超大容量「8 TB」モデルのNVMe SSDは国内にいくつかあり、その中でも今回レビューする「WD Black SN850X」はもっとも価格がお手頃で、搭載パーツも一番新しい世代です。
実際に1枚買ってみたので、同じく容量8 TBのライバルSSDと比較しながら詳しくレビューします。
(公開:2025/5/10 | 更新:2025/5/10)
WD Black SN850X 8TBのスペックと仕様
WD Black SN850X (WDS000T2X0E-EC) | ||||
---|---|---|---|---|
容量 | 1 TB (1000 GB) | 2 TB (2000 GB) | 4 TB (4000 GB) | 8 TB (8000 GB) |
インターフェイス | PCIe 4.0 x4 (NVMe 1.4) | |||
フォームファクタ | M.2 2280(片面実装) | M.2 2280(両面実装) | ||
コントローラ | 非公開 | |||
NAND | KIOXIA製 BiCS FLASH(3D TLC) | |||
DRAM | DDR4メモリ | |||
1024 MB | 2048 MB | |||
SLCキャッシュ | 対応(nCache 4.0技術) | |||
読込速度 シーケンシャル | 7300 MB/s | 7200 MB/s | ||
書込速度 シーケンシャル | 6300 MB/s | 6600 MB/s | ||
読込速度 4KBランダムアクセス | 800K IOPS | 1200K IOPS | ||
書込速度 4KBランダムアクセス | 1100K IOPS | 1200K IOPS | ||
消費電力(最大) | 非公開 | |||
消費電力(アイドル) | 非公開 | |||
TBW 書き込み耐性 | 600 TB | 1200 TB | 2400 TB | 4800 TB |
MTBF 平均故障間隔 | 180 万時間 | |||
保証 | 5年 | |||
MSRP | $ 80 | $ 154 | $ 310 | $ 850 |
参考価格 2025/5時点 | 12826 円 | 20503 円 | 41572 円 | 104903 円 |
GB単価 | 12.8 円 | 10.3 円 | 10.4 円 | 13.1 円 |
- メーカー仕様表はこちらから
「WD Black SN850X 8TB」は、SanDisk(旧Western Digital)が販売するハイエンドNVMe SSDです。
今どき珍しくないPCIe Gen4規格(最大7300 MB/s)対応のよくあるSSDですが、SN850Xはそこそこ手頃な価格で容量8 TB(8000 GB)モデルを揃えています。
10万円を軽く超えて13~19万円前後だった高い価格が8 TB版の大きな弱点だったものの、WD Black SN850Xなら定価10万円台です。
セール時にギリギリ10万円を割り込むシーンもあります。ゲーム機の増設ストレージや小型ゲーミングPC(SFF規格)など、「1枚で超大容量」に意味が出てくるユースケースで非常に便利です。
容量2 ~ 4 TBで十分な人にとってピンと来ないかもしれませんが、世の中には容量8 TB以上に魅力を感じるコアなユーザーも当然います。
もちろん筆者もその一人です。大量のベンチマーク用ゲームや生成AIモデルを一箇所にまとめて置きたいから、WD Black SN850X 8TBを買いました。
TBW(書き込み耐性)の比較
SSD | 500 GB | 1 TB | 8 TB |
---|---|---|---|
WD Black SN850X | – | 600 TBW | 4800 TBW |
Nextorage NE1N8TB (Nextorage 8TB:レビュー) | – | 1200 TBW | 10000 TBW |
書き込み保証値は容量1 TBあたり600 TBです。
一般的なTLC NAND採用SSDと同等の保証値で、中華ハイエンドのTLC NANDモデルや、Nextorage社のPhisonリファレンス品と比較するとやや見劣りします。
SSD | 500 GB | 1 TB | 2 TB |
---|---|---|---|
Samsung 990 PRO (990 PRO:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
MOVE SPEED Panther (MOVE SPEED Panther:レビュー) | – | 400 TBW | 800 TBW |
KIOXIA EXCERIA PRO (EXCERIA PRO:レビュー) | – | 400 TBW | 800 TBW |
WD Blue SN5000 (WD Blue SN5000:レビュー) | – | 600 TBW | 900 TBW |
KIOXIA EXCERIA PLUS G3 (KIOXIA EXCERIA G3 PLUS:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
CFD SFT6000e (CFD SFT6000e:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 990 PRO (990 PRO:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 980 PRO (980 PRO:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Solidigm P44 Pro (Solidigm P44 Pro:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
Crucial P5 Plus (Crucial P5 Plus:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Lexar NM790 (Lexar NM790:レビュー) | – | 1000 TBW | 1500 TBW |
HIKSEMI FUTURE SSD (HIKSEMI FUTURE SSD:レビュー) | – | 1800 TBW | 3600 TBW |
SK Hynix Gold P31 (SK Hynix Gold P31:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
WD_BLACK SN770 (WD_BLACK SN770:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
KIOXIA EXCERIA PLUS G2 (KIOXIA EXCERIA G2 PLUS:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
KIOXIA EXCERIA G2 (KIOXIA EXCERIA G2:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
WD Blue SN570 (WD Blue SN570 NVMe:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | – |
Crucial MX500 (Crucial MX500:レビュー) | 180 TBW | 360 TBW | 700 TBW |
FireCuda 530 (FireCuda 530:レビュー) | 640 TBW | 1275 TBW | 2550 TBW |
WD Black SN850 (SN850:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
といっても、今回レビューする容量8 TBモデルなら書き込み保証値はなんと4800 TBW(4.8 PBW)で途方もない数値です。
- 普通に使った場合:約263.0年
(1日あたり平均50 GBの書き込みを想定) - 毎日AAAゲームをDLする:約131.5年
(1日あたり平均100 GBの書き込みを想定) - 毎日一眼レフの写真を入れる:約52.6年
(1日あたり平均250 GBの書き込みを想定) - 毎日一眼レフの4K~8K素材を入れる:約13.2年
(1日あたり平均1000 GBの書き込みを想定)
ワークロード別の想定耐用年数をざっくり試算してみた。
PS5の増設ストレージやゲーミングPCのメインSSDなど。ごく普通の使い方なら約260年以上もかかる計算になり、5年間のメーカー保証をあっさり使い切ります。
仮に1日100 GB書き込んでも、TBWを使い切るのに約130年です。4K~8K RAW写真や動画素材を毎日のようにゴリゴリと書き込む用途ですら5年保証内に使い切れないです。
1日あたり1 TBを書き込むプロの映像作家や写真家にありうる過酷なワークロードですら、4800 TBWを使い切るのに約13年もかかる計算です。
一般的なPCゲーマーからプロシューマーまで、ほとんどの用途にとって十分な保証値です。
まだ不足を感じるようなら、Nextorage Gシリーズなど高耐久モデルを検討する余地がありますが、決して安くない価格差を正当化できるか疑問が残ります。
WD Black SN850X 8TBを開封レビュー
パッケージデザインと付属品

