ゲーミングモニターでメーカー側がやたらとアピールポイントにしてくる「応答速度」とは、一体どんなスペック(仕様)なのか。本記事ではモニターの応答速度について、図解もまじえて分かりやすく解説してみようと思う。1ミリ秒、G2G、残像、応答速度にまつわる全ての意味がこの記事で分かります。
液晶パネルの仕組みと「応答速度」
現在、ほぼ全てのパソコン用モニターに使われているパネルは「液晶パネル」です。この液晶パネルは、電圧の調節によって画面を明るくしたり、逆に暗くしたりを繰り返すことで映像を表現しています。
この「電圧の上げ下げ」こそが、「応答速度」です。パネルから100%の光量が出るために必要な電圧を、どれだけ速く掛けることが出来るか。一瞬で電圧をフルまで印加できる = 応答速度が速いということです。
イラストにするとこんな感じ。電圧を掛けると液晶分子が傾いてバックライト光が偏光パネルを突き抜けるようになり、結果的に画面が明るくなります。
そして掛けた電圧を抜いていくと、電圧によって傾けられた液晶分子たちが元の角度に戻って、バックライト光が突き抜けられなくなる。結果的に画面が暗くなりますね。
※ なお、ここではVAパネルの場合について解説している(分かりやすいので)。TNやIPSは逆なので注意してください。
というわけで、応答速度とは「電圧を掛けて100%の光量に達するのに掛かった時間」と「電圧を抜いて0%の光量に戻るのに掛かった時間」の合計値ということ。
ちなみに前者は「立ち上がり」(Rise Times)と呼ばれ、後者は「立ち下がり」(Fall Times)と呼ばれている。
パネルの種類によって応答速度の特徴が違う
液晶パネルの種類については、こちらのガイド記事をオススメします。ここには書ききれないほど内容が濃いので、興味のある方はぜひ。
さて、パネルには現在3種類あって、パネルごとに液晶分子の配置の仕方や動かし方が違う。その結果、応答速度にも特徴が出てくるんですよ。
パネル | 立ち上がり | 立ち下がり | 中間色 |
---|---|---|---|
TN | やや遅い | 速い | 速い |
VA | 遅い | 速い | やや遅い |
IPS | 普通 | 速い | 普通 |
傾向としてはTNがやっぱり高速で、VAやIPSは遅くなりやすい。しかし、近年は台湾のAU Optronicsと日本のシャープがもたらした技術革新(MVAとAHVAパネル)によって、IPSとVAもTNに匹敵する応答速度を得るに至っている。
メーカーの示す応答速度はザックリ2種類
ゲーミングモニターのスペック表を見てみると、単に「4ミリ秒」と書いてあったり、「1ミリ秒 G2G」と書かれていることもある。メーカー側が示す応答速度は、ザックリと2種類の計測方法があるから表記が変わってくる。
ちなみに、応答速度の計測には「電圧の変化をグラフ化できる」オシロスコープという機材を使って行われます。
1. 基本的には「黒 → 白 → 黒」に掛かった時間
「G2G」「Gray to Gray」という加え書きが無ければ、その応答速度は「黒 → 白 → 黒」に掛かった時間を示します。別名はISO応答速度で、最近はあまり使われなくなった。
理由はシンプルで、「黒 → 白 → 黒」の応答速度よりも中間色の応答速度が重視されるようになったためです。「残像」や「ぼやけ」は中間色が遅いと目立ちやすいので、今のモニターはもっぱらG2Gをアピールします。
2. G2Gは「あるグレー → 別のグレー」に掛かった時間
G2G(Gray to Grayの略称)はその名前の通り、中間色の応答速度を示す。ただし注意点として、メーカーの示すG2G応答速度は「最速値」であることが多いので「1ミリ秒G2G」と書いてあっても真に受けない方が良い。
消費者としては、メーカー側が「全ての中間色の応答速度を調べて、その平均値を示す」べきなんですが、オシロスコープを使って定量的な調査をするメディアが極めて稀なのでなかなかそうはならないです。
ゲーミングモニターは特に応答速度が重要
ここまでの解説で、応答速度とは電圧の上げ下げに掛かった時間であり…「残像」や「ぼやけ」に大きく関わる要素であることが分かったと思います。
応答速度が遅いと「残像」になる仕組み
液晶パネルは電圧の上げ下げすることで、次のフレーム(映像)に切り替える。応答速度が遅い = フレームの切替速度が遅いということになるので、応答速度が遅いと1つ前のフレームが残ったままになりやすい。
パラパラ漫画をダラダラとめくってみる。恐らく、現在のページが表示されていても1つ前のページが目に映る状態になっていると思う。1つ前のページが目に映る、これが「残像」と呼ばれる現象です。
高性能な機械型アームを使ってパラパラ漫画を瞬時にめくらせてみよう。1つ前のページは一瞬で飛ばされて、ほぼ視認できなくなった。これで残像が消え、キレの効いた映像になるわけですね。
ゲーミングモニターなら「7ミリ秒以下」が望ましい
