すっかり定番化したPCIe 4.0対応NVMe SSDですが、さらに上位の「PCIe 5.0」対応SSDを入手できました。
米Micron社が製造販売しているフラグシップモデル「Crucial T700」です。1秒あたり約12000 MBのスループット、RAID 0アレイを構築したかのような性能をわずか1本のSSDで可能にします。
今回はTwitterのフォロワーさんに手頃な価格で譲ってもらったサンプル(中古品)を使って、詳しくレビューします。
(公開:2024/8/15 | 更新:2024/8/15)
Crucial T700のスペックと仕様
Crucial T700 (CT2000T700SSD) | |||
---|---|---|---|
容量 | 1000 GB | 2000 GB | 4000 GB |
インターフェイス | PCIe 5.0 x4 (NVMe 2.0) | ||
フォームファクタ | M.2 2280(片面実装) | ||
コントローラ | Phison E26 | ||
NAND | Micron 232層 3D TLC NAND | ||
DRAM | LPDDR4 | ||
2048 MB | 4096 MB | 8192 MB | |
SLCキャッシュ | Crucial Write Cache(詳細不明) | ||
読込速度 シーケンシャル | 11700 MB/s | 12400 MB/s | 12400 MB/s |
書込速度 シーケンシャル | 9500 MB/s | 11800 MB/s | |
読込速度 4KBランダムアクセス | 1350K IOPS | 1500K IOPS | |
書込速度 4KBランダムアクセス | 1400K IOPS | 1500K IOPS | |
消費電力(最大) | 非公開 | ||
消費電力(アイドル) | 非公開 | ||
TBW 書き込み耐性 | 600 TB | 1200 TB | 2400 TB |
MTBF 平均故障間隔 | 160 万時間 | ||
保証 | 5年 | ||
MSRP | $ 143 | $ 255 | $ 406 |
参考価格 2024/8時点 | 27455 円 | 46136 円 | 93809 円 |
GB単価 | 27.5 円 | 23.1 円 | 23.5 円 |
「Crucial T700」のスペックを、MicronとPhisonのデータシートから抜粋してまとめました(※2024年8月時点の情報にもとづく)。
- Crucial T705(PCIe 5.0 x4)
- Crucial T700(PCIe 5.0 x4)
- Crucial T500(PCIe 4.0 x4)
Micronが新たに始めた3桁SKUシリーズのフラグシップモデルに位置づけられる、PCIe 5.0 x4対応NVMe SSDです。
SSDコントローラで有名なPhisonが開発したGen5対応コントローラ「PS5026-E26」に、Micron自社製の232層 3D TLC NAND(B58R FortisFlash)を組み合わせます。
書き込み性能を底上げするため、他社から仕入れたLPDDR4メモリも積んでいます。容量あたり0.2%と、通常の2倍ものメモリを搭載してピーク時11800 MB/sの書き込み性能を可能にするようです。
TLC NANDを使ったNVMe SSDとして、NAND業界の巨人Samsung(サムスン)ですら到達していない「ド級」のスペックを誇ります。
SSD | 500 GB | 1 TB | 2 TB |
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Crucial T700 | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 990 PRO (990 PRO:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Solidigm P44 Pro (Solidigm P44 Pro:レビュー) | – | 750 TBW | 1200 TBW |
HIKSEMI FUTURE SSD (HIKSEMI FUTURE SSD:レビュー) | – | 1800 TBW | 3600 TBW |
SSD | 500 GB | 1 TB | 2 TB |
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KIOXIA EXCERIA PRO (WD Blue SN5000:レビュー) | – | 400 TBW | 800 TBW |
WD Blue SN5000 (WD Blue SN5000:レビュー) | – | 600 TBW | 900 TBW |
KIOXIA EXCERIA PLUS G3 (KIOXIA EXCERIA G3 PLUS:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
