Ryzen 9 3950Xを空冷CPUクーラーで冷やせるのか?【検証】

AMDは公式に、CPUクーラーが付属しない「Ryzen 9 3950X」には280 mm以上の簡易水冷ユニットを推奨しています。しかし本当に簡易水冷クーラーでなければ適切に冷却できないのでしょうか?

というわけで、実際に空冷CPUクーラーで3950Xを冷やせるのかを検証します。

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AMDは公式に水冷クーラーを推奨

AMDは公式に水冷クーラーを推奨

The Ryzen™ 9 3950X does not come bundled with a cooler. AMD recommends an all-in-one liquid cooler* with a 280mm radiator (or greater). The following coolers fit this criteria:

Thermal Cooling Solutions for AMD Ryzen™ 9 3950X Processors より引用

All in One Cooler(AIO)が、海外では簡易水冷ユニットを意味する言葉です。AMDの公式サイトによれば、280 mm(またはそれ以上)のラジエーターを備える簡易水冷ユニットを推奨しています。

推奨する具体的な製品名まで掲載されていますが、ザッとみた感じではとりあえず280 mm以上の簡易水冷ユニットをリストアップしているだけに過ぎず、簡易水冷ユニットの性能そのものはさほど気にしていないのが分かります。

Ryzen 9 3950Xを空冷クーラーで冷やせるか?

テスト環境を紹介

今回の検証で使用する空冷クーラーとしてサイズ社の「虎徹Mark II」を用意しました。

あまたある空冷CPUクーラーの中ではおそらくもっとも知名度が高いです。約3000~4000円のエントリークラスな価格ながら、定格クロックのCore i7(8コア)に対して十分な冷却性能を発揮する優れたコストパフォーマンスが魅力的。

対応TDPは公表されていないですが、Core i7に対する十分な冷却性能から推測するに(個人的には)150 W前後を見積もっています。

Ryzen 9 3950Xは公称値で105 WのTDPで、実際に使って計測された消費電力は約140~150 Wでした。140 W程度の熱源であれば、虎徹Mark IIクラスの空冷クーラーでも問題なく冷やせるはずです。

テスト環境と検証方法を紹介

テスト環境を紹介
テスト環境「ちもろぐ専用ベンチ機」
CPURyzen 9 3950X
CPUクーラー
  • 空冷:虎徹Mark II(120 mm)
  • 簡易水冷:Corsair H100i Pro RGB(240 mm)
マザーボードASRock X570 Taichi
メモリDDR4-3200 8GB x2使用メモリ「G.Skill FlareX C14」
グラフィックボードGTX 1650 4GB
SSDNVMe 250GB使用SSD「Samsung 970 EVO Plus」
電源ユニット #1システム全体1200 W(80+ Platnium)使用モデル「Toughpower iRGB PLUS」
電源ユニット #2CPUのみ850 W(80+ Gold)使用モデル「Toughpower iRGB PLUS」
OSWindows 10 Pro 64bit検証時のバージョンは「1903」

検証するテストスペックは以上のとおり。Ryzen 9 3950Xを「虎徹Mark II」で適切に冷却できるかどうかを検証します。比較用の簡易水冷ユニットは、240 mmラジエーターの「Corsair H100i Pro RGB」です。

虎徹Mark II
Scythe / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ファン : 120 mm / 全高 : 154 mm
Corsair / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ラジエーター : 240 mm / ファン : 120mm x2 / 備考:5年保証

検証方法はHandbrakeを同時に2つ使った並列エンコードです。約1 GBの動画ファイル(.mkv)を、標準プリセット「Fast 1080p」を使って同時に2つエンコードし、CPU使用率を常に100%に張り付かせます。

CPUクーラーのファン回転数は、マザーボード側の自動設定(Performance Modeを使用)におまかせです。CPUのクロックも原則的に「Auto」で実行し、変更した場合はグラフ中に設定を記載します。

