Amazonで数件のVine口コミが付いている胡散臭いSSD「ORICO J10」を買ってみた。
Vine口コミだらけの商品は売れづらいですが、ORICO J10 SSDは容量1 TBで約7700円と昨今の相場では最安値クラスの安さで人気急上昇中です。
しかし極端な安さにはたいてい裏があるもの。実際に買って詳しくレビューします。
(公開:2024/8/13 | 更新:2024/8/13)
ORICO J10 SSDのスペックと仕様
ORICO J10 SSD | |||
---|---|---|---|
容量 | 1024 GB | 2048 GB | 4096 GB |
インターフェイス | PCIe 3.0 x4 (NVMe 1.4) | ||
フォームファクタ | M.2 2280(片面実装) | ||
コントローラ | 非公開 | ||
NAND | 非公開 | ||
DRAM | 非公開 | ||
SLCキャッシュ | 非公開 | ||
読込速度 シーケンシャル | 3100 MB/s | 3500 MB/s | |
書込速度 シーケンシャル | 1300 MB/s | 1900 MB/s | 1600 MB/s |
読込速度 4KBランダムアクセス | 非公開 | ||
書込速度 4KBランダムアクセス | 非公開 | ||
消費電力(最大) | 非公開 | ||
消費電力(アイドル) | 非公開 | ||
TBW 書き込み耐性 | 300 TB | 600 TB | 1200 TB |
MTBF 平均故障間隔 | 非公開 | ||
保証 | 5年 | ||
MSRP | $ 56 | $ 130 | $ 200 |
参考価格 2024/8時点 | 7699 円 | 未発売 | 未発売 |
GB単価 | 7.5 円 | – | – |
「ORICO J10 SSD」のスペックを、ORICOの公式サイトから抜粋してまとめました(※2024年8月時点の情報にもとづく)。
はい・・・ものの見事に何も無いです。最大3500 MB/sのシーケンシャル性能と、容量の割にずいぶんと控えめな書き込み保証値(TBW)をアピールしています。
もっぱらPCIe 3.0世代のNVMe SSDでトップクラスに安い価格設定が最大の強みです。容量1 TBで約7700円なんて、円安とNANDの減産で値上がり傾向のSSD市場ではあまり見かけない安さです。
SSD | 500 GB | 1 TB | 2 TB |
---|---|---|---|
ORICO J10 | – | 300 TBW | 600 TBW |
KIOXIA EXCERIA PRO (WD Blue SN5000:レビュー) | – | 400 TBW | 800 TBW |
CFD SFT6000e (CFD SFT6000e:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
HIKSEMI FUTURE SSD (HIKSEMI FUTURE SSD:レビュー) | – | 1800 TBW | 3600 TBW |
SSD | 500 GB | 1 TB | 2 TB |
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KIOXIA EXCERIA PRO (WD Blue SN5000:レビュー) | – | 400 TBW | 800 TBW |
WD Blue SN5000 (WD Blue SN5000:レビュー) | – | 600 TBW | 900 TBW |
KIOXIA EXCERIA PLUS G3 (KIOXIA EXCERIA G3 PLUS:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
CFD SFT6000e (CFD SFT6000e:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 990 PRO (990 PRO:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 980 PRO (980 PRO:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Solidigm P44 Pro (Solidigm P44 Pro:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
Crucial P5 Plus (Crucial P5 Plus:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Lexar NM790 (Lexar NM790:レビュー) | – | 1000 TBW | 1500 TBW |
