国内の有名冷却ファンメーカー「サイズ」社より、「YASHICHI(弥七 / ヤシチ)」というPCパーツが登場。「弥七」はマザーボードのVRMフェーズを局所的に冷やすための「ファンアーム」です。オーバークロックの安定性の向上や、マザーボードの期待寿命を伸ばす上で重宝します。
VRMフェーズを冷却するメリットとは
VRMフェーズ回路は、マザーボードのCPUソケット周辺に配置されているICチップとコンデンサで構成される回路です。
コア数の多いCPUほど消費電力が高くなり、VRMフェーズ回路にかかる負担が大きくなる傾向があります。特に、2018年以降は多コア化が進んでいる傾向なので、負荷の大きいCPUが増えた。
VRMフェーズ回路にかかる負荷が多いとどうなるのか。単純に「発熱」が増加し、CPUの動作やオーバークロックの安定性に悪影響を与えることもありますが、それ以上にマザーボードの寿命が心配です。
VRMフェーズの「IC」は100℃近い高熱にさらされていもそれほど心配する必要はないですが、爆熱のICから発せられる放射熱が、周囲に設置されているコンデンサに悪影響を与えてしまいます。
コンデンサの寿命は温度が10℃上がると寿命が半分になり、逆に温度を10℃下げれば寿命が2倍になる※。よってVRMフェーズ回路を局所的に冷却することで、マザーボードの期待寿命を引き伸ばせる。というわけ。
※「アレニウスの法則」または「10℃2倍則(10℃半減則)」と呼ばれている法則があります。
簡易水冷ユニットの意外な盲点
空冷CPUクーラーを使っている場合、クーラーそのものが発するエアフローによって「VRMフェーズ回路がついでに冷却」される。だから空冷クーラーを使っている人はあまり心配ない。
一方の簡易水冷ユニットは、冷却ファンがラジエーター側に位置するためCPUソケットの周辺をまったく冷やしてくれません。VRMフェーズ回路に熱が充満して温度が上昇し続けてしまいます。
CPU本体はよく冷えているのに、オーバークロックが安定しにくい場合があったり、なぜか思ったとおりの処理性能が出ない現象が起きたりする。
ファンアーム「弥七」でVRMフェーズを冷却
ファンアームは「弥七」が登場する前から存在はするが、入手性がイマイチでした。しかし「弥七」は主要なPCショップで安価に入手できます(約1400円)。さっそく入手したので詳しくレビューしていく。
パッケージング & 付属品
パッケージには「ピンポイント冷却用ファンアーム」と銘打ってあった。
裏面は「弥七」の取り付け方法や、使用例についてまとめてあります。VRMフェーズ以外には、メモリやM.2 SSDの補助冷却にも使えるとのこと。確かにいろいろと使えそうです。
- ファン固定フレーム
- ネジ類
- ファンアーム本体
開封すると中身はとてもコンパクト。「弥七」に取り付ける92 mmの小型冷却ファンは別途用意する必要があるので注意してください。
マザーボード用のネジは2種類。ネジの目が粗い「インチネジ」と、ネジの目が細かい「ミリネジ」が用意されている。使っているマザーボードに合ったネジを使います。
「弥七」と92 mmファンを固定するために使うネジ。
ファン固定フレームも同じく、「弥七」と92 mmファンを引っ付けるために使います。
ファンアーム本体は柔軟な金属製で、かなり自由に変形する。長さは120 mmもあるので、マザーボード中央に設置すればM.2 SSDからVRMフェーズまで。大抵の部分に届きます。
なお、今回用意した92 mmファンは「GELID Silent 9」。
4 pinコネクタでPWM対応、回転数は900~2000 rpmです。エアフローが目的なので安価なファンで十分と考え、今回の検証に選んでみました。
「弥七」の取り付け方法を解説
まずは92 mmファンの端っこに「ファン固定フレーム」をセットします。
ファン固定フレームを固定用の長いネジで止めていく。
反対側からネジで挟むようにして固定する。このままだと緩いのでネジを回して92 mmファンをファン固定フレームに取り付け完了です。
これで92 mmファンとフレームの固定は終わったので、次はマザーボードとこの92 mmファンを取り付ける作業になります。
マザーボードの空いているネジ穴を探します。もし無い場合は都合を良いところを取ります。ファンアームの長さを考えると、マザーボード中央がちょうど良い場所です。
マザーボード用のネジはインチネジとミリネジの2種類あり、今回はミリネジが合うマザーボードだったのでミリネジを指で回して固定していきます。
ミリネジを取り付けたら、ミリネジのネジ穴にファンアームを取り付ける。
そして92 mmファンのフレーム部分にファンアームを挿し込んで、回してネジ穴に固定します。あとはファンアームを曲げて冷却したい部分にファンをセットするのみ。
