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Ryzen 9 3950Xをレビュー:メインストリーム向けで最強のCPUが君臨

「Ryzen 9 3950X」はメインストリーム向けCPUとして、世界初の16コアCPUです。10コア以上はインテルのHEDT向けCPUの独壇場でしたが、AMDはメインストリーム向けで16コアまで侵略し、あのインテルを値下げ競争に引きずり落としました。そんな3950Xの驚異的な性能を検証です。

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メインストリーム初の16コア「Ryzen 9 3950X」

Ryzen 9 3950Xをレビュー(写真)
AMD / コア : 16 / スレッド : 32 / ソケット : Socket AM4 / チップセット : AMD 400~500 / 付属クーラー : なし

10コア以上のハイエンドなCPUを探していたら「Ryzenブランドの存在を初めて知りました。」という人向けに、一応Ryzen 9 3950Xの基本的な仕様(スペック)や、第3世代Ryzenの設計上の特徴について解説しておきます。

すでにZen 2アーキテクチャ(設計)について詳しく知っている人は、いきなり ベンチマーク編に飛んでもらっても構いません。

CPURyzen 9 3950XCore i9 9900KCore i9 9960X
ロゴRyzen 9 3950X(ロゴ画像)Core i9 9900K(ロゴ画像)Core i9 9940XE(ロゴ画像)
世代3rd Zen 29th Coffee Lake R6th Skylake X Refresh
プロセス7 nm14 nm++14 nm++
TIMCPU内部の熱伝導材ソルダリングIHSは金メッキ仕様ソルダリングソルダリング
ソケットSocket AM4LGA 1151 (v2)LGA 2066
チップセットAMD 400 / 500Intel 300Intel X299
コア数16816
スレッド数321632
ベースクロック3.50 GHz3.60 GHz3.30 GHz
ブーストクロックシングルコア使用時~ 4.70 GHz5.00 GHz4.50 GHz
ブーストクロック全コア使用時4.70 GHz4.70 GHz4.00 GHz
手動OC可能可能可能
L1 Cache768 KB512 KB896 KB
L2 Cache6 MB2 MB14 MB
L3 Cache64 MB16 MB19.25 MB
対応メモリDDR4-3200DDR4-2666DDR4-2666
チャネルx2x2x4
最大メモリ128 GB128 GB256 GB
ECCメモリU-DIMMのみ不可不可
PCIeレーンGen4Gen3Gen3
16 + 41644
レーン構成1×16 + 1×41×16 + 2×8x16
2×8 + 1×41×8 + 2×4x8
1×8 + 2×4 + 1×4x4
内蔵GPUなしUHD 630なし
GPUクロック350 ~ 1200 MHz
TDP105 W95 W165 W
MSRP$ 749$ 499$ 1699
参考価格国内の参考価格99778 円58093 円101100 円

Ryzen 9 3950Xはメインストリーム向けでは最高のスペックを誇るCPUです。インテルCPUのメインストリーム最上位は依然としてCore i9 9900Kの8コアにとどまり、16コアで競合するのはHEDT向けのCore i9 9960Xのみ。

価格設定はi9 9960Xが1699ドルに対して、Ryzen 9 3950Xは半額以下の749ドルです。しかし、インテルは3950Xの登場に合わせてHEDT向けCPUの価格を大幅に値下げしたので、今は3950Xが特別安いわけではない。

加えてi9 9960Xには16コアだけでなく、HEDTならではの拡張性の高さも付属します。たとえば4チャンネルメモリに、44本の物理的なPCIeレーン※は、Ryzen 9 3950Xには無い大きな強みです。

とはいえ、HEDTクラスの拡張性を捨てた代わりに3950Xには互換性の高さがメリットとして付いてきます。安価なB450マザーボードでも、BIOSさえアップデートしておけば簡単に16コア環境を実現できる手軽さはスゴイです。

極端な例だと、たった1万円の安いマザーボードで16コアのCPUが動くんですよ。インテルのHEDT向けマザーボードは少なくとも2.5万円は必要です。

やかもち
16コアがこんなに身近になる日が来るなんて。AMDさまさまです。

※帯域幅ではほぼ同じですが、レーンの本数そのものはCore Xが2倍以上です。レーン数の多さは、コアゲーマーやAI系の研究者にとっては重要だったりします。

第3世代Ryzen「Zen 2」の改善ポイント

Ryzen 9 3950Xには、TSMC社の7 nmプロセスを使った最新設計「Zen2」を使用しています。ではZen2は従来のRyzen(Zen / Zen+)と比較して何がどう違うのか。基本的な内容を解説します。

従来設計との大きな違いは以下の3つです。

  1. クロックあたりの性能(IPC)が約15%改善
  2. エンコード性能の強化(SIMD演算の256 bit化)
  3. PCI Express Gen4に対応

順番に見ていきましょう。

第3世代Ryzen(Zen 2)はIPCを約15%改善
やかもち
同じクロック周波数なのに性能は15%速い!!

1つ目は「IPC(クロックあたりの処理性能)」が、初代Ryzenから約15%も改善されました。同じクロック周波数で、より高い処理性能を発揮できるようになったため、過度なオーバークロックをせずとも高い性能を実現できます。

もっとザックリと説明するなら、今までは5.0 GHzで出せていた性能を4.35 GHzくらいで出せるようになった。という意味です。少ないクロックで高性能なので、発熱を抑えてワットパフォーマンスの改善も可能です。

第3世代Ryzen(Zen 2)ではSIMD演算が256 bit化された

2つ目は「エンコード性能の強化」です。動画エンコードソフトは「AVX2」と呼ばれる命令セットを使って、動画のエンコードを爆発的に高速化しています。

しかし、従来のRyzenはこのAVX2という命令を半分ずつしか処理できませんでした。毎回データを半分に切り分けて、幅が128 bitしかない細いベルトコンベアに乗せて処理していたのです。

だから従来のRyzenは、多くの動画エンコードソフトで本来の処理性能を発揮できないという弱点を抱えていました(※一部のソフトは、開発者が最適化することでRyzenでの高速処理を可能にしていた)

この弱点を解消するべく、第3世代のRyzenではAVX2を処理するために使うベルトコンベアの幅を2倍の256 bit幅に拡張し、一度に処理できるデータ量を2倍に改善。

インテルCPUと同様のベルトコンベアを装備したため、きちんとCPUのコア数に見合ったエンコード処理速度を発揮できるようになるはずです。

第3世代Ryzen(Zen 2)はPCI Express Gen4をサポート

3つ目は「PCI Express Gen4」のサポート。従来のRyzenや競合するインテル製CPUは、NVMe SSDやグラフィックボードをつなぐインターフェイスに「PCI Express Gen3」を使用しています。

Gen3の転送速度(理論値)は16レーンで約15.75 GB/s、4レーンで約3.94 GB/s、1レーンで約985 MB/sです。グラフィックボードはまだまだ足りているものの、NVMe SSDや10 Gbps NICでは不足気味でした。

そこで第3世代Ryzenでは、後継規格の「PCI Express Gen4」を実装することで転送速度を一気に2倍にまで拡張し、帯域不足の解消を狙います。必要性はともかく、ライバルCPUに対するアドバンテージになるのは間違いないです。

やかもち
超高速なSSDや、超高速なネットワークカードをたくさん挿したい人には朗報ですね。

なお、第3世代Ryzen対応の最新チップセット「X570」も、PCI Express Gen4を実装して拡張性を大幅に改善しています。以下にガイド記事を用意しているので、ついでに読んでみてください。

ここまでの解説で、

  1. クロックあたりの性能(IPC)が約15%改善
  2. エンコード性能の強化(SIMD演算の256 bit化)
  3. PCI Express Gen4に対応

第3世代Ryzen(Zen2)の基本的な改善ポイントについて、一通り把握できたと思います。では、本題のRyzen 9 3950Xのスペック解説をつづけていく。

メモリは定格で「DDR4-3200」に対応

メモリランクメモリ枚数第3世代(Zen 2)第2世代(Zen+)初代(Zen)
シングルランク2枚DDR4-3200DDR4-2933DDR4-2666
4枚DDR4-2933DDR4-2133DDR4-2133
デュアルランク2枚DDR4-3200DDR4-2667DDR4-2400
4枚DDR4-2667DDR4-1866DDR4-1866

第3世代Ryzenはメモリコントローラも強化され、対応している定格メモリクロックがDDR4-2933からDDR4-3200にまで向上しました。

高品質なオーバークロッカー向けのメモリを用意するなら、DDR4-3200以上のクロックで安定動作も狙えます。ただし、3200以上を狙う際は3600~3733あたりを上限にしておくと良いです。

第3世代Ryzen(Zen2)のメモリクロックのスイートスポット

ほとんどのユーザーにとっては「DDR4-3200」で十分

AMDいわく、実際の性能に効率よく影響があるのはDDR4-3733までだからです。よって(オーバークロック自体が目的の人を除く)ほとんどの人にとっては、DDR4-3200までで問題なく間に合います。