SanDisk直販サイトにて容量8 TBモデルを購入しました。約9.6万円です。

従来モデルのWD Blackシリーズと同様に、マットブラックな背景にブラッドオレンジ色をアクセントに使った、ゲーミング感あるパッケージデザインを踏襲します。
パッケージのどこにも国内代理店のシールが見当たらないですが、おそらくSanDisk直販サイトで買ったからです。

- SSD本体
- 説明書
プラスチック製の梱包材にSSD本体がすっぽり収まってます。梱包材の裏側に説明書が挟み込まれていました。
基板コンポーネント

マットブラック塗装のプリント基板の上から、コンポーネントを覆い隠すようにラベルシールが貼られています。
ラベルシールに、保証を受けるときに必要なシリアルナンバーが記載されています。よく見ると今もWestern Digitalロゴが描かれていて、SanDiskロゴにまだ移行し切れていない様子です。

反対側もコンポーネントがびっしり実装されています。

基板の表と裏の両方にコンポーネントが実装されている「両面実装」のNVMe SSDです。
挿し込み側に分厚い部品がないため物理的に干渉しづらいデザインですが、片面実装のSSDと比較すると、取り付けスペースが狭い用途と相性が悪いです。
ノートパソコンやミニPCに増設するときに、裏側のNANDメモリが干渉するリスクがあります。PS5の増設ストレージは問題なかったです。
過去の経験上、ノートパソコンやミニPCで両面実装の部品が干渉しやすいです。

たとえばミニPCの場合、マザーボード上に実装されたコンデンサが邪魔で、M.2固定ネジを締めきれない事例がありました。
基本的に片面実装の方が物理的な互換性に優れています。

