NANDメモリ製造メーカーの減産や1ドル160円を超える苛烈な円安により、2TBのSSDを買えた金額で1TBしか買えない時代に。
そんな絶望の中、ふとAmazonを眺めていると「Fikwot FN960」と名乗るハイエンドSSDが目に入ります。容量2TBで1.2万円台、最近にしては安いのでさっそく買って詳しくベンチマークします。
(公開:2024/7/10 | 更新:2024/7/10)
Fikwot FN960のスペックと仕様
Fikwot FN960 スペックをざっくりと解説 | |||
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容量 | 1000 GB | 2000 GB | 4000 GB |
インターフェイス | PCIe 4.0 x4 (NVMe 1.4) | ||
フォームファクタ | M.2 2280(片面実装) | ||
コントローラ | 非公開 | ||
NAND | 3D TLC NAND フラッシュ | ||
DRAM | なし | ||
SLCキャッシュ | 非公開 | ||
読込速度 シーケンシャル | 5000 MB/s | 4800 MB/s | 5000 MB/s |
書込速度 シーケンシャル | 4500 MB/s | 4200 MB/s | 4500 MB/s |
読込速度 4KBランダムアクセス | 非公開 | ||
書込速度 4KBランダムアクセス | 非公開 | ||
消費電力(最大) | 非公開 | ||
消費電力(アイドル) | 非公開 | ||
TBW 書き込み耐性 | 700 TB | 1400 TB | 2800 TB |
MTBF 平均故障間隔 | 非公開 | ||
保証 | 5年 | ||
MSRP | $ 68 | $ 106 | $ 204 |
参考価格 2024/7時点 | 9680 円 | 15980 円 | 33580 円 |
GB単価 | 9.7 円 | 8.0 円 | 8.4 円 |
「Fikwot FN960」のスペックを、Amazonの商品ページからまとめました。
怪しい中華SSDらしく、基本スペックの大部分が非公開です。NANDメモリも「3D TLC NAND フラッシュ」と商品画像に記載があるだけで、製造メーカーやNANDの積層数は不明。
シーケンシャル性能は最大5000 MB/sをアピールします。PCIe 4.0世代で当たり前になってきた7000 MB/sから見てちょっと見劣りするものの、過去のレビューを見る限り実用上の性能はたいてい大差ないです。
SSD | 500 GB | 1 TB | 2 TB |
---|---|---|---|
Fikwot FN960 | – | 700 TBW | 1400 TBW |
Samsung 980 PRO (980 PRO:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Lexar NM790 (Lexar NM790:レビュー) | – | 1000 TBW | 1500 TBW |
HIKSEMI FUTURE SSD (HIKSEMI FUTURE SSD:レビュー) | – | 1800 TBW | 3600 TBW |
SSD | 500 GB | 1 TB | 2 TB |
---|---|---|---|
KIOXIA EXCERIA PLUS G3 (KIOXIA EXCERIA G3 PLUS:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
CFD SFT6000e (CFD SFT6000e:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 990 PRO (990 PRO:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 980 PRO (980 PRO:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Solidigm P44 Pro (Solidigm P44 Pro:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
Crucial P5 Plus (Crucial P5 Plus:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Lexar NM790 (Lexar NM790:レビュー) | – | 1000 TBW | 1500 TBW |
HIKSEMI FUTURE SSD (HIKSEMI FUTURE SSD:レビュー) | – | 1800 TBW | 3600 TBW |