「ソルダリング」と「金メッキIHS」で冷却効率を改善

IHSに「はんだ付け」で冷却効率アップ

「はんだ付け」で冷却効率アップ(Credit : Chiphell

AMD Ryzenシリーズや、インテルの第9世代以降のCoreシリーズでは、TIMに「ソルダリング(はんだ付け)」を採用しています。グリスよりも効率よく、熱をヒートスプレッダに伝えられるメリットがある。

第3世代のRyzenも同様にソルダリングを踏襲しつつ、ヒートスプレッダ(CPUの殻)に金メッキを施すことで更に冷却効率を改善しています。

従来のチップセットは利用可能ですが

CPURyzen 9 3950X
対応ソケットSocket AM4
対応チップセットAMD X570
AMD X470要BIOSアップデート
AMD B450要BIOSアップデート
AMD X370要BIOSアップデート
AMD B350要BIOSアップデート

BIOSアップデートは必要になりますが、B450やX470など従来のチップセットでRyzen 9 3950Xを使用可能です。ネイティブ対応する「X570」チップセットが高いと感じるなら、B450マザーボードは十分選択肢になります。

ただし、従来のチップセットとX570チップセットでは、マザーボードの設計に違いがあるので注意してください。もっとも大きな違いは、CPUに電力を供給するVRMフェーズ回路の設計です。

VRMフェーズ回路の写真(アナログとデジタル回路)

B450やX470マザーボードは、比較的アナログな実装のフェーズ回路が多く、16コアCPUをフルに動かせばVRMフェーズが激しく発熱してCPUが100%の性能を出しきれない状況になる可能性も多少はあります。

一方、X570マザーボードではデジタル化されたフェーズ回路が主流になっています。発熱を抑えつつ、大電流に耐えられる設計のVRMフェーズを備えているため、16コアをフル活用するならX570マザーボードを検討したいです。

「Ryzen 9 3950X」のスペック要点まとめ

最後に、Ryzen 9 3950Xのスペックについてまとめます。

    • インテルの16コアCPUより安い
    • メインストリーム初の「16コア」CPU
    • 改善されたブーストクロック周波数
    • 「IPC」は最大で約15%の改善
    • エンコード性能の強化
    • メモリクロックは定格でDDR4-3200に対応
    • ソルダリング & 金メッキで熱対策
    • 従来のチップセットでも使用可
    • 拡張性はインテルの16コアに劣る

12コアのRyzen 9 3900Xと比較すると、16コアのRyzen 9 3950Xは1コアあたりの単価がやや高くなっています。それでもインテルの16コアCPUを買うよりは安いため、コストパフォーマンスは驚異的です。

ただし拡張性ではインテルに軍配が上がります。メモリチャネルはRyzenが2チャネルに対して、インテルは4チャネル使用可能です。PCIeレーンの帯域幅はどちらもほぼ同じですが、レーンの本数ではインテルが2倍を超えています。

目的や用途によって、ケースバイケースにどちらが本当に必要なのか。ある程度は選択する必要性があるのが、Ryzen 9 3900Xとはまた違ったところです。

やかもち
インテルがHEDT向けCPUを値下げしていなければ、Ryzen 9 3950Xの安さは圧倒的だったんですけどね。

Ryzen 9 3950Xを実機レビュー

パッケージング & 開封

Ryzen 9 3950Xをレビュー(写真)

第3世代Ryzenのメインストリーム向けCPUとしては、もっとも上位に位置するRyzen 9 3950Xですが、パッケージデザインはRyzen 9 3900Xよりもアッサリとしています。

Ryzen 9 3950Xをレビュー(写真)

表から見ると半開きに見えるデザインは、反対側から見るとしっかりとシールで封がされています。スリット(溝)をあえて入れてユニークな雰囲気を醸し出すデザインです。

Ryzen 9 3950Xをレビュー(写真)

Ryzen 9 3950XにはCPUクーラーが付属しない分だけ、パッケージがスッと薄くなりました。CPUクーラーが付属するRyzen 9 3900Xと並べてみると、薄さの違いは一目瞭然。

Ryzen 9 3950Xをレビュー(写真)

封を切って引っ張るだけで開封でき、すぐにCPU本体が姿を現します。

Ryzen 9 3950Xをレビュー(写真)

縦長なパッケージの中身はそのほとんどがクッション材で埋められていて、付属品はRyzen 9シールと説明書だけでした。

Ryzen 9 3950Xをレビュー(写真)

1世代前のRyzenとCPU本体の違いを見比べてみる。細かい部分でデザインがわずかに違いますが、もっとも大きな違いは左下のソケット方向マーク(三角形)です。

以前よりも三角形がとても小さくなっていて、パッと見ただけではソケットの向きが分かりにくくなっています。CPUの取り付けに慣れている人なら大丈夫ですが、初めて自作する人にとっては一瞬向きが見えなくて焦るかも。

Ryzen 9 3950Xをレビュー(写真)

「ASRock X570 Taichi」にセットしてみた。Ryzen対応のSocket AM4は、インテルのLGA 1151よりも固定方法がシンプルでラクです。固定用のレバーも小型で、CPUクーラーのマウンティングプレートと干渉しづらいのも良いところ。

テスト環境の紹介と比較対象

Ryzen 9 3950Xのテスト環境
テスト環境「ちもろぐ専用ベンチ機」
PCver.AMDver.Intel
CPURyzen 9 3950XCore i9 9900K
CPUクーラーCorsair H100i Pro RGB240 mm簡易水冷ユニット
マザーボードASRock X570 TaichiASRock Z390 Phantom Gaming 6
メモリDDR4-3200 8GB x2使用メモリ「G.Skill FlareX C14」
グラフィックボードRTX 2080 Ti使用グラボ「MSI Gaming X Trio」
SSDNVMe 250GB使用SSD「Samsung 970 EVO Plus」SATA 500GB使用SSD「Samsung 860 EVO」
SATA 2TB使用SSD「Micron 1100」
電源ユニット #1システム全体1200 W(80+ Platnium)使用モデル「Toughpower iRGB PLUS」
電源ユニット #2CPUのみ850 W(80+ Gold)使用モデル「Toughpower iRGB PLUS」
OSWindows 10 Pro 64bit検証時のバージョンは「1903」
ドライバNVIDIA 431.60
ディスプレイ1920 x 1080@240 Hz使用モデル「BenQ XL2546」

「青字」は該当するレビュー記事へリンクしています。

Ryzen 9 3950Xを検証するPCスペックは以上のとおりです。比較対象には同じ16コアのi9 9960Xを用意したいところですが、予算がないのでゲーム最強のCPUであるCore i9 9900Kにしておきました。

CPUクーラーは両者ともに、240 mm簡易水冷ユニットの「Corsair H100i Pro RGB」をマザーボード側の自動設定で使用します。メモリも両者ともにDDR4-3200(タイミングはCL14)で揃えています。

グラフィックボードはレビュー時点で最強の性能を誇る「RTX 2080 Ti」を使用しました。CPUのゲーミング性能を計測するため、なるべく高性能なグラフィックボードを使ってボトルネックを出やすくする目的です。

システムストレージはもちろんSSDで揃え、アプリケーションなどはUSB接続のSATA SSD(2TB)から実行します。基本的には、CPU本体の性能差を忠実に検証できるテスト環境が揃っています。

AMD / コア : 16 / スレッド : 32 / ソケット : Socket AM4 / チップセット : AMD 400~500 / 付属クーラー : なし
MSI / ブーストクロック : 1755 MHz / ファン : トリプル内排気 / 厚み : 2スロット(55.6 mm) / TDP : 300 W / 備考 : 8 + 8 + 6 pinが必要
G.Skill / 種類 : デスクトップ用 / 規格 : DDR4-3200 / CL : 14-14-14-34 / ランク : 1-Rank / 容量 : 8 GB / 枚数 : 2枚 / チップ : Samsung B-die / 備考 : for AMDメモリ
ASRock / チップセット : AMD X570 / フォーム : ATX / ソケット : Socket AM4 / フェーズ数 : 14(※DrMOS仕様) / マルチGPU : SLI or CF対応
Corsair / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ラジエーター : 240 mm / ファン : 120mm x2 / 備考:5年保証

CPU性能をチェック

レンダリング性能

Cinebench R15

「Cinebench R15」は日本国内だけでなく、国際的にもCPU用の定番ベンチマークソフトです。内容はレンダリングで、CPUが持っている理論上の性能がハッキリと反映されやすいです。

CPUのすべてのコアを100%使用した場合の性能を叩き出すため、理論上の目安になります。ただし、あくまでも目安であり、CPUの性能を代表するスコアではない点は注意してください。

Cinebench R15 / マルチスレッド性能

  • Ryzen 9 3950X
    4025 cb
  • Ryzen 9 3900X
    3149 cb
  • Ryzen 7 3700X
    2143 cb
  • Core i9 9900K
    2084 cb

