Amazonで毎月1000枚以上も売れている、謎の売れ筋NVMe SSD「HP FX700」の容量2 TB版を買ってみた。
最大7200 MB/sに対応くらいしか記載がなく、SSDコントローラやNANDメモリの種類は不明。「HP」ブランドの割になんだか胡散臭い売り方ですが、実際に使ってみないと良いか悪いか分からないです。
他のSSDも含めながら詳しく比較レビューします。
(公開:2025/1/4 | 更新:2025/1/4)
HP FX700 SSDのスペックと仕様
HP FX700 SSD (8U2N0AA #UUF) | |||
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容量 | 1 TB (1024 GB) | 2 TB (2048 GB) | 4 TB (4096 GB) |
インターフェイス | PCIe 4.0 x4 (NVMe 2.0) | ||
フォームファクタ | M.2 2280(片面実装) | ||
コントローラ | 非公開 | ||
NAND | 非公開 | ||
DRAM | なし | ||
HMB(DRAMレス)方式 | |||
SLCキャッシュ | 非公開 | ||
読込速度 シーケンシャル | 7200 MB/s | ||
書込速度 シーケンシャル | 6200 MB/s | ||
読込速度 4KBランダムアクセス | 1040K IOPS | 1050K IOPS | 1000K IOPS |
書込速度 4KBランダムアクセス | 809K IOPS | 721K IOPS | 820K IOPS |
消費電力(最大) | 3.37 W | 3.66 W | 4.35 W |
消費電力(アイドル) | 39 mW | 40 mW | 41 mW |
TBW 書き込み耐性 | 400 TB | 800 TB | 1600 TB |
MTBF 平均故障間隔 | 200 万時間 | ||
保証 | 5年 | ||
MSRP | $ 68 | $ 99 | $ 199 |
参考価格 2024/9時点 | 11033 円 | 16983 円 | 33983 円 |
GB単価 | 10.8 円 | 8.3 円 | 8.3 円 |
- メーカー仕様表はこちらから
「HP FX700」は一見すると、米国ヒューレット・パッカード社が販売しているSSDに見えますが、データシートを詳しく調べると実質中華SSDです。
中国深セン市に本社を置く「Biwin Storage Technology(深圳佰维存储科技股份有限公司)」社が、HPからライセンスを借り受けてHPブランドの名前でSSDを販売しています。
とはいえ、データシートに記載の項目はかなり数字が細かく、ノーブランドの中華SSDで省略されがちなIOPSや消費電力まできっちり記載している点は好印象です。
・・・そこまで記載するなら、搭載しているコンポーネント(SSDコントローラやNANDメモリ)も開示してほしかったですが、あえて記載しなかったのは販売上不利になる内容だと推測できます。
TBW(書き込み耐性)の比較
SSD | 500 GB | 1 TB | 2 TB |
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HP FX700 | – | 400 TBW | 800 TBW |
Samsung 990 EVO Plus (990 EVO Plus:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
HIKSEMI FUTURE SSD (HIKSEMI FUTURE SSD:レビュー) | – | 1800 TBW | 3600 TBW |
KIOXIA EXCERIA PRO (EXCERIA PRO:レビュー) | – | 400 TBW | 800 TBW |
書き込み保証値は容量1 TBあたり400 TBです。
一般的なTLC NAND採用SSDより3割くらい少ない保証値で、QLC NANDの可能性が浮かび上がりますが、TLC NAND製品のEXCERIA PROとまったく同じ数値だったりします。
TLC NANDを使っていても1 TBあたり200 TBしかないCrucial P3 Plusのような例もありますし、TBWでNANDメモリを推測するのは難しい情勢です。
SSD | 500 GB | 1 TB | 2 TB |
---|---|---|---|
Samsung 990 PRO (990 PRO:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
MOVE SPEED Panther (MOVE SPEED Panther:レビュー) | – | 400 TBW | 800 TBW |
KIOXIA EXCERIA PRO (EXCERIA PRO:レビュー) | – | 400 TBW | 800 TBW |
WD Blue SN5000 (WD Blue SN5000:レビュー) | – | 600 TBW | 900 TBW |
