2025年の今、NVMe SSDの性能とコスパは向上し続ける一方で、SATA SSDはもはや存在が忘れ去られたレベルで進歩がありません。
しかし、大手メーカー製を除けば少なからず新作がリリースされている様子で、そのひとつが「Hanye Q60 ST3」です。容量1 TBモデルが約7000円台です。
定番モデルが軽く1万円を超える相場で、7000円なら文句なしに価格は安いです。1台買ってみたので詳しくレビューします。
(公開:2025/6/11 | 更新:2025/6/11)
Hanye Q60 ST3のスペックと仕様
Hanye Q60 ST3 (Q60-000ST3) | ||||
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容量 | 256 GB (256 GB) | 512 GB (512 GB) | 1 TB (1024 GB) | 2 TB (2048 GB) |
インターフェイス | SATA 3.0(6 Gb/s) | |||
フォームファクタ | 2.5インチ(7 mm厚) | |||
コントローラ | 非公開 | |||
NAND | 3D NAND | |||
DRAM | なし | |||
– | ||||
SLCキャッシュ | 非公開 | |||
読込速度 シーケンシャル | 520 MB/s | 550 MB/s | ||
書込速度 シーケンシャル | 480 MB/s | 500 MB/s | ||
読込速度 4KBランダムアクセス | 非公開 | |||
書込速度 4KBランダムアクセス | 非公開 | |||
消費電力(最大) | 非公開 | |||
消費電力(アイドル) | 非公開 | |||
TBW 書き込み耐性 | 80 TB | 160 TB | 320 TB | 640 TB |
MTBF 平均故障間隔 | 非公開 | |||
保証 | 5年 | |||
MSRP | 国内限定モデル | |||
参考価格 2025/5時点 | 2560 円 | 4580 円 | 7580 円 | – 円 |
GB単価 | 10.0 円 | 8.9 円 | 7.4 円 | – 円 |
- メーカー仕様表はこちらから
「Hanye Q60 ST3」は、懐かしいSATA 3.0(6 Gb/s)規格に対応する、とにかく廉価なSATA SSDです。
メーカー仕様表に記載される情報がスカスカで、搭載されているNANDメモリはもちろん、SSDコントローラの特徴やDRAMキャッシュの有無もまったく不明。
パーツを明示しない = 何が入っていても文句を言えない「闇鍋」タイプのSSDだからこそ、Samsung 870 EVOをはじめとした定番モデルより4~5割も安い価格を実現できます。
たとえ中身が闇鍋ガチャ状態でも、大手よりはるかに安い格安価格できちんとメーカー公称値の性能を維持できるなら問題なし・・・。これもまた事実です。