CFD SFT6000e (CFD SFT6000e:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 990 PRO (990 PRO:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 980 PRO (980 PRO:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Solidigm P44 Pro (Solidigm P44 Pro:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
Crucial P5 Plus (Crucial P5 Plus:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Lexar NM790 (Lexar NM790:レビュー) | – | 1000 TBW | 1500 TBW |
HIKSEMI FUTURE SSD (HIKSEMI FUTURE SSD:レビュー) | – | 1800 TBW | 3600 TBW |
SK Hynix Gold P31 (SK Hynix Gold P31:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
WD_BLACK SN770 (WD_BLACK SN770:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
KIOXIA EXCERIA PLUS G2 (KIOXIA EXCERIA G2 PLUS:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
KIOXIA EXCERIA G2 (KIOXIA EXCERIA G2:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
WD Blue SN570 (WD Blue SN570 NVMe:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | – |
Crucial MX500 (Crucial MX500:レビュー) | 180 TBW | 360 TBW | 700 TBW |
FireCuda 530 (FireCuda 530:レビュー) | 640 TBW | 1275 TBW | 2550 TBW |
WD Black SN850 (SN850:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
書き込み保証値(TBW)は平均的な数値です。大手NANDメーカー製のフラグシップモデルとほとんど同じ書き込み保証値をアピールします。
- 普通に使った場合:約32.9年
(1日あたり平均50 GBの書き込みを想定) - 毎日AAAゲームをDLする:約16.4年
(1日あたり平均100 GBの書き込みを想定) - 毎日一眼レフの写真を入れる:約6.6年
(1日あたり平均250 GBの書き込みを想定) - 毎日一眼レフの4K素材を入れる:約1.6年
(1日あたり平均1000 GBの書き込みを想定)
ワークロード別の想定耐用年数は以上のとおり。
普通の使い方では、5年間の保証期間中に600 TBWを使い切るのは非常に難しいと予想されます。
ライバル製品と価格設定の比較
まだまだPCIe 5.0対応SSDが少なかったので、とりあえずPCIe 4.0世代のNVMe SSDと価格を比較。
言わずもがな、圧倒的な値段の高さで驚愕です。容量1 TBで約3万円近く、他社のフラグシップGen4 SSDなら容量2 TB、中華ハイエンドSSDなら容量4 TBにギリギリ手が届きそうな価格設定。
コストパフォーマンスを気にして買う製品じゃないです。
Crucial T700を開封レビュー
パッケージデザイン & 開封
黒に近い紺色の背景色とシンプルな英字フォントで「T700」と大きく記載した、Crucialシリーズらしいパッケージデザインです。
パッケージの裏面に、Micronの国内正規代理店のひとつである「CFD株式会社」のシールが貼ってあります。
- ヒートシンク取付済みの本体
- 説明書
ゴツいアルミニウム製ヒートシンクが取り付けられた※「Crucial T700」本体と、簡素な説明書が付属します。
※「with Heatsink」モデルのみ。価格が少し安い通常版はヒートシンクが付属しません。
基板コンポーネント
厚み18 mmの鍛造アルミニウムをぜいたくに使った、Micron純正M.2ヒートシンクが装着済みです。
見た目だけで「凄い性能してそう・・・」な雰囲気が香ってきます。
裏面も放熱用に薄い金属板が貼られています。金属板に貼られたラベルに、各国の認証ロゴや、交換保証(RMA)申請時に必要となるシリアルナンバー(S/N)が記載されています。
表面と裏面の両方にコンポーネントが実装されている「両面実装」のNVMe SSDです。
取付スペースが狭いノートパソコンだと干渉する可能性があります。PS5の増設ストレージなら干渉せず入ります。
なお、純正ヒートシンクを装着した状態だと厚み20 mmに達し、ノートパソコンやPS5への増設は不可能です。
純正M.2ヒートシンクの取り外し方
Crucial T700(with Heatsink)の純正M.2ヒートシンクを取り外します。
トルクスドライバー(T5規格)が必須です。そのほかにピンセット(爪楊枝)、分解ベラ、電気ドライヤーがあると便利です。