HIKSEMI FUTURE SSD (HIKSEMI FUTURE SSD:レビュー) | – | 1800 TBW | 3600 TBW |
SK Hynix Gold P31 (SK Hynix Gold P31:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
WD_BLACK SN770 (WD_BLACK SN770:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
KIOXIA EXCERIA PLUS G2 (KIOXIA EXCERIA G2 PLUS:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
KIOXIA EXCERIA G2 (KIOXIA EXCERIA G2:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
WD Blue SN570 (WD Blue SN570 NVMe:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | – |
Crucial MX500 (Crucial MX500:レビュー) | 180 TBW | 360 TBW | 700 TBW |
FireCuda 530 (FireCuda 530:レビュー) | 640 TBW | 1275 TBW | 2550 TBW |
WD Black SN850 (SN850:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
書き込み保証値(TBW)はかなり控えめな数値です。平均の半分しかないため、「QLC NAND(4-bit MLC NAND)」を使っている可能性を疑います。
過去の傾向からして容量1 TBで600 TBW前後ならTLC NAND、半分の300 TBW前後だと高確率でQLC NANDです。
- 普通に使った場合:約16.4年
(1日あたり平均50 GBの書き込みを想定) - 毎日AAAゲームをDLする:約8.2年
(1日あたり平均100 GBの書き込みを想定) - 毎日一眼レフの写真を入れる:約3.3年
(1日あたり平均250 GBの書き込みを想定) - 毎日一眼レフの4K素材を入れる:約0.8年
(1日あたり平均1000 GBの書き込みを想定)
ただし、平均の半分しか無くても一般的に十分すぎる保証値です。
300 TBWなら普通の使い方で約16年も持つ計算になり、毎日AAAゲームを1本ダウンロードする過酷な使い方でも8年くらい耐えられる試算に。
そもそも激安NVMe SSDを買うユーザー層は耐久性をそれほど必要としない傾向があるから、300 TBWでも余裕です。
ライバル製品と価格設定の比較
PCIe 3.0対応のNVMe SSDと価格を比較したグラフです。
2024年8月時点、文句なしに最安値クラスに位置します。それにしてもPCIe 3.0対応SSDも信じられないほど値上げしていて驚きました。
2023年頃はEXCERIA G2の1 TBが7500円前後で買えた記憶がありますが、2024年の今は1万円を超えています。
容量1 TBが7699円から買えるORICO J10に人気が集まるのも納得です。
ORICO J10 SSDを開封レビュー
パッケージデザイン & 開封
激安品にあまり見えないパッケージデザインです。価格は安くても、それっぽいパッケージで安心感を演出します。
今回レビューで使うサンプルはAmazon.co.jpにて約7700円で購入しました。
パッケージの表面と裏面どちらも、販売代理店のシールが見当たりません。
製品サポートを受けるときは、Amazonを経由して販売元の「ORICO_Direct_Store(→ ストアフロント)」と直接やり取りする形になります。
- M.2スロット用の小ネジ
- サーマルパッド(2枚)
- M.2ヒートシンク
- 説明書
本体だけかと思ったら、M.2用の小ネジやヒートシンクが付属します。
2枚のヒートシンクで両面から挟んで徹底的に冷やすタイプです。
基板コンポーネント
コンポーネントを覆い隠すように、ラベルシールが貼ってあります。
マットブラック塗装のプリント基板に、オーシャンブルーのシールで高級感が感じられます。怪しい雰囲気も(気持ち程度ですが)軽減される気が・・・。
裏面にコンポーネントはありません。各国の認証ロゴや、交換保証(RMA)申請時に必要となるシリアルナンバー(S/N)が記載されています。
表面だけにコンポーネントが実装されているシンプルな片面実装のNVMe SSDです。取り付けスペースが狭いノートパソコンや、PS5の増設ストレージで問題なく使えます。
ラベルシールを剥がして、実装部品(コンポーネント)を目視で確認します。
- コントローラ:Realtek RTS5766DL
RTS5766DL KB202P2 GK29AA - DRAM:なし