すべてのCPUコアを使用した場合の「マルチスレッド性能」は、Core i9 9900Kの約2倍近い4000 cb超えを記録しました。

参考までに、16コアのCore i9 9960Xが3500 cb前後、18コアのCore i9 9980XEが3750 cb前後です。Ryzen 9 3950Xは高いクロック効率(IPC)のおかげで、インテルの16~18コアCPUを上回るマルチスレッド性能を発揮しています。

Cinebench R15 / シングルスレッド性能

  • Ryzen 9 3950X
    212 cb
  • Ryzen 9 3900X
    208 cb
  • Ryzen 7 3700X
    207 cb
  • Core i9 9900K
    216 cb

1コアあたりの性能を示す「シングルスレッド性能」は軽く200 cbを超えています。Core i9 9900Kとおおむね同じくらいのスコアなので、マルチスレッドの最適化されていないソフト※でも、高い性能を期待できそうです。

※代表例としてはAdobe系のソフトウェア。Photoshopなどは特に顕著です。

レンダリング(Cinebench R20)

Cinebench R15の後継バージョン「Cinebench R20」も検証しておきました。

Cinebench R20 / マルチスレッド性能

  • Ryzen 9 3950X
    9113 cb
  • Ryzen 9 3900X
    7118 cb
  • Ryzen 7 3700X
    4843 cb
  • Core i9 9900K
    4957 cb

マルチスレッド性能はCore i9 9900Kを約80%、Ryzen 9 3900Xを約30%ほど上回るスコアです。Core i9 9980XEだと8700 cb前後なので、やはりインテルの16~18コアCPUより効率よくマルチスレッド性能が出ています。

Cinebench R20 / シングルスレッド性能

  • Ryzen 9 3950X
    521 cb
  • Ryzen 9 3900X
    515 cb
  • Ryzen 7 3700X
    509 cb
  • Core i9 9900K
    502 cb

シングルスレッド性能は500 cbの大台を超えて521 cbに達しました。Core i9 9900Kですら500 cbを超えるのがやっとなのに、Ryzen 9 3950Xは余裕でクリア。トップクラスのシングル性能です。

Blender(BMWレンダリング)

Cinebenchだけでなく、実際に「Blender」というレンダリングソフトを使って処理速度を計測。内容はスポーツカー「BMW」を生成するのにかかった時間で比較します。

Blender 2.79.7 / 「BMW」の生成時間

  • Ryzen 9 3950X
    92.9 秒
  • Ryzen 9 3900X
    118.0 秒
  • Ryzen 7 3700X
    172.7 秒
  • Core i9 9900K
    164.4 秒

レンダリング時間はわずか93秒。めちゃくちゃ速いです。

計算速度

Geekbench 4.1

Geekbench 4.1はマルチプラットフォーム対応のベンチマークソフトです。内容は多種多様なテストのパッケージで、AESなど暗号処理系の計算速度が問われています。主にCPUの計算速度をスコア化することになります。

Geekbench 4.1 / シングルスレッド性能

  • Ryzen 9 3950X
    5747
  • Ryzen 9 3900X
    5563
  • Ryzen 7 3700X
    5690
  • Core i9 9900K
    6056

1コアあたりの性能はCore i9 9900Kには届きませんが、文句なしの高速処理です。

Geekbench 4.1 / マルチスレッド性能

  • Ryzen 9 3950X
    48848
  • Ryzen 9 3900X
    44430
  • Ryzen 7 3700X
    34356
  • Core i9 9900K
    33210

マルチスレッド性能はもちろん圧倒的で、約50000点に迫るスコアに。

Eular3D Benchmark(計算速度)

Euler3Dは流体力学の計算をCPUに実行させる、Geekbench以上にCPUの計算速度が問われるベンチマークです。単位はHz(ヘルツ:1秒あたりの計算回数)で示され、数値が大きいほど速いことを意味します。

Euler3D Benchmark / 計算速度

  • Ryzen 9 3950X
    14.871 Hz
  • Ryzen 9 3900X
    12.930 Hz
  • Ryzen 7 3700X
    8.910 Hz
  • Core i9 9900K
    10.673 Hz

Euler3Dはもっぱらシングルスレッド性能が影響しやすいベンチマークですが、比較的レガシーなソフトなので思ったよりは振るわない結果になりました。

円周率を計算するベンチマークソフト「SuperPi」でも似たような現象が確認されているため、古いソフトウェアだとCPU本来の性能を出し切れない可能性を示唆します。

動画エンコード

動画エンコードソフト「Handbrake」

メニーコアCPUでもっとも期待されているタスクのひとつは、間違いなく「動画エンコードの短縮化」でしょう。

まずは定番のフリー動画エンコードソフト「Handbrake」を使ってエンコード性能を検証します。約1 GBのフルHD動画(.mkv)を、Handbrakeの標準プリセットを使ってエンコードして、ログに表示される「平均処理速度」で性能比較です。

Handbrake / Fast 480p(x264)

  • Ryzen 9 3950X
    156.69 fps
  • Ryzen 9 3900X
    144.06 fps
  • Ryzen 7 3700X
    120.24 fps
  • Core i9 9900K
    114.15 fps

フルHD(1080p)から480pに、H.264形式でエンコードした結果です。パッと見で分かる通り、Ryzen 7 3700XとRyzen 9 3900Xでは約20%は性能が伸びたのに対し、Ryzen 9 3900XからRyzen 9 3950Xでは約9%しか変わりません。

困ったことに、低解像度へのエンコードだとCPU使用率がどうしても100%に届かないのです。原因は分かりませんが、Handbrakeは10コア以上になると効率よく処理ができない可能性がありますね。

Handbrake / Fast 1080p(x264)

  • Ryzen 9 3950X
    121.82 fps
  • Ryzen 9 3900X
    108.40 fps
  • Ryzen 7 3700X
    77.83 fps
  • Core i9 9900K
    76.91 fps

フルHDからフルHDへの動画エンコードでは、若干CPU使用率が改善します。それでも性能の差は約12%で、16コアすべてをフルに活用できません。

Handbrake / Fast 480p(x265)

  • Ryzen 9 3950X
    142.05 fps
  • Ryzen 9 3900X
    127.96 fps
  • Ryzen 7 3700X
    102.86 fps
  • Core i9 9900K
    101.82 fps

同じプリセットのまま、エンコード形式をH.265(x265)に変更してテストしてみました。やはり低解像度へのエンコードでは、コア数に見合った処理性能を得られないです。

Handbrake / Fast 1080p(x265)

  • Ryzen 9 3950X
    66.84 fps
  • Ryzen 9 3900X
    55.67 fps
  • Ryzen 7 3700X
    42.28 fps
  • Core i9 9900K
    43.63 fps

フルHDへ動画エンコードするとCPU使用率が85%前後で落ち着くようになり、やっと16コアらしい処理性能になってきました。8コアから12コアで約32%の性能差、12コアから16コアで約20%の性能差です。

Handbrake / Fast 1080p(x264) / 2つ並列

  • Ryzen 9 3950X
    142.66 fps
  • Ryzen 9 3900X
    119.75 fps
  • Ryzen 7 3700X
    78.04 fps
  • Core i9 9900K
    69.69 fps

フルHDからフルHD(H.264形式)への動画エンコードを、2つ同時に並列処理させて、2つのログを合計してエンコード性能を比較しました。この方法なら、Ryzen 9 3950XのCPU使用率を常に100%に張り付かせることが可能です。

当たり前の傾向ですが、エンコード1つではCPU使用率が100%になりにくいCPUほど、並列エンコードによる性能の伸び幅は大きいですね。有り余るCPUパワーをすべて使い切るなら、並列エンコードは有力な選択肢かもしれません。

やかもち
ちなみに8Kから4Kとか、大きい解像度のエンコードではCPU使用率は90%前後になります。しかし現状では現実的なテスト内容ではないため、比較検証はしていません。
Aviutlで動画エンコード

日本では大人気の動画編集ソフト「Aviutl」も検証します。rigaya氏が開発した拡張プラグイン「x264guiEx」と「x265guiEx」を使って、2400フレームの動画をエンコードする。

Aviutl / x264guiExエンコード

  • Ryzen 9 3950X
    35.2 秒
  • Ryzen 9 3900X
    38.8 秒
  • Ryzen 7 3700X
    44.6 秒
  • Core i9 9900K
    46.0 秒

CPUは半分も使い切れてないですが、エンコード処理速度は意外にも改善が見られました。てっきりほとんど性能差は出ないと思っていただけに、いい意味で裏切られた結果です。

Aviutl / x265guiExエンコード

  • Ryzen 9 3950X
    46.5 秒
  • Ryzen 9 3900X
    52.0 秒
  • Ryzen 7 3700X
    62.6 秒
  • Core i9 9900K
    64.1 秒

x265guiExでも同じような傾向です。テロップを入れたり動画をカットするくらいの軽い動画編集なら、Aviutlの動画エンコードで意外と行けそうです。

Adobe Media Encoder(動画エンコード)

今回は、Adobe Premiereの動画エンコードもテストします。Premiereから直接エンコードするとログが残らないので、Media Encoderから実行してログに残された処理時間でCPU性能を比較です。