KIOXIA EXCERIA PLUS G3 (KIOXIA EXCERIA G3 PLUS:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
CFD SFT6000e (CFD SFT6000e:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 990 PRO (990 PRO:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 980 PRO (980 PRO:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Solidigm P44 Pro (Solidigm P44 Pro:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
Crucial P5 Plus (Crucial P5 Plus:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Lexar NM790 (Lexar NM790:レビュー) | – | 1000 TBW | 1500 TBW |
HIKSEMI FUTURE SSD (HIKSEMI FUTURE SSD:レビュー) | – | 1800 TBW | 3600 TBW |
SK Hynix Gold P31 (SK Hynix Gold P31:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
WD_BLACK SN770 (WD_BLACK SN770:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
KIOXIA EXCERIA PLUS G2 (KIOXIA EXCERIA G2 PLUS:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
KIOXIA EXCERIA G2 (KIOXIA EXCERIA G2:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
WD Blue SN570 (WD Blue SN570 NVMe:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | – |
Crucial MX500 (Crucial MX500:レビュー) | 180 TBW | 360 TBW | 700 TBW |
FireCuda 530 (FireCuda 530:レビュー) | 640 TBW | 1275 TBW | 2550 TBW |
WD Black SN850 (SN850:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
なお、容量あたり400 TBの書き込み保証値は実用上まったく不便しないです。
- 普通に使った場合:約21.9年
(1日あたり平均50 GBの書き込みを想定) - 毎日AAAゲームをDLする:約11.0年
(1日あたり平均100 GBの書き込みを想定) - 毎日一眼レフの写真を入れる:約4.4年
(1日あたり平均250 GBの書き込みを想定) - 毎日一眼レフの4K~8K素材を入れる:約1.1年
(1日あたり平均1000 GBの書き込みを想定)
ワークロード別の想定耐用年数をざっくり試算してみた。
PS5の増設ストレージやゲーミングPCのメインSSDなど。ごく普通の使い方なら約20年以上もかかる計算になり、5年間のメーカー保証が先に切れるでしょう。
仮に1日100 GB書き込んでも、TBWを使い切るのに約11年です。4K~8K RAW写真や動画素材を毎日のようにゴリゴリと書き込む用途だと5年保証内に切れます。
一般的なPCゲーマーにとって十分すぎる保証値です。
写真や動画で業務に使うなら4倍のTBWがある容量4 TBモデルや、Nextorage Gシリーズなど高耐久モデルを検討してください。
HP FX700 SSDを開封レビュー
パッケージデザインと付属品
Amazonのタイムセールで容量2 TBモデル(8U2N5AA#UUF)を購入しました。
真っ白な背景に、HP FX700本体のCGレンダリング画像を配置しただけのシンプルなパッケージデザインです。
左上にヒューレット・パッカードのロゴマークを飾って、怪しい中華製品の雰囲気を見事に消しています。
- SSD本体
- M.2用小ネジ
- 説明書
プラスチック製の硬い容器に梱包されたSSD本体と説明書が付属します。
M.2スロットに固定できる小ネジが1本付属していて親切です。
説明書の裏面に、HPブランドSSDの保証サービスを提供している、株式会社プリンストンの連絡先が記載されています。
- 電話:03-3665-6633