トルクスドライバーを使って、ヒートシンク側面にある4本の小ネジを慎重に外します。
ネジを押し込む力90%:ネジを回す力10%くらいの比率がコツです。むやみにネジを回そうとすると、ネジが舐めて(潰れて)面倒です。
4本の小ネジを取り外しましたが、まったくヒートシンクは微動だにしません。
電気ドライヤー(出力500~600 W)の熱風を約1分ほど浴びせてください。ヒートシンクを暖めると内側に詰められているグリス(サーマルコンパウンド)が柔らかくなり、ヒートシンクを外しやすくなります。
ヒートシンクの側面から力を入れて、本のページをめくるようなイメージでヒートシンクを剥がします。
分解ベラをSSDの基板と金属板の隙間に挿し込み、テコの原理でパキッと剥がします。
ヒートシンクがなかなか外れてくれない原因が、このギシギシに塗り込まれた「サーマルコンパウンド」です。
コンポーネントからヒートシンクへ効率よく熱を伝える役割を果たす、固形状のグリスのような素材です。
ピンセット(爪楊枝)を使って、丁寧にやさしくサーマルコンパウンドを除去していきます。
むやみやたらにゴシゴシえぐると、PMIC周りの小さな部品がクラックするかもしれません。部品をゴリッと弾かないよう、ていねいに作業します。
ようやく基板コンポーネントが露出
苦労の末ようやくCrucial T700の基板コンポーネントを露出できました。
分解して1点分かりました。Crucial T700(with Heatsink)は、あとから分解される想定をしていないです。慣れていないと部品がクラックする危険性もあり、真似しない方が無難でしょう。
- コントローラ:Phison E26
PS5026-E26-52 CE2308H P10E11.001AA - DRAM:Micron LPDDR4-4266メモリ
3FB77 D8CSC (MT53E512M32D1ZW-046 WT:B) - NAND:Micron 232層 3D TLC NAND
3HC2D NY195 (MT29F2T08EELCHD4-QA:C)
SSDコントローラに「Phison E26」、DRAMキャッシュにMicron製「LPDDR4-4266メモリ」、NANDメモリにMicron製「232層 3D TLC NAND」を搭載します。
- NAND:Micron 232層 3D TLC NAND
3HC2D NY195 (MT29F2T08EELCHD4-QA:C)
裏面にもコンポーネントが実装されています。
SSDコントローラは2023年から出荷されている、Phison製のフラグシップモデル「Phison E26」を搭載。
TSMC 12 nmプロセスで製造するARM Cortex-R5(2コア)と、RISC-VアーキテクチャのAndesCore N25Fを内蔵するぜいたくなSoCです。
最大8チャネルのNANDメモリを束ねられ、最大2400 MT/sのスループットに対応します。
PhisonいわくPCIe 5.0 x4の理論値(最大14000 MB/s)に匹敵するシーケンシャル読み出しが可能、とアピールしますが、Crucial T700ではNANDメモリと2000 MT/sで接続されています。
だからメーカー公称値は最大12400 MB/sに制限されてしまい、Phisonが主張する公称値に届かないです。
DRAMは「Micron製 LPDDR4-4266メモリ」を採用。
省電力性に優れるLPDDR4メモリを2048 MB(2 GB)搭載。一般的に、DRAMキャッシュの容量はNANDメモリの容量に対して0.1%です。
SSDの容量 | DRAM容量 | T700の場合 |
---|---|---|
1 TB | 1024 MB | 2048 MB |
2 TB | 2048 MB | 4096 MB |
4 TB | 4096 MB | 8192 MB |
一方Crucial T700では、2倍の0.2%です。本来なら容量2~4 TBモデルで使われるような大容量LPDDR4メモリを、ぜいたくに容量1 TBモデルで使っています。
容量2 TB版で4096 MB(4 GB)、容量4 TB版で8192 MB(8 GB)です。値段が高い理由が分かります。
NANDメモリは「Micron製 232層 3D TLC NAND」を採用。マーケティング名「B58R Fortis Flash」で知られます。
116 + 116層の2デッキ構造を用いて232層まで積み上げ、最大2400 MT/sでSSDコントローラに接続できる、かなり高性能なNANDメモリです。
記憶容量は1テラビット(1Tb)クラス、記憶密度は14.6 Gbit/mm²に達します。
中華ハイエンドSSDで採用されるYMTC製232層に届かない密度(15.47 Gbit/mm²)ですが、Samsung製238層NAND(11.5 Gbit/mm²)より格段に高密度です。
念のため、Crucial T700のNANDメモリ構成を説明します。
表面と裏面それぞれにNANDメモリが2個あり、合計で4個です。NANDメモリ1個あたり容量256 GBが収められている計算になります。
B58R Fortis Flashの記憶容量は1テラビット(1 Tb = 128 GB)クラスなので、2枚重ねにしたチップを4個使って合計8192 Gb(= 1024 GB)の容量を構成できます。
ちなみに、容量2~4 TBモデルでもNANDメモリは4個のまま。Micronはその気になればB58Rを8枚まで重ねられ、たった1個のチップで容量1 TBも可能です。