TBW(書き込み耐性)の比較
SSD | 500 GB | 1 TB | 2 TB |
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Hanye Q60 ST3 | 160 TBW | 320 TBW | 640 TBW |
Samsung 870 EVO (Crucial T700:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Crucial BX500 (後日レビュー予定) | 120 TBW | 360 TBW | 720 TBW |
書き込み保証値は容量1 TBあたり320 TBです。
NANDメーカーの純正モデルより半分くらい少ない数値で、QLC NAND採用SSDによくある保証値です。
SSD | 500 GB | 1 TB | 2 TB |
---|---|---|---|
Samsung 9100 PRO (990 PRO:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 990 PRO (990 PRO:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
MOVE SPEED Panther (MOVE SPEED Panther:レビュー) | – | 400 TBW | 800 TBW |
KIOXIA EXCERIA PRO (EXCERIA PRO:レビュー) | – | 400 TBW | 800 TBW |
WD Blue SN5000 (WD Blue SN5000:レビュー) | – | 600 TBW | 900 TBW |
KIOXIA EXCERIA PLUS G3 (KIOXIA EXCERIA G3 PLUS:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
CFD SFT6000e (CFD SFT6000e:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 990 PRO (990 PRO:レビュー) | – | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 980 PRO (980 PRO:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Solidigm P44 Pro (Solidigm P44 Pro:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
Crucial P5 Plus (Crucial P5 Plus:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Lexar NM790 (Lexar NM790:レビュー) | – | 1000 TBW | 1500 TBW |
HIKSEMI FUTURE SSD (HIKSEMI FUTURE SSD:レビュー) | – | 1800 TBW | 3600 TBW |
SK Hynix Gold P31 (SK Hynix Gold P31:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
WD_BLACK SN770 (WD_BLACK SN770:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
KIOXIA EXCERIA PLUS G2 (KIOXIA EXCERIA G2 PLUS:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
KIOXIA EXCERIA G2 (KIOXIA EXCERIA G2:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
WD Blue SN570 (WD Blue SN570 NVMe:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | – |
Crucial MX500 (Crucial MX500:レビュー) | 180 TBW | 360 TBW | 700 TBW |
FireCuda 530 (FireCuda 530:レビュー) | 640 TBW | 1275 TBW | 2550 TBW |
WD Black SN850 (SN850:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
過去のSSDレビューで説明しているとおり、容量あたり320 TBの比較的少ない書き込み保証値ですら、(実用上)十分な数値です。
- 普通に使った場合:約17.5年
(1日あたり平均50 GBの書き込みを想定) - 毎日AAAゲームをDLする:約8.8年
(1日あたり平均100 GBの書き込みを想定) - 毎日一眼レフの写真を入れる:約3.5年
(1日あたり平均250 GBの書き込みを想定) - 毎日一眼レフの4K~8K素材を入れる:約0.9年
(1日あたり平均1000 GBの書き込みを想定)
ワークロード別の想定耐用年数をざっくり試算してみた。
PS5の増設ストレージやゲーミングPCのメインSSDなど。ごく普通の使い方なら約17年以上もかかる計算になり、5年間のメーカー保証をあっさり使い切ります。
仮に1日100 GB書き込んでも、TBWを使い切るのに約9年です。4K~8K RAW写真や動画素材を毎日のようにゴリゴリと書き込む用途でようやく5年保証を使い切れる程度。
Hanye Q60 ST3(1 TB)の320 TBWは、プロシューマーを除き、一般的なPCゲーマーからクリエイターにとって十分な保証値です。
ただし、プロ用途の映像撮影や写真撮影なら1年たたずにTBWを使い切ってしまう可能性があるので、プロシューマーは業務向けに耐えられるSSDを買いましょう。
最大4800 TBW(4.8 PBW)を提供するWD Blackシリーズや、Nextorage Gシリーズなど高耐久モデルを検討してください。
Hanye Q60 ST3を開封レビュー
パッケージデザインと付属品

Amazon.co.jpにて容量1 TBモデルを購入しました。約7600円でした(※定価は約8700円ですが定期的に安くなります)。

キウイフルーツや和カラシに似た渋みのある黄色を使った、あまり見かけない珍しいパッケージデザインです。
パッケージ裏面にHanye製品の国内代理店を担当している、嘉年華株式会社(JNH)のQRコードが記載されてます。
- ウェブ問い合わせ:https://kanenka.com/support.php
QRコードからアクセスできる連絡先です。
なにか不具合や初期不良に遭遇してしまったら、Amazonにそのまま返品するか、上記サポートから問い合わせます。

- SSD本体
- 説明書
硬いプラスチック製の梱包材にSSD本体がすっぽり収まってます。梱包材の底面に説明書も入ってます。
本体デザイン

プラスチック製の2.5インチケースです。「Hanye Q60」と描かれたラベルシールが貼ってあるだけです。

裏面もプラスチック製で、ラベルシールが貼ってあります。保証を受けるときに必要なシリアルナンバーが記載されています。

厚み7.0 mmです。標準的なSATA 2.5インチ規格に準拠したデザインです。
ケース本体側面に、2.5インチベイに固定するためのネジ穴が2本(左右合わせて4本)設けられています。

SATA SSDだから、端子が2つあります。
左側の横長いコネクタが「SATA電源(+5V)」、右側の短いコネクタが「SATA 3.0(6 Gb/s)」です。必ず2本のケーブルを接続しないと起動しません。
M.2スロットに挿し込むだけで済むM.2 SSDと比較して、配線が増えて面倒ですが、M.2 SSDより大量の台数を接続できるメリットがあります。

(M.2 SSDよりフットプリントが大きいSATA SSD)