なし - NAND:Intel 144層 3D QLC NAND
PF29F04T2ANCQK1 WM2403940808YT
SSDコントローラに「Realtek RTS5766DL」、NANDメモリにIntel製「144層 3D QLC NAND」を搭載します。
DRAMキャッシュは搭載せず、HMB(ホストメモリバッファ※)方式で代用するDRAMレスSSDです。
※メインメモリのごく一部を拝借して、DRAMキャッシュの代替に使う方式。「DRAMレス」と呼ばれます。
SSDコントローラは2020年から生産が始まった、Realtek製「RTS5766DL」を搭載。
CFD SFT6000eなど、ローエンドからミドルクラスのNVMe SSDでたまに採用されています。
サウンドチップやNIC(LANチップ)で知名度こそ高いRealtek(カニマーク)ですが、残念ながらSSDコントローラの性能はまだまだ未熟です。
しかも「RTS5766DL」は2020年頃から出荷が始まった古いコントローラで、時代遅れな性能のARM 32-bitコア(型番不明)を内蔵します。
最大で4チャネルまでNANDメモリを束ねられ、最大1200 MT/sのスループットに対応します。言うまでもなく貧弱なスペックですが、PCIe 3.0 x4を満たすだけなら十分です。
NANDメモリは「Intel製 144層 3D QLC NAND」を採用。
ただし、IntelはNANDメモリ事業を米国カリフォルニア州に拠点を置くSolidigm社(韓国SK Hynix子会社)に譲渡しているため、実質的にSK Hynix製のNANDメモリと言ったほうが実態に近いです。
当時(2021年)の技術資料によると、48 + 48 + 48層の3デッキ構造で144層まで積み上げた、高コスト体質なNANDメモリだったようです。記憶密度は12.86 Gbit/mm²と記録が残っています。
- Intel 144層 3D QLC NAND:12.86 Gbit/mm²
- YMTC 128層 3D TLC NAND:8.48 Gbit/mm²
- SK Hynix 128層 3D TLC NAND:8.13 Gbit/mm²
- Micron 128層 3D TLC NAND:7.76 Gbit/mm²
- KIOXIA 112層 3D TLC NAND:7.08 Gbit/mm²
- Samsung 128層 3D TLC NAND:6.91 Gbit/mm²
高コストなトリプルデッキ構造で記憶密度の高さは今でも上位です。
インターフェイス速度は1200 MT/sで遅いものの、PCIe 3.0世代にとって十分です。
今回のORICO J10では、記憶密度が1024 Gb(= 128 GB)のチップを4枚重ね、かつ2個使って合計8192 Gb(= 1024 GB)の容量を構成します。
ORICO J10 SSDの性能をベンチマーク
テスト環境を紹介
テスト環境 「ちもろぐ専用:SSDベンチ機」 | ||
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CPU | Core i7 13700K16コア24スレッド(TDP:125 W) | |
CPUクーラー | 虎徹Mark III120 mmサイドフロー空冷 | |
マザーボード | BIOSTARZ790 Valkyrie | |
メモリ | DDR5-6000 16GB x2G.Skill Trident Z5 Neo RGB | |
グラフィックボード | RTX 4060 Ti | |
テスト対象 | ORICO J10 SSD 1TB | |
システムSSD | HIKSEMI FUTURE70-02TB 2TB | |
電源ユニット | 850 WCorsair HX850i 2021 | |
OS | Windows 11 Pro検証時のバージョンは「22H2」 | |
ドライバ | NVIDIA 536.40 WHQL | |
ディスプレイ | 3840 x 2160@160 Hz使用モデル「Innocn 27M2V」 |
SSDベンチマークに使用する専用の機材です。
最大15.76 GB/sまで対応できるPCIe 5.0世代の「Intel Z790」マザーボードに、シングルスレッド性能が非常に速い「Core i7 13700K」を搭載。
Ryzen 9 5950X超えのマルチスレッド性能と、現行最強クラスのシングルスレッド性能で、最大14000 MB/s超えの次世代Gen 5 SSDも難なく処理できます。
原則として、CPUに直結したM.2スロットまたはPCIeスロットにテスト対象のSSDを接続します。チップセット経由だと応答速度が低下※してしまい、SSD本来の性能を検証できません。
ベンチ機に採用した「Z790 Valkyrie」は、PCIe 5.0対応のM.2スロットを1本、PCIeスロットを2本備えます。複数の爆速SSDをCPUに直結できる稀有なマザーボードです。