SK Hynix Gold P31 (SK Hynix Gold P31:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
WD_BLACK SN770 (WD_BLACK SN770:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
KIOXIA EXCERIA PLUS G2 (KIOXIA EXCERIA G2 PLUS:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
KIOXIA EXCERIA G2 (KIOXIA EXCERIA G2:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
WD Blue SN570 (WD Blue SN570 NVMe:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | – |
Crucial MX500 (Crucial MX500:レビュー) | 180 TBW | 360 TBW | 700 TBW |
FireCuda 530 (FireCuda 530:レビュー) | 640 TBW | 1275 TBW | 2550 TBW |
WD Black SN850 (SN850:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
書き込み保証値(TBW)は平均的な数値です。大手メーカー製のブランド品より少しだけ多めで、競合する可能性がある他の中華SSDより低いです。
今回レビュー用に購入した2 TB版の場合、書き込み保証値は1400 TBです。仮にゲーミングPCでシステムストレージとして使った場合、過剰に見積もっても1日あたり平均50 GBの書き込みです。
1400 TBWを50 GB(0.050 TB)で割ると28000日で、耐久値を使い切るのに約77年もかかる計算に。
- 普通に使った場合:約76.7年
(1日あたり平均50 GBの書き込みを想定) - 毎日AAAゲームをDLする:約38.4年
(1日あたり平均100 GBの書き込みを想定) - 毎日一眼レフの写真を入れる:約15.3年
(1日あたり平均250 GBの書き込みを想定) - 毎日一眼レフの4K素材を入れる:約3.8年
(1日あたり平均1000 GBの書き込みを想定)
もっとも過酷な想定(1日あたり1000 GB)だと約3.8年で1400 TBWを使い切りますが、大多数の一般人は普通に使います。ほとんどの場合、5年間のメーカー保証を使い切れないでしょう。
ライバル製品と価格設定の比較
PCIe 4.0対応のハイエンドNVMe SSDと価格を比較したグラフです。
2024年7月時点、同等スペック比較ではもっとも安い価格設定に見えます。似たような中華SSDで人気がある「Acer Predator GM7」や「Lexar NM790」より1段安いです。
(2024年5月:購入したときの価格)
ふだんの定価が約1万円(1 TB版)、約1.6万円(2 TB版)です。プライムデーやタイムセールで約8000円(1 TB版)、約1.3万円(2 TB版)まで値下がります。
Fikwot FN960を開封レビュー
パッケージデザイン & 開封
普通すぎて特にコメントが思いつかないパッケージデザインです。
今回レビューで使うサンプルはAmazon.co.jpにて約12500円で購入しました。
パッケージの裏表どちらも代理店のシールは貼ってないようです。パッケージの表側に5年保証と書いてあるのみ。
- 説明書
- M.2 SSD小ネジ
- 小ネジ用ドライバー
- ヒートシンク
- サーマルパッド(3枚)
価格が安い割に付属品がちょっと多めです。
M.2スロットへ固定するときに使う「小ネジ」や、アルミ製のヒートシンクとサーマルパッドが付属します。
ヒートシンクを取り付けた様子。1000円くらいで売っている別売りのヒートシンクと同程度に冷えます。エアフローがあれば、サーマルスロットリングをほぼ防げる冷却性能です。
基板コンポーネント
Fikwot FN960は最近のSSDでは珍しく、製品ラベルシールを表側に貼ってません。箱から出した時点で、真っ黒なプリント基板に実装されたコンポーネントを目視で確認できる状態でした。
裏面にコンポーネントはありません。各国の認証ロゴや、交換保証(RMA)申請時に必要となるシリアルナンバー(S/N)が記載されています。
表面だけにコンポーネントが実装されているシンプルな片面実装のNVMe SSDです。取り付けスペースが狭いノートパソコンや、PS5の増設ストレージで問題なく使えます。