テスト内容はOBSで録画した4K解像度のゲームプレイ動画(.mp4)を、標準プリセット「Youtube 1080p HQ」を使ってフルHD動画にエンコードするのみ。

Media Encoder / 4K to YT 1080p HQ

  • Ryzen 9 3950X
    90.0 秒
  • Ryzen 9 3900X
    90.0 秒
  • Ryzen 7 3700X
    93.0 秒
  • Core i9 9900K
    102.0 秒

驚くほど性能が伸びません。しかし、CPU使用率は検証した4つのCPUすべてで100%張り付きでした。

エンコード中にタスクマネージャーを見ると、動画エンコードが始まるとともにメモリ使用量がどんどん増えて振り切れていることが判明。あ…そういえばMedia Encoderはメモリが多いほど性能が伸びるソフトでした↓(※検証済みなの忘れていた)

やかもち
(気が向いたら)メモリを64 GBにして再テストする予定。

動画編集

Davinci Resolve(動画編集)

「Davinci Resolve」はフリー動画編集ソフトとして、Aviutlと並んで完成度の高いソフトです。カラーグレーディングやVFX合成などプロ仕様な機能に加え、PCスペックをフルに活用できる洗練された設計が大きな強み。

今回の検証ではPuget Systems社のベンチマークプリセットを使って、Davinci Resolve 16における動画編集のパフォーマンスを計測します。バッチ処理でDavinci Resolveを動かして、それぞれの処理にかかった時間からスコアを出す仕組みです。

Davinci Resolve / 4K動画編集

  • Ryzen 9 3950X
    1034
  • Ryzen 9 3900X
    1040
  • Ryzen 7 3700X
    950
  • Core i9 9900K
    870

4K動画編集ではコア数が増えるにつれて処理性能が改善します。Core i9 9900Kより約19%高速ですが、12コア以上はやや伸び切らない様子でした。

Davinci Resolve / Fusion(VFX)

  • Ryzen 9 3950X
    1279
  • Ryzen 9 3900X
    1227
  • Ryzen 7 3700X
    1165
  • Core i9 9900K
    1122

Davinci Resolveの「Fusion」は、平たく言うならVFX合成のような編集機能です。4K動画編集と同じく、CPUのコア数が多いほど処理性能が改善が見られ、16コアでも性能が伸びています。

メニーコア化が急速に進む時代に最適化が追いつく動画編集ソフトを使うなら、Ryzen 9 3950Xの性能はかなり魅力的です。逆にAdobeソフトをメインに使っているなら、3950Xの16コアは持て余す可能性が高いです。

テスト内容Ryzen 9 3950XRyzen 9 3900XRyzen 7 3700XCore i9 9900K単位
4KOverall Score10341040950870Score
4K Test AverageBasic Grade112118.397.391.4Score
4K Test AverageOpenFX – Lens Flare + Tilt-Shift Blur + Sharpen95.997.694.484.4Score
4K Test AverageTemporal NR – Better 2 Frames100.4100.193.884.7Score
4K Test Average3x Temporal NR – Better 2 Frames9493.594.388.8Score
4K Test AverageOptimized Media115110.795.285.5Score
4K CinemaRAW LightCodec Average11010994.990.7Score
4K H264 150Mbps 8bitCodec Average97.497.190.885.6Score
4K ProRes 422Codec Average101.9106.397.288.6Score
4K ProRes 4444Codec Average100.8102.295.378.5Score
4K REDCodec Average107.1105.496.691.5Score
4K CinemaRAW LightBasic Grade52.935643.3543.39FPS
4K CinemaRAW LightOpenFX – Lens Flare + Tilt-Shift Blur + Sharpen18.2218.6817.9816.16FPS
4K CinemaRAW LightTemporal NR – Better 2 Frames16.8116.6113.7713.39FPS
4K CinemaRAW Light3x Temporal NR – Better 2 Frames7.337.257.47.04FPS
4K CinemaRAW LightOptimized Media122.29111.8891.587.5FPS
4K H264 150Mbps 8bitBasic Grade54.7658.0849.148.35FPS
4K H264 150Mbps 8bitOpenFX – Lens Flare + Tilt-Shift Blur + Sharpen17.8718.3117.6516.08FPS
4K H264 150Mbps 8bitTemporal NR – Better 2 Frames18.7918.5618.8216.65FPS
4K H264 150Mbps 8bit3x Temporal NR – Better 2 Frames7.647.557.647.29FPS
4K H264 150Mbps 8bitOptimized Media74.568.9359.2158.11FPS
4K ProRes 422Basic Grade54.7460.4748.3144.56FPS
4K ProRes 422OpenFX – Lens Flare + Tilt-Shift Blur + Sharpen18.5519.2918.5416.63FPS
4K ProRes 422Temporal NR – Better 2 Frames19.5619.5619.5616.45FPS
4K ProRes 4223x Temporal NR – Better 2 Frames7.767.767.817.33FPS
4K ProRes 422Optimized Media154.6163.42139.59133.47FPS
4K ProRes 4444Basic Grade27.8129.2324.9321.74FPS
4K ProRes 4444OpenFX – Lens Flare + Tilt-Shift Blur + Sharpen18.0818.0817.6414.76FPS
4K ProRes 4444Temporal NR – Better 2 Frames16.4416.6314.9113.03FPS
4K ProRes 44443x Temporal NR – Better 2 Frames7.417.47.46.72FPS
4K ProRes 4444Optimized Media108.23108.19104.3764.64FPS
4K REDBasic Grade28.9329.2224.7122.95FPS
4K REDOpenFX – Lens Flare + Tilt-Shift Blur + Sharpen14.0114.0113.6212.66FPS
4K REDTemporal NR – Better 2 Frames12.7912.7912.3611.66FPS
4K RED3x Temporal NR – Better 2 Frames6.396.366.396.12FPS
4K REDOptimized Media53.7249.9841.3540.23FPS
FusionOverall Score1279122711651122Score
Fusion Test AverageScore127.9122.7116.5112.2Score
Fusion_3DBacklitTextReference FPS2.762.682.462.3FPS
Fusion_PhoneCompositeReference FPS24.5822.2921.2819.62FPS
Fusion_TurbulantParticlesReference FPS6.156.276.146.41FPS

ゲーム実況配信

ゲーム配信ソフトで特に有名な「OBS(略:Open Broadcaster Software)」を使って、CPUの配信性能を検証します。

なお、あくまでもCPUの性能評価としてOBSを使うだけであって、現時点では「ゲーム配信するならNVEncが有利。」と考えてます。画質はもちろん高いですし、ゲーム中のフレームレートの下落もNVEncの方が少ないです。

ではゲーム配信の性能を検証しましょう。

OBSの設定画面※クリックで拡大します

FF14ベンチマーク(紅蓮のリベレーター)を最高設定で実行中に、OBSで録画と配信を同時に行います。配信設定は60 fpsのフルHDで、プリセットは非常に重たい「Medium」です。

統計タブに表示されるドロップフレーム率で「コマ落ちしたフレーム数」を記録し、配信した総フレーム数で割り算して割合を求めました。0%がベストで、5%を超えたらイライラする配信になります。

配信中のドロップフレーム率設定は「Medium」で固定
上限CPUレンダリングラグエンコードラグ平均fps
144 fpsRyzen 9 3950X0.0%0.0%108.8 fps
Ryzen 9 3900X0.0%0.0%102.1 fps
Ryzen 7 3700X0.3%23.8%85.3 fps
Core i9 9900K0.0%39.2%107.7 fps
60 fpsRyzen 9 3950X0.0%0.2%59.7 fps
Ryzen 9 3900X0.0%0.2%59.7 fps
Ryzen 7 3700X0.1%25.5%59.5 fps
Core i9 9900K0.0%24.7%59.2 fps

さすがに16コアはパワフルです。8コアCPUだと話にならないほど重たいMedium設定が、何のことなくスムーズに行けます。配信中のフレームレートもRyzen 9 3900Xより下落幅が少ないですね。

やかもち
間違いなく配信最強CPUはRyzenですが、画質とゲーム中の負荷を考えるとグラボ(NVIDIA Turing世代)の方が有利なのが現実。

圧縮と解凍

7-Zip(圧縮 & 解凍)

ファイルの圧縮と解凍のスピードを、有名なフリー解凍ソフト「7-Zip」を使って計測。付属のベンチマークツールで、圧縮と解凍のスピードを「MIPS」という単位で出してくれる。

7-Zip Benchmark / 圧縮

  • Ryzen 9 3950X
    82364 MIPS
  • Ryzen 9 3900X
    77185 MIPS
  • Ryzen 7 3700X
    56786 MIPS
  • Core i9 9900K
    49981 MIPS

以前は苦手としていた「圧縮」も、第3世代Ryzenでは克服してきちんと性能を出し切れるようになっています。Ryzen 9 3950Xの圧縮スピードは、Core i9 9900Kより約60%も高速です。