※チップセット経由による性能低下はAMDチップセットだと緩和されますが、CPU直結時と比較して性能が下がる傾向自体は同じです。
SSDを熱から保護するサーマルスロットリングによって性能に悪影響が出ないように、以下のような手段でテスト対象のSSDを冷却しながらベンチマークを行います。
- M.2ヒートシンク「Thermalright HR-09」を装着
- 120 mmケースファンを至近距離に設置して冷却
SSDを徹底的に冷やして、サーマルスロットリングがテスト結果に影響を与えないように対策しています。
なお、10分間の温度テスト時のみM.2ヒートシンクとケースファンを取り除いて、温度の上昇を観察します。
SSDドライブ情報と利用できる容量
- インターフェース:NVM Express
- 対応転送モード:PCIe 3.0 x4
- 対応規格:NVM Express 1.4
- 対応機能:S.M.A.R.T. / TRIM / VolatileWriteCache
「ORICO J10 SSD」の初期ステータスをCrystal Disk Infoでチェック。
問題なく「PCIe 3.0 x4」接続で認識されています。PCIe 3.0 x4接続のSSDをレビューするのは久々です。
フォーマット時の初期容量は「953 GB」でした。
搭載されているすべてのNANDメモリを、実際に使えるユーザー領域に割り当ててるようです。大手メーカー製の定番SSDよりも、使える容量が24 GB多くて得した気分です。
Crystal Disk Mark 8
「Crystak Disk Mark 8」は、日本どころか世界で一番有名と言っても過言ではない、定番のSSDベンチマークソフトです。性能の変化をチェックするため、初期設定の「1 GiB」に加え、最大設定の「64 GiB」もテストします。
Crystal Disk Mark 8の結果※クリックで画像拡大します | |
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テストサイズ:1 GiB(MB/s) | テストサイズ:64 GiB(MB/s) |
テストサイズ:1 GiB(レイテンシ) | テストサイズ:64 GiB(レイテンシ) |
シーケンシャル読み込みが約3270 MB/s、シーケンシャル書き込みが約1960 MB/sで、どちらもメーカー公称値をきっちり上回ります。
テストサイズを64 GiBに引き上げると、シーケンシャル性能はほぼ維持しますが、ランダム性能(4K Q1T1)は悪化する傾向です。
DRAMレスSSDでよくある性能特性で、実用上の問題は生じません。
体感性能や実用性能に影響が大きい、4KBランダムアクセスのレイテンシ(応答時間)の比較グラフです。
ORICO J10は56.1 μsで、PCIe 3.0世代のNVMe SSDとして意外にもトップクラス。
書き込みレイテンシはワースト1位です。
ATTO Disk Benchmark
ATTO Disk Benchmarkは、テストファイルを小刻みに分割してSSDのスループット(シーケンシャル性能)を測定し、SSDがピーク性能を出しやすいファイルサイズを探るベンチマークソフトです。
ベンチマーク結果からSSDの評価が非常に分かりにくいので、表計算ソフトを使ってグラフ化して他のSSDと比較します。
小さいファイルサイズ(512 Bから8 KB)領域でワースト争いです。同じくRealtekコントローラのCFD SFT6000eより多少マシな程度。
書き込み性能はすべてのテスト領域で最下位を突っ走ります。ピーク速度に達したあとの性能は安定しています。
ORICO J10 SSDを実運用で試す
FF14のロード時間を比較
FF14:暁月のフィナーレ(ベンチマークモード)で、ゲームロード時間を測定します。ベンチマーク終了後に、ログファイルからロード時間を読み取ります。
ORICO J10 SSDのロード時間は「7.02秒」、ワーストグループ(7秒クラス)の仲間入りを果たします。
FPSタイトルのロード時間を比較
PCMark 10 Professional Edition(有償版)で利用できる機能を使って、「Battlefield V」「Call of Duty Black Ops IV」「Overwatch 2」のロード時間を測定します。
なお、測定されたロード時間は各スコアから逆算された概算値(ざっくりとした予想値)です。実際のロードとは異なっているので注意してください。
CFD SFT6000eと並んで、ORICO J10 SSDもワーストクラスのゲームロード時間です。
「原神」のロード時間を比較
大人気RPGタイトル「原神」のロード時間を実際にテストします。
- 初回ロード(データロード0%からクリック可能になるまで)
- 初回ロード(クリックしてから操作可能になるまで)
- モンドからフォンテーヌへワープ