CPU温度は問題なし

クロック別にCPU温度を計測

まずはCPU温度から。

結果を見て自分でも驚きました。Auto設定の場合、CPU温度は最大79.6℃です。Ryzen CPUは自動設定におまかせすると、温度に余裕があれば自動でオーバークロックをしてくれる親切な仕組みを採用しています。

そのため虎徹Mark IIのような安価な空冷クーラーを使っても、CPU温度が80℃前後でとどまるようにCPU側で自動調整されているのです。では、CPU温度とクロック周波数を計測します。

Ryzen 9 3950Xを空冷クーラーで冷却

Auto設定のまま、約20分に渡って並列エンコードをつづけた結果がこちらです。CPU温度が80℃を超える瞬間がありますが、すぐにクロック周波数をガツンと下げてCPU温度を80℃以内に抑制しています。

よって「Ryzen 9 3950Xを空冷クーラーで冷やせるか?」に対する答えは、間違いなく「はい。」で確定です。ドスパラが120 mmサイズの空冷クーラーを採用していて驚いた人も多いかもしれませんが、Ryzenのシステム的には問題ありません。

80℃を超えてしまえば、動作クロックを抑えて即座にCPU温度は調整されてしまいます。

簡易水冷ユニットと比較してみる

Ryzen 9 3950Xのテスト環境

空冷クーラーをRyzen 9 3950Xに使っても、CPU温度は問題ないと判明しました。

次に検証するのは「性能への影響」です。途中で少し解説した通り、Ryzen CPUは温度が80℃前後になると動作クロックを抑えて自動的にCPU温度を引き下げるシステム(XFR 2)を使用していると説明しました。

つまり、逆の見方をするなら「冷却性能が不足するとCPU性能が悪化する」可能性があると、かんたんに予想がつきますね。ではCorsair H100i Pro RGBを使用して、クロック周波数の違いから検証していきましょう。

クロック周波数はわずかに上昇

動画エンコード中の実効クロック周波数の違い

並列エンコードを実行中に、16コア中もっとも高いクロック周波数をグラフにまとめてみました。

予想したとおり、やはり簡易水冷ユニットでしっかりと冷やしたほうがクロック周波数は高くなっています。中央値で約25 MHz、最大値で約100 MHzの差です。

消費電力もわずかに上昇

動画エンコード中の消費電力の違い

クロック周波数がわずかに増加した分だけ、CPU本体の消費電力も増加します。中央値で約3 Wだけ消費電力が増加しました。

CPU温度の比較(水冷 vs 空冷)

3 W増えても240 mm簡易水冷ユニットの冷却性能は圧倒的です。CPU温度は10~11℃の差で、さすがに虎徹Mark IIとCorsair H100i Pro RGBでは勝負にならないですね。

ただし、動作音が圧倒的にうるさいのはH100i Proの方でした(※虎徹Mark IIのCPUファンは最大1200 rpmなので、全開で回っても非常に静かです)

動画エンコードの性能は水冷が有利

Handbrakeのログ画面

最後に、動画エンコードの処理速度を比較します。Handbrakeはエンコード終了後、ログに「平均処理速度(単位:平均フレームレート)」を記録してくれるので、2つのログを合算してエンコード性能を比較です。

設定最大温度エンコード速度CR20
虎徹Mark II(空冷)
Auto79.6 ℃141.67 fps9032 cb
3.9 GHz@1.125V76.6 ℃142.07 fps9188 cb
4.0 GHz@1.175V83.3 ℃143.60 fps9386 cb
H100i Pro RGB(簡易水冷)
Auto76.3 ℃142.78 fps9138 cb
3.9 GHz@1.125V67.5 ℃141.50 fps9183 cb
4.0 GHz@1.175V70.3 ℃144.13 fps9382 cb

結果、Auto設定時のエンコード性能とレンダリング性能は簡易水冷ユニットを使った場合の方が明らかに優秀です。エンコード時のクロック周波数は中央値で25 MHzの増加なので、クロックに比例して性能アップしています。