7-Zip Benchmark / 解凍

  • Ryzen 9 3950X
    116873 MIPS
  • Ryzen 9 3900X
    87659 MIPS
  • Ryzen 7 3700X
    58438 MIPS
  • Core i9 9900K
    53234 MIPS

「解凍」はもともとRyzenの得意分野で、コア数にそってキレイに性能が伸びます。メインストリーム向けCPUで10万MIPS超えは、今のところRyzen 9 3950Xのみ。

ブラウザの処理速度

Mozilla Kraken 1.1(ブラウザベンチマーク)

ブラウザ上で動作するベンチマーク「mozilla kraken 1.1」を使って、CPUがブラウザ上のWebアプリをどれだけ速く処理できるかを検証する。単位はミリ秒なので、短いほど処理が速い。

Mozilla Kraken 1.1 / ブラウザの処理速度

  • Ryzen 9 3950X
    734.0 ms
  • Ryzen 9 3900X
    742.5 ms
  • Ryzen 7 3700X
    738.1 ms
  • Core i9 9900K
    754.7 ms

シングルスレッド性能の改善が効いています。20 ミリ秒の差を体感できるかはともかく、Ryzen 9 3950Xのブラウザ処理速度はCore i9 9900Kすら上回ります。めちゃくちゃ速い。

Photoshop CC

Adobe Photoshop CC(写真編集ベンチマーク)

写真編集の定番ソフト「Photoshop CC」を検証。バッチファイルを使って実際にPhotoshopを動かして、それぞれの処理に掛かった時間からスコアを算出します。

Photoshop CC / 総合的な処理性能

  • Ryzen 9 3950X
    1079.6
  • Ryzen 9 3900X
    1062.4
  • Ryzen 7 3700X
    1053.4
  • Core i9 9900K
    1023.8

シングルスレッド性能の改善に伴い、しばしばRyzenが本来の性能を発揮しづらいと言われているPhotoshop CCで、Ryzen 9 3950Xがトップに。Photoshopで最速を目指すならRyzen 9 3950Xですね。

ただ、Core i9 9900Kでも1000点オーバーは可能で、ほぼ最速に近い処理性能を発揮しています。コストパフォーマンスを考えると、Ryzen 9 3950XはPhotoshopで使うにはやや過剰です。

CPURyzen 9 3950XRyzen 9 3900XRyzen 7 3700XCore i9 9900K
総合スコア1079.61062.41053.41023.8
一般処理のスコア105.3102.1100.697.1
フィルタ系のスコア109.6109.7108.7106.5
Photomergeのスコア110107.6108.1104.7
GPUスコア116.9117.7115.3113.9
テストの詳細結果
RAW画像の展開2.462.632.563.46
500MBへのリサイズ1.251.181.251.2
回転0.730.920.930.91
自動選択9.459.499.5310.58
マスク2.933.023.063.01
バケツ1.371.391.391.59
グラデーション0.30.310.320.34
塗りつぶし11.7611.6612.0414.06
PSD保存7.397.337.346.21
PSD展開2.532.62.62.46
Camera Raw フィルタ5.345.255.335.26
レンズ補正フィルター14.5614.8214.915.13
ノイズ除去14.5315.0115.4316.6
スマートシャーペン12.6813.8315.3316.23
フィールドぼかし14.2213.7513.1713.83
チルトシフトぼかし13.6813.2212.8912.82
虹彩絞りぼかし14.5514.1713.9913.92
広角補正フィルター18.6617.1816.618.03
ゆがみツール(Liquify)9.199.119.248.59
Photomerge(2200万画素)73.4974.5974.4574.99
Photomerge(4500万画素)94.9897.997.13102.71

※「Puget Systems Adobe Photoshop CC Benchmark」を使用しました。

Microsoft Office

Microsoft Officeの処理速度(Ryzen 7 3700X)

PCMark 8を使って、Microsoft Officeの処理速度を計測します。オフィスソフトはマルチスレッドよりシングルスレッド依存のタスクになるため、基本的にはシングルスレッドが強いCore i9 9900Kが有利になるはずです。

Microsoft Word / 平均処理時間

  • Ryzen 9 3950X
    0.672 秒
  • Ryzen 9 3900X
    0.690 秒
  • Ryzen 7 3700X
    0.699 秒
  • Core i9 9900K
    0.720 秒

しかし実際には逆の結果で、WordはRyzen 9 3950Xがトップでした。といってもわずか0.05秒(50ミリ秒)しか性能差がないので、体感ではi9 9900Kも十分すぎるくらい速いです。

Microsoft Excel / 平均処理時間

  • Ryzen 9 3950X
    0.572 秒
  • Ryzen 9 3900X
    0.570 秒
  • Ryzen 7 3700X
    0.682 秒
  • Core i9 9900K
    0.624 秒

ExcelもRyzen 9 3950Xがほぼトップの処理速度を見せつけています。

Microsoft PowerPoint / 平均処理時間

  • Ryzen 9 3950X
    1.828 秒
  • Ryzen 9 3900X
    1.980 秒
  • Ryzen 7 3700X
    1.900 秒
  • Core i9 9900K
    2.185 秒

PowerPointも同様にRyzen 9 3950Xがトップです。IPC(クロックあたりの処理性能)の向上は、Officeソフトのようなシンプルなアプリケーションの実行速度を大幅に改善しています。

「IPC」でCPUの真の進化をチェック

最後は「IPC(クロックあたりの処理性能)」をテストします。IPCが高いとは、つまるところ「同じクロックなのに性能が高い」わけですから、CPUのクロック周波数を固定してベンチマークを行えばある程度は明らかにできます。

方法はシンプルで、クロック周波数を3.5 GHzに固定してCinebench R15をシングルスレッドモードで実行するだけ。

Cinebench R15 / シングルスレッド性能@3.5 GHz

  • Ryzen 9 3950X
    166 cb
  • Ryzen 9 3900X
    166 cb
  • Ryzen 7 3700X
    165 cb
  • Core i9 9900K
    154 cb
  • Core i7 9700K
    154 cb
  • Ryzen 7 2700X
    148 cb
  • Core i7 4790K
    133 cb
  • Core i7 950
    104 cb

すると、キレイにIPCの差がデータとして現れます。

Ryzen 9 3950Xの「166 cb」は歴代最高のIPC。Core i9 9900Kより約8%高く、第2世代Ryzenより約12%も高いIPCです。たった1世代の更新で1割もIPCを伸ばすとは、恐るべきZen2アーキテクチャ。

やかもち
ここまでテスト結果をまとめると、Ryzen 9 3950Xの性能にはほとんど欠点はないと言えます。しかし、軽めの動画エンコードでCPU使用率が100%に達しないなど、ソフト側の最適化に課題があるのは否定できません。

ストレージ性能への影響は?

Ryzen 9 3950Xのストレージ性能を検証

投機的実行の脆弱性が発覚する前は、インテルCPUがもっともSSDを高速に動かせるストレージ性能最強のCPUでした。しかし、脆弱性が発見されて対策が施されて以降は、ストレージ性能は大幅に悪化しています。

特にランダムアクセス性能(レイテンシ)への影響は大きいです。今回はランダムアクセス性能がトップクラスに速い「Intel Optane 900p」を使って、SSDの性能を比較してみました。

CPURyzen 9 3950XPCIe 4.0(CPU直結レーン)Ryzen 9 3950XPCIe 3.0(CPU直結レーン)Core i9 9900KPCIe 3.0(CPU直結レーン)
CDM結果※画像はクリックで拡大ストレージ性能(Ryzen 9 3950XでPCIe 4.0接続)ストレージ性能(Ryzen 9 3950XでPCIe 3.0接続)ストレージ性能(Core i9 9900K)
読み込み速度シーケンシャル2618.1 MB/s+1.4%2745.6 MB/s+6.3%2583.0 MB/s
書き込み速度シーケンシャル2071.4 MB/s+0.01%2281.1 MB/s+10.1%2071.2 MB/s
読み込み速度4KiBランダムアクセス249.70 MB/s+38.6%276.57 MB/s+53.6%180.11 MB/s
読み込み速度4KiBランダムアクセス218.61 MB/s+36.6%254.20 MB/s+58.8%160.04 MB/s

結果は以上のとおりです。Ryzen 9 3950Xのストレージ性能は、全盛期のインテルCPUにあと1割で追いつくところまで来ています。Core i9 9900Kと比較して読み込みは約54%、書き込みは約59%も高速です。

かつてのインテルCPUはOptane 900pで読み書きともに300 MB/s台の記録を叩き出していたのに、現在は50~60%程度の性能にまで落ち込んでいます。

Intel Optane 900pやSamsung 983 ZETのような超低レイテンシSSDを無駄なく活用するなら、今のところは第3世代Ryzenの方がはるかに優位としか言えないです。

やかもち
脆弱性に対応していながら、全盛期のインテルCPUに迫る性能が出せるって本当にスゴイ。

ゲーミング性能の違いを検証

ゲーミングで高いフレームレートを出すためには、グラフィックボードが一番重要。ですが、グラフィックボードが高性能であればあるほど、CPUに求められる性能も高くなります。