- フォンテーヌからスメールシティへワープ
- スメールシティから稲妻城へワープ
- 稲妻城からモンドへワープ
上記6パターンを録画ソフト(120 fps)を使って記録し、動画編集ソフトに取り込んでフレーム単位でロード時間を比較しました。
ORICO J10 SSDは「51.15秒」でした。
各シーン別のロード時間(※グラフの左から順番にパターン1~6並び)です。
初回ロード(#1~#2)でしか目立った差がなく、ファストトラベル(ワープ時)のパターンだとほぼ同等のロード時間でした。
パターン6(稲妻城からモンドへワープ)は、すでに読み込んだマップが大量に含まれるため、基本的に大きな時間差はつきません。
DirectStorageのロード時間を比較
Windows 11はゲームのロード時間を大幅に短縮する「DirectStorage API」に対応しています。
SSDに保存されているゲームデータをメインメモリに送り込み、メインメモリからVRAMに流し込みます。入ってきたデータをGPUの凄まじい演算性能で展開(解凍)し、ゲームロード時間を短縮する技術です。
NVMe SSDからメインメモリにデータを転送する部分で、SSDのシーケンシャル性能が重視されます。SATA SSDよりNVMe SSD、同じNVMe SSDでもPCIe 4.0やPCIe 5.0の方が有利になる可能性が高いです。
CPUで展開する場合はCPUの演算性能がボトルネックになってしまい、SSDの性能差がそれほど確認できません。
GPU展開(RTX 4060 Tiで展開)では、シーケンシャル性能に比例した性能差がハッキリと出ます。
ORICO J10 SSDは0.45秒(9.28 GB/s)で、PCIe 4.0世代(最大7000 MB/s級)との性能差を見せつけられる展開に。
とはいえ絶対値で見るとコンマ秒レベルの差しかなく、実用上のロード時間は実質的にほぼ同じでしょう。
ファイルコピーにかかった時間
Windows標準のコピペ機能と目視によるストップウォッチでは正確性に欠けるので、ファイルコピーに便利なフリーソフト「DiskBench」を使って、ファイルコピーに掛かった時間を計測します。
- ゲームフォルダ(容量85.3 GB / 81424個)
- 写真ファイル(容量113 GB / 5012枚)
- 圧縮データ(容量256 GB / zipを2個)
以上3つの素材をファイルコピーテストに使います。ソース(基準となるストレージ)は安定した性能に定評がある「Optane SSD P5810X 400GB」です。
書き込み(Optane P5810X → ORICO J10 SSD)のコピペ時間です。
写真フォルダとゲームフォルダはシーケンシャル性能どおりのコピペ時間ですが、Zipファイル(256 GB)ではダントツのワースト1位を記録します。
pSLCキャッシュが切れたあと、書き込み性能が非常に遅くなると予想できます。
次は読み込み(ORICO J10 SSD → Optane P5810X)のコピペ時間です。
大きなファイルの読み出しはシーケンシャル性能が反映されやすいので、他のPCIe 4.0世代に大きく劣る速度です。
写真フォルダとゲームフォルダは多少マシになりますが、他のSSDと比較すると見劣ります。
比較グラフをよく見ると、シーケンシャル性能の割にコピー時間が遅いSSDがポツポツと見られます。
なぜシーケンシャル性能の割に遅いSSDが出てしまうのか。理由は単に「間髪入れずに次のコピーテストを実行」しているからです。
- Zip(256 GB)→ 写真(113 GB)→ ゲーム(85.3 GB)の順番
SSDは書き込み性能を稼ぐためにSLCキャッシュを使って耐える製品が多いですが、このSLCキャッシュの回復が遅いと・・・次のコピーテストに間に合わずTLC NAND本来の性能でテストが実行されます。
SLCキャッシュをスピーディーに再展開できるかかどうかも実力の内と(筆者は)考えているので、コピーテストは間髪入れず次から次へと実行します。
Premiere Pro CC:4K動画プレビュー
動画編集ソフト「Adobe Premiere Pro CC」に、4K動画素材(448 MB/s)と2K動画素材(175 MB/s)を読み込み、2つの動画を同時にプレビューします。
Premiere Proの動画素材プレビューは、素材を配置しているストレージの性能に影響を受けやすく、SSDの性能が不足すると「コマ落ち」が発生しやすいです。
Premiere Proの標準機能「コマ落ちインジケータ」で落としたフレームを測定し、動画素材の総フレーム数で割ってドロップフレーム率を計算します。
4K + 2K動画プレビューのドロップフレーム率は約24.7%です。
シーケンシャル性能とランダムアクセス性能の両方が要求される、割と重たいワークロードです。PCIe 3.0クラスの中でも性能があまり良くないORICO J10だと、これくらいが妥当な結果でしょう。