基板コンポーネント

プラスチック製のケースを分解します。
ケースのわずかな隙間に分解ベラを挿し込み、テコの原理で引っ張り上げると「パキッ」とかんたんに開封できます。

完全にプラスチック製の筐体です。
取り外したケースの内側に、放熱性を高めるサーマルパッドやTIMが見つかりません。ケース内部で熱がこもりやすいデザインに見えます。

SATA基板を外して反対側もチェック。やはりサーマルパッドやTIMがなく、放熱性が良くない設計です。

SATA基板はケースから生えているプラスチックの突起に、基板の穴を引っ掛けて固定するタイプです。
もし突起が折れてしまえば、コネクタ部分がケース内側に陥没する(めり込む)可能性があります。

- コントローラ:Silicon Motion SM2259XT2
SM2259XT2G AA THXW80.00 CH 2H - DRAM:なし
— - NAND:SK Hynix 72層 3D TLC NAND
SH25QFT8D4ALR CC+2444
基板デザインは、SSDコントローラで有名なSilicon Motion社が提供するリファレンス基板とほぼ同一です。
なお、実際に搭載される基板やコンポーネントは時期によって変動します。他の購入者の口コミから、Yeestor社のリファレンス基板が使われている事例もありました。

(斜め45°で実装される不思議なコントローラ)
SSDコントローラは、Silicon Motion設計、台湾TSMC 28 nmプロセスで製造される「SM2259XT2」を搭載。
SATA 3.0(6 Gb/s)対応のDRAMレスコントローラです。最大4チャネルのNANDメモリを、それぞれ最大525 MT/sの帯域で束ねて、規格上限に近い560 MB/sの性能をアピールします。
古いプロセスで電力効率がかなり悪そうですが、せいぜい500 MB/s程度の性能しか出せないから、そもそもの発熱も少ないはずです。
SATA SSDに十分な性能を持つSSDコントローラです。

電源管理コントローラ(PMIC)は詳細不明です。刻印「FNGYA」と記載があるのみ。
そのほか、複数のインダクタや水晶発振器(50 MHz)もセットで実装されています。必要なコンポーネントがひととおり揃っているのが、リファレンス基板のメリットでしょう。

(SATA SSDはHMB方式も使えません)
DRAMメモリを搭載しない「DRAMレス」SSDです。
「HMB(ホストメモリバッファ)」方式でDRAMキャッシュの代用をするかと思いきや、SATA SSDはHMBを使えません。
といっても、仮にDRAMやHMBがあってもpSLCキャッシュ制御が下手なら、かえって酷い性能になる事例も少なくないです。一概にDRAMが無いからといって、すぐに悪いと断言できません。
実際の性能がどうなってしまうのか、SSDコントローラ側のpSLCキャッシュ制御に依存します。

NANDメモリは「SK Hynix製 72層 3D TLC NAND(3D-V4)」を採用。刻印は「SH25QFT8D4ALR CC+2444」です。
初めて見るIC刻印で見た目からNAND製造元を特定できないです。ロシア製の部品検査ソフト「Flash ID」を使って、NANDメモリの詳細を調べてみます。
Fw : HA02010B
Size : 976762 MB [1024.2 GB]
From smart : [SMI2259XT] [X0912A0 00] [HYNV4]
Controller : SM2259XA (SM2259XT2) bufferless
FlashID: 0xad,0x5e,0x28,0x22,0x10,0x90,0x0,0x0 - Hynix 3dv4-72L TLC 8k 512Gb/CE 512Gb/die
Flash IDによると、SK Hynix製だと判明します。
2017年頃から製造が始まった非常に古いNANDメモリが、2025年の今も流通していて驚きます。

1 TB:512 Gb x 4 x 4 = 8192 Gb(1024 GB)
NANDメモリの構成をチェックします。
Hanye Q60 ST3(容量1 TB)では、記憶密度が512 Gb(= 64 GB)のチップを4枚重ねたNANDメモリを、全部で4個実装して合計8192 Gb(= 1024 GB)の容量に仕上げます。
TLC NANDメモリを4個も並列化した設計だから、もしかすると・・・書き込み性能で意外と耐えられる可能性が見えてきます。