- コントローラ:MaxioTech MAP1608A
AFM2H100311 2331 - DRAM:なし
- NAND:YMTC 128層 3D TLC NAND
LGLY512G09CB1 LP2339D120B
SSDコントローラにMaxioTech社の「MAP1608A」、NANDメモリに中国YMTC製「128層 3D TLC NAND(Xtacking 2.0)」を搭載します。
DRAMキャッシュは搭載せず、最大64 MBのHMB(ホストメモリバッファ)方式※で代用します。Fikwot FN960の場合、HMB容量は初期設定で40960 KB(40 MB)です。
※ホストメモリバッファ方式:メインメモリのごく一部を拝借してDRAMキャッシュの代わりに使う技術
SSDコントローラは中国産ハイエンドSSDでよく使われる「MAP1602A」の廉価バージョン「MAP1608A」コントローラを搭載。
- MAP1601A
- MAP1602A(HIKSEMIやLexarで確認)
- MAP1608A(Fikwotで初めて確認)
MaxioTechがARM Cortex-R5をベースに自社で設計開発、台湾TSMC 12 nmプロセスで製造されるシングルコアSoC内蔵のSSDコントローラです。
最大4チャネルのNANDメモリを束ねられ、各チャネルごとに最大1600 MT/sのスループット※で接続できます。ほどほど高性能なNANDメモリと組み合わせて、最大5000 MB/sのシーケンシャル性能に対応します。
※公式データシートが見当たらなかったので筆者の推測です。
中華ハイエンドSSDで有名な「MAP1602A」より一回り低いスペックですが、128層 3D TLC NANDと組み合わせる目的なら十分な性能です。
DRAMキャッシュは非対応なので、DRAMレス(HMB:ホストメモリバッファ)方式を使います。メインメモリから最大64 MBを拝借してDRAMキャッシュの代用にします。
NANDメモリは刻印から読み取れませんが、Flash IDで照合をかけると「YMTC製 128層 3D TLC NAND」と判明。検索に引っかかる刻印は「LGLY512G09CB1」です。
2つのウェハを重ね合わせて多層化を可能にする「Xtacking 2.0」技術で製造され、128層NANDメモリで最高の記録密度(8.48 Gbit/mm²)を実現します。
- YMTC 128層 3D TLC NAND:8.48 Gbit/mm²
- SK Hynix 128層 3D TLC NAND:8.13 Gbit/mm²
- Micron 128層 3D TLC NAND:7.76 Gbit/mm²
- Samsung 128層 3D TLC NAND:6.91 Gbit/mm²
今回のFikwot FN960では、記憶密度が512 Gb(= 64 GB)のチップを8枚重ね、かつ4個使って合計16384 Gb(= 2048 GB)の容量に。
ちなみに、Aliexpressで手に入る中華SSD「Fanxiang S660」や「梵想S500 Pro」で、ほぼ同じ刻印のNANDメモリが見つかっています。
FikwotはFanxiang(梵想)の日本向けブランドの可能性がありそう?
- Ch0CE0: 0x9b,0xc5,0x29,0x49,0x20,0x0,0x0 – YMTC 3dv3-128L(x2-9060) TLC 16k 1024Gb/CE 512Gb/die 4Plane/die
- Ch1CE0: 0x9b,0xc5,0x29,0x49,0x20,0x0,0x0 – YMTC 3dv3-128L(x2-9060) TLC 16k 1024Gb/CE 512Gb/die 4Plane/die
- Ch2CE0: 0x9b,0xc5,0x29,0x49,0x20,0x0,0x0 – YMTC 3dv3-128L(x2-9060) TLC 16k 1024Gb/CE 512Gb/die 4Plane/die
- Ch3CE0: 0x9b,0xc5,0x29,0x49,0x20,0x0,0x0 – YMTC 3dv3-128L(x2-9060) TLC 16k 1024Gb/CE 512Gb/die 4Plane/die
Flash IDによる照合結果で「YMTC 3dv3-128L」と表示されます。有志の調査により、「3dv3」が128層NAND、「3dv4」が232層NANDと判明しています。
Fikwot FN960の性能をベンチマーク
テスト環境を紹介
テスト環境 「ちもろぐ専用:SSDベンチ機」 | ||