技術的に「片面実装」のCrucial T700(1 TB)を製造できるはずですが、おそらくコストの問題であえてやっていないと思われます。
Crucial T700の性能をベンチマーク
テスト環境を紹介
テスト環境 「ちもろぐ専用:SSDベンチ機」 | ||
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CPU | Core i7 13700K16コア24スレッド(TDP:125 W) | |
CPUクーラー | 虎徹Mark III120 mmサイドフロー空冷 | |
マザーボード | BIOSTARZ790 Valkyrie | |
メモリ | DDR5-6000 16GB x2G.Skill Trident Z5 Neo RGB | |
グラフィックボード | RTX 4060 Ti | |
テスト対象 | Crucial T700 1TB | |
システムSSD | HIKSEMI FUTURE70-02TB 2TB | |
電源ユニット | 850 WCorsair HX850i 2021 | |
OS | Windows 11 Pro検証時のバージョンは「22H2」 | |
ドライバ | NVIDIA 536.40 WHQL | |
ディスプレイ | 3840 x 2160@160 Hz使用モデル「Innocn 27M2V」 |
SSDベンチマークに使用する専用の機材です。
最大15.76 GB/sまで対応できるPCIe 5.0世代の「Intel Z790」マザーボードに、シングルスレッド性能が非常に速い「Core i7 13700K」を搭載。
Ryzen 9 5950X超えのマルチスレッド性能と、現行最強クラスのシングルスレッド性能で、最大14000 MB/s超えの次世代Gen 5 SSDも難なく処理できます。
原則として、CPUに直結したM.2スロットまたはPCIeスロットにテスト対象のSSDを接続します。チップセット経由だと応答速度が低下※してしまい、SSD本来の性能を検証できません。
ベンチ機に採用した「Z790 Valkyrie」は、PCIe 5.0対応のM.2スロットを1本、PCIeスロットを2本備えます。複数の爆速SSDをCPUに直結できる稀有なマザーボードです。
※チップセット経由による性能低下はAMDチップセットだと緩和されますが、CPU直結時と比較して性能が下がる傾向自体は同じです。
SSDを熱から保護するサーマルスロットリングによって性能に悪影響が出ないように、以下のような手段でテスト対象のSSDを冷却しながらベンチマークを行います。
- M.2ヒートシンク「Thermalright HR-09」を装着
- 120 mmケースファンを至近距離に設置して冷却
SSDを徹底的に冷やして、サーマルスロットリングがテスト結果に影響を与えないように対策しています。
なお、10分間の温度テスト時のみM.2ヒートシンクとケースファンを取り除いて、温度の上昇を観察します。
SSDドライブ情報と利用できる容量
- インターフェース:NVM Express
- 対応転送モード:PCIe 5.0 x4
- 対応規格:NVM Express 2.0
- 対応機能:S.M.A.R.T. / TRIM / VolatileWriteCache
「Crucial T700」の初期ステータスをCrystal Disk Infoでチェック。
CPU直結M.2スロットにて、無事「PCIe 5.0 x4」で認識されます。対応規格に「NVM Express 2.0」と表記されますが、コンシューマ製品の場合はNVM Express 1.4と大差ないです。
今回のサンプルはTwitterでフォロワーさんから譲渡してもらった「中古品」です。届いた時点で、使用時間が約2000時間、書き込みが約6 TBです。Secure Erase(512Bセクタ)、TRIM/GCコマンド、Cleanコマンドを併用してpSLCキャッシュを可能な限り呼び起こす努力をしますが、新品時の性能は再現できません。
フォーマット時の初期容量は「931 GB」でした。
搭載されているNANDメモリ1024 GB分のうち、24 GBを予備領域に割り当てる一般的な対応です。将来的な寿命や信頼性を向上させる効果に期待できます。
Crystal Disk Mark 8
「Crystak Disk Mark 8」は、日本どころか世界で一番有名と言っても過言ではない、定番のSSDベンチマークソフトです。性能の変化をチェックするため、初期設定の「1 GiB」に加え、最大設定の「64 GiB」もテストします。
Crystal Disk Mark 8の結果※クリックで画像拡大します | |
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テストサイズ:1 GiB(MB/s) | テストサイズ:64 GiB(MB/s) |
テストサイズ:1 GiB(レイテンシ) | テストサイズ:64 GiB(レイテンシ) |
シーケンシャル読み込みが約11700 MB/s、シーケンシャル書き込みが約9620 MB/sです。今までレビューしてきたSSDで過去最高のシーケンシャル速度を記録します。
テストサイズを64 GiBに引き上げても、シーケンシャル性能とランダムアクセス性能ともに安定したままです。