- メール:hp.ssd.support@princeton.co.jp
万が一、5年保証を使う必要が出てしまったときは、購入元か上記サポート連絡先から問い合わせます。
基板コンポーネント
マットブラックに塗装された基板に、「HP」ロゴを配置したシンプルなラベルシールが貼ってあります。
SSD裏面のラベルシールに、保証に必要なシリアルナンバーや各国の規制認証ロゴマークがズラッと記載されています。
基板の表面だけにコンポーネントが実装されているシンプルな「片面実装」のNVMe SSDです。
取付スペースが狭いノートパソコンや、PS5の増設ストレージに使いやすいです。
製品ラベルシールを剥がして、HP FX700に実装されているコンポーネントを目視で確認します。
- コントローラ:Maxio MAP1602A
MAP1602A-F3C U AAM3B852312 2341 - DRAM:なし
なし - NAND:YMTC 232層 3D QLC NAND
BWN0ATF1B1JCAD 240114286
SSDコントローラに「Maxio MAP1602A」、NANDメモリにYMTC製「232層 3D QLC NAND(Xtacking 3.0)」を搭載します。
SSDコントローラは中華ハイエンドSSDシリーズで非常に採用例が多い、MaxioTech製「MAP1602A」を搭載。
SRAM内蔵型の高性能コントローラで、優れたスループットと応答速度、かつ省電力性も兼ね備える現行トップクラスの性能特性を誇るDRAMレスコントローラです。
中身的には台湾TSMC 12 nm製ARM Cortex-R5をベースにしたシングルコアSoCで、最大4チャネルのNANDメモリを束ねられ、各チャネルごとに最大2400 MT/sもの極めて高いスループットで接続できます。
電源管理コントローラ(PMIC)は、Silergy製「SY8089A1(ZBFUA)」と「FAEGAK」を採用。
DRAMは搭載しません。
メインメモリのごく一部をDRAMキャッシュの代わりに使う「HMB(ホストメモリバッファ)」方式のSSDです。
DRAMが無いと書き込み性能が不利になる傾向がある一方、読み込みワークロードで有利になる傾向もあり、一概にDRAMが無いから悪いとも言い切れないので注意。
NANDメモリは「YMTC製 232層 3D QLC NAND(X3-6070)」を採用。刻印は「BWN0AQF1B1HCAD」です。
以前レビューした「MOVE SPEED Panther」や「Hanye HE80」と同じく、刻印がBWNから始まるYMTC系NANDメモリでした。
2つのウェハを重ね合わせて多層化を可能にする「Xtacking 3.0」技術で製造され、200層超えのNANDメモリで最高の記録密度(19.80 Gbit/mm²)を実現します。
インターフェイス速度は最大2400 MT/sに対応し、Samsung 236層 NAND(V8)に匹敵する最速クラスのNANDメモリ※です。
※PCIe Gen4世代で最速クラス。
過去にレビューしてきた中華ハイエンドシリーズの刻印から推測するに、BWNが「Biwin Storage Technology社」を、「0AQF」がNANDメモリの種類を意味しています。
HP FX700に記載がある「0AQF」だと、QLC Flashを意味する型番です。仮にTLC版なら、TLC Flashを意味する「0ATF」と記載されるはずです。
2 TB:1024 Gb x 4 x 4 = 16384 Gb(2048 GB)
HP FX700(2 TB)では、記憶密度が1024 Gb(= 128 GB)のチップを4枚重ねたNANDメモリを、全部で4個実装して合計16384 Gb(= 2048 GB)の容量に。
8枚重ね版も確認されているので、HP FX700では製造コストを抑えるために4枚重ね版をあえて使った可能性が考えられます。
HP FX700 SSDの性能をベンチマーク
テスト環境を紹介
テスト環境 「ちもろぐ専用:SSDベンチ機」 | ||
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CPU | Core i7 13700K16コア24スレッド(TDP:125 W) | |
CPUクーラー | 虎徹Mark III120 mmサイドフロー空冷 | |
マザーボード | BIOSTARZ790 Valkyrie | |
メモリ | DDR5-6000 16GB x2G.Skill Trident Z5 Neo RGB | |
グラフィックボード | RTX 4060 Ti | |
テスト対象 | HP FX700 2TB8U2N5AA#UUF | |
システムSSD | HIKSEMI FUTURE70-02TB 2TB | |
電源ユニット | 850 WCorsair HX850i 2021 | |
OS | Windows 11 Pro検証時のバージョンは「22H2」 | |
ドライバ | NVIDIA 536.40 WHQL | |