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CPU | Core i7 13700K16コア24スレッド(TDP:125 W) | |
CPUクーラー | 虎徹Mark III120 mmサイドフロー空冷 | |
マザーボード | BIOSTARZ790 Valkyrie | |
メモリ | DDR5-6000 16GB x2G.Skill Trident Z5 Neo RGB | |
グラフィックボード | RTX 4060 Ti | |
テスト対象 | Fikwot FN960 2TB | |
システムSSD | HIKSEMI FUTURE70-02TB 2TB | |
電源ユニット | 850 WCorsair HX850i 2021 | |
OS | Windows 11 Pro検証時のバージョンは「22H2」 | |
ドライバ | NVIDIA 536.40 WHQL | |
ディスプレイ | 3840 x 2160@160 Hz使用モデル「Innocn 27M2V」 |
SSDベンチマークに使用する専用の機材です。
最大15.76 GB/sまで対応できるPCIe 5.0世代の「Intel Z790」マザーボードに、シングルスレッド性能が非常に速い「Core i7 13700K」を搭載。
Ryzen 9 5950X超えのマルチスレッド性能と、現行最強クラスのシングルスレッド性能で、最大14000 MB/s超えの次世代Gen 5 SSDも難なく処理できます。
原則として、CPUに直結したM.2スロットまたはPCIeスロットにテスト対象のSSDを接続します。チップセット経由だと応答速度が低下※してしまい、SSD本来の性能を検証できません。
ベンチ機に採用した「Z790 Valkyrie」は、PCIe 5.0対応のM.2スロットを1本、PCIeスロットを2本備えます。複数の爆速SSDをCPUに直結できる稀有なマザーボードです。
※チップセット経由による性能低下はAMDチップセットだと緩和されますが、CPU直結時と比較して性能が下がる傾向自体は同じです。
SSDを熱から保護するサーマルスロットリングによって性能に悪影響が出ないように、以下のような手段でテスト対象のSSDを冷却しながらベンチマークを行います。
- M.2ヒートシンク「Thermalright HR-09」を装着
- 120 mmケースファンを至近距離に設置して冷却
SSDを徹底的に冷やして、サーマルスロットリングがテスト結果に影響を与えないように対策しています。
なお、10分間の温度テスト時のみM.2ヒートシンクとケースファンを取り除いて、温度の上昇を観察します。
SSDドライブ情報と利用できる容量
- インターフェース:NVM Express
- 対応転送モード:PCIe 4.0 x4
- 対応規格:NVM Express 1.4
- 対応機能:S.M.A.R.T. / TRIM / VolatileWriteCache
「Fikwot FN960」の初期ステータスをCrystal Disk Infoでチェック。きちんと「PCIe 4.0 x4」接続で認識されています。
フォーマット時の初期容量は「1.81 TB」でした。
搭載されているNANDメモリは全部で2048 GBですが、実際に使えるユーザー領域は2000 GBです。Fikwotは、HIKSEMIやLexar NM790より予備領域を多め取っています。
使える容量が少し減るかわりに、耐久性と信頼性が向上します。
Crystal Disk Mark 8
「Crystak Disk Mark 8」は、日本どころか世界で一番有名と言っても過言ではない、定番のSSDベンチマークソフトです。性能の変化をチェックするため、初期設定の「1 GiB」に加え、最大設定の「64 GiB」もテストします。
Crystal Disk Mark 8の結果※クリックで画像拡大します | |
---|---|
テストサイズ:1 GiB(MB/s) | テストサイズ:64 GiB(MB/s) |
テストサイズ:1 GiB(レイテンシ) | テストサイズ:64 GiB(レイテンシ) |
シーケンシャル読み込みが約4900 MB/s、シーケンシャル書き込みが約4700 MB/sでおおむねメーカー公称値どおりです。
テストサイズを64 GiBに引き上げると、書き込み性能とランダム性能(Q1T1)が下がりますが、DRAMレス(HMB:ホストメモリバッファ)方式のSSDでよく見られる典型的な性能特性です。
実際の利用シーンで問題や不具合は起きません。
体感性能や実用性能に影響が大きい、4KBランダムアクセスのレイテンシ(応答時間)の比較グラフです。
Fikwot FN960は48.8 μsで、最近のDRAMレスSSDとしてやや平均的な性能。
書き込みレイテンシは非常に高速です。