4K動画プレビューのドロップフレーム率は28.1%です。
本テストを完封できるSSDはもっぱら中華ハイエンドシリーズとCrucial T500に限られます。PCIe 3.0世代かつランダム性能が遅いORICO J10 SSDには、荷が重たい処理です。
PCMark 10:SSDの実用性能
PCMark 10 Professional Editionの「Full System Drive Benchmark」を使って、SSDの実際の使用シーンにおける性能を測定します。
- PCMark 10(UL Benchmarks)
Full System Drive Benchmarkには23種類のテストパターン(Trace)が収録されており、パターンごとの転送速度や応答時間を測定し、SSDの実用性能をスコア化します。
なお、SSDは空き容量によって性能が大きく変化する可能性があるため、空き容量100%だけでなく容量を90%埋めた場合(= 空き容量10%)のテストも行いました(※2回:連続で約2時間のワークロード)。
ORICO J10 SSDのストレージスコア(空き容量10%時)は「1034点」です。空き容量100%なら1938点で、空き容量による性能低下は驚愕の約47%です。
空き容量が減ったあとに、性能が半分も低下するSSDは過去のレビューで例がなかった気がします。応答時間(レイテンシ)も89 μsから167 μsへ、ほぼ2倍に跳ね上がっています。
PCMark 10ストレージテストの細かい内訳を確認します。
Adobe系スコアとファイルコピースコアで大幅な性能低下が見られ、ゲームロードとOfficeソフトは軽微な性能低下で済んでいます。
読み出しワークロードだけなら問題が出づらく、書き込みを含むワークロードで性能が劣化しやすい傾向です。
実用スコアの内訳 Full System Drive Benchmark | |
---|---|
Adobe Score | Adobe Acorbatの起動 Adobe After Effectsの起動 Adobe Illustratorの起動 Adobe Premiere Proの起動 Adobe Lightroomの起動 Adobe Photoshopの起動 Adobe After Effets Adobe Illustrator Adobe InDesign Adobe Photoshop(重たい設定) Adobe Photoshop(軽量設定) |
Game Score | Battlefield Vの起動(メインメニューまで) Call of Duty Black Ops 4の起動(メインメニューまで) Overwatchの起動(メインメニューまで) |
Copy Score | 合計20 GBのISOファイルをコピー(書き込み) ISOファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) ISOファイルをコピー(読み込み) 合計2.37 GBのJPEGファイルをコピー(書き込み) JPEGファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) JPEGファイルをコピー(読み込み) |
Office Score | Windows 10の起動 Microsoft Excel Microsoft PowerPoint |
15分間の連続書き込みテスト
1 MBのテストファイルを15分間に渡って、ただひたすら連続して書き込み続ける過酷な検証方法です。
一般向けに販売されているほとんどのSSDは、数分ほど連続して書き込むだけで「素の性能」を明らかにできます。SLCキャッシュの有無やサイズ、キャッシュが切れた後の性能低下などなど。
15分の連続書き込みテストによって、SSDのいろいろな挙動が判明します。
テスト開始から約250 GBでpSLCキャッシュが終了、その後テストが終了する15分後まで平均89 MB/sの書き込み性能を維持します。
3.5インチSATA HDDよりも遅いです。ORICO J10 SSDのキャッシュ構造をさらに深堀りします。
ブロックファイルを約900 GB書き込むと、ORICO J10 SSDのシンプルな3段階キャッシュ構造が見えてきます。
グラフの中身をざっくりと解説すると
- pSLCキャッシュで爆速(約250 GBまで)
- pSLCキャッシュが完全に枯渇してQLC NAND本来の性能に
- わずかにpSLCキャッシュが回復して混合モードに移行
展開できるpSLCキャッシュは約250 GBで、最近のNVMe SSDとしては平均的です。
しかし、いったんpSLCキャッシュが切れると「地獄」が始まります。pSLCキャッシュが切れてから約1分にわたって、平均30 MB/sしか出ません。
一時的にSSDはビジー状態(応答不能)に陥ってしまい、ときどき書き込みが停止するシーンも(0~8 MB/s程度)。