製品ラベルシールを剥がして、WD Black SN850X 8TBに実装されているコンポーネントを目視で確認します。

- コントローラ:SanDisk(WD Black G2 Triton MP16+B2)
A101-000291-B2 CHINA 4524ZPFP1F5 - DRAM:Samsung DDR4-2666 2 GB
K4AAG165WA-BCTD - NAND:KIOXIA 162層 3D TLC NAND
SanDisk 007491 2T00 CHINA 4506DGKA50BJ
SanDisk刻印が入った謎のSSDコントローラと、これもまたSanDisk刻印が入った謎のNANDメモリを搭載します。
DRAMメモリは「SEC」刻印から始まるSamsung製DDR4-2666メモリです。

反対側にもNANDメモリが2枚並び、中央付近にPMIC(電源管理コントローラ)と超小型の個体コンデンサ群が密集して配置されています。

SSDコントローラは、Western Digitalが買収して傘下に収めているSanDiskが開発した「WD Black G2 Triton MP16+B2」を搭載。PCIe 4.0(Gen4)対応のDRAM接続型コントローラです。
巨大なパッケージ面積から予想されるとおり、未だに台湾TSMC 16 nmプロセスを使っています。
コントローラの中身はARM Cortexコアが最低でも3個(トリプルコア)とされていますが、Western Digitalが自社開発のコントローラについて情報を何も開示しないため、技術的な詳細はまったく不明なままです。

電源管理コントローラ(PMIC)は不明です。刻印「231054 K000VH 024038 520-105」とだけ記載があるのみ。

DRAMに、Samsung製DDR4-2666メモリを容量2 GB(2048 MB)搭載します。
大容量のメモリをDRAMキャッシュに使って、一貫した性能を維持しようとする狙いです。特に連続的な書き込みに対する性能の一貫性が向上する傾向が強いです。
ただし、DRAMキャッシュがあるからと言って、DRAMレスのSSDに対して有利になるかどうか。実際に検証してみるまで分からないです。


NANDメモリは「キオクシア製 162層 3D TLC NAND(BiCS 6)」を採用。刻印は「007491 2T00 CHINA 4506DGKA50BJ」です。

(反対側のNANDメモリも同じくBiCS 6)
キオクシア(旧東芝メモリ)が製造する、1世代前※²のNANDメモリです(※²:BiCS 7は破棄されています)。
初期ロットのSN850Xで採用されていた112層から約1.5倍の162層に増え、記憶密度が512 Gb → 1024 Gb(1 Tb)に倍増します。
160 ~ 180層世代のNANDメモリとして、もっとも密度の高いNANDメモリです。速度も改善され、最大1200 ~ 1600 MT/sから最大2400 MT/sに跳ね上がります。
しかし、SanDiskがコントローラの仕様を一切開示していないから、NANDメモリが本当に2400 MT/sで動作しているかどうかまでは不明です。

8 TB:1024 Gb x 16 x 4 = 65536 Gb(8192 GB)
NANDメモリの構成をチェックします。
WD Black SN850X(容量8 TB)では、記憶密度が1024 Gb(= 128 GB)のチップを16枚重ねたNANDメモリを、全部で4個実装して合計65536 Gb(= 8192 GB)の容量に仕上げます。
記憶密度が1 Tbもある162層NANDメモリにチェンジしたおかげで、チップ1枚で容量2 TBを実現可能に。

WD Black SN850X 8TBの性能をベンチマーク
テスト環境を紹介

テスト環境 「ちもろぐ専用:SSDベンチ機」 | ||
---|---|---|
![]() | Core i7 13700K16コア24スレッド(TDP:125 W) | |
![]() | 虎徹Mark III120 mmサイドフロー空冷 | |
![]() | BIOSTARZ790 Valkyrie | |
![]() | DDR5-6000 16GB x2G.Skill Trident Z5 Neo RGB | |
![]() | RTX 4060 Ti | |
![]() | WD Black SN850X 8TB | |
![]() | HIKSEMI FUTURE70-02TB 2TB | |
![]() | 850 WCorsair HX850i 2021 | |
![]() | Windows 11 Pro検証時のバージョンは「22H2」 | |
ドライバ | NVIDIA 536.40 WHQL | |
ディスプレイ | 3840 x 2160@160 Hz使用モデル「TCL 27R83U」 |
SSDベンチマークに使用する専用の機材です。
最大15.76 GB/sまで対応できるPCIe 5.0世代の「Intel Z790」マザーボードに、シングルスレッド性能が非常に速い「Core i7 13700K」を搭載。
Ryzen 9000シリーズなど最新プラットフォームと比較して、絶対的な性能ですでに型落ち気味ですが、SSDに対する遅延の少なさで依然として最高峰です。

