Display HDR 1000」は、一般ユーザー向けのHDR規格で最高峰です。
(2022年時点)HDR 1000対応モデルでは量子ドット技術を使った超広色域、100ゾーン以上のフルアレイローカル調光を組み合わせた物量投入モデルがほとんどを占めます。

一部のハイエンドモデルでは、LEDバックライトに「Mini LED」を惜しみなく数百個も投入し、ハロー現象を抑えながら20000 : 1以上の驚異的なコントラスト比を叩き出すモニターまで登場・・・。
まとめると、HDR 1000対応モデルのHDR表示性能は高品質です。
逆にHDRコンテンツ側がモニター側の性能に追いつけない場合も想定されるほど、HDR 1000のHDR性能は非常に高いです。
たとえば「天気の子(4K HDR Ultra BD盤)」だと、一番明るい部分で600 cd/m2程度しか使わないです。
せっかく1000 cd/m2超えのモニターを用意しても、コンテンツの製作者がHDR 600以上を想定してマスタリングをしていなければ、HDR 1000の真価を発揮できません。

クリエイター向け:Display HDR 1400
Display HDR 1400 | |
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画面の明るさ |
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黒色の黒さ |
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必要な色域 |
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色深度 |
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ローカル調光 |
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「Display HDR 1400」はVESAが用意するHDR規格で最強のスペックを誇ります。
Display HDR 1000と同じく、圧倒的な物量投入によりピーク輝度1400 cd/m2超えの驚異的な明るさと、ほぼ消灯に近い0.02 cd/m2未満の黒色を実現します。

たとえば実際にHDR 1400を取得している「ProArt PA32UCG」だと、1152ゾーンに分割したフルアレイローカル調光に、4000個を超えるMini LEDを投入しています。
技術的には、SONYが2016年に開発した「Backlight Master Drive」とほぼ同じアプローチです。
広色域は量子ドット技術で対応するモデルがほとんどです。2022年現在、量子ドット技術を使った液晶パネルなら、sRGBで100%カバー、DCI P3で95%以上をカバーするのは容易です。
超ハイエンドモデルになると、DCI P3よりさらに広いRec.2020で90%近いカバー率を達成する製品もあります。
HDRモニターとして文句なしの表示性能ですが、価格の高さがデメリットです。HDR 1400対応のゲーミングモニターは軽く30万円を超え、クリエイター向けだと40万円を超える製品も・・・。
あまり一般向けの規格とはいえず、どちらかといえばHDRコンテンツを制作するプロのクリエイター向けの規格です。
もちろん、予算に糸目をつけず、最高のHDRコンテンツを表示させるならHDR 1400が間違いなくベスト。でもほとんどの人にとって、1つ下のHDR 1000で十分に満足できるHDR性能を得られます。
OLEDパネル向け「TRUE BLACK」規格
Display HDR True Black 600 | |
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画面の明るさ |
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黒色の黒さ |
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必要な色域 |
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色深度 |
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ローカル調光 |
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「Display HDR True Black」は、もっぱらOLEDパネル向けのHDR認証規格です。
普通のDisplay HDRだと、ピーク輝度と全白輝度の要求スペックが同じですが、OLED向けのTrue Blackでは全白輝度が半分程度でOKとなっています。
規格 | ![]() | ![]() | ![]() |
---|---|---|---|
ピーク輝度 | 400 cd/m2 | 500 cd/m2 | 600 cd/m2 |
全白輝度 | 250 cd/m2 | 300 cd/m2 | 350 cd/m2 |
なぜピーク輝度より全白輝度が甘めに設定されているのか、理由はOLEDパネルの特性です。OLEDパネルは自身の熱で故障するリスクが高まるため、画面全体の輝度を上げづらい性質があります。
OLEDの熱問題はパネルを小型化すれば、ある程度は緩和できる問題です。よってノートパソコンやモバイルディスプレイ、20~30インチ台のモニターならTrue Black規格に合格しやすいです。
一方でパネルサイズが大きいLGの有機ELテレビは、全白輝度が150~160 cd/m2まで下がってしまい、True Black規格に合格できません。

記事の最初の方で解説したとおり、画面の明るさがHDR性能で重要です。
True Black規格だとピーク輝度ですらHDR 600相当が限界ですし、全白輝度は半減するため画面全体が明るくなるシーンで普通のDisplay HDRに勝てません。
HDRコンテンツを目的にOLEDパネルを選ぶのは、おすすめしないです。

まとめ:HDRを堪能するなら「HDR 600」以上

HDR 600取得の「EX3210U」で見るHDRアニメ
HDR 400規格は並のモニターなら取得できて当然です。ピーク時にあっさり400 cd/m2を出せるモニターが珍しくないため、SDR(通常時)と大差がないと感じる原因になりがちです。
だから、HDRコンテンツを視聴するためにモニターを選ぶなら、HDR 600以上のモニターを推奨します。
HDR 600以上の規格は、いわゆる並のモニターでは絶対に取れないです。量子ドットやKSF蛍光体を使った超広色域なパネルに加えて、ローカル調光技術の導入も必須です。
HDR 400とは明らかに要求スペックも物量も違うので、ワンランク上のまともなHDR映像を楽しめます。

【参考】HDR 600に対応したモニター
PS321QRは割とコスパのいいHDR 600モニターです。sRGBで99%カバー、DCI P3で95%カバー、リフレッシュレートは最大165 Hzで6万円台としては良いスペックしてます。
ただし、32インチでWQHD(2560 x 1440)だとドットが粗く見えるリスクが付きまといます。人によっては許容できると思いますが、個人的に32インチでWQHDは・・・選ばないですね。
27GP950-Bは4K 144 Hz対応、かつHDR 600も取得したハイエンドゲーミングモニター。Nano IPS採用でDCI P3は98%をカバーします。
価格は約11万円で、スペックを考えるとコスパは良好。しかし、画面サイズが27インチで若干好みが分かれる点は注意。
EX3210UやMPG321UR-QDは、どちらも量子ドット技術採用のIPSパネルを使った4K 144 Hzゲーミングモニターです。
使っているパネルが同じで基本的な特性は同じですが、それぞれ狙っているユーザー層が違うので細かい部分で仕様が違います。
EX3210UはPS5やXbox series Xを使っている人向け。2.1 chスピーカーとマイク内蔵、リモコン、FreeSync Premium(PS5は非対応)など。コンソールゲーマーにとって便利な機能が多めです。
MPG321UR-QDはKVMスイッチ機能に対応しており、複数のパソコンやハード間(最大4台のパソコン)でスムーズに画面を切り替えられます。
ただ機能性の割に価格が妙に強気なので、よほどKVMスイッチ機能が必要でもない限り、EX3210Uの方がおすすめしやすいです。
実際にEX3210Uを使ってみたレビューは↑こちらを参考に。
以上「【HDR 400?600?】HDR性能を示す「Display HDR」規格と仕組みを解説」でした。
流石分かり易いです
OLEDは圧倒的なコントラスト比と暗部表現の良さ、残像の少なさで映画鑑賞などのコンテンツにはすごく向いてると思います。画面の白領域が大きくなりがちで焼き付きリスクがあるので一般的なPC用途には向きませんが。
windowsのHDR機能ってオンにするとHDRに対応した映像は美しく表示されますが、デスクトップ画面などでは暗くなったり、色が変になると調べるとでてきましたが、いちいちゲームするときや映画をみるときにオンオフ切り替えて使用するものなのですか?