今回はVRMフェーズめがけてファンアームを曲げて、VRMフェーズのスポットクーラーとして運用する。これでエアフローの少ない環境でもVRMフェーズを冷やせるようになりました。
VRMフェーズの冷却性能を検証
簡易水冷ユニットを用いた環境において、ファンアーム「弥七」を使って作ったスポットクーラーによってどれくらいVRMフェーズ回路を効果的に冷却できるのか。
サーモグラフィカメラを使ってVRMフェーズ回路のヒートシンク部分と、その周辺に位置するコンデンサを撮影して温度の差を検証します。
スポットクーラー無しの場合
「弥七」に取り付けたファンを停止した状態で、5.0 GHz(電圧は1.3 V)にオーバークロックしたCore i9 9900Kで約4分の動画エンコードを実行。非常に負荷がかかるので、VRMの発熱も激しくなる。
エンコード開始から約2分で、ヒートシンク部分の表面温度は50~55℃にまで上昇。触ってみると「熱っ…」となる程度にはヒートシンクが暖まっています。
そしてVRMフェーズのすぐ近くに設置されている固体コンデンサの温度は、熱いところで80℃を超える高熱になっていました。
「ASRock Z390 Extreme4」に使われている個体コンデンサはニチコン製の高品質105℃コンデンサ(Nichicon 12K Black Caps)で非常に頑丈とはいえ、温度は低いに越したことはない。
逆に言えば、品質の低い安価なマザーボード※においては更に寿命を縮める可能性があるということです。
※廉価帯でもしっかりした品質のマザーボードは割と存在するので、低価格なマザーボードがすべてダメと一括りにして言っているわけではない。
スポットクーラー有りの場合
「弥七」に取り付けたファンを100%設定(約2000 rpm)で回して冷却性能をチェック。負荷のかけ方はさきと同じく、5.0 GHzのCore i9 9900Kで動画エンコードを実行します。
エンコード開始から約2分ほどでヒートシンクの表面温度は40℃に到達。その後は安定して40℃前後の落ち着いた温度を持続しました。指で触っても「ぬるいカイロ」のような暖かさでした。
更に凄いのはコンデンサ部分の発熱です。ファン無しだと80℃を超える高熱状態だったのに、スポットクーラーで冷却することで50~55℃の発熱に抑えられていました。
最大で30℃近い温度差があるので、アレニウスの法則に従うならばファンが無い時と比較してコンデンサの寿命は8倍(2^3倍)に跳ね上がった計算になりますね。
CPU温度や性能への影響はあるか?
ファン有無 | 最大温度 | 平均温度 | 処理速度 |
---|---|---|---|
無し | 94℃ | 78.6℃ | 176.68 fps |
有り | 93℃ | 80.0℃ | 176.47 fps |
特に目立った影響はなかった。VRMフェーズ回路を冷やすとオーバークロックが安定しやすくなる場合があるが、Z390 Extreme4は元から安定しているので差は出にくいようです。
CPU温度もほぼ同じで、動画エンコードの処理速度もほとんど変化なしでした。性能上のメリットは少なく、あくまでもマザーボードの期待寿命を延ばす上で有効な対策になります。
まとめ:簡易水冷を使っているなら有用
CPUソケット周辺にエアフローがほとんど発生しない簡易水冷ユニットを使っているユーザーにとって、局所的にVRMフェーズ回路を冷却できる「弥七」は非常に有用なパーツです。
「弥七」の良いところ
- 価格が安い
- ファンアームがちょうど良い柔らかさ
- 取り付け方法がシンプルで簡単
- 長さ120 mmでフェーズ以外の部分も冷やせる
約1400円で十分に使えるファンアームが手に入る。コストパフォーマンスは優秀。
ファンアームは全長120 mmもあり、手で曲げやすくファンの自重に負けにくいちょうどよい硬さなので、VRMフェーズ回路だけでなくM.2 SSDなどの冷却にも使える高い汎用性も魅力的です。
スポットクーラー用のファンアームとして文句なしの出来栄えでした。簡易水冷ユニットを使っていてフェーズ周りを冷やしたいなら、ほぼこれで決まりかもしれない。
「弥七」の微妙なとこ
- Amazonで取扱無し
製品そのものに気になったデメリットは無い。あえて言うならAmazonで取り扱っていないことでしょうか。とはいえ大抵のPCショップ通販で入手できるので、入手性は問題ないと思います。
おすすめのスポットクーラー用の冷却ファン
口径が80~92 mmで厚みが27 mm以下のケースファンなら何でも良いですが、参考までにいくつか筆者のおすすめを以下にまとめておきます。
安価に行くならGELID製の静音ファンで問題ありません。スポットクーラーとして、ソケット周辺にエアフローを与えるだけなら十分な性能です。