間違いなくQLC NANDに見られる性能特性です。Crucial P3 Plusも似たような傾向はあり、キャッシュが切れてから数秒ほど性能が停止します。
しばらく待っていると少しずつpSLCキャッシュが回復し始め、QLCとpSLCキャッシュの混合モードへ移行するようです。移行したあとでも平均89 MB/sで・・・遅い。
なお、pSLCキャッシュの再展開は遅いです。最後のコピペから5分ほど経過しても、pSLCキャッシュは全開まで回復しません。
TRIM/GCコマンドを送れば強制的に復活させられますが、何度も何度もコマンドを送るのは面倒です。
時間あたりの書き込み量を比較したグラフです。
ORICO J10 SSDは15分で約325 GBを書き込みます。空き容量を90%まで埋めるのに、なんと2時間かかりました。
同じPCIe 3.0世代のEXCERIA G2と比較して、半分程度の持続書き込み性能です。
SSDの動作温度をテスト
高負荷時のセンサー温度
- ドライブ温度:NANDメモリの温度
モニターソフト「HWiNFO」で表示できる温度センサーは1つだけです。SSDコントローラの温度をソフト読みする方法はありません。
M.2ヒートシンクを取り外し、ケースファンによるエアフローを一切与えない環境で、SSDが激しく発熱しやすい「連続書き込みテスト」を10分間実行しました。
グラフを見てのとおり、テストの途中でpSLCキャッシュが枯渇してしまい、サーマルスロットリングと無関係に書き込み性能が大幅に下がります。
サーモグラフィーで表面温度を確認
テスト開始から約8~9分経過したあたりで、サーモグラフィーカメラを使ってSSDの表面温度を撮影します。
- NANDメモリ(左):46 ~ 47℃
- SSDコントローラ(右):59 ~ 60℃
- コントローラ周辺(右):68 ~ 70℃
NANDメモリ側が約47℃ほど、SSDコントローラ側で約60℃まで上昇します。
ソフト読みセンサー(HWiNFO)とのズレはNAND側で最大7℃ほど、コントローラ側で最大20℃もの誤差です。
おそらく、ORICO J10の内蔵温度センサーは機能していません。40℃の固定値を表示しているだけに見えます。
不幸中の幸いは・・・性能が悪いがゆえにサーマルスロットリングを発動する必要がないくらい、発熱が少ないです。
「ヒートシンクは必要ですか?」と聞かれたら、不要です。
付属品のヒートシンクか、マザーボード付属のM.2ヒートシンクを使うくらいで十分。心配ならケースファンでゆるく風を当てると確実です。
まとめ:性能は二の次、予算最優先・・・ならアリ
「ORICO J10 SSD」のデメリットと弱点
- シーケンシャル性能遅め(PCIe 3.0)
- DRAMキャッシュなし
- 遅いランダムアクセス性能
- 空き容量による性能変化が大きい
- とても遅い書き込み性能
- ゲームロード時間が遅め
- 搭載パーツは「非公開」
- 温度センサーが機能していない
- コスパは良くない
「ORICO J10 SSD」のメリットと強み
- 高負荷時の温度が低い
(性能が悪いから発熱しづらい) - 十分なpSLCキャッシュ(約250 GB)
- 十分な耐久性(300 ~ 1200 TBW)
- 大容量モデルあり(最大4 TB)
- 5年保証
- 価格がとても安い
「ORICO J10 SSD」は性能やコストパフォーマンスよりも、とにかく出費を抑えたい予算最優先のユーザーにうれしい選択肢かもしれません。
ひどい性能と弱点を把握したうえで、多少の問題点に目をつむれるなら、ORICO J10を選択肢に入れてみてはどうでしょうか?
もちろん、ぼくはORICO J10を選択肢に入れる気はサラサラ無いです。あと2000円足して「EXCERIA G2」を買ったほうが安心できます。
それに現時点で価格競争力があったとしても、定番のエントリーモデルが元の値段に戻ってしまえば、ORICO J10は自然と淘汰される運命です。
以上「ORICO J10 SSDレビュー:売れ筋ランク急上昇の激安NVMe SSDを買ってみたら・・・」でした。
「ORICO J10 SSD」を入手する
レビュー時点で1 TB版が約7700円(タイムセール価格)です。PCIe 3.0 x4対応のNVMe SSDとして最安値クラス。
ただし何度も言うように「価格だけ」が取り柄のSSDで、快適さを求めて買うのはおすすめしません。
万人向けのエントリーSSDは「EXCERIA G2」です。
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自社の外付けケースと一緒に買ってね的な製品だから性能は二の次なのかもね
ORICOの外付けSSDケース、M.2とSATA版を買ってみたものの・・・相性が出やすい傾向でした。外付け前提で買うのも微妙な気が・・・
KIOXIA EXCERIA PROの記事でも書いたけど、記事末尾のアルファベット評価の基準は何?