体感性能や実用性能に影響が大きい、4KBランダムアクセスのレイテンシ(応答時間)の比較グラフです。
Crucial T700は39.8 μsで、TLC NAND型で数少ない40 μs(= RND4K Q1T1が100 MB/s以上)を突破するSSDです。
書き込みレイテンシは他社のハイエンドNVMe SSDと横並びの水準です。
ATTO Disk Benchmark
ATTO Disk Benchmarkは、テストファイルを小刻みに分割してSSDのスループット(シーケンシャル性能)を測定し、SSDがピーク性能を出しやすいファイルサイズを探るベンチマークソフトです。
ベンチマーク結果からSSDの評価が非常に分かりにくいので、表計算ソフトを使ってグラフ化して他のSSDと比較します。
小さいファイルサイズ(512 Bから8 KB)領域でトップ争いを繰り広げます。業務用SSDのOptane P5810Xを除外すれば、T700が実質的にトップです。
一方、書き込み性能は小さいサイズで振るわず、4 KB以上からOptane P5810X以上のトップ記録を叩き出します。
Crucial T700を実運用で試す
FF14のロード時間を比較
FF14:暁月のフィナーレ(ベンチマークモード)で、ゲームロード時間を測定します。ベンチマーク終了後に、ログファイルからロード時間を読み取ります。
Crucial T700のロード時間は「5.557秒」、Solidigm P44 Proの記録を打ち破り、TLC NAND型で最速のロードタイムを記録しました。
FPSタイトルのロード時間を比較
PCMark 10 Professional Edition(有償版)で利用できる機能を使って、「Battlefield V」「Call of Duty Black Ops IV」「Overwatch 2」のロード時間を測定します。
なお、測定されたロード時間は各スコアから逆算された概算値(ざっくりとした予想値)です。実際のロードとは異なっているので注意してください。
3つのゲームタイトルすべてで、Crucial T700が最速記録です。
Crucial T700より上にいるSSDはどれもTLC NANDを使っておらず、コスト度外視の3D X-Pointメモリや3D SLC NAND(Z-NAND)に限られます。
「原神」のロード時間を比較
大人気RPGタイトル「原神」のロード時間を実際にテストします。
- 初回ロード(データロード0%からクリック可能になるまで)
- 初回ロード(クリックしてから操作可能になるまで)
- モンドからフォンテーヌへワープ
- フォンテーヌからスメールシティへワープ
- スメールシティから稲妻城へワープ
- 稲妻城からモンドへワープ
上記6パターンを録画ソフト(120 fps)を使って記録し、動画編集ソフトに取り込んでフレーム単位でロード時間を比較しました。
Crucial T700は「48.12秒」でした。
各シーン別のロード時間(※グラフの左から順番にパターン1~6並び)です。
初回ロード(#1~#2)でしか目立った差がなく、ファストトラベル(ワープ時)のパターンだとほぼ同等のロード時間でした。
パターン6(稲妻城からモンドへワープ)は、すでに読み込んだマップが大量に含まれるため、基本的に大きな時間差はつきません。
DirectStorageのロード時間を比較
Windows 11はゲームのロード時間を大幅に短縮する「DirectStorage API」に対応しています。
SSDに保存されているゲームデータをメインメモリに送り込み、メインメモリからVRAMに流し込みます。入ってきたデータをGPUの凄まじい演算性能で展開(解凍)し、ゲームロード時間を短縮する技術です。
NVMe SSDからメインメモリにデータを転送する部分で、SSDのシーケンシャル性能が重視されます。SATA SSDよりNVMe SSD、同じNVMe SSDでもPCIe 4.0やPCIe 5.0の方が有利になる可能性が高いです。
CPUで展開する場合はCPUの演算性能がボトルネックになってしまい、SSDの性能差がそれほど確認できません。
GPU展開(RTX 4060 Tiで展開)では、シーケンシャル性能に比例した性能差がハッキリと出ます。
Crucial T700は0.20秒で最速、実効スループットも21.63 GB/sを叩き出し、PCIe 5.0世代の効果を端的に示します。
加えて、Crucial T700のファームウェアはDirectStorage APIの処理に特化されているそうです。Micronが言っているだけで真相は不明なものの、確かにDS APIのロード時間は最速です。
ファイルコピーにかかった時間
Windows標準のコピペ機能と目視によるストップウォッチでは正確性に欠けるので、ファイルコピーに便利なフリーソフト「DiskBench」を使って、ファイルコピーに掛かった時間を計測します。
- ゲームフォルダ(容量85.3 GB / 81424個)
- 写真ファイル(容量113 GB / 5012枚)
- 圧縮データ(容量256 GB / zipを2個)
以上3つの素材をファイルコピーテストに使います。ソース(基準となるストレージ)は安定した性能に定評がある「Optane SSD P5810X 400GB」です。
書き込み(Optane P5810X → Crucial T700)のコピペ時間です。