ディスプレイ | 3840 x 2160@160 Hz使用モデル「Innocn 27M2V」 |
SSDベンチマークに使用する専用の機材です。
最大15.76 GB/sまで対応できるPCIe 5.0世代の「Intel Z790」マザーボードに、シングルスレッド性能が非常に速い「Core i7 13700K」を搭載。
Ryzen 9 5950X超えのマルチスレッド性能と、現行最強クラスのシングルスレッド性能で、最大14000 MB/s超えの次世代Gen 5 SSDも難なく処理できます。
原則として、CPUに直結したM.2スロットまたはPCIeスロットにテスト対象のSSDを接続します。チップセット経由だと応答速度が低下※してしまい、SSD本来の性能を検証できません。
ベンチ機に採用した「Z790 Valkyrie」は、PCIe 5.0対応のM.2スロットを1本、PCIeスロットを2本備えます。複数の爆速SSDをCPUに直結できる稀有なマザーボードです。
※チップセット経由による性能低下はAMDチップセットだと緩和されますが、CPU直結時と比較して性能が下がる傾向自体は同じです。
SSDを熱から保護するサーマルスロットリングによって性能に悪影響が出ないように、以下のような手段でテスト対象のSSDを冷却しながらベンチマークを行います。
- M.2ヒートシンク「Thermalright HR-09」を装着
- 120 mmケースファンを至近距離に設置して冷却
SSDを徹底的に冷やして、サーマルスロットリングがテスト結果に影響を与えないように対策しています。
なお、10分間の温度テスト時のみM.2ヒートシンクとケースファンを取り除いて、温度の上昇を観察します。
SSDドライブ情報と利用できる容量
- インターフェース:NVM Express
- 対応転送モード:PCIe 4.0 x4
- 対応規格:NVM Express 2.0
- 対応機能:S.M.A.R.T. / TRIM / VolatileWriteCache
「HP FX700」の初期ステータスをCrystal Disk Infoでチェック。きちんと「PCIe 4.0 x4」で接続されています。
なお、HP FX700は最新規格のNVM Express 2.0規格準拠モデルですが、一般用途だとNVM Express 1.4規格と大差ないです。
フォーマット時の初期容量は「1.86 TB」でした。
他社の中華ハイエンドテンプレ品(MAP1602A)と同じように、HP FX700も搭載されているすべてのNANDメモリをユーザー領域に開放する仕様です。
一般的な大手メーカー製なら、全体の約2.3%を予備領域に割り当てて少しでも製品寿命を優先する対応が多いです。
Crystal Disk Mark 8
「Crystak Disk Mark 8」は、日本どころか世界で一番有名と言っても過言ではない、定番のSSDベンチマークソフトです。性能の変化をチェックするため、初期設定の「1 GiB」に加え、最大設定の「64 GiB」もテストします。
Crystal Disk Mark 8の結果※クリックで画像拡大します | |
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テストサイズ:1 GiB(MB/s) | テストサイズ:64 GiB(MB/s) |
テストサイズ:1 GiB(レイテンシ) | テストサイズ:64 GiB(レイテンシ) |
シーケンシャル読み込みが約7100 MB/s超え、シーケンシャル書き込みが約6400 MB/s程度です。
読み込みがメーカー公称値に届いてないものの、シーケンシャル性能を出しづらいIntel環境なら十分に有り得る状況です。
シーケンシャルを得意とするAMD Ryzen環境なら問題なく公称値を出せます。
テストサイズを64 GiBに変更して再テストすると、シーケンシャル性能がやや鈍化し、ランダムアクセス性能(RND4K Q1T1)はさらに低下する症状が出ます。
DRAMレス(HMB:ホストメモリバッファ)方式のSSDでよく見られる典型的な性能特性です。実際の利用シーンで問題や不具合は起きません。
体感性能や実用性能に影響が大きい、4KBランダムアクセスのレイテンシ(応答時間)の比較グラフです。
HP FX700は42.8 μsで、他社のハイエンド中華SSD(232層品)と横並びの性能に。
書き込みレイテンシは平均的です。上位勢はPhison系コントローラにほぼ独占されています。
ATTO Disk Benchmark
ATTO Disk Benchmarkは、テストファイルを小刻みに分割してSSDのスループット(シーケンシャル性能)を測定し、SSDがピーク性能を出しやすいファイルサイズを探るベンチマークソフトです。
ベンチマーク結果からSSDの評価が非常に分かりにくいので、表計算ソフトを使ってグラフ化して他のSSDと比較します。
小さいファイル領域(2 KB ~ 16 KB)で、トップクラスの読み込み速度です。今までレビューしてきたMAP1602Aコントローラ搭載SSDとほとんど同じ傾向を示します。