原則として、CPUに直結したM.2スロットまたはPCIeスロットにテスト対象のSSDを接続します。チップセット経由だと応答速度が低下※してしまい、SSD本来の性能を検証できません。
ベンチ機に採用した「Z790 Valkyrie」は、PCIe 5.0対応のM.2スロットを1本、PCIeスロットを2本備えます。複数の爆速SSDをCPUに直結できる稀有なマザーボードです。
※チップセット経由による性能低下はAMDチップセットだと緩和されますが、CPU直結時と比較して性能が下がる傾向自体は同じです。
そのほか、「BitLocker」と呼ばれるWindows環境で使えるハードウェア暗号化機能も無効化済みです。BitLockerを有効化すると、SSDのランダムアクセス性能が最大50%も下がります。
正確なベンチマークを取るならBitLockerを必ず無効化しましょう。

SSDを熱から保護するサーマルスロットリングによって性能に悪影響が出ないように、以下のような手段でテスト対象のSSDを冷却しながらベンチマークを行います。
- M.2ヒートシンク「Thermalright HR-09」を装着
- 120 mmケースファンを至近距離に設置して冷却
SSDを徹底的に冷やして、サーマルスロットリングがテスト結果に影響を与えないように対策しています。
なお、10分間の温度テスト時のみM.2ヒートシンクとケースファンを取り除いて、温度の上昇を観察します。
SSDドライブ情報と利用できる容量

- インターフェース:NVM Express
- 対応転送モード:PCIe 4.0 x4
- 対応規格:NVM Express 2.0
- 対応機能:S.M.A.R.T. / TRIM / VolatileWriteCache
「WD Black SN850X 8TB」の初期ステータスをCrystal Disk Infoでチェック。「PCIe 4.0 x4」で接続されています。
対応規格は初期ロットがNVM Express 1.4だったはずですが、今回買った8 TB版だと最新のNVM Express 2.0に切り替わってました。
なお、NVMe 2.0に切り替わっても、一般用途だと目立った違いが無いです。SSDコントローラの仕様にわずかな変更が加えられた状況証拠が増えただけです。

フォーマット時の初期容量は「7.27 TB」でした。
実際に搭載されているNANDメモリ全体の約2.3%(8 TB = 192 GB)を予備領域に割り当てる一般的な対応です。
だから、ユーザー側が実際に使える容量が8192 → 8000 GBに目減りします。AAAゲームタイトルを丸2本くらいは保存できる容量が予備領域に使われています。
あくまでも一般的な対応ですが・・・約200 GBも持っていかれると少し悲しい気分です。

純正ソフト「WD Dashboard」

- SanDisk Dashboard(support-en.sandisk.com)
SanDisk公式サイトから無料でダウンロードできる、純正ユーティリティ「SanDisk Dashboard」に対応します。
SSDの基本ステータス(S.M.A.R.T.情報)を見たり、書き込みキャッシュを有効 / 無効化したり、健康状態のレポートを出力する機能もあります。
ただし、Samsung SSDのようにOP領域(オーバープロビジョニング容量)を任意で指定する設定は見当たりませんでした。

SSD本体の制御ソフトウェア(ファームウェア)の更新も可能です。
クローンソフト「Acronis True Image」

- Acronis True Image for Western Digital(support-en.sandisk.com)
WD Black SN850X 8TBを購入したユーザー限定で、SSDクローンソフト「Acronis True Image for WD」を5年間使えます。
ソースディスク(クローン元)と、ターゲットディスク(クローン先)を選んで、「ブータブルOSを含むクローンを作成」でSSDのクローンがあっさり完成です。
最後のオプション画面から、クローンしない領域(フォルダやファイル)を任意で選ぶ「除外設定」もできます。

Crystal Disk Mark 8
「Crystak Disk Mark 8」は、日本どころか世界で一番有名と言っても過言ではない、定番のSSDベンチマークソフトです。性能の変化をチェックするため、初期設定の「1 GiB」に加え、最大設定の「64 GiB」もテストします。
Crystal Disk Mark 8の結果※クリックで画像拡大します | |
---|---|
![]() | ![]() |
テストサイズ:1 GiB(MB/s) | テストサイズ:64 GiB(MB/s) |
![]() | ![]() |
テストサイズ:1 GiB(レイテンシ) | テストサイズ:64 GiB(レイテンシ) |
シーケンシャル読み込みが約7000 MB/sに迫り、シーケンシャル書き込みが約6700 MB/s前後です。
読み込み速度がメーカー公称値に少し届かないですが、Intel Coreプラットフォームの限界です。AMD Ryzenプラットフォームなら公称値に張り付きます。
テストサイズを64 GiBに変更して性能の変化をチェックすると、シーケンシャル性能とランダムアクセス性能(RND4K Q1T1)どちらも一貫した性能です。
DRAMキャッシュを搭載しているSSDで典型的な、とても安定したベンチマーク性能です。