Zipファイル(256 GB)は惜しくも1位を逃します。写真フォルダはおおむね横並び、ゲームフォルダで最速記録を更新します。
次は読み込み(Crucial T700 → Optane P5810X)のコピペ時間です。
Zipファイル(256 GB)の読み出しは横並び、写真フォルダとゲームフォルダで最速記録を更新します。
単純なシーケンシャルを競う単一ファイルだと、Windowsのファイル転送システム自体がボトルネックになっている気がします。
細切れのファイルが大量に含まれるゲームフォルダは、まだまだSSD側にボトルネックがあるようで性能比較としてギリギリ機能している様子です。
比較グラフをよく見ると、シーケンシャル性能の割にコピー時間が遅いSSDがポツポツと見られます。
なぜシーケンシャル性能の割に遅いSSDが出てしまうのか。理由は単に「間髪入れずに次のコピーテストを実行」しているからです。
- Zip(256 GB)→ 写真(113 GB)→ ゲーム(85.3 GB)の順番
SSDは書き込み性能を稼ぐためにSLCキャッシュを使って耐える製品が多いですが、このSLCキャッシュの回復が遅いと・・・次のコピーテストに間に合わずTLC NAND本来の性能でテストが実行されます。
SLCキャッシュをスピーディーに再展開できるかかどうかも実力の内と(筆者は)考えているので、コピーテストは間髪入れず次から次へと実行します。
Premiere Pro CC:4K動画プレビュー
動画編集ソフト「Adobe Premiere Pro CC」に、4K動画素材(448 MB/s)と2K動画素材(175 MB/s)を読み込み、2つの動画を同時にプレビューします。
Premiere Proの動画素材プレビューは、素材を配置しているストレージの性能に影響を受けやすく、SSDの性能が不足すると「コマ落ち」が発生しやすいです。
Premiere Proの標準機能「コマ落ちインジケータ」で落としたフレームを測定し、動画素材の総フレーム数で割ってドロップフレーム率を計算します。
4K + 2K動画プレビューのドロップフレーム率は約13.0%です。
シーケンシャル性能とランダムアクセス性能の両方が要求される、割と重たいワークロードです。
思ったより振るわない結果になったものの、過去の傾向を見る限り「DRAMキャッシュ」があると読み出しワークロードが阻害されます。
空き容量を10%捨てて性能を極大化する「Samsung 990 PRO(Full Power Mode)」ですら、10%の壁を超えられません。
10%の壁を突破しているTLC NAND型SSDはすべて中華ハイエンドDRAMレスシリーズです。
4K動画プレビューのドロップフレーム率は0%です。見事に完封。
本テストを完封できるSSDはもっぱら中華ハイエンドシリーズとCrucial T500に限られていましたが、新たにCrucial T700が完封組に仲間入りを果たします。
DRAMキャッシュを抱えていながらの「0%」は偉業です。なぜなら、完封組のSSDは今まですべてDRAMレスだったからです※1※2。
※1:Samsung 983 ZETはDRAMを搭載しますが、電力損失保護機能のために使われており、実効パフォーマンスにほとんど寄与しません。※2:990 PROの記録はFPM(Full Power Mode)時だからノーカウント。
PCMark 10:SSDの実用性能
PCMark 10 Professional Editionの「Full System Drive Benchmark」を使って、SSDの実際の使用シーンにおける性能を測定します。
- PCMark 10(UL Benchmarks)
Full System Drive Benchmarkには23種類のテストパターン(Trace)が収録されており、パターンごとの転送速度や応答時間を測定し、SSDの実用性能をスコア化します。
なお、SSDは空き容量によって性能が大きく変化する可能性があるため、空き容量100%だけでなく容量を90%埋めた場合(= 空き容量10%)のテストも行いました(※2回:連続で約2時間のワークロード)。
Crucial T700のストレージスコア(空き容量10%時)は「4295点」です。空き容量100%ならTLC NAND型で最高点となる5339点です。
空き容量による性能低下は約19.6%に抑えられています。
Samsung 990 PROを抑え、Crucial T500に並ぶ性能です。おそらく、新品状態だったら明確にCrucial T500を超えられたはずです。
PCMark 10ストレージテストの細かい内訳を確認します。
Adobe系スコアはパッとしません。
ゲームロードとOfficeソフトはTLC NAND型で最高得点、ファイルコピーではOptane P5810Xすら超える歴代1位です。
PCIe 5.0 x4による圧倒的なスループットをしっかり使える用途なら、Optane SSDを超えられる可能性を示唆しています。
もちろん、Windows環境の一般的な用途でPCIe 5.0 x4帯域をフルに活かせるかどうかは(今のところ)疑問が残りますが。
実用スコアの内訳 Full System Drive Benchmark | |