書き込み性能は途中まで他の中華ハイエンド(MAP1602A)に近い性能を出すものの、特定のファイルサイズで乱高下するDRAMレスあるあるの傾向がやはり出ます。
実際に該当するファイルサイズをコピーしても問題なく速度が出るため、ATTO Disk Benchmarkだけで発生する謎の症状です。
HP FX700を実運用で試す
FF14のロード時間を比較
FF14:暁月のフィナーレ(ベンチマークモード)で、ゲームロード時間を測定します。ベンチマーク終了後に、ログファイルからロード時間を読み取ります。
HP FX700(2 TB)のロード時間はわずか「5.58秒」を叩き出し、値段が3倍近いハイエンドSSD(Crucial T700)に匹敵する驚異的なロード時間です。
他の中華ハイエンドシリーズと同様に5秒台の領域に到達します。
FPSタイトルのロード時間を比較
PCMark 10 Professional Edition(有償版)で利用できる機能を使って、「Battlefield V」「Call of Duty Black Ops IV」「Overwatch 2」のロード時間を測定します。
なお、測定されたロード時間は各スコアから逆算された概算値(ざっくりとした予想値)です。実際のロードとは異なっているので注意してください。
テストした3タイトルすべてで、HP FX700は競合する中華ハイエンド品(232層)に並ぶ平均的なゲームロード性能です。
トップクラスを独走中のCrucial T700やCrucial T500にはあと一歩及びません。
DirectStorageのロード時間を比較
Windows 11はゲームのロード時間を大幅に短縮する「DirectStorage API」に対応しています。
SSDに保存されているゲームデータをメインメモリに送り込み、メインメモリからVRAMに流し込みます。入ってきたデータをGPUの凄まじい演算性能で展開(解凍)し、ゲームロード時間を短縮する技術です。
NVMe SSDからメインメモリにデータを転送する部分で、SSDのシーケンシャル性能が重視されます。SATA SSDよりNVMe SSD、同じNVMe SSDでもPCIe 4.0やPCIe 5.0の方が有利になる可能性が高いです。
CPUで展開する場合はCPUの演算性能がボトルネックになってしまい、SSDの性能差がそれほど確認できません。
GPU展開(RTX 4060 Tiで展開)では、シーケンシャル性能に比例した性能差がハッキリと出ます。
HP FX700は0.22秒(19.6 GB/s)前後にとどまり、やはり他の中華ハイエンドとそこまで大差ない読み出し性能です。
ファイルコピーにかかった時間
Windows標準のコピペ機能と目視によるストップウォッチでは正確性に欠けるので、ファイルコピーに便利なフリーソフト「DiskBench」を使って、ファイルコピーに掛かった時間を計測します。
- ゲームフォルダ(容量85.3 GB / 81424個)
- 写真ファイル(容量113 GB / 5012枚)
- 圧縮データ(容量256 GB / zipを2個)
以上3つの素材をファイルコピーテストに使います。ソース(基準となるストレージ)は安定した性能に定評がある「Optane SSD P5810X 400GB」です。
書き込み(Optane P5810X → HP FX700)のコピペ時間です。
てっきり途中でpSLCキャッシュが枯渇して、酷い書き込み速度になるかと思いきや、やはりMAP1602AコントローラはpSLCキャッシュの制御が上手いです。
まるでQLC NANDに見えないレベルで書き込み速度を底上げしています。QLC NANDながら、TLC NAND搭載の他社ハイエンドSSDと横並びの書き込み性能でした。
次は読み込み(HP FX700 → Optane P5810X)のコピペ時間です。
QLC NANDは書き込みが不得意で、読み出しは基本的に大差ないはずですが、なぜか平均的な読み出し性能にとどまります。
有力説のひとつが、NANDメモリの枚数です。
トップクラスの記録を出している「Lexar NM790(2 TB)」は、NANDメモリが2枚入ってます。HP FX700(2 TB)はNANDメモリが4枚で、データを読み出すときのレイテンシが大きいのかもしれません。
遠く離れた4台の本棚から本を交互に取り出すより、2台の本棚から取り出した方が速いイメージです。
比較グラフをよく見ると、シーケンシャル性能の割にコピー時間が遅いSSDがポツポツと見られます。
なぜシーケンシャル性能の割に遅いSSDが出てしまうのか。理由は単に「間髪入れずに次のコピーテストを実行」しているからです。
- Zip(256 GB)→ 写真(113 GB)→ ゲーム(85.3 GB)の順番
SSDは書き込み性能を稼ぐためにSLCキャッシュを使って耐える製品が多いですが、このSLCキャッシュの回復が遅いと・・・次のコピーテストに間に合わずTLC NAND本来の性能でテストが実行されます。