では、どれくらいの応答速度がオススメなのか。この質問に対する答えはカンタンで、リフレッシュレートを下回る応答速度がベストだと言える。
現在主流のゲーミングモニターは「144Hz駆動」が多いので、1秒あたり144回。逆に言えば6.95ミリ秒ごとに画面をリフレッシュするので、応答速度は少なくとも7ミリ秒以下じゃないと困ることに。
リフレッシュレートより応答速度が遅いと、現在のフレームに1つ前のフレームが映り込むことになるので「残像」になる。よって、リフレッシュレートよりも応答速度が速くなければならない。
リフレッシュレート | 更新速度 | 必要な応答速度 | 推奨 |
---|---|---|---|
60Hz | 16.67ミリ秒 | 最低でも17ミリ秒以下 | 16ミリ秒 |
144Hz | 6.94ミリ秒 | 最低でも7ミリ秒以下 | 6ミリ秒 |
160Hz | 6.25ミリ秒 | 最低でも6.3ミリ秒以下 | 6ミリ秒 |
240Hz | 4.17ミリ秒 | 最低でも4.2ミリ秒以下 | 4ミリ秒 |
リフレッシュレート別に、望ましい応答速度をまとめてみた。144Hz~160Hzのモニターなら、応答速度は6ミリ秒がオススメ。240Hzモニターなら4ミリ秒が推奨値です。
残像を抑える2つの技術について解説
応答速度が映像の残像に大きな影響を与えることが分かった。そこでメーカー側が残像をもっと抑えるために開発した技術が「オーバードライブ」と「ブラックフレーム」の2つです。
どちらも残像を抑える上で確かに効果の大きい有効な技術ですが、一方でデメリットを抱えているので少しだけ解説しておきます。
1. 中間色の応答速度を高速化:オーバードライブ
オーバードライブは平常時よりも更に高い電圧を使うことで、液晶分子を素早く動かして応答速度を高める技術。明るくなる時は一気に電圧を上げて、暗くする時は一気に電圧を下げるというわけ。
応答速度、特にG2G(グレー → グレー)応答速度をかなり高速化できるため残像を抑える効果が強い。しかし、通常より高い電圧をグッと掛けるため、オーバードライブの質が悪いと液晶分子が行き過ぎることがある。
液晶分子が本来止まるべき位置で止まらずに、行き過ぎるとどうなるか。カンタンに言えば本来より明るすぎる色が出力されたり、本来より暗すぎる色が出力されてしまう。これをオーバーシュートと呼ぶ。
オーバーシュートは5~10%程度なら人間の目でギリギリ視認できないレベルだが、10%を超えて20%や50%になると「画面の妙なちらつき」や「残像」を生み出すことになる。
なお、現状オーバードライブ搭載モニターで、このようなハズレを引かない方法としては安物を買わないことに尽きる。オーバードライブの質はコストに比例するので、安物ほどオーバーシュート率が高い。
オーバーシュートは電圧の掛けすぎ、アンダーシュートは電圧の抜きすぎ。というイメージで考えると分かりやすい。
2. 黒フレーム挿入で残像を消す:ブラックフレーム
もうひとつの技術が「黒フレーム挿入」と呼ばれるもの。元々はテレビ向けに生まれた技術で、今では名前を変えて多くのPC用モニターで導入されている(例:BenQならDyAcという名称)。
「黒フレーム挿入」という名前の通り、この技術は単にフレームを切り替える時に真っ黒なフレームを挟み込むだけ。驚くことに、たったこれだけの工夫で人間の目に見える残像は大幅に減らせるのです。
ヘタにオーバードライブするよりも残像低減の効果を得られるのが黒フレーム挿入の強みだが、フレームを更新する度に黒い画面を挟むわけですから「フリッカー」が最大のデメリットになります。
フリッカーをここまでハッキリと視認するにはハイスピードカメラが必要ですが、人間の目にはちゃんと届いているのでじわじわと目に疲れをためていく。
144Hzのモニターで黒フレーム挿入を使った場合、1秒間に144回も瞬きをするのに等しい負荷を目に掛けるわけですから疲れないわけが無い。もちろん、フリッカーによる疲れやすさは個人差があります。
フリッカー以外のデメリットには、画面が明るくなりにくいというものがある。黒いフレームを挟んでいる間は画面が真っ暗になるため、目に見える輝度は低下するのはある意味当然のことです。
つまり、黒フレーム挿入を使わない時と比較して、同じ輝度を得るために必要な消費電力はやや高くなるということ。とはいえ、ゲーミングモニター自体もともと消費電力が高いので、あまり大きなデメリットではない。
PC用モニターの応答速度まとめ
本記事では図解も交えて、おおまかにモニターの応答速度について解説してみました。最後に、応答速度について覚えておきたい要点をまとめて解説して締めます。
応答速度とは
電圧の上げ下げの速度のことでしたね。目的の明るさに達するまでの時間(立ち上がり)と、元の明るさに戻る時間(立ち下がり)の合計値が「応答速度」です。
オススメの応答速度
応答速度の推奨値は、リフレッシュレートを下回ることが重要。