ATTO Disk Benchmark
ATTO Disk Benchmarkは、テストファイルを小刻みに分割してSSDのスループット(シーケンシャル性能)を測定し、SSDがピーク性能を出しやすいファイルサイズを探るベンチマークソフトです。
ベンチマーク結果からSSDの評価が非常に分かりにくいので、表計算ソフトを使ってグラフ化して他のSSDと比較します。
小さいファイルサイズ(512 Bから8 KB)領域でHIKSEMI FUTUREに迫るトップクラスの速さです。ピーク性能は990 EVOと並びます。
書き込み性能はすべてのテスト領域で安定した傾向です。ピーク速度に達した後、じわじわと速度が下がる傾向はDRAMレスにありがちで、実用上の問題はほぼ起こりません。
Fikwot FN960を実運用で試す
FF14のロード時間を比較
FF14:暁月のフィナーレ(ベンチマークモード)で、ゲームロード時間を測定します。ベンチマーク終了後に、ログファイルからロード時間を読み取ります。
Fikwot FN960のロード時間は「5.99秒」、ギリギリ6秒割れの世界に入ります。
FPSタイトルのロード時間を比較
PCMark 10 Professional Edition(有償版)で利用できる機能を使って、「Battlefield V」「Call of Duty Black Ops IV」「Overwatch 2」のロード時間を測定します。
なお、測定されたロード時間は各スコアから逆算された概算値(ざっくりとした予想値)です。実際のロードとは異なっているので注意してください。
テストした3タイトルすべてで、一貫して平均的なゲームロード性能です。
Samsung 990 EVOやWD Black SN770より速いですが、HIKSEMIやLexar NM790には届きません。128層と232層の違いが出ています。
「原神」のロード時間を比較
大人気RPGタイトル「原神」のロード時間を実際にテストします。
- 初回ロード(データロード0%からクリック可能になるまで)
- 初回ロード(クリックしてから操作可能になるまで)
- モンドからフォンテーヌへワープ
- フォンテーヌからスメールシティへワープ
- スメールシティから稲妻城へワープ
- 稲妻城からモンドへワープ
上記6パターンを録画ソフト(120 fps)を使って記録し、動画編集ソフトに取り込んでフレーム単位でロード時間を比較しました。
Fikwot FN960は「51.57秒」でした。
2024年7月時点、原神の最新バージョン(v4.7)は以前よりもSSDの性能がロード時間に反映されづらい傾向が強く、微妙な性能差にとどまります。
各シーン別のロード時間(※グラフの左から順番にパターン1~6並び)です。
初回ロード(#1~#2)でしか目立った差がなく、ファストトラベル(ワープ時)のパターンだとほぼ同等のロード時間でした。
パターン6(稲妻城からモンドへワープ)は、すでに読み込んだマップが大量に含まれるため、基本的に大きな時間差はつきません。
DirectStorageのロード時間を比較
Windows 11はゲームのロード時間を大幅に短縮する「DirectStorage API」に対応しています。
SSDに保存されているゲームデータをメインメモリに送り込み、メインメモリからVRAMに流し込みます。入ってきたデータをGPUの凄まじい演算性能で展開(解凍)し、ゲームロード時間を短縮する技術です。
NVMe SSDからメインメモリにデータを転送する部分で、SSDのシーケンシャル性能が重視されます。SATA SSDよりNVMe SSD、同じNVMe SSDでもPCIe 4.0やPCIe 5.0の方が有利になる可能性が高いです。
CPUで展開する場合はCPUの演算性能がボトルネックになってしまい、SSDの性能差がそれほど確認できません。
GPU展開(RTX 4060 Tiで展開)では、シーケンシャル性能に比例した性能差がハッキリと出ます。
Fikwot FN960は0.28秒(15.24 GB/s)で、最大5000 MB/sのシーケンシャル性能に見合う結果に。
とはいえ絶対値で見るとコンマ秒レベルの差しかなく、実用上のロード時間は実質的にほぼ同じでしょう。
ファイルコピーにかかった時間
Windows標準のコピペ機能と目視によるストップウォッチでは正確性に欠けるので、ファイルコピーに便利なフリーソフト「DiskBench」を使って、ファイルコピーに掛かった時間を計測します。
- ゲームフォルダ(容量85.3 GB / 81424個)
- 写真ファイル(容量113 GB / 5012枚)
- 圧縮データ(容量256 GB / zipを2個)