SLCキャッシュをスピーディーに再展開できるかかどうかも実力の内と(筆者は)考えているので、コピーテストは間髪入れず次から次へと実行します。
Premiere Pro CC:4K動画プレビュー
動画編集ソフト「Adobe Premiere Pro CC」に、4K動画素材(448 MB/s)と2K動画素材(175 MB/s)を読み込み、2つの動画を同時にプレビューします。
Premiere Proの動画素材プレビューは、素材を配置しているストレージの性能に影響を受けやすく、SSDの性能が不足すると「コマ落ち」が発生しやすいです。
Premiere Proの標準機能「コマ落ちインジケータ」で落としたフレームを測定し、動画素材の総フレーム数で割ってドロップフレーム率を計算します。
4K + 2K動画プレビューのドロップフレーム率は約9.9%です。
さすが中華ハイエンドシリーズ、NAND型SSDで突破がかなり難しい10%の壁をあっさり超えています。
4K動画プレビューのドロップフレーム率は0%で見事に完封。
QLC NANDでも、読み出しワークロードの強さは健在です。
PCMark 10:SSDの実用性能
PCMark 10 Professional Editionの「Full System Drive Benchmark」を使って、SSDの実際の使用シーンにおける性能を測定します。
- PCMark 10(UL Benchmarks)
Full System Drive Benchmarkには23種類のテストパターン(Trace)が収録されており、パターンごとの転送速度や応答時間を測定し、SSDの実用性能をスコア化します。
なお、SSDは空き容量によって性能が大きく変化する可能性があるため、空き容量100%だけでなく容量を90%埋めた場合(= 空き容量10%)のテストも行いました(※2回:連続で約2時間のワークロード)。
HP FX700(1 TB)のストレージスコア(空き容量10%時)は「2624点」です。空き容量100%なら3962点です。
空き容量による性能低下は約34%に達しており、想定どおりQLC NANDの悪い部分が出てしまいました。
MAP1602Aコントローラならもしかして・・・と淡い期待をほんの少しだけ抱いていたものの、MAP1602Aを持ってしてもQLC NANDの弱点を隠蔽するのは困難だった様子。
PCMark 10ストレージテストの細かい内訳を確認します。
ファイルコピー評価で下落幅が目立って大きいです。QLC NANDはもともと書き込み性能が遅く、空き容量が減ってしまうとさらに性能が下がります。
逆に、読み出しメインの用途(ゲームロードやOffice)だと、空き容量が減ってもあまり性能が下がらないです。
実用スコアの内訳 Full System Drive Benchmark | |
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Adobe Score | Adobe Acorbatの起動 Adobe After Effectsの起動 Adobe Illustratorの起動 Adobe Premiere Proの起動 Adobe Lightroomの起動 Adobe Photoshopの起動 Adobe After Effets Adobe Illustrator Adobe InDesign Adobe Photoshop(重たい設定) Adobe Photoshop(軽量設定) |
Game Score | Battlefield Vの起動(メインメニューまで) Call of Duty Black Ops 4の起動(メインメニューまで) Overwatchの起動(メインメニューまで) |
Copy Score | 合計20 GBのISOファイルをコピー(書き込み) ISOファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) ISOファイルをコピー(読み込み) 合計2.37 GBのJPEGファイルをコピー(書き込み) JPEGファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) JPEGファイルをコピー(読み込み) |
Office Score | Windows 10の起動 Microsoft Excel Microsoft PowerPoint |
15分間の連続書き込みテスト
1 MBのテストファイルを15分間に渡って、ただひたすら連続して書き込み続ける過酷な検証方法です。
一般向けに販売されているほとんどのSSDは、数分ほど連続して書き込むだけで「素の性能」を明らかにできます。SLCキャッシュの有無やサイズ、キャッシュが切れた後の性能低下などなど。
15分の連続書き込みテストによって、SSDのいろいろな挙動が判明します。
テスト開始から約490 GBまで、平均4000 MB/s超の猛スピードを維持し、その後pSLCキャッシュが枯渇して平均130~140 MB/s程度まで落ち込みます。