Hanye Q60 ST3の性能をベンチマーク
テスト環境を紹介

テスト環境 「ちもろぐ専用:SSDベンチ機」 | ||
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![]() | Core i7 13700K16コア24スレッド(TDP:125 W) | |
![]() | 虎徹Mark III120 mmサイドフロー空冷 | |
![]() | BIOSTARZ790 Valkyrie | |
![]() | DDR5-6000 16GB x2G.Skill Trident Z5 Neo RGB | |
![]() | RTX 4060 Ti | |
![]() | Hanye Q60 ST3 1TB | |
![]() | HIKSEMI FUTURE70-02TB 2TB | |
![]() | 1000 WCorsair RM1000x ATX 3.1 | |
![]() | Windows 11 Pro検証時のバージョンは「22H2」 | |
ドライバ | NVIDIA 536.40 WHQL | |
ディスプレイ | 3840 x 2160@160 Hz使用モデル「TCL 27R83U」 |
SSDベンチマークに使用する専用の機材です。
最大15.76 GB/sまで対応できるPCIe 5.0世代の「Intel Z790」マザーボードに、シングルスレッド性能が非常に速い「Core i7 13700K」を搭載。
Ryzen 9000シリーズなど最新プラットフォームと比較して、絶対的な性能ですでに型落ち気味ですが、SSDに対する遅延の少なさで依然として最高峰です。

原則として、CPUに直結したM.2スロットまたはPCIeスロットにテスト対象のSSDを接続します。チップセット経由だと応答速度が低下※してしまい、SSD本来の性能を検証できません。
ベンチ機に採用した「Z790 Valkyrie」は、PCIe 5.0対応のM.2スロットを1本、PCIeスロットを2本備えます。複数の爆速SSDをCPUに直結できる稀有なマザーボードです。
なお、仕様上SATA SSDはCPUに直結できません。PCIe → SATA変換カードを使ってもCPUに直結できず、必ずチップセット経由に制限されます。
※チップセット経由による性能低下はAMDチップセットだと緩和されますが、CPU直結時と比較して性能が下がる傾向自体は同じです。
そのほか、「BitLocker」と呼ばれるWindows環境で使えるハードウェア暗号化機能も無効化済みです。BitLockerを有効化すると、SSDのランダムアクセス性能が最大50%も下がります。
正確なベンチマークを取るならBitLockerを必ず無効化しましょう。

SSDを熱から保護するサーマルスロットリングによって性能に悪影響が出ないよう、SATA SSD本体にケースファンの風を当てて冷却しながらベンチマークを行います。
SSDを徹底的に冷やして、サーマルスロットリングがテスト結果に影響を与えないように対策しています。
なお、10分間の温度テスト時のみケースファンを停止して、温度の上昇を観察します。
SSDドライブ情報と利用できる容量

- インターフェース:Serial ATA
- 対応転送モード:SATA/600
- 対応規格:ACS-2 Revision 3
- 対応機能:S.M.A.R.T. / APM / NCQ / TRIM / GPL
「Hanye Q60 ST3」の初期ステータスをCrystal Disk Infoでチェック。「SATA/600(6 Gb/s)」で接続されています。
NVMe規格のようにCPU直結I/Oが不可能で、必ずチップセット(ベンチ機ならIntel Z790)を経由する方式です。

フォーマット時の初期容量は「953 GB」でした。
実際に搭載されているNANDメモリ全体すべてをユーザー領域に開放している、中華SSDによくある対応です。
大手メーカー製なら全体の約2.3%を予備領域に割り当てて長期的な信頼性を重視する設計で、Hanye Q60 ST3は予備領域よりも実際に使える容量を重視しています。

Crystal Disk Mark 8
「Crystak Disk Mark 8」は、日本どころか世界で一番有名と言っても過言ではない、定番のSSDベンチマークソフトです。性能の変化をチェックするため、初期設定の「1 GiB」に加え、最大設定の「64 GiB」もテストします。
Crystal Disk Mark 8の結果※クリックで画像拡大します | |
---|---|
![]() | ![]() |
テストサイズ:1 GiB(MB/s) | テストサイズ:64 GiB(MB/s) |
![]() | ![]() |
テストサイズ:1 GiB(レイテンシ) | テストサイズ:64 GiB(レイテンシ) |
シーケンシャル読み込みが約545 MB/s、シーケンシャル書き込みが約537 MB/s前後です。読み書きともにメーカー公称値に近い数値で問題ありません。
テストサイズを64 GiBに変更して性能の変化をチェックすると、シーケンシャルは変化がなく安定し、ランダムアクセス性能(RND4K Q1T1)が派手に下がる傾向が見られます。
DRAMキャッシュを搭載しないDRAMレスSSDによくある典型的な挙動です。実際に使っていて問題が起きるかどうかは、詳しく検証しないとわからないです。