体感性能や実用性能に影響が大きい、4KBランダムアクセスのレイテンシ(応答時間)の比較グラフです。
WD Black SN850X 8TBは43.73 μsほどで、最近レビューしたTLC NAND型SSDとして平凡な性能にとどまります。
最新モデルの「WD Black SN7100」は前人未到30 μs台の世界に到達しており、SSDコントローラとNANDメモリの世代差を見せつけています。

書き込みレイテンシも平凡です。上位勢はPhison系コントローラに独占されています。
ATTO Disk Benchmark

ATTO Disk Benchmarkは、テストファイルを小刻みに分割してSSDのスループット(シーケンシャル性能)を測定し、SSDがピーク性能を出しやすいファイルサイズを探るベンチマークソフトです。
ベンチマーク結果からSSDの評価が非常に分かりにくいので、表計算ソフトを使ってグラフ化して他のSSDと比較します。
小さいファイル領域から中程度のファイル領域(1 KB ~ 128 KB)で、もたもたとスピードが上がりづらく全体的に冴えない様子です。
書き込み性能も目立った強みがなく、小さいファイル領域で伸びが悪いです。細かいファイルが多いゲームフォルダの移動が苦手になりそうです。

WD Black SN850X 8TBを実運用で試す
FF14のロード時間を比較
FF14:暁月のフィナーレ(ベンチマークモード)で、ゲームロード時間を測定します。ベンチマーク終了後に、ログファイルからロード時間を読み取ります。

WD Black SN850X 8TBのロード時間は「6.20秒」でした。
同じ容量でライバルになりやすいNextorage NE1N 8TBより大幅に短いロード時間です。
FPSタイトルのロード時間を比較
PCMark 10 Professional Edition(有償版)で利用できる機能を使って、「Battlefield V」「Call of Duty Black Ops IV」「Overwatch 2」のロード時間を測定します。
なお、測定されたロード時間は各スコアから逆算された概算値(ざっくりとした予想値)です。実際のロードとは異なっているので注意してください。
Battlefield V、Call of Duty、Overwatch 2どれも平凡なロード時間です。
しかし、ライバル製品と比較するとWD Black SN850Xが大幅にロード時間を短縮できています。
DirectStorageのロード時間を比較

Windows 11はゲームのロード時間を大幅に短縮する「DirectStorage API」に対応しています。
SSDに保存されているゲームデータをメインメモリに送り込み、メインメモリからVRAMに流し込みます。入ってきたデータをGPUの凄まじい演算性能で展開(解凍)し、ゲームロード時間を短縮する技術です。
NVMe SSDからメインメモリにデータを転送する部分で、SSDのシーケンシャル性能が重視されます。SATA SSDよりNVMe SSD、同じNVMe SSDでもPCIe 4.0やPCIe 5.0の方が有利になる可能性が高いです。
CPUで展開する場合はCPUの演算性能がボトルネックになってしまい、SSDの性能差がそれほど確認できません。
GPU展開(RTX 4060 Tiで展開)では、シーケンシャル性能に比例した性能差がハッキリと出ます。
WD Black SN850X 8TBは0.24秒(17.64 GB/s)前後で、ほぼ同じシーケンシャル性能のライバル製品と並びます。
ファイルコピーにかかった時間
Windows標準のコピペ機能と目視によるストップウォッチでは正確性に欠けるので、ファイルコピーに便利なフリーソフト「DiskBench」を使って、ファイルコピーに掛かった時間を計測します。
- ゲームフォルダ(容量85.3 GB / 81424個)
- 写真ファイル(容量113 GB / 5012枚)
- 圧縮データ(容量256 GB / zipを2個)
以上3つの素材をファイルコピーテストに使います。ソース(基準となるストレージ)は安定した性能に定評がある「Optane SSD P5810X 400GB」です。
書き込み(Optane P5810X → WD Black SN850X 8TB)のコピペ時間です。
Zipファイル(256 GB)と写真フォルダで、WD Black SN850X 8TBが一貫してトップクラスに並びます。ゲームフォルダのみ若干遅いものの実用上は十分でしょう。
8 TB版もの大容量で非常に広いpSLCキャッシュを展開できるため、普通に使っていて遅くなるシーンが少ないです。