キャッシュが効いている範囲なら、まるでTLC NANDのような性能で動きます。しかし、いったん切れるとHDD並の速度しか出ないです。
キャッシュ構造 | 平均書込速度 |
---|---|
1段階 pSLCキャッシュ | 3365 MB/s |
2段階 pSLC + QLC | 1127 MB/s |
3段階 QLCネイティブ | 130 MB/s |
ブロックファイルを約1800 GB書き込むと、ほぼ2段階のキャッシュ構造が浮かび上がります。
pSLCキャッシュをフルに展開する平均3365 MB/sの爆速モードから始まり、約470~480 GBの書き込みでpSLCキャッシュが一気に枯渇して・・・そのままQLCネイティブモードへ移行します。
QLC NAND本来の性能に移行すると、平均わずか130 MB/sの書き込み性能です。3.5″ HDDの内周側と同じくらいのスピード感でとても遅いです。
なお、pSLCキャッシュの再展開はかなりスピーディーです。大きなファイルをコピペしたあと、すぐに別のファイルをコピーすると3000 MB/s超の爆速モードが始まります。
空き容量が200 GBの状態でも、約30~50 GB程度のpSLCキャッシュを展開できています。普通に使っていると多分QLC NANDだと気づかない可能性が高いです。
時間あたりの書き込み量を比較したグラフです。
HP FX700(2 TB)は15分で約595 GBを書き込みます。TLC NAND版のSSDと比較して、ざっくり3分の1しか速度を出せません。
一度に大量のデータ(数百GB)を引っ越す作業と相性が悪いでしょう。
SSDの動作温度をテスト
高負荷時のセンサー温度
- ドライブ温度:NANDメモリの温度
- ドライブ温度2:NANDメモリの温度
- ドライブ温度3:SSDコントローラの温度
モニターソフト「HWiNFO」で表示できる温度センサーは3つですが、内2つが常に同じ温度を表示します。実質的に2つのセンサーです。
ケースファンによるエアフローを一切与えない環境で、SSDが激しく発熱しやすい「連続書き込みテスト」を10分間実行しました。
pSLCキャッシュが効いている間はセンサー温度がぐんぐん上昇し、途中でpSLCキャッシュが枯渇すると温度の上昇が止まります。
テストが終わる10分後まで60℃前後の穏やかな温度を維持していました。
SSDの温度は基本的に性能に比例するから、QLC NANDネイティブモードで動いている低性能な状態なら、温度も抑えられるだけの話です。
サーモグラフィーで表面温度を確認
テスト開始から約8~9分経過したあたりで、サーモグラフィーカメラを使ってSSDの表面温度(容量1 TBモデル)を撮影します。
- NANDメモリ(左):56 ~ 57℃
- DRAMキャッシュ(中央):なし
- SSDコントローラ(右):63 ~ 64℃
NANDメモリの表面温度はHWiNFOが表示するセンサー読み温度に非常に近い温度です。NAND側で約10℃ほど上振れ、SSDコントローラ側の温度はとても正確です。
MAP1602Aコントローラはサーマルスロットリングが発動しづらいうえに、今回はQLC NANDで性能が大幅に抑えられるせいで、なおさらサーマルスロットリングが発動しません。
別売りのM.2ヒートシンクは不要です。何もつけずにケースファンで風を当てるか、マザーボード付属のM.2ヒートシンクがあったら取り付けるくらいで大丈夫。
まとめ:二面性の激しい性能な割に「割高価格」
(売れているから → 売れているテンプレ例)
「HP FX700 SSD」のデメリットと弱点
- QLC NANDを採用(記載なし)
- DRAMキャッシュなし
- 素の書き込み性能は極めて遅い
- 高負荷時の温度が高い
(高負荷が続かないから実際は低温) - 空き容量による性能変化が大きい
- 価格設定がやや高い
「HP FX700 SSD」のメリットと強み
- 高速なシーケンシャル性能(7000 MB/s超)
- 速いランダムアクセス速度
- ゲームロード時間が速い
- 広大かつ迅速なpSLCキャッシュ
- 十分な耐久性(400 ~ 1600 TBW)
- 大容量モデルあり(最大4 TB)
- 片面実装で扱いやすい
- 5年保証
ちもろぐでQLC NAND版の中華ハイエンドシリーズをレビューするのは初だったりします。
使ってみた率直な感想は、全領域を埋める超ハードなテストでもしない限り、そう簡単にQLC NANDだと気づくのが困難なほどpSLCキャッシュの制御が巧みです。
一度に100~200 GB程度の書き込みなら平気で約3000 MB/sを出してくるから驚きました。ゲームロードやOfficeなど実効性能もハイエンド級です。
しかし、最大の問題はなんと言っても「価格」に尽きます。容量2 TBで約1.6~1.7万円なら、TLC NANDを搭載した他の中華ハイエンドシリーズが買えます。
あえてQLC NANDを搭載する「HP FX700」を選ぶ理由が見当たらないですが、それでもAmazonであれほど売れてしまっているのは・・・売れているから売れている集団心理的な現象でしょうか?