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Adobe Score | Adobe Acorbatの起動 Adobe After Effectsの起動 Adobe Illustratorの起動 Adobe Premiere Proの起動 Adobe Lightroomの起動 Adobe Photoshopの起動 Adobe After Effets Adobe Illustrator Adobe InDesign Adobe Photoshop(重たい設定) Adobe Photoshop(軽量設定) |
Game Score | Battlefield Vの起動(メインメニューまで) Call of Duty Black Ops 4の起動(メインメニューまで) Overwatchの起動(メインメニューまで) |
Copy Score | 合計20 GBのISOファイルをコピー(書き込み) ISOファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) ISOファイルをコピー(読み込み) 合計2.37 GBのJPEGファイルをコピー(書き込み) JPEGファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) JPEGファイルをコピー(読み込み) |
Office Score | Windows 10の起動 Microsoft Excel Microsoft PowerPoint |
15分間の連続書き込みテスト
1 MBのテストファイルを15分間に渡って、ただひたすら連続して書き込み続ける過酷な検証方法です。
一般向けに販売されているほとんどのSSDは、数分ほど連続して書き込むだけで「素の性能」を明らかにできます。SLCキャッシュの有無やサイズ、キャッシュが切れた後の性能低下などなど。
15分の連続書き込みテストによって、SSDのいろいろな挙動が判明します。
テスト開始から約108 GBでpSLCキャッシュが終了、その後テストが終了する15分後まで平均1630 MB/sの書き込み性能を維持します。
Crucial T700のキャッシュ構造をさらに深堀りします。
ブロックファイルを約900 GB書き込むと、Crucial T700のシンプルな3段階キャッシュ構造が見えてきます。
グラフの中身をざっくりと解説すると
- pSLCキャッシュで爆速(約109 GBまで)
- pSLCキャッシュとTLC NANDへのデータ移行モードに切り替わり、書き込み性能がやや下がります
- pSLCキャッシュが枯渇してTLC NAND本来の性能へ
展開できるpSLCキャッシュは約100 GB前後で、最近のNVMe SSDとしては少なめです。
「ユーザー容量の約11%を動的キャッシュ(Crucial Write Cache)に使います」
TRIM/GCコマンドでpSLCキャッシュを強制的に全開まで復活させ、何度かpSLCキャッシュ容量を検証しましたが、Micronの主張するとおり約108~109 GBで枯渇します。
中古品だからてっきりpSLCキャッシュが使い物にならなくなったと疑いましたが、どうやら仕様です。
なお、pSLCキャッシュの再展開は・・・Phisonコントローラあるある激遅です。最後のコピペから1時間経過しても、4000 MB/s前後の爆速モードはほとんど復活しません。
pSLC + TLC NANDの混合モードでコピペが始まる場合がほとんどです。これでも平均1600~1800 MB/s程度は出るので実用上は十分に感じます。
爆速モードが必要なら、TRIM/GCコマンドを送ってください。即座にpSLCキャッシュの爆速モードが復活します。
時間あたりの書き込み量を比較したグラフです。
Crucial T700は15分で約1517 GBを書き込みます。とても似たコンポーネント構成のFireCuda 530と同等で、Samsung 990 PROには及ばず。
SSDの動作温度をテスト
高負荷時のセンサー温度
- ドライブ温度:NANDメモリの温度
モニターソフト「HWiNFO」で表示できる温度センサーは1つだけです。SSDコントローラの温度をソフト読みする方法はありません。
標準搭載の純正M.2ヒートシンクをつけたまま、ケースファンによるエアフローを一切与えない環境で、SSDが激しく発熱しやすい「連続書き込みテスト」を10分間実行しました。
センサー読みで80℃まで安定した性能を維持しますが、80℃を超えると一気に書き込み性能が下がり、その後もじわじわと下がり続けます。
サーモグラフィーで表面温度を確認
テスト開始から約8~9分経過したあたりで、サーモグラフィーカメラを使ってSSDの表面温度を撮影します。
- NANDメモリ(左):79 ~ 80℃
- DRAMキャッシュ(中央):83 ~ 84℃
- SSDコントローラ(右):84 ~ 85℃
HWiNFOが表示するセンサー読み温度とおおむね一致する表面温度です。
温度センサーの精度はかなり良好で、80℃をトリガーにサーマルスロットリングが適切に機能しています。
ヒートシンクが付属しない通常モデルはヒートシンクが欲しいです。with Heatsinkモデルは付属の分厚い純正ヒートシンクで十分です。
もしくは、マザーボード付属のM.2ヒートシンクを使いましょう。ケースファンでゆるく風を当てると高負荷時に性能を維持しやすいです。
まとめ:けっこう好きだけど価格の正当化は難しい?