次は読み込み(WD Black SN850X 8TB → Optane P5810X)のコピペ時間です。
Zipファイルの読み出しが平均的、写真フォルダはトップクラス、ゲームフォルダの読み出しがやや振るわない傾向です。
小さなファイル領域がバラバラに含まれていると、少し遅くなる傾向が見られます。
比較グラフをよく見ると、シーケンシャル性能の割にコピー時間が遅いSSDがポツポツと見られます。
なぜシーケンシャル性能の割に遅いSSDが出てしまうのか。理由は単に「間髪入れずに次のコピーテストを実行」しているからです。
- Zip(256 GB)→ 写真(113 GB)→ ゲーム(85.3 GB)の順番
SSDは書き込み性能を稼ぐためにSLCキャッシュを使って耐える製品が多いですが、このSLCキャッシュの回復が遅いと・・・次のコピーテストに間に合わずTLC NAND本来の性能でテストが実行されます。
SLCキャッシュをスピーディーに再展開できるかかどうかも実力の内と(筆者は)考えているので、コピーテストは間髪入れず次から次へと実行します。
Premiere Pro CC:4K動画プレビュー
動画編集ソフト「Adobe Premiere Pro CC」に、4K動画素材(448 MB/s)と2K動画素材(175 MB/s)を読み込み、2つの動画を同時にプレビューします。
Premiere Proの動画素材プレビューは、素材を配置しているストレージの性能に影響を受けやすく、SSDの性能が不足すると「コマ落ち」が発生しやすいです。
Premiere Proの標準機能「コマ落ちインジケータ」で落としたフレームを測定し、動画素材の総フレーム数で割ってドロップフレーム率を計算します。

4K + 2K動画プレビューのドロップフレーム率は約17.5%です。
やはり、超大容量かつDRAMキャッシュが搭載されていると不利になる傾向が明らかです。トップ勢の多くをDRAMレスSSDが独占しています。

4K動画プレビューのドロップフレーム率は8.7%で完封にほど遠いです。
見事に完封(率0%)させたSSDの大多数をDRAMレス型が占めています。

ComfyUI:画像生成AIモデルの読み込み

画像生成AIの定番ソフト「ComfyUI」を使って、「.safetensors」形式モデルの読み込みにかかった時間を比較します。
テキストエンコーダーやVAEの読み込み時間は一切含まないです。有志制作のカスタムノード「ComfyUI-Dev-Utils」で、読み込み時間を記録して比較しました。

現時点でもっとも主流なAI生成モデル「SDXL 1.0(約6.46 GB)」の読み込み時間です。
VRAM容量に入り切るサイズだから、基本的にシーケンシャル性能に比例する処理ですが、実際のベンチマーク結果はどうも直感に反する不可解な内容です。

VRAMに入り切らない巨大生成モデル「HiDream(約31.8 GB)」の読み込み時間です。
VRAMから溢れたデータがメインメモリに移動し、それでも収まりきらず共有メモリにまで波及する複雑なI/O処理が連続的に発生します。
内部処理が複雑化すると、SSDのシーケンシャル性能から結果を予測するのが難しいです。全体を俯瞰して見る限り、シーケンシャル性能とランダム性能どちらも重要そうに見えます。

PCMark 10:SSDの実用性能

PCMark 10 Professional Editionの「Full System Drive Benchmark」を使って、SSDの実際の使用シーンにおける性能を測定します。
- PCMark 10(UL Benchmarks)
Full System Drive Benchmarkには23種類のテストパターン(Trace)が収録されており、パターンごとの転送速度や応答時間を測定し、SSDの実用性能をスコア化します。
なお、SSDは空き容量によって性能が大きく変化する可能性があるため、空き容量100%だけでなく容量を90%埋めた場合(= 空き容量10%)のテストも行いました(※2回:連続で約2時間のワークロード)。
WD Black SN850X 8TBのストレージスコア(空き容量10%時)は「3643点」です。空き容量100%なら3847点です。
空き容量による性能低下はわずか5%に抑えられます。
さすが8 TBもの大容量モデル。空き容量が10%でも絶対値にして約720 GBの余裕があり、当然ながら性能が下がりづらいです。