FF14:漆黒の追従者(CPUベンチマーク)

現時点で最強のグラボである「RTX 2080 Ti」を使って、FF14:漆黒の反逆者ベンチマークを実行してみると、同じグラボなのに実際の性能はかなり違っているのが分かります。

これが「CPUボトルネック」と呼ばれる現象です。では、Ryzen 9 3950XがRTX 2080 Tiの性能をどこまで引き出せるのかを検証していく。

Apex Legend

Apex LegendsApex Legends1920 x 1080 / 最高設定
  • Ryzen 9 3950X
    197.6 fps
  • Ryzen 9 3950X
    187.9 fps
  • Ryzen 9 3900X
    200.6 fps
  • Ryzen 9 3900X
    194.5 fps
  • Ryzen 7 3700X
    198.7 fps
  • Ryzen 7 3700X
    193.6 fps
  • Core i9 9900K
    190.6 fps
  • Core i9 9900K
    184.6 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

Apex LegendはもともとCPUボトルネックが出づらい傾向がありますが、今回の検証ではRyzen 9 3950XがCore i9 9900Kをわずかに上回る結果に。

CS : GO

CSGO(Counter Strike : Global Offensive)Counter Strike : Global Offensive1920 x 1080 / 最高設定
  • Ryzen 9 3950X
    260.7 fps
  • Ryzen 9 3950X
    233.3 fps
  • Ryzen 9 3900X
    263.4 fps
  • Ryzen 9 3900X
    236.0 fps
  • Ryzen 7 3700X
    266.0 fps
  • Ryzen 7 3700X
    237.5 fps
  • Core i9 9900K
    275.0 fps
  • Core i9 9900K
    252.2 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

そろそろレガシーなゲームに分類されそうなCS:GOでは、Core i9 9900Kが一段上のフレームレートを叩き出しました。実用上はどのCPUでも十分すぎるフレームレートなので、大した問題ではないですが。

Call of Duty : Black Ops IV

Call of Duty : Black Ops IVCall of Duty : Black Ops IV1920 x 1080 / 最高設定
  • Ryzen 9 3950X
    237.9 fps
  • Ryzen 9 3950X
    210.6 fps
  • Ryzen 9 3900X
    228.9 fps
  • Ryzen 9 3900X
    205.5 fps
  • Ryzen 7 3700X
    228.4 fps
  • Ryzen 7 3700X
    196.7 fps
  • Core i9 9900K
    246.0 fps
  • Core i9 9900K
    221.1 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

コールオブデューティーでは、Core i9 9900Kが頭一つ違う性能です。

Rainbow Six Siege

Rainbow Six SiegeRainbow Six Siege
1920 x 1080 / 最高設定
  • Ryzen 9 3950X
    264.6 fps
  • Ryzen 9 3950X
    224.1 fps
  • Ryzen 9 3900X
    265.6 fps
  • Ryzen 9 3900X
    223.4 fps
  • Ryzen 7 3700X
    263.2 fps
  • Ryzen 7 3700X
    222.3 fps
  • Core i9 9900K
    281.4 fps
  • Core i9 9900K
    237.7 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

レインボーシックスシージも同様にCore i9 9900Kがワンランク上の性能を記録しました。両者ともに平均240 fpsを超えているため、実用上はRyzen 9 3950Xでも問題はありません。

PUBG

PUBG(PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS)PUBG1920 x 1080 / ウルトラ設定
  • Ryzen 9 3950X
    210.5 fps
  • Ryzen 9 3950X
    160.6 fps
  • Ryzen 9 3900X
    217.7 fps
  • Ryzen 9 3900X
    188.6 fps
  • Ryzen 7 3700X
    210.2 fps
  • Ryzen 7 3700X
    170.2 fps
  • Core i9 9900K
    231.0 fps
  • Core i9 9900K
    208.1 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

PUBGも傾向はおおむね同じで、やはりCore i9 9900Kが優秀です。特に大きな違いはエイムをすばやく振った時のフレームレートの下落の勢いと、下落から回復する勢いにありました。

終盤に10回ほど180°エイムを左右に動かす動作を入れてあるのですが、Ryzen 9 3950Xは顕著にフレームレートが落ちやすいです。Core i9 9900Kは多少エイムを素早く振ったくらいでは、フレームレートは崩れません。

シングルスレッド性能の改善で平均フレームレートは従来のRyzenとは比較にならないほど向上しているものの、まだまだ最適化の余地はありそうです。

Assassin’s Creed Odyssey

アサシンクリードオデッセイAssassin’s Creed Odyssey1920 x 1080 / 最高設定
  • Ryzen 9 3950X
    81.6 fps
  • Ryzen 9 3950X
    63.7 fps
  • Ryzen 9 3900X
    82.0 fps
  • Ryzen 9 3900X
    68.3 fps
  • Ryzen 7 3700X
    80.9 fps
  • Ryzen 7 3700X
    67.9 fps
  • Core i9 9900K
    80.7 fps
  • Core i9 9900K
    61.3 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

超重量級ゲームの代表格「アサクリオデッセイ」では、Ryzen 9 3950XとCore i9 9900Kがほぼ同じフレームレートでした。

FF14

「FF14:漆黒の追従者」ベンチマークFF14 : 漆黒のヴィランズ
1920 x 1080 / 最高品質
  • Ryzen 9 3950X
    179.1 fps
  • Ryzen 9 3950X
    76.1 fps
  • Ryzen 9 3900X
    180.2 fps
  • Ryzen 9 3900X
    78.1 fps
  • Ryzen 7 3700X
    179.8 fps
  • Ryzen 7 3700X
    77.2 fps
  • Core i9 9900K
    190.6 fps
  • Core i9 9900K
    82.9 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

FF14(漆黒の反逆者)ベンチマークでは、Core i9 9900Kが他のRyzenを抑えてトップに。

Final Fantasy XV

Final Fantasy XV(Windows版):ベンチマークFINAL FANTASY XV : Benchmark
1920 x 1080 / 高品質
  • Ryzen 9 3950X
    131.7 fps
  • Ryzen 9 3950X
    95.8 fps
  • Ryzen 9 3900X
    132.8 fps
  • Ryzen 9 3900X
    95.9 fps
  • Ryzen 7 3700X
    130.4 fps
  • Ryzen 7 3700X
    95.8 fps
  • Core i9 9900K
    132.9 fps
  • Core i9 9900K
    97.4 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

FF15ベンチマークもFF14と同様、比較的インテルCPUに最適化されているゲームですが、Core i9 9900KとRyzen 9 3950Xに目立った性能差はありません。

Grand Theft Auto V

Grand Theft Auto VGrand Theft Auto V1920 x 1080 / 最高設定(MSAA x2)
  • Ryzen 9 3950X
    125.2 fps
  • Ryzen 9 3950X
    77.9 fps
  • Ryzen 9 3900X
    131.3 fps
  • Ryzen 9 3900X
    78.7 fps
  • Ryzen 7 3700X
    129.6 fps
  • Ryzen 7 3700X
    79.5 fps
  • Core i9 9900K
    136.5 fps
  • Core i9 9900K
    88.0 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

グランドセフトオート5(ベンチマークモード)は、Core i9 9900KがRyzen 9 3950Xを1割ほど上回る性能です。

Shadow of the Tomb Raider

Shadow of the Tomb RaiderShadow of the Tomb Raider
1920 x 1080 / 最高設定(SMAA / DX11)
  • Ryzen 9 3950X
    96.4 fps
  • Ryzen 9 3950X
    45.9 fps
  • Ryzen 9 3900X
    97.8 fps
  • Ryzen 9 3900X
    46.8 fps
  • Ryzen 7 3700X
    95.4 fps
  • Ryzen 7 3700X
    46.7 fps
  • Core i9 9900K
    111.8 fps
  • Core i9 9900K
    57.8 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

トゥームレイダーはCore i9 9900Kがぶっちぎりで最高のパフォーマンスを発揮。Ryzen 9 3950Xとの性能差は約16%にもなります。

モンスターハンターワールド

モンスターハンターワールドMonster Hunter World1920 x 1080 / 最高設定
  • Ryzen 9 3950X
    126.3 fps
  • Ryzen 9 3950X
    94.7 fps
  • Ryzen 9 3900X
    127.3 fps
  • Ryzen 9 3900X
    96.9 fps
  • Ryzen 7 3700X
    126.1 fps
  • Ryzen 7 3700X
    95.5 fps
  • Core i9 9900K
    128.7 fps
  • Core i9 9900K
    97.2 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

従来のRyzenでは、モンスターハンターワールドはロクに性能が出せないゲームのひとつでした。第3世代Ryzenでは見事に相性の悪さを克服しており、Core i9 9900Kとそれほど変わらない性能に進化しています。

黒い砂漠

黒い砂漠(リマスター品質)黒い砂漠
1920 x 1080 / リマスター品質
  • Ryzen 9 3950X
    104.8 fps
  • Ryzen 9 3950X
    72.5 fps
  • Ryzen 9 3900X
    99.5 fps
  • Ryzen 9 3900X
    62.7 fps
  • Ryzen 7 3700X
    101.8 fps
  • Ryzen 7 3700X
    58.8 fps
  • Core i9 9900K
    116.2 fps
  • Core i9 9900K
    70.8 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