CPUのコア電圧とクロック周波数を固定(= 低電圧化)した場合の性能は、当たり前ですがはほぼ同じに。冷やした分だけ実効性能が変化しないかな、と淡い期待を抱いていましたが、やはりクロック通りの仕事です。

まとめると、AMDの自動オーバークロック機能は「冷やせば冷やすほど高性能」になります。冷却性能が足りていないなら温度が落ち着くまでクロックをうまい具合に抑えて、余裕があればわずかに性能が改善します。

やかもち
Ryzenの自動オーバークロックシステム(XFR 2)はとても優秀。

【追記】ハイエンド空冷を使った場合

ASSASSIN IIIでRyzen 9 3950Xを冷却してみた

記事を公開後、Twitterで「ハイエンド空冷は実際にどれくらい冷やせるのか?」とリプライを頂いたので、ASSASSIN III(140 mmデュアル大型空冷)を使ってRyzen 9 3950Xの挙動をチェックしました。

ASSASSIN IIIでRyzen 9 3950Xを冷却してみた(クロック周波数の変化)

動画エンコード中のクロック周波数は、中央値で4025 MHzでした。H100i Pro RGBを使った場合とほとんど変わりません。

ASSASSIN IIIでRyzen 9 3950Xを冷却してみた(消費電力の変化)

消費電力は瞬間的にASSASSIN IIIを使った場合のほうが高いですが、中央値では約146.6 Wでまったく同じです。クロック周波数がほぼ同じなので消費電力もほぼ同じ水準です。

ASSASSIN IIIでRyzen 9 3950Xを冷却してみた(CPU温度の変化)
CPUクーラー最大温度中央値エンコード速度CR20
ASSASSIN III80.3 ℃70.5 ℃142.52 fps9201 cb
H100i Pro RGB78.0 ℃66.0 ℃142.78 fps9138 cb
虎徹Mark II79.6 ℃77.1 ℃141.67 fps9032 cb

CPU温度と実効性能を表にまとめました。中央値で見ると、ASSASSIN III(ハイエンド空冷)とH100i Pro RGB(簡易水冷クーラー)の性能差は4.5℃でした。

動作クロックはどちらも4025 MHz前後に落ち着くため、動画エンコードの処理性能はほぼ同じです。Cinebench R20はテスト時間の短さが幸いして、ASSASSIN IIIの方が若干高めのスコアになります。

なお、動作音はH100i Pro RGBが50 dBAに迫るほどの爆音に対し、ASSASSIN IIIは44 dBA前後で割と普通です。H100i Pro RGBはたしかに冷えるけれど、爆音だからこその冷却性能だと思ってます。

まとめ:Ryzen 9 3950Xは空冷で冷やせます

Ryzen 9 3950Xは空冷で冷やせる

今回の検証であらためてRyzen CPUの自動オーバークロックの便利さが理解できました。

万が一にPC初心者さんが、安価なCPUクーラーをRyzen 9 3950Xに使ってしまっても、全く冷却できずにCPUをおしゃかにする心配はないです。80℃前後でCPU温度は自動的に抑制されます。

予算重視なら空冷クーラーで問題なし

Ryzen 9 3950Xを定格クロック(自動設定まかせ)で使う人、またはEco Mode(消費電力を105 W前後に制限するモード)を適用する前提の人は、空冷クーラーでまったく問題ありません。

ただし、空冷クーラーなら何でも良いのかと言うとそうではないです。今回検証した「虎徹Mark II」は意外とRyzen 9 3950Xを冷やせましたが、今より気温が5~10℃高い夏場を想定するならもう少し上位のクーラーをおすすめします。

Scythe / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ファン : 120 mm / 全高 : 154 mm / 備考:ファンクリップ2セット付属
Scythe / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ファン : 120 mm x2 / 全高 : 155 mm / 備考:奥行きが180 mmもある