PCMark 10ストレージテストの細かい内訳を確認します。
Adobe評価のみ目立った下落があり、10%時スコアの悪化に貢献しています。
ゲームロード評価やファイルコピー評価はまったく微動だにせず、驚異的な安定性です。NAND型SSDにとって容量の多さは大きな強みです。
実用スコアの内訳 Full System Drive Benchmark | |
---|---|
Adobe Score | Adobe Acorbatの起動 Adobe After Effectsの起動 Adobe Illustratorの起動 Adobe Premiere Proの起動 Adobe Lightroomの起動 Adobe Photoshopの起動 Adobe After Effets Adobe Illustrator Adobe InDesign Adobe Photoshop(重たい設定) Adobe Photoshop(軽量設定) |
Game Score | Battlefield Vの起動(メインメニューまで) Call of Duty Black Ops 4の起動(メインメニューまで) Overwatchの起動(メインメニューまで) |
Copy Score | 合計20 GBのISOファイルをコピー(書き込み) ISOファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) ISOファイルをコピー(読み込み) 合計2.37 GBのJPEGファイルをコピー(書き込み) JPEGファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) JPEGファイルをコピー(読み込み) |
Office Score | Windows 10の起動 Microsoft Excel Microsoft PowerPoint |
15分間の連続書き込みテスト
1 MBのテストファイルを15分間に渡って、ただひたすら連続して書き込み続ける過酷な検証方法です。
一般向けに販売されているほとんどのSSDは、数分ほど連続して書き込むだけで「素の性能」を明らかにできます。SLCキャッシュの有無やサイズ、キャッシュが切れた後の性能低下などなど。
15分の連続書き込みテストによって、SSDのいろいろな挙動が判明します。
テスト開始から一瞬だけ4600 MB/s前後の猛スピードに達し、その後すぐにpSLCキャッシュとTLC NANDとの混合モードに移行して平均2800 MB/s程度を維持しつづけます。


キャッシュ構造 | 平均書込速度 (Average) |
---|---|
1段階 pSLCキャッシュ | 3871 MB/s |
2段階 pSLC + TLC | 1901 MB/s |
3段階 TLCネイティブ | 1224 MB/s |
ブロックファイルを約7200 GB書き込んで、キャッシュ構造をさらに深堀りします。
pSLCキャッシュによる平均4000 MB/s近い爆速モードから始まり、約1.9 TB書き込んだあたりで混合モード(pSLC + TLC)に移行します。
混合モードはすぐに枯渇してTLCネイティブモードへ移行するものの、定期的に混合モードの復活を繰り返し、平均1200 MB/s前後でテストを終えました。

(空き容量:5%時)
一度に展開できるpSLCキャッシュは軽く1000 GB以上です。
空き容量を5%まで減らしても、約120 GB程度のpSLCキャッシュをスピーディーに展開でき、書き込みを終えたあとの再展開もスピーディーです。
SN850Xに搭載されている「nCache 4.0」技術は、静的キャッシュと動的キャッシュを組み合わせたハイブリッド構造により、少なくとも静的キャッシュ分はほぼ即時に復活します。
空き容量の3分の1まで拡張できる動的キャッシュの方は復活する条件が少し不明瞭ですが、TRIM/GCコマンドを投げると数秒で3分の1程度まで復活します。


時間あたりの書き込み量を比較したグラフです。
WD Black SN850X 8TBは15分で約2480 GBを書き込みます。速いように見えて、容量が半分(4 TB)の中華SSDと同じくらいで意外と普通・・・。
SSDの動作温度をテスト
高負荷時のセンサー温度

- ドライブ温度:NANDメモリの温度
- ドライブ温度2:SSDコントローラの温度
- ドライブ温度3:NANDメモリの温度
- ドライブ温度4:NANDメモリの温度
モニターソフト「HWiNFO」で表示できる温度センサーは過去最多クラスの4つです。

ケースファンによるエアフローを一切与えない環境で、SSDが激しく発熱しやすい「連続書き込みテスト」を10分間実行しました。

(110℃がトリガーでした)
テスト開始から急速に温度が上昇し続け、センサー読みで110℃に達したあたりでサーマルスロットリングが発動します。
性能を激しく上げ下げする微振動のような挙動で、SSDコントローラの温度を抑えようとする挙動です。
サーモグラフィーで表面温度を確認