以上3つの素材をファイルコピーテストに使います。ソース(基準となるストレージ)は安定した性能に定評がある「Optane SSD P5810X 400GB」です。
書き込み(Optane P5810X → Fikwot FN960)のコピペ時間です。
かなり大容量のpSLCキャッシュを展開できるようで、Zipファイル(256 GB)の書き込みでもトップクラスに入ります。日常的なファイルコピーなら常時スピーディーでしょう。
次は読み込み(Fikwot FN960 → Optane P5810X)のコピペ時間です。
どのテストファイルも平凡な読み込み速度です。
比較グラフをよく見ると、シーケンシャル性能の割にコピー時間が遅いSSDがポツポツと見られます。
なぜシーケンシャル性能の割に遅いSSDが出てしまうのか。理由は単に「間髪入れずに次のコピーテストを実行」しているからです。
- Zip(256 GB)→ 写真(113 GB)→ ゲーム(85.3 GB)の順番
SSDは書き込み性能を稼ぐためにSLCキャッシュを使って耐える製品が多いですが、このSLCキャッシュの回復が遅いと・・・次のコピーテストに間に合わずTLC NAND本来の性能でテストが実行されます。
SLCキャッシュをスピーディーに再展開できるかかどうかも実力の内と(筆者は)考えているので、コピーテストは間髪入れず次から次へと実行します。
Premiere Pro CC:4K動画プレビュー
動画編集ソフト「Adobe Premiere Pro CC」に、4K動画素材(448 MB/s)と2K動画素材(175 MB/s)を読み込み、2つの動画を同時にプレビューします。
Premiere Proの動画素材プレビューは、素材を配置しているストレージの性能に影響を受けやすく、SSDの性能が不足すると「コマ落ち」が発生しやすいです。
Premiere Proの標準機能「コマ落ちインジケータ」で落としたフレームを測定し、動画素材の総フレーム数で割ってドロップフレーム率を計算します。
4K + 2K動画プレビューのドロップフレーム率は約13.6%です。
一般的なTLC NAND型SSDはドロップフレーム率10%の壁を超えられません。Fikwot FN960も例に漏れず、10%の壁を超えられない平均的なSSDの仲間入り。
10%を割ったSSDは今のところすべて中華ハイエンドシリーズ(YMTC 232層 + MAP1602A)に限られます。
4K動画プレビューでは見事に0%ドロップフレーム率です。本テストを完封できるSSDはもっぱら中華ハイエンドシリーズとCrucial T500に限られ、Fikwot FN960も例に漏れず完封して見せました。
さすがMaxioTech社のMAPシリーズコントローラです。Premiere Proのプレビュー読み出しに優れています。
PCMark 10:SSDの実用性能
PCMark 10 Professional Editionの「Full System Drive Benchmark」を使って、SSDの実際の使用シーンにおける性能を測定します。
- PCMark 10(UL Benchmarks)
Full System Drive Benchmarkには23種類のテストパターン(Trace)が収録されており、パターンごとの転送速度や応答時間を測定し、SSDの実用性能をスコア化します。
なお、SSDは空き容量によって性能が大きく変化する可能性があるため、空き容量100%だけでなく容量を90%埋めた場合(= 空き容量10%)のテストも行いました(※2回:連続で約2時間のワークロード)。
Samsung 990 EVOのストレージスコア(空き容量10%時)は「3108点」です。空き容量100%なら3348点で、空き容量による性能低下はわずか約7.2%
DRAMレスで猛威を振るう中華ハイエンド(YMTC 232層)には一歩劣るスコアですが、同じ価格帯で主流の人気SSD(Crucial P5 PlusやEXCERIA G3)より高いスコアです。
PCMark 10ストレージテストの細かい内訳を確認します。
AdobeスコアとOfficeスコアでSN770と同等、ゲームロードスコアはSN770をやや上回り、ファイルコピースコアで大きく失点します。
実用スコアの内訳 Full System Drive Benchmark | |
---|---|
Adobe Score | Adobe Acorbatの起動 Adobe After Effectsの起動 Adobe Illustratorの起動 Adobe Premiere Proの起動 Adobe Lightroomの起動 Adobe Photoshopの起動 Adobe After Effets Adobe Illustrator Adobe InDesign Adobe Photoshop(重たい設定) Adobe Photoshop(軽量設定) |