黒い砂漠は未だにゲームエンジンがRyzenに最適化されていません。

シングルスレッド性能が改善したため、従来のRyzenよりはマシになっています。それでもCore i9 9900Kほどスムーズにフレームレートを伸ばしづらいし、フレームレートが落ちやすいです。

16コアあっても黒い砂漠をプレイ中のCPU使用率はせいぜい20%程度で、まったく使用率が伸びません。CPU使用率のやる気の無さに比例して、GPUの使用率も50%前後をうろうろとしてしまいます。

平均パフォーマンス

Ryzen 9 3950Xのゲーミング性能平均フレームレート
1920 x 1080 / RTX 2080 Tiに対して
  • Ryzen 9 3950X
    168.0 fps
  • Ryzen 9 3950X
    128.6 fps
  • Ryzen 9 3900X
    168.9 fps
  • Ryzen 9 3900X
    131.3 fps
  • Ryzen 7 3700X
    167.6 fps
  • Ryzen 7 3700X
    128.5 fps
  • Core i9 9900K
    176.7 fps
  • Core i9 9900K
    138.2 fps

平均フレームレート最低フレームレート(下位3%)

ここまでの検証結果を平均パフォーマンスとしてまとめました。

平均パフォーマンスではCore i9 9900Kと比較してたった5%の性能差です。ゲーム性能最強は確かにCore i9 9900Kですが、他のクリエイティブタスクにおける性能を考慮すれば、3950Xには補って余りある性能があります。

消費電力とオーバークロック

CPUの消費電力といえば、まず頭に浮かぶのは「TDP」です。しかし、TDPはあくまでも「これくらいの発熱量があるから、発熱量に対応したCPUクーラーを使ってね。」という意味合いの方が強く、イコール消費電力ではない※。

Ryzen 7 3700Xのテスト環境

よって本レビューでは電力ロガー機能のついた電源ユニットを使って、CPU本体の実際の消費電力を計測します。たとえば、電源ユニットから100 Wの電力が供給されていれば、CPUの消費電力は約100 Wと判断できます。

テスト環境
電源ユニット #1システム全体1200 W(80+ Platnium)使用モデル「Toughpower iRGB PLUS」
電源ユニット #2CPUのみ850 W(80+ Gold)使用モデル「Toughpower iRGB PLUS」

電源ユニットを2台使ってCPUとそれ以外のパーツで供給を完全に分割しているため、CPUに給電している電源ユニットの計測値を見れば、CPU本体の消費電力が明らかになる仕組みです。

※半導体の場合は、TDPと消費電力は一致しやすいので「だいたい同じ」と思っても構わない。ただし、最近はマザーボードによって消費電力が大きく変わることも少なくない。

ワットパフォーマンスは異次元の領域へ

Ryzen 9 3950Xの消費電力を比較

Handbrakeを2つ使って動画エンコード行い、CPU使用率が常に100%になるように負荷をかけて消費電力を計測し、データの平均値を求めます。

消費電力(+12Vレールの実測値)

  • Ryzen 9 3950X
    143.2 W
  • Ryzen 9 3900X
    153.9 W
  • Ryzen 7 3700X
    96.5 W
  • Core i9 9900K
    186.8 W

結果はきわめて奇妙です。

Ryzen 9 3950Xは決して手を抜いていないし、CPU使用率は100%に張り付いています。エンコード速度もRyzen 9 3950Xの方が明らかに速く、仕事量でRyzen 9 3900Xにまったく劣らないです。

にも関わらず、消費電力が少ないのは仕事量が多いはずのRyzen 9 3950Xでした。Ryzen 9 3950Xに使われているダイ(チップ)は、ごくわずかしか生産できない超選別品と言われていますが、結果をみる限りウソではなさそうですね。

Ryzen 9 3950Xは同じ性能を出すのに、より少ない消費電力で動作できてしまうほど高品質なチップです。2ヶ月も発売を延期してもなお、世界中で在庫不足なほど生産数が少ないのも理解できます。

なお、Core i9 9900Kの消費電力は約187 Wに。Ryzen 9 3950Xは2倍のコア数でエンコード速度もほぼ2倍近いのに、消費電力はCore i9 9900Kより約23%も少ないです。

インテルはそろそろ設計を抜本的に刷新しないと、今後のRyzenとマトモに戦えない状況になるかもしれません。同じ設計のままコア数を倍増し、クロック周波数を無茶に引き上げる今のやり方は、明らかに限界が来ています。

ワットパフォーマンス(動画エンコード時)

  • Ryzen 9 3950X
    0.99 fps
  • Ryzen 9 3900X
    0.78 fps
  • Ryzen 7 3700X
    0.81 fps
  • Core i9 9900K
    0.37 fps

並列エンコードの処理速度を消費電力で割り算して「1 Wあたりの処理速度」を求めます。同じ1 Wで、より多くの仕事ができるCPUほどワットパフォーマンスが高いです。

結果は言うまでもなく、Ryzen 9 3950Xがトップになります。Core i9 9900Kと比較すると、ワットパフォーマンスの差は約2.7倍で、比較するのがかわいそうなほど歴然とした性能差になってしまいました。

なお、本当はインテルの16~18コアと比較するべきですが、8コアの時点で180 Wオーバーですから16~18コアになったらどうなるかは自然と想像がつきます(※3950Xと同じ性能を出すためにオーバークロックまでしたら更に悲惨)

やかもち
Cinebenchで4000 cb超えのパフォーマンスがたったの140~150 Wで出てしまうなんて。もう異次元の領域ですよ。

とても16コアとは思えないCPU温度

Ryzen 9 3950XのCPU温度を比較

CPU温度(中央値)

  • Ryzen 9 3950X
    66.1 ℃
  • Ryzen 9 3900X
    74.8 ℃
  • Ryzen 7 3700X
    66.0 ℃
  • Core i9 9900K
    78.0 ℃

今回のテストでは、CPUクーラーは240 mmラジエーターを装備する「Corsair H100i Pro RGB」で固定しています。ファン回転数の制御はマザーボード側の自動設定まかせです(※Performance Modeを使用)

消費電力を計測する時と同様のテスト方法で、CPU温度を計測しました。グラフを見ての通り、Ryzen 9 3950Xは16コアとは思えないほど、CPU温度が大人しいです。

初心者もち
わかった。3950Xの方がCPUファンの回転数が多い説 !!
ファンの回転数を比較

当然そう考えてCPUファンの回転数も計測していますが、残念ながらRyzen 9 3900Xの方がCPUファンはうるさいほどよく回っています(ポンプの回転数は2000 rpm前後で固定仕様)。

念のため、国内有名レビュワーKTU氏によるデータも引用。280 mm簡易水冷ユニットで冷却したデータで、温度は最大64℃に抑えられているのが分かります。やはり3950Xは発熱が異様なほど大人しいです。

というわけで、240~280 mmの簡易水冷ユニットでおおむね65℃前後に抑えられるため、ハイエンド空冷クーラーでもRyzen 9 3950Xを問題なく運用できるといって良いでしょう。

Noctua / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ファン : 120 mm x2 / 全高 : 158 mm / 備考:価格の60%は冷却ファンで占めます
ASSASSIN III
DeepCool / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ファン : 140 mm x2 / 全高 : 165 mm / 対応TDP:280 W
Corsair / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ラジエーター : 240 mm / ファン : 120mm x2 / 備考:5年保証

AMDさんは「280 mm以上の簡易水冷ユニットを推奨する。」とか公式に宣言してますが、気にしなくてOKです。240 mmで普通に冷えましたし、240 mm程度の簡易水冷ユニットで冷えるならハイエンド空冷でも大丈夫です。

やかもち
超厳選された選別チップは消費電力も少ないし、消費電力の割に発熱も少なく済むことが分かりました。

オーバークロックの伸びしろは皆無

Ryzen 9 3950Xのオーバークロック時のCPU温度
クロックコア電圧最大温度平均温度エンコード速度CR20
AutoAuto76.3 ℃64.2 ℃142.7 fps9113 cb
3.90 GHz1.150 V67.5 ℃59.3 ℃148.3 fps9033 cb
4.00 GHz1.175 V70.3 ℃60.7 ℃151.2 fps9191 cb
4.10 GHz1.225 V76.0 ℃65.6 ℃155.7 fps9658 cb
4.20 GHz1.275 V82.8 ℃70.5 ℃157.5 fps9831 cb
4.25 GHz1.325 V89.8 ℃76.7 ℃158.8 fps9951 cb
4.28 GHz1.375 V98.8 ℃83.7 ℃157.1 fps10004 cb
4.30 GHz1.450 VBSOD

筆者の環境では、Ryzen 9 3950Xの手動オーバークロックは4.275 GHzが限界です。4.30 GHzになった途端にテストは通らなくなり、マザーボードで赤文字になる1.45 Vを掛けても全くダメでした。