とことんファンの性能(静音性や送風量)にこだわる人は、Noctua製の92 mmファンがおすすめ。価格は2000円を超えるが、92 mmファンとしてほぼ最高の製品です。
以上「サイズ「弥七」でVRMフェーズを冷却:マザーボードの寿命を延ばす」でした。
この手の製品は自作erにはとても助かるのに何故か扱いがすぐ終わってしまうんですよねえ・・・過去にはフリーダムやANTECから同等品が出てたのですが、気づいたらなくなってました。自分も2~3個押さえておこうっとw
記事お疲れ様です。ハイエンド帯かつ簡易水冷なら必須アイテムっぽいですね。
すっかり側面アクリルORガラスPCケース&簡易水冷がほとんどデフォルトになって
ケース内のエアフローが気になりますが
個人的にCPU周辺、グラボ、M.2周辺のエアフローに側面ファンが効果ありなのでは
と考えています。最近は側面ファン搭載可能なケースあまり見なくなりましたけど。
やかもちさんのご見解を伺いたく存じます。
側面ファンは強いですよね。側面が密閉されてる静音重視のPCケースよりグラボの温度は低い(少なくとも2~3℃くらい)ですし、M.2 SSDに直接エアフローを当てられるので発熱の激しいNVMe SSDも、比較的に安定した温度で運用できます。
グラボの冷却補助に使えませんかね
窒息ケースでエアフローが無いならあえて電源ファンを上向きにするか、スロットカバーにつける排気ファンを増設した方がよさそうな気がする。
今調べてみたら、アマゾンで
1スロット
20デシベル
28CFM
千円ほどの4月末に販売開始した製品があった、
販売発送共にアマゾンではなかったが、
本当にカタログ通りのスペックなら、
窒息ケース定番の排気ファンになりそう。
エアフローが良くない状態なら、一定の効果はあると思います。すでにエアフローが良好な場合はそこまで変わりません。
こんばんは。初めてのコメント失礼します。
私はドスパラでpcの購入を考えてるものですが、
グラボやcpuの交換を自分で行うことは可能なのでしょうか?
pc初心者なもので変なことを言っているかもしれませんが…
よろしくお願いいたします。(記事と関係なくてすみません)
できますよ。新しいCPUへ交換する場合は、搭載されているマザーボードがそのCPUに対応しているかどうかは要チェックです。
マザーの前にCPUが94℃なのを何とかしないと
WHEAる一歩手前じゃん
OCやりすぎかグリスや取り付け失敗か
でも気温30℃って凄いとこ住むとこんなもんなのかな
コア電圧は1.300 Vまで絞っていますが、それでもCore i9 9900Kの発熱が凄まじいです。これ以上温度を劇的に下げるには「殻割り + 液体金属化 + Copper IHS換装」をしないと厳しいですね。
気温が30℃なのは部屋の中にPCが複数台(多分1000Wくらい)あるせいです。
ハンダの殻割りは現実的でないから無しとして、とりあえずラジエータを取り外して
ホースが下からくる水平状態で手に持ったままデータ取ってみるのはどうかな?
人が違えば、さすが吉田さんは外れポンプで94℃!とか言われてる温度だし、
何か原因があるはず
あと、この94℃の苦しい状態でエアコンで室温下げながら、
室温とCPU温度のデータを取ってくれるなら、とても見てみたいです
9900K初めての夏だしね
左右が密閉状態のPCケースで、これ使ってサイドファンで冷却しても効果はありますか?
風を当てることでヒートシンクに溜まってる熱を吹き飛ばせるので、効果はありますよ。
M.2のSSDがマザボ付属のヒートシンク使ってもアイドル時で50度になってしまい、
これを冷やすのに使おうと思うのですが、
どれぐらい温度が下がるんでしょうか?
Samsung 970 EVO Plusの場合、ヒートシンクを付けてファンで風を当て続けると45℃くらいからなかなか上がらないです。
参考にこちらを「https://chimolog.co/bto-ssd-samsung-970-evo-plus/#i-9」
既に前面に3つ、背面に1つ14mmのケースファンがあるのですが
底面に1つ増やすのが良いのでしょうか
使用M.2はSamsung 970 EVO Plusです
底面にファンを付けることで目標のM.2 SSDにエアフローが当たるなら、付けるメリットは大きいです。ヒートシンク付けて風を当て続ければ、本当によく冷えます。
風を当てるのではなく、リアやトップの排気ファンを利用してVRMフェーズ周辺の熱い空気を外に排出するという方法では不十分なのでしょうか。
マザーボードに採用されているコンポーネントにも左右されますが、少なくとも今回の記事で検証に使っている「Z390 Extreme4」の場合は、そのくらいのエアフローでも問題ないです。Extreme4で採用されているコンデンサは「ニチコン製12Kコンデンサ」というモノで、105℃の環境で12000時間耐える高耐久な部品です。