Game Score | Battlefield Vの起動(メインメニューまで) Call of Duty Black Ops 4の起動(メインメニューまで) Overwatchの起動(メインメニューまで) |
Copy Score | 合計20 GBのISOファイルをコピー(書き込み) ISOファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) ISOファイルをコピー(読み込み) 合計2.37 GBのJPEGファイルをコピー(書き込み) JPEGファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) JPEGファイルをコピー(読み込み) |
Office Score | Windows 10の起動 Microsoft Excel Microsoft PowerPoint |
15分間の連続書き込みテスト
1 MBのテストファイルを15分間に渡って、ただひたすら連続して書き込み続ける過酷な検証方法です。
一般向けに販売されているほとんどのSSDは、数分ほど連続して書き込むだけで「素の性能」を明らかにできます。SLCキャッシュの有無やサイズ、キャッシュが切れた後の性能低下などなど。
15分の連続書き込みテストによって、SSDのいろいろな挙動が判明します。
(1枚目:比較グラフ / 2枚目:強調グラフ)
テスト開始から約336 GBでpSLCキャッシュが終了、その後テストが終了する15分後まで平均1685 MB/sの書き込み性能を維持します。
Fikwot FN960のキャッシュ構造をさらに深堀りします。
ブロックファイルを約1800 GB書き込み、Fikwot FN960の3段階のキャッシュ構造が見えてきます。
グラフの中身をざっくりと解説すると
- pSLCキャッシュで爆速(約318 GBまで)
- pSLCキャッシュからTLC NANDへのデータ移動モードで
書き込み性能がやや低下 - pSLCキャッシュが切れてTLC NAND本来の性能に
展開できるpSLCキャッシュがかなり広大です。
ざっくり300 GB前後までpSLCキャッシュを展開でき、TLC NANDとの混在モードに移行したあとも平均2620 MB/sと高速な書き込み速度を維持します。
pSLCキャッシュが完全に枯渇した状態でも平均750 MB/s程度の書き込み速度があります。
一度に300 GBも書き込みシーンは日常的にめったに無いため、Fikwot FN960のファイルコピー速度は基本的にかなり速いです。
時間あたりの書き込み量を比較したグラフです。
Fikwot FN960は15分で約1776 GBを書き込み、HIKSEMI FUTUREに迫ります。つまり、書き込み速度の実効値だとYMTC 128層と232層でそこまで大きな差がないです。
SSDの動作温度をテスト
高負荷時のセンサー温度
モニターソフト「HWiNFO」で表示できる温度センサーは3つです。
- ドライブ温度:NANDメモリの温度
- ドライブ温度2:NANDメモリの温度
- ドライブ温度3:SSDコントローラの温度
センサー1と2は常に同じ温度を表示するため、実質的に2つのセンサーです。
M.2ヒートシンクを取り外し、ケースファンによるエアフローを一切与えない環境で、SSDが激しく発熱しやすい「連続書き込みテスト」を10分間実行しました。
センサー1と2はほとんど反応しません。Crystal Disk Infoに表示される温度は「センサー1」なので、よく冷えているSSDだと勘違いしないように。
(比較的)正しい温度を表示するセンサー3は80℃台まで上昇し、82℃に達するとサーマルスロットリングを一瞬だけ発動します。
一瞬しか発生しないうえに元の速度に復帰するスピードが非常に早いため、普通に使っているとサーマルスロットリングの影響をまったく感じないでしょう。
サーモグラフィーで表面温度を確認
テスト開始から約8~9分経過したあたりで、サーモグラフィーカメラを使ってSSDの表面温度を撮影します。
- NANDメモリ(左):69 ~ 70℃
- NANDメモリ(中央):72 ~ 73℃
- SSDコントローラ(右):91 ~ 97℃
NANDメモリ側が約70℃ほど、SSDコントローラ側で97℃まで上昇します。
ソフト読みセンサー(HWiNFO)とのズレはNAND側で15~20℃くらい、コントローラ側で最大15℃くらいです。
誤差が大きいですが規定の温度に達したらサーマルスロットリングが正常に発動するので、温度センサーの仕事をきっちり果たしています。
そもそもコントローラ側は80℃以上の温度を提供する気がないです。80℃をピクッと超えるとサーマルスロットリングを発動させ、80℃以内にまでいったん戻す挙動です。