リフレッシュレート | 更新速度 | 必要な応答速度 | 推奨 |
---|---|---|---|
60Hz | 16.67ミリ秒 | 最低でも17ミリ秒以下 | 16ミリ秒 |
144Hz | 6.94ミリ秒 | 最低でも7ミリ秒以下 | 6ミリ秒 |
160Hz | 6.25ミリ秒 | 最低でも6.3ミリ秒以下 | 6ミリ秒 |
240Hz | 4.17ミリ秒 | 最低でも4.2ミリ秒以下 | 4ミリ秒 |
普通のモニター(60Hz)なら、あまり問題になりません。ゲーミングモニター(144Hz~)を選ぶ場合のみ、応答速度にも注意を払いたい。少なくとも7ミリ秒を下回るモニターを選ぼう。
オーバードライブと黒フレーム挿入
残像を軽減するための技術。詳しいことは解説したので、要点だけを。
オーバードライブ- 過電圧により応答速度を高速化
- 特に中間色(G2G)に効果が大きい
- モニターメーカーの技術力が問われる
- 安物ほどオーバーシュート率が高い
オーバードライブを使って応答速度を高速化するつもりなら、安物は避けよう。
黒フレーム挿入- フレーム更新時に黒いフレームを挟む
- 劇的に残像が削減される
- フリッカーを強制的に発生させる
- 輝度が出にくいので消費電力がやや高まる
デメリットが気になるかどうかは個人差がある。とにかく残像を軽減したいなら、黒フレーム挿入機能のあるモニターは一考の余地あり。ちなみに筆者は「BenQ XL2546」を愛用しています。
BenQの黒フレーム挿入技術「DyAc」は体感できるほどの効果があるのでオススメ。
以上「モニターの応答速度を図解:何ミリ秒がおすすめ?」について解説でした。
「そもそもゲーミングモニターとは何か?」という初歩的なことが気になる人は、こちらのガイドブックをおすすめします。
パネルについてもっと詳しく知りたい人は、こちらのガイド記事をどうぞ。
コメントした中間色の応答速度こういう風になってたのか、図わかりやすかったです。
ブラックフレームのフリッカー考えたことなかった。例えば144Hzモニターだとゲーム72fps以上出てたら間に合わなくなって発生するのでしょうか?もしそうなら結局ゲーム60fpsぐらいでフレーム抑えてやるほうが無難ですか?
あと前回似たような記事を見ようとしたらここに飛ばされたのですがもう見れないのでしょうか?
< 前回似たような記事を見ようとしたらここに飛ばされたのですがもう見れないのでしょうか?
基本的に似た内容の記事は一つの記事に統一するため、リダイレクト(=飛ばされる)を掛けています。
yacamochi さんがフリッカーについてコメ書いてくれなかったってことはティアリング 見たいなのとは違うということかな、でも原理だけ見るとそんな感じするんだけど…
応答速度の記事なのでコメ違いかなと思うけど、軽く調べたらフィリッカー抑える方法として輝度(ブライトネス)を100%にする方法があるってのと最近のディスプレイの主流しりませんがPWM方式よりDC方式がフリッカーでないってのがありました。
液晶の場合、オーバードライブの効果で応答速度が速いほうが残像感少ないのはハッキリしてますね。
60Hzモニタでも10nmのより6nmが、さらに2nmのほうが明らかに少なく感じます。
対応したモニタはまだ使ったことがありませんが、黒挿入のほうが効果高そうですね。
あとMVAパネルとAHVAパネル、どっちがIPSか説明なしだと迷いますね。
えーと視野角の関係で湾曲しているのがVAでMVAパネル・・・
ってか根本的にAHVAのネーミングがあまりよくはないですね。VAと間違って認識される方ふつうにいそうですので。
< 60Hzモニタでも10nmのより6nmが、さらに2nmのほうが明らかに少なく感じます。
メーカー側の公称値が10ミリ秒でも、実際には中間階調で20~30ミリ秒になっているケースがあるので、十分あり得る話ですね。
< ってか根本的にAHVAのネーミングがあまりよくはないですね。
本当にそれです。IPSですが、知らなければ普通にVAだと思ってしまいます。
おっと自分、単位がnmになって間違ってますね。msでした疲れてますね。
公称値と実際で異なったりしている可能性もありでしょうか?、一応60Hzだから16ms以下なら同じに見えるわけではなく公称値通り応答性が速い方が残像が少なく感じられます。
AH-IPSでオーバードライブなしで公称10ms、1段階目で6ms、2段階目3msですが、どんどん残像が少なくなるのを体感できます。
つまりフレーム間内に終わる終わらないの差だけではないなと。
ただオーバードライブで一定以上は負担も多い感じがするのといつも素早い動きのある映像ばかりでもないのとで6msが通常使用点となっていますが。
AHVAはやっぱり普通にVAパネルで認識してしまいますね・・・。
それを狙った名称にしか思えないです。VAとして売ってるとか売りたいとか思惑があるのでしょうか?