体感性能や実用性能に影響が大きい、4KBランダムアクセスのレイテンシ(応答時間)の比較グラフです。
Hanye Q60 ST3は174 μsほどで、過去レビューしてきたSSDでぶっちぎりのワースト1位。
CPUに直結できず、チップセットを経由する回りくどいI/Oルートのせいで、ランダム性能が非常に伸びづらいです。

書き込みレイテンシもワースト1位を更新します。
ATTO Disk Benchmark

ATTO Disk Benchmarkは、テストファイルを小刻みに分割してSSDのスループット(シーケンシャル性能)を測定し、SSDがピーク性能を出しやすいファイルサイズを探るベンチマークソフトです。
ベンチマーク結果からSSDの評価が非常に分かりにくいので、表計算ソフトを使ってグラフ化して他のSSDと比較します。
重要性が高い小さいファイル領域から中程度のファイル領域(1 KB ~ 512 KB)で、NVMe SSDと比較して一貫して遅いです。
書き込み性能も同様に、小さいファイル領域からピーク性能まで、すべてが遅いままで終わります。

Hanye Q60 ST3を実運用で試す
FF14のロード時間を比較
FF14:暁月のフィナーレ(ベンチマークモード)で、ゲームロード時間を測定します。ベンチマーク終了後に、ログファイルからロード時間を読み取ります。

Hanye Q60 ST3のロード時間は「11.33秒」でした。
平均値の約2倍近い、ずば抜けて遅いゲームロード時間です。
FPSタイトルのロード時間を比較
PCMark 10 Professional Edition(有償版)で利用できる機能を使って、「Battlefield V」「Call of Duty Black Ops IV」「Overwatch 2」のロード時間を測定します。
なお、測定されたロード時間は各スコアから逆算された概算値(ざっくりとした予想値)です。実際のロードとは異なっているので注意してください。
PCMark 10を使ったロード時間ベンチマークだと、さらに状況が悪化します。
Hanye Q60 ST3はワースト記録を約3倍以上も更新します。
DirectStorageのロード時間を比較

Windows 11はゲームのロード時間を大幅に短縮する「DirectStorage API」に対応しています。
SSDに保存されているゲームデータをメインメモリに送り込み、メインメモリからVRAMに流し込みます。入ってきたデータをGPUの凄まじい演算性能で展開(解凍)し、ゲームロード時間を短縮する技術です。
NVMe SSDからメインメモリにデータを転送する部分で、SSDのシーケンシャル性能が重視されます。SATA SSDよりNVMe SSD、同じNVMe SSDでもPCIe 4.0やPCIe 5.0の方が有利になる可能性が高いです。
CPUで展開する場合は基本的にCPU側がボトルネックになりがちでしたが、Hanye Q60 ST3があまりにも遅いせいで、珍しくSSDの性能差が反映されています。
GPU展開(RTX 4060 Tiで展開)も、シーケンシャル性能に比例した性能差がハッキリと出ます。
Hanye Q60 ST3は3.81秒(1.11 GB/s)にとどまり、ワースト記録をなんと8倍以上も更新する歴代No.1です。
NVMe SSD同士ならコンマ秒レベルのわずかな性能差ですが、SATA SSDだと3~4秒まで開きます。DirectStorage対応ゲームはなるべくNVMe SSDに保存したいです。
ファイルコピーにかかった時間
Windows標準のコピペ機能と目視によるストップウォッチでは正確性に欠けるので、ファイルコピーに便利なフリーソフト「DiskBench」を使って、ファイルコピーに掛かった時間を計測します。
- ゲームフォルダ(容量85.3 GB / 81424個)
- 写真ファイル(容量113 GB / 5012枚)
- 圧縮データ(容量256 GB / zipを2個)
以上3つの素材をファイルコピーテストに使います。ソース(基準となるストレージ)は安定した性能に定評がある「Optane SSD P5810X 400GB」です。
書き込み(Optane P5810X → Hanye Q60 ST3)のコピペ時間です。
pSLCキャッシュの展開がやや不安定で、平均60~100 MB/s程度の書き込み性能しか出ません。SATA HDDの内周側に相当する遅さです。