80℃を越えようとするとサーマルスロットリング自動発動 → 80℃以上をきちんと表示するメリットが無かった、と考えられます。
Fikwot FN960に別売りのヒートシンクは不要です。
マザーボードの付属のM.2ヒートシンクか、Fikwotの付属品ヒートシンクで大丈夫。心配ならケースファンでゆるく風を当てると余裕です。
まとめ:低価格帯で競争力がある「YMTC 128層」
「Fikwot FN960」のデメリットと弱点
- DRAMキャッシュなし
- スペックシートに「非公開」が多い
- いつも同じ部品とは限らない
- 素の書き込み性能は平凡
- 高負荷時の温度が高い
「Fikwot FN960」のメリットと強み
- 最大5000 MB/sのシーケンシャル性能
- 空き容量による性能変化が少ない
- そこそこ速いランダムアクセス性能
- 価格の割にゲームロード時間がいい
- 広大なpSLCキャッシュ(300 GB超)
- 書き込みに強いキャッシュ構造
- 十分な耐久性(600 ~ 1200 TBW)
- 大容量モデルあり(最大4 TB)
- コストパフォーマンスが高い
- M.2ヒートシンクが付属します
- 5年保証
ちもろぐで「YMTC 128層」をレビューするのはなにげに初めてです。
YMTC 232層と比較して、ロード速度に若干遅れがありますが、書き込み性能はほとんど同じです。「P44 Pro」や「980 PRO」など、値段がより高いハイエンドSSDに迫る実効性能を示します。
相変わらず、MaxioTechのMAPコントローラとYMTC製3D TLC NANDの組み合わせは安定して高性能です。しかもたいてい値段が競合他社より安めでコストパフォーマンスに優れます。
定価だと他に選択肢が出てくるためおすすめしませんが、タイムセール時の安い価格なら「Fikwot FN960」をおすすめできます。
ただし、HIKSEMIやHanyeと同じく、搭載コンポーネントのバリエーションが途中で変わるリスクがあります。ADATAやSilicon Powerほど酷いガチャは無い思いますが、ゼロじゃないです。
以上「Fikwot FN960 レビュー:232層・・・ではなく128層だけど文句なしのコスパ」でした。
「Fikwot FN960」を入手する
レビュー(2024年7月)時点で、2 TB版が約1.6万円、4 TB版が約3.3万円です。プライムデーやタイムセールで約1.3万円(2 TB版)、約2.5万円(4 TB版)まで値下がります。
注意点:Fikwotはガチャ率が高いかも
スロット増設のボードを買い忘れたのでまだ検証できていませんが、片面実装な上に手頃でいい選択肢ではと感じました。 pic.twitter.com/zqqqy7FkaX
— もちにゃー (@mochinyar) May 16, 2024
筆者と同じくらい(2024/5)にFikwot FN960を買った人のツイートより、Phisonコントローラ版(Phison E21T)が確認されています。
Phison E21Tの場合、NANDメモリはかなりの確率でMicron製176層 3D TLCです。
KIOXIA(旧東芝メモリ)製112層 3D TLCや、SK Hynix製176層 3D TLCの事例もありますが、YMTC製3D TLC NANDと組み合わせられた例はまだ見つかっていません。
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おすすめなSSDを解説
FN970で良いかと…
この前弟のためにFN970 4tbで組みました。ヒートシンクがダサいのと、両面実装で裏にhynixのチップが乗ってるのが印象的でした。たしか1GibのCrystalDiskmarkでランダム読み込み70mbだったかな。
SSDの価格グラフで、990 proが980 proより安くなっててほんまか?と思ったら、ほんとにその価格で笑いました。
最初からその価格付近で出してくれれば…
同じSSDでも、PCIE3.0と4.0やcpu直結のM.2スロットとチップセット経由のM.2スロットの場合の性能差が気になります。実用上は無視できる程度なのでしょうか。ryzen環境で主な用途はゲームとフルHD画像、動画返信です。知識がある方、ご教授ください。
製造元会社?同じなので以下兄弟ブランドかと とのこと
Fanxiang
Ediloca
Fikwot
https://x.com/_8xKiSix8_/status/1809258268042449213
より
中華SSDはどうして温度をサバ読みがちなんでしょうね…
実測で90℃達してしまっているのは、ちょっとアレニウスの式的にもよくないかも