「Crucial T700」のデメリットと弱点
- 保守的なpSLCキャッシュサイズ
- 素の書き込みは平凡
- 空き容量による性能変化あり
- 高負荷時の温度が高い
- 容量1~4 TBまで両面実装
- コスパは良くない
- 価格がとても高い
「Crucial T700」のメリットと強み
- 爆速なシーケンシャル性能(12 GB/s)
- DRAMキャッシュをたっぷり搭載
- 速いランダムアクセス性能
- トップクラスのゲームロード時間
- 書き込みに強いキャッシュ構造
- 十分な耐久性(600 ~ 2400 TBW)
- 大容量モデルあり(最大4 TB)
- Micron自社製造モデル
- 5年保証
あらゆる用途に最適な、現時点で最速クラスのNVMe SSDです。と同時に、高い価格を正当化するのが難しいSSDでもあります。
価格の伸び幅と、性能の伸び幅が不釣り合いです。
特に中華ハイエンドSSDシリーズが厄介な相手で、Crucial T700の半額近い価格なのに実用性能スコアは1割ちょっとしか下がりません。
キャッシュ切れ後の書き込み性能にこだわりなければ、下位モデルの「Crucial T500(レビュー)」が思わぬ刺客でした。
Crucial T700はDRAMキャッシュを搭載したTLC NAND型SSDとして数多くの最速記録を更新するものの、やはりコストパフォーマンスが良くないです。
肝心の爆速シーケンシャル性能(最大12 GB/s前後)も、役に立ちそうなシーンがあまり思い浮かばず、価格を正当化するのが難しくなる要因に。
シーケンシャル書き込みの方はpSLCキャッシュサイズが109 GB前後しかないせいで、常時フルスピードを維持できません。
シーケンシャル読み出しなら使えそう?・・・と考えましたが、少なくともWindows環境だと4000 MB/s前後で頭打ちです。
RAID 0アレイを構築せずに、RAID 0アレイに相当するシーケンシャル性能を単一のSSDで実現できるのが、おそらくCrucial T700のもっとも顕著なメリットかもしれません。
以上「Crucial T700レビュー:最大12 GB/s対応の最速級TLC NAND SSD」でした。
「Crucial T700」を入手する
レビュー時点で1 TB版が約2.7万円、2 TB版が約4.6万円です。とても高い価格設定ですが、次世代規格に対応した黎明期のSSDは歴史的に高額になりがちです。
(税抜き価格が当時30800円だった初代Gen 4 SSD)
2019年に初めて発売されたPCIe 4.0 x4(最大5000 MB/s)対応のNVMe SSDは、容量1 TB版が約3.1万円でした。
2024年の今なら、PCIe 4.0 x4(最大7000 MB/s)が約1.4~1.5万円で買えます。つまり、価格がこなれてくるのに3~5年の時間がかかる可能性があります。
2026~2028年ごろには、最大14000 MB/sのPCIe 5.0 x4が約1.5万円くらい買える時代が来るかもしれません。
「PCIe 5.0」対応SSDの将来について
(写真はMAP1803A:快科技 より)
個人的に期待しているPCIe 5.0対応SSDコントローラが「MAP1802」です。
中華ハイエンドSSDで猛威を振るう「MAP1602」のGen5版に位置づけられ、最大14800 MB/sのスループット(インターフェイス速度は4800 MT/s)、最大350万IOPSのランダムアクセス性能をアピールします。
製造プロセスは不明ですが、パッケージサイズの9 x 13 mmから推測するに6~7 nm級ではないかと思います。
省電力性の観点では、Silicon Motion製「SM2508」を挙げられます。
TSMC 6 nmプロセスで製造され、最大14500 MB/sのスループット(インターフェイス速度は3600 MT/s)、最大250万IOPSのランダムアクセス性能をアピールします。
パッケージサイズは15 x 15 mmで、MAP1802より大きいです。
ランダムを含めた純粋なパフォーマンスでMAP1802、ヒートシンクなしで使える程度に省エネ性ならSM2508が有望に見えます。
分解後の後片付けについて
粉々になったサーマルコンパウンドを元に戻すのは不可能だったので、熱伝導率が高そうな別売りのサーマルパッドに置き換えました。
冷やすべきコンポーネントのパッケージサイズに合わせて、ハサミでサーマルパッドを切り出します。
裏面のNANDメモリも忘れずに。
サーマルパッドが圧力で伸びてしまい、少しはみ出ていますが実用上の問題は無さそうです。
動作チェックも無事クリア。むしろ、標準サーマルパッドよりランダムアクセス速度が改善しています。
NVMe SSDのおすすめレビュー記事
おすすめなSSDを解説
ブログの協力者にも感謝w読んでて楽しい性能でした。
他社から仕入れたLPDDR4と書かれていますが見たところMicron自社製ですよね
他社産のGen5製品を知らないのでなんとも言えませんが
最新世代製品としては微妙な印象
Gen3→Gen4程の感動はない
なんかNVMeコントローラー総じて10〜8nm系をスキップしそうな雰囲気ですね
Innogritも出すのかな?
気になる製品だったからありがたい
欲を言えばSamsungのエンタープライズ向けSSDもレビュー欲しい