テスト開始から約8~9分経過したあたりで、サーモグラフィーカメラを使ってSSDの表面温度を撮影します。
- NANDメモリ(左):81 ~ 82℃
- NANDメモリ(中央):90 ~ 91℃
- SSDコントローラ(右):102 ~ 104℃
SSDコントローラの表面温度は、HWiNFOが表示するセンサー読みから4~6℃ほどズレてます。実際の温度よりも高い温度を表示するセンサー仕様です。
個人的に低くズレているとサーマルスロットリングの判定が甘くなりそうで怖いですが、WD Black SN850X 8TBは高めにズレているから特に問題ないでしょう。
センサー読みで110℃に達しても、本体は104℃程度です。サーマルスロットリングも適切に発動するから過度な心配は不要です。
ただし、サーマルスロットリングが発動すると性能が下がってしまいます。パフォーマンスを安定させる目的なら、別売りのM.2ヒートシンクを導入する価値あり。
または、SSDに直接ケースファンで風を当てるか、マザーボード付属のM.2ヒートシンクを取り付けても効果抜群です。

【おまけ】SN850X(8TB)の消費電力

項目 | アイドル時 | 書き込み | 読み込み |
---|---|---|---|
消費電力 中央値 | 1.16 W | 5.97 W | 4.27 W |
性能 平均レート | – | 3767 MB/s | 3912 MB/s |
電力効率 1ワットあたり性能 | – | 631 MBs/W | 917 MBs/W |
WD Black SN850X 8TBの消費電力が、書き込み時に平均5.97 Wで、読み込み時は平均4.27 Wでした。
消費電力1ワットあたりの平均転送レートを求めると、それぞれのワットパフォーマンスが600 ~ 900 MB/s(1 Wあたり)前後と計算できます。
先日レビューしたWD Black SN7100がそれぞれ1300 ~ 1500 MB/s(1 Wあたり)だったため、ベストケースで約2倍以上の効率差です。
基本的に、旧世代(TSMC 16 nm製)のSSDコントローラはワットパフォーマンスで目劣ります。
まとめ:超大容量「8 TB」モデルで一番コスパがいい

(容量8 TBなら強くおすすめ)
「WD Black SN850X 8TB」のデメリットと弱点
- 高負荷時の温度が高い
- サーマルスロットリングしやすい
- 両面実装なので干渉に注意
「WD Black SN850X 8TB」のメリットと強み
- 最大7000 MB/s超のシーケンシャル性能
- DRAMキャッシュ搭載
- そこそこ速いランダムアクセス速度
- ゲームロード時間が速い
- 超広大なpSLCキャッシュ(1000 GB超)
- 空き容量による性能変化が少ない
- 書き込みに強いキャッシュ構造
- 十分すぎる耐久性(4800 TBW)
- SanDisk純正ソフトウェアに対応
- ファームウェア更新に対応
- 「Acronis True Image (5年)」
- 5年保証
- コストパフォーマンスが高い
正直なところ、「買ってよかった」といえるハイレベルな超大容量NVMe SSDです。
以前レビューしたライバル製品「Nexotrage 8TB」と比較すると、読み込みワークロードがずっと高速ですし、キャッシュ枯渇後の書き込み性能は約2倍に達します。
展開できるpSLCキャッシュも極めて広大(軽く1000 GB超)で、普通に使っていればめったに枯渇しません。仮に切れてしまっても約100 GBもの静的キャッシュで素早くカバー可能です。
書き込み耐性がおよそ半分(10000 → 4800 TBW)に減っているものの、ほとんどの人にとって4800 TBWは十分すぎる保証値です。
実用上、TBWの半減はそれほど大きな欠点にならず、WD Black SN850Xを選んで得られる汎用性の高い優れた性能の方が重要でしょう。
加えて、SanDisk(Western Digital)純正モデルならではの充実したソフトウェアサポートも付属します。
「SanDisk Dashboard」でファームウェアの更新が可能ですし、「Acronis True Image for WD(5年間)」でSSDのバックアップやクローンもできます。

たった1枚で容量8 TBが欲しいコアなユーザーに、WD Black SN850Xを強くおすすめできます。
以上「WD Black SN850X 8TBレビュー:現時点で最高の8TB SSD【耐久性を除く】」でした。

「WD Black SN850X 8TB」を入手する
レビュー時点の価格は約10.3~10.4万円(8 TB)です。

楽天市場(楽天ビック店)なら、たまに実質8万円台で買えます。
おすすめなSSDを解説
NVMe SSDのおすすめレビュー記事
拡張用としては容量単価重視ですが
実質8万円台なら単価は4TBモデルとほぼ同じですね
これなら買う価値ありです
というか最近SSDどんどん上がってるな…