そうとしか思えない名称です。
あと昔のブラウン管時代は液晶時代のさまざまな残像緩和機能は当たり前になかったはずですが、この基本的な1/60s以下レベルでも応答性能の違いでオーバードライブだけではまだ追いつかず黒フレーム挿入や中間フレーム生成とか生まれて追いつこうとしてきたとは思うのですが、MVAパネルとAHVAパネルはAVやIPSパネルで60Hz超を狙っている関係もあって根本的な応答性をTN並みに上げてきているのが原点回帰ではないですがポイントになりますね。
応答速度が15msまたは5ms程度の製品が多い理由が分かりました。むやみに応答速度を下げるのではなく必要十分な程度に設定していたのですね。
誤字見つけました
オーバードライブと黒フレーム挿入の項目、オーバーシュートを使って応答速度を高速化と書かれています
譲ってもらった液晶モニター(正確にはテレビにパソコン接続)を使ってみたら残像がすごくて目が痛たくて…
残像を減らすには応答速度ms重視が良いのか垂直同期Hz重視が良いのかで迷っててたどり着きました。
専門的な話や、オシロ画面風の説明画像や判り易い一覧表とか、すごい丁寧にかつ分かりやすくまとめられていてびっくりしましたw
IPS(AMVA+も含めて)もVA(シャープのブラックASV)もTN(昔の60HzTNから最近の144Hzゲーミング)まで一通り試しては居たのですが…
じゃあ簡単な動画編集や動画確認の仕事で使える目が痛くならない2万円以下の低価格帯の液晶モニタは何?って聞かれて調べ直してて
LEDバックライトになってフリッカー対策も必要になるわ、
GtGの数値重視でTNを選べば5ms~1msはある、でも60Hz~76Hzで意味ある?そもそもコントラスト比や視野角の影響で色味がおかしくなったら…。じゃあIPSやAMVAで良いじゃんってなって、でも今度は残像とか大丈夫?っていう
お金がない環境特有のお金で解決できない無意味なジレンマと無限回廊に堕ちてしまいましてw
すみません駄文を…!
要は改めてすごい勉強になりました!イメージを伝えやすかったですし、私も再確認できてよかった…。
この場を借りてお礼を。
凄い手間の掛けていらっしゃる丁寧なご活動に驚かされるばかりです、陰ながら応援しております!それでは
[…] モニターの応答速度やリフレッシュレートについて、「ちもろぐ」さんの記事でかなり詳しく解説されているので、興味のある方はぜひ一度読んでみてほしい。 […]
[…] たり60回、つまり16.67ミリ秒ごとに画面をリフレッシュするので4msは十分すぎる応答速度です。詳しくはこちらの記事で応答速度に関してわかりやすく解説されていましたのでご参考に。 […]
読んでいて、勘違いされているのではないかと感じる箇所がありました。
応答速度とリフレッシュレートの関連性に関する箇所を読むと「リフレッシュ間隔内であれば1ms も 10ms も表示に影響はない」と考えられているようにとれましたが、これは誤りだと考えています。
正しくはリフレッシュレートがどうあれ、応答速度は早いほど画面の切り替えにかかる時間は減ります。
リフレッシュレートはPCからモニタに送られてきた映像を最新のものに切り替える周期です。
応答速度は映像の切り替えに掛かる時間です。
リフレッシュしてから応答速度の間待つことで最新の映像になります。
おそらく映像の切り替えを誤ってイメージされているものと思います。リフレッシュとあるので、過去の映像はすぐさま消えると考えられたのだと思いますが、実際には過去の映像から最新の映像に変化する過程を観ることになります。
そもそも少し考えてもらえば判るのですが、
もし記載されている通り瞬時に映像が切り替わるのであれば、モーションブラー低減の黒フレーム挿入はなんの意味もなくなりますよね。あれは実際はバックライトを消していて、変化過程を感じづらくする仕組みです。
これからも頑張ってください。心より応援しております
[…] 引用:モニターの応答速度を図解:何ミリ秒がおすすめ? ちもろぐ […]