互換性を重視して選ぶなら「無限五Rev.B」は特に優秀です。PCケースのスペースに余裕があるなら「忍者五」が1万円以下で最高クラスの冷却性能です。

やかもち
虎徹でも良いんですが、約10万円のCPUに対して数千円をケチる意味はほぼないです。

性能を引き出すならハイエンド空冷か簡易水冷

自動オーバークロックをとことん利用して性能を引き出したい人、または手動オーバークロックでマルチスレッド性能を底上げしたい人には、冷却性能の高いハイエンド空冷や大型簡易水冷ユニットを推奨します。

Corsair / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ラジエーター : 240 mm / ファン : 120mm x2 / 備考:5年保証
Corsair / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ラジエーター : 360 mm / ファン : 120mm x3 / 備考:5年保証

簡易水冷ユニットは、少なくとも「Corsair H100i Pro RGB」以上を選べば問題ないです。ラジエーターのサイズは240 mmですが、検証したデータを見ての通り冷却性能は間に合っています。

Noctua / ソケット:LGA 115X・2011・Socket AM4 / ファン : 140 mm x2 / 全高:165 mm / 備考:静音性は140サイズでトップ

240~280 mmの簡易水冷ユニットに匹敵するほどの冷却性能を持っているのが、ハイエンド空冷クーラーです。静音性と冷却性能のバランスは「NH-D15」がベスト。

DeepCool / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ファン : 140 mm x2 / 全高 : 165 mm / 対応TDP:280 W

NH-D15より音は大きくても構わないので、冷却性能がもっと欲しい人には「ASSASSIN III」がちょうどいいです。他には「CRYORIG R1 Ultimate V2」や「Silver Arrow IB-E Extreme」も選択肢です。

CRYORIG / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ファン : 140 mm x2 / 全高 : 168.3 mm / 対応TDP:250 W+
Thermalright / ソケット : LGA 115X・2011・Socket AM4 / ファン : 140 mm x2 / 全高 : 163 mm / 対応TDP:320 W / 備考:増設用ファンクリップが付属
やかもち
Ryzen 9 3950Xは性能の割に熱が出にくいのも、空冷で意外と冷やせる理由です。

以上「Ryzen 9 3950Xを空冷CPUクーラーで冷やせるのか?【検証】」について、解説と検証でした。AMDさんの言うとおりに簡易水冷を買おうか…迷っている人に参考になれば幸いです。


Ryzen 9 3950X本体のレビューと検証は↑こちらです。

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7 件のコメント

  • >ドスパラが120 mmサイズの空冷クーラーを採用していて驚いた人も多いかもしれませんが
    ドスパラさんはあの9900KSだろうが問答無用で静音パックまんぞくクーラーしか載せられない構成にするので今更というか……
    うちで買うならクーラーは自分で換えろってメッセージだと思ってます

    • PC工房も3950X機は120mmなので似たり寄ったり。ツクモは140mm水冷なので少しはまし、といった程度かな。

  • CPUは燃費もよくなり9900kとも互角ぐらいなのは分かりました
    一方でRX 5500XT があまりいい噂を聞きません。検証お願いします。

  • こんにちは、とても楽しく読ませていただきました。手持ちのクーラーが虎徹2ですのでとても参考になりました。もし3900x12コアだった場合を想像しようと思ったときに、80度リミットがかかって安全なのですね。その分は性能が引き出せない?かもしれませんが・・・3950xよりは良いかなと思っております。水冷は結構うるさいのですね、悩んでしまいます。

    3900xは虎徹2でも100%は性能引き出せないけれども、大丈夫だと思われますか?

  • これ空冷の検証ですが
    エアフローきちんとしたケース内なら温度計変わってきませんか?

    define r5で3950xでh100iv2からnh d15にしたら8度下がりましたよ

    ベンチ台で運用する一般人はほぼいないと思うので デキればエアフローきちんとしたケース内で図ってほしいです
    (装着は面倒ですけど、、)

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