この性能だとC、良くてB(プラスがつかない)と思ったんだが…
というかC以下の評価になった製品を見たことがない。
時折このサイト見てますが
S……迷ったらこれ。購入時の第一候補
A+……いい製品。購入時の選択肢の一つ
A……セール等で安く入手できるなら選択肢に入らない事もない製品
B+……この製品買うなら他の製品を買う。安いのが唯一の取柄
B……買わない
今回は5段階評価で言うと4なので妥当なとこですね
Cとか行く(であろう)製品はレビューするまでもなく購入対象に上らないような製品なんでしょう
昔あったColorfulとかKingナンタラのすぐぶっ壊れるSSDならC、D評価いけますよ多分w
5段階評価って書き方だと2でした……
解説ありがとう
でも実は、アルファベット評価のすぐ下をよく見ると5つ星が置かれていて、
S……5個
A+……4個半
A……4個
B+……3個半
B……3個
で表示されている
だから星2個(C?)や星1個(D?)の場合もあり得るのかと思ってしまうんだよ
さらに突っ込むとすれば、5段階評価をしたいのならプラス記号なんて使わないで、単純にS・A・B・C・Dだけ使って表記すればいいのにとも思う
こちらこそ変に攻撃的なコメントになって申し訳ないです
私が書いた評価云々もやかもち氏の正式な案内とかではなく
私の経験則なので偉そうな事は言うべきではないですね
基準の案内がないのは確かに不便ではあります
2024年8月18日 07:40のコメントへの返事
説明不足と早とちりをしてごめん
「5段階評価をしたいのなら~」のくだりはコメントの人ではなく、この記事の著者やかもち氏に対するものだった
また、このサイトがきっちり「5段階」で評価をしている証拠もないのに、それ前提で話を広げてしまったのも申し訳ない
あとはやかもち氏の意見を直接伺いたい
別に元々5段階評価しようとしてた訳ではなくて
A評価の商品をレビューした際に
性能向上を見込んでSを設定したら滅多に到達する製品がなくて+使い始めただけですからね
+使わないと殆どAになるので
さらに突っ込むとCやDの場合も有り得るけどレビューの俎上にまだ上ってこないだけという話です。SSDはC、Dだけじゃなく前述の通りSもないですから
「絶対的な測定値に拘る」のがここの特色なので論文なりなんなり引っ張ってきて
この商品が「B+」ではなく「C」ということを証明できるようなら納得もできますが個人的な主観でどうこう言うのはいちゃもんかと
細けえどうでもいいじゃん読んで自分で判断しなよ。
言語学者かよ。
同じSSDでも、PCIE3.0と4.0やcpu直結のM.2スロットとチップセット経由のM.2スロットの場合の性能差が気になります。実用上は無視できる程度なのでしょうか。ryzen環境で主な用途はゲームとフルHD画像、動画返信です。知識がある方、ご教授ください。
B550使ってます
同じSSDであれば接続がPCIe3.0と4.0、直結とチップセットでは普段使いだと大差ないです。
ただ、チップセットだとランダムアクセスは遅くなるので、念のためCPU直結にOSを入れるようにはしています。
通常のm.2スロットがすでに埋まってて、PCIe3.0 x1変換とかUSB 3.2 Gen2(x1)エンクロージャーとかあたりに気兼ねなく刺せると思えば意外とありかも?
それにしたってSATA繋いだ方がマシなケースあるのはだいぶ厳しいけども
現在10999円になったことで何の美点もない製品に
非常に参考になりました。
やっぱりM.2SSDで馴染みのないメーカーの安い製品は博打要素が強すぎですね……。
M.2 SSD系はAmazonレビューを見ても良く1GBの通信テストしかしてないスコアを貼って「速度も問題ない」みたいな評価してる人が多すぎて闇が深いですよね……。
「あのOLICOがSSD!?安いだけだろwww」と思ってたけど案の定か。まあ安く買えるのはいいこと。