電圧を下げつつ性能を維持させる「低電圧化(アンダークロックの一種)」は、依然として効果があります。4.0 GHz(1.175 V)では、マルチスレッド性能は定格を上回りつつ、CPU温度は6℃も下がります。

ただし、低電圧化はCPUをフルに使った時の性能は維持しやすいですが、シングルスレッド性能は低下しやすいです。シングルスレッド性能を無駄にしたくない場合は、Auto設定のまま運用をおすすめします。

Ryzen 9 3950Xのオーバークロック時の消費電力

オーバークロック時の消費電力

  • 3.90 GHz@1.15V
    136.9 W
  • 4.00 GHz@1.175V
    145.0 W
  • 4.10 GHz@1.225V
    164.0 W
  • 4.20 GHz@1.275V
    183.7 W
  • 4.25 GHz@1.325V
    206.5 W
  • 4.275 GHz@1.375V
    231.5 W

オーバークロック時の消費電力はこのとおり。消費電力が100 W増えても、性能はほんの8~9%しか変わらないため、Ryzen 9 3950Xをオーバークロックするメリットはほとんどないです。

あえてやってみる価値があるのは低電圧化のみ。ゲームの頻度が少なく、マルチスレッド性能を重視する使い方(動画エンコードなど)であれば、低電圧化のメリットは特に大きくなります。

やかもち
ゲームするなら自動OC任せ、エンコードやレンダリングなら「低電圧化」もアリ。

まとめ:16コアCPUとして最強の効率を実現

Ryzen 9 3950Xをレビュー(写真)

ここまでの検証をみる限り、Ryzen 9 3950Xは16コアCPUとして過去もっとも効率の良いCPUと断言できます。Ryzen 9 3950Xの効率の良さに真っ向から対抗できるCPUは不在の状況であり、唯一無二の強さを発揮しています。

「Ryzen 9 3950X」のデメリットと弱点

  • オーバークロックの伸びしろは皆無
  • PCIe Gen4を使うには高額な「X570」が必要
  • ゲーミング性能はCore i9 9900Kに届かない
  • 軽い動画エンコードで16コアを使い切れない
  • 単品での入手が極めて困難(2019/12時点)

原因は特定できていませんが、軽めの動画エンコードでCPU使用率が上がらないのはRyzen 9 3950Xの目立った弱点です。4K以上の高解像度なエンコードでは問題は緩和されますが、フルHDだと16コアを使い切れません。

使いきれずに持て余しているコアを利用するには、今のところは複数の動画エンコードを同時進行させる方法がもっとも効果的です。録画したテレビ番組などを大量にエンコードする用途なら、Ryzen 9 3950Xは魅力的です。

ゲーミング性能は12コアのRyzen 9 3900Xと比較して、目立った優位性を確認できませんでした。シングルスレッド性能はたしかに向上しているにも関わらず、実際のフレームレートは今ひとつ伸びが悪いです。

初代~2世代Ryzenとは次元の違うゲーミング性能なのは間違いありませんが、依然としてゲーミング最強CPUはCore i9 9900Kです。

そして最大の問題点は「単品の入手性」が悪いこと。実店舗では少しずつ在庫が入っているようですが、Amazonでいつでも定価で買える状況にならない限り、入手性が良いとは言えません。

「Ryzen 9 3950X」のメリットと強み

  • 16コアCPUとして最高の性能
  • 大幅に改善したゲーミング性能
  • 信じられないワットパフォーマンス
  • Adobeソフトもサクサク動く優れた汎用性
  • 意外と大人しいCPU温度
  • 超高速なストレージ性能
  • 定格でDDR4-3200メモリに対応
  • B450 / X470マザーボードでも使用可
  • 16コアCPUではトップ級のコストパフォーマンス

Ryzen 9 3950Xは、16コアCPUの中ではもっとも効率よく、性能も最高クラスに位置するCPUです。

残念ながらゲーミング性能はまだCore i9 9900Kに及ばないものの、ゲーム以外のクリエイティブなタスクにおける驚異的な処理性能の高さは、多少の弱点を十分に補ってしまうほどの魅力を持っています。

しかもクリエイティブタスクの処理性能には、以前のRyzenで見られた好き嫌いがほとんどないです。Photoshopは最速クラス、Officeソフトも最速、Davinci Resolveだって最速クラスの処理速度を見せつけます。

動画エンコードやレンダリング用途では、Core i9 9900Kではまったく太刀打ちできませんし、同じ16コアCPUのRyzen Threadripper 2950XやCore i9 9960Xですらも互角レベルに並ぶことはありません。

Ryzen 9 3950Xをレビュー評価まとめ

というわけで、筆者の個人的な評価は「Sランク(文句なし)」で決まり。10万円以下で最強クラスのクリエイティブ性能と、Core i9にあと一歩のゲーミング性能が手に入る「唯一の選択肢」です。

以上「Ryzen 9 3950Xをレビュー:メインストリーム向けで最強のCPUが君臨」でした。


Ryzen 9 3950Xを入手する

AMD / コア : 16 / スレッド : 32 / ソケット : Socket AM4 / チップセット : AMD 400~500 / 付属クーラー : なし

2019年12月時点では、通販でRyzen 9 3950X単体を入手するのはまだ難しい状況。Amazonではたまに半日くらい注文可能なときがありますが、見張っていないとポチるのは難しいです。

他の有力な入手方法は、サイコムで販売されている「Aqua-Master X570A」を使う方法があります。サイコムはカスタマイズから「パーツ:なし」を選択できるので、片っ端から「なし」を選んで価格を抑えられます。

Ryzen 9 3950Xを採用するBTOは?

FRONTIER / CPU : Ryzen 9 3950X / メモリ : DDR4-2666 16GB x2 / グラボ : RTX 2070 Super 8GB / SSD : 1 TB / 備考 : 280 mm水冷ユニット採用

BTO各社から、Ryzen 9 3950Xを搭載するBTOモデルが販売されています。その中でも特に良いのがフロンティアの「GBシリーズ」。標準スペックの時点で280 mm簡易水冷ユニットを搭載しているため、BTOの中では冷却トップクラスです。

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15 件のコメント

    • CPU紹介に掲載している日本円の価格はただの換算値ではなく、国内で入手できる販売価格を掲載しています。

      インテルはCascade Lakeより前のHEDT向けCPUについては正式に値下げのアナウンスをしていないのですが、国内と海外両方で販売価格が異様に安くなっているため、値下げがあったのは間違いないです(※インテル側がやったか、販売店側がやっているのかは分かりませんが)。

      • いや〜無知を晒してしまい恥ずかしい
        返信ありがとうございます、またひとつ勉強になりました

  • インテルのいよいよ追い詰められた感が半端なく感じられる性能と価格ですね……。
    自分は3900Xの方を使ってますが、そっちの方でも満足できる性能と価格、そして発熱具合だったのに、上位版でそれすらも越えてくるなんて。(いずれも悪化させることなく)
    ゲームプレイとUE4を弄る程度なら、と思って3900Xを選びましたが、ここに来て3950xが出るまで待っても良かったかもしれないと少しだけ思い始めてます……。
    ともあれ、検証お疲れ様でした!

  • 前からずっーーーーーーーと提案してるんですが
    対人ゲームは最高設定ではなく
    FHD最低設定でもベンチマークして頂けませんか?

    プロで2080ti 9900kのPCでプレイしてる人でも
    FPSを稼ぐために最高設定でやってる人なんて見たことないし

    FPS系対人ゲームやりこんだことない人なのかな?

    • 提案(文句)よりも先にこうやって個人で検証してくれる人に感謝するところから始めてみては?

    • 最高設定で平均200FPS越えてるのに最低設定でベンチマーク計測する必要性ってあるのかなぁ。

    • いらないよ FPS類は200以上出るのに何が不満なの?
      仮に300とか出てもそもそも表示できるモニタが無い

    • 低設定の検証もなしじゃないけど、現状3950xでそれをやる理由はない
      RX570とかGTX1650とかのロースペックのグラボとかだとやる意味があるかもしれない

    • 最高設定にしないとグラボの本来の性能を活かせないし
      今まで最高設定で検証してきたのに急に低設定にしたら以前の記事比較しずらくなるし
      「r6sを低設定でプレイしてみたら殆どすべてのグラボで240fpsを越えました」って言われても何の参考にもならない。ちもろぐさんの負担が増えるだけ
      あと、大人になってネット上で人のこと煽ったりする人は精神になんらかの疾患を抱えてる可能性があるから気を付けてね

  • クロック、電圧、ワット、温度の記事がとても参考になりました。
    結論に納得、大変ありがたいです。

  • すみません、ryzen3950xをOCさせようと、ryzen masterで設定したのですが、TDCがいつも100%を超えてしまいます。
    どうすれば良いのでしょうか?

  • 3950Xと3900Xでは、どちらの方がOSの起動速度が遅いのでしょうか?
    やはり多コア化した3950Xでしょうか?

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