QLC NANDをまるでTLC NANDかのように錯覚させる、「MAP1602A」コントローラの性能には驚かされました。技術的に興味深いSSDです。
もちろん、わざわざ他人におすすめするSSDでも無いです。似た価格で他にもっと優れた選択肢があります。
以上「HP FX700 SSD(2 TB)レビュー:HPの皮を被った中華NVMe SSDの意外な実力」でした。
「HP FX700 SSD」を入手する
レビュー(2025年1月)時点の定価がおよそ2万円ほど、定期的に開催されるタイムセールで約1.5~1.7万円まで値下げされます。
正直に言ってセール時の価格ですら割高です。似た価格帯でTLC NANDモデルも珍しくないため、あえてHP FX700を買う意味を見いだせません。
YMTC 232層 TLC NANDが確認されている「Acer Predator GM7」や「Lexar NM790」をおすすめします。
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map1602aの手にかかればqlcのdramレスでもハイエンドとして十分な性能になるのか
あと最後のアフェリエイトリンクが990 proになってる?
リンク修正しました。
MAP1602AはpSLCキャッシュの範囲が広く、再展開もほぼ即時だから、空き容量が2割くらいあれば日常的な使い方で不便に感じる可能性は低いですね。容量2 TBで1.2万円くらい、容量4 TBで2万円前半なら候補に入ってくると思います。
謎メーカーの価格と同程度になってからが勝負
4TBなら普段使いだとほぼキャッシュ切れを気にする事がないかも?
これQLCだったんだ買わなくてよかった
米HP社の製品と思い買ってしまいました。steamとEpic Gamesのゲームを入れていますが、PS5と比べると読み込みもそんなに早くない気がしました。
兄弟モデル?のHP FX 900 PLUSはTLCのYMTC NANDでした(実際に購入してFLASH IDで確認)
ただ、ちもろぐさんのおっしゃる通り、QLCのFX700のほうが購入報告・レビューをよく見かける…気がします。不思議。
記事の通り取説に旧代理店(サンマックスとプリンストン)の連絡先が乗ってるんですが、FX700はBiwinが直接卸してるそうでここに連絡しても対応してくれないです。
Amazonの注文履歴から販売元に問い合わせてくださいとのこと。
みんな買ってるから買っているだけとか、中身が実は変わってたりとか?
中華と違ってちゃんと保証が効きそうとか、ファーム更新を期待できそうみたいな感じなのでしょうかね。
ファーム更新のサポートが期待できるなら、将来的にはアリかもしれない。
自分的にこれの利点は年末でも4TB版が在庫豊富って所でした
正月休みに組んだPCに入れて雑多な倉庫&同人ゲーとかのスペックいらないゲーム用に使ってます
ぶっ壊れたら次はもうちょいまともなやつ買います
ライトユーザーにとってはHPのロゴが強力すぎます
Acer SSDもHP SSDも、どちらもBiwin製です。Biwinは、深センの比較的信頼できるモジュールメーカーだと思います。HMBなので、DRAMなしでも比較的いいスピードが出ていると思いますが、DRAM搭載モデルもAcer、HPブランドライセンスラインナップにはありますね。どうせなら、DRAM搭載モデルのテストをしていただきたかったです。
中国で初めてSSD製品を製造したメーカーであり、中国株式市場に上場もしているBiwinを怪しい中華呼ばわりはあれ?と思いました。
キャッシュ切れもよほどのヘビーな用途で無い限りはまず発生しませんし、これをごまかしとか売れる理由がわからないと評するのはあまりに視点がベンチマーカーすぎると感じました。