次は読み込み(Hanye Q60 ST3 → Optane P5810X)のコピペ時間です。
読み出しは安定感があり、SATA 6 Gb/sの上限に近いスピードが出るパターンもあります。
それでもNVMe SSDと比較して約3~5倍もの圧倒的な性能差が開きます。
比較グラフをよく見ると、シーケンシャル性能の割にコピー時間が遅いSSDがポツポツと見られます。
なぜシーケンシャル性能の割に遅いSSDが出てしまうのか。理由は単に「間髪入れずに次のコピーテストを実行」しているからです。
- Zip(256 GB)→ 写真(113 GB)→ ゲーム(85.3 GB)の順番
SSDは書き込み性能を稼ぐためにSLCキャッシュを使って耐える製品が多いですが、このSLCキャッシュの回復が遅いと・・・次のコピーテストに間に合わずTLC NAND本来の性能でテストが実行されます。
SLCキャッシュをスピーディーに再展開できるかかどうかも実力の内と(筆者は)考えているので、コピーテストは間髪入れず次から次へと実行します。
Premiere Pro CC:4K動画プレビュー
動画編集ソフト「Adobe Premiere Pro CC」に、4K動画素材(448 MB/s)と2K動画素材(175 MB/s)を読み込み、2つの動画を同時にプレビューします。
Premiere Proの動画素材プレビューは、素材を配置しているストレージの性能に影響を受けやすく、SSDの性能が不足すると「コマ落ち」が発生しやすいです。
Premiere Proの標準機能「コマ落ちインジケータ」で落としたフレームを測定し、動画素材の総フレーム数で割ってドロップフレーム率を計算します。

4K + 2K動画プレビューのドロップフレーム率は約40%です。
目視で分かるレベルでパラパラマンガ状態です。

4K動画プレビューのドロップフレーム率は75%でワースト記録No.1を樹立します。

ComfyUI:画像生成AIモデルの読み込み

画像生成AIの定番ソフト「ComfyUI」を使って、「.safetensors」形式モデルの読み込みにかかった時間を比較します。
テキストエンコーダーやVAEの読み込み時間は一切含まないです。有志制作のカスタムノード「ComfyUI-Dev-Utils」で、読み込み時間を記録して比較しました。

現時点でもっとも主流なAI生成モデル「SDXL 1.0(約6.46 GB)」の読み込み時間です。
VRAM容量に入り切るサイズだから、基本的にシーケンシャル性能に比例する処理ですが、実際のベンチマーク結果はどうも直感に反する不可解な内容です。
シーケンシャル性能が効いているように見えて、まったく効いていないSSDもあります。幸い、Hanye Q60 ST3はSATA 6 Gb/sらしい圧倒的な遅さを見せてくれます。

VRAMに入り切らない巨大生成モデル「HiDream(約31.8 GB)」の読み込み時間です。
VRAMから溢れたデータがメインメモリに移動し、それでも収まりきらず共有メモリにまで波及する複雑なI/O処理が連続的に発生します。
内部処理が複雑化すると、SSDのシーケンシャル性能から結果を予測するのが難しいです。全体を俯瞰して見る限り、シーケンシャル性能とランダム性能どちらも重要そうに見えます。
Hanye Q60 ST3も当然遅いですが、想定よりずっと速かったです。

PCMark 10:SSDの実用性能

PCMark 10 Professional Editionの「Full System Drive Benchmark」を使って、SSDの実際の使用シーンにおける性能を測定します。
- PCMark 10(UL Benchmarks)
Full System Drive Benchmarkには23種類のテストパターン(Trace)が収録されており、パターンごとの転送速度や応答時間を測定し、SSDの実用性能をスコア化します。
なお、SSDは空き容量によって性能が大きく変化する可能性があるため、空き容量100%だけでなく容量を90%埋めた場合(= 空き容量10%)のテストも行いました(※2回:連続で約2時間のワークロード)。
Hanye Q60 ST3のストレージスコア(空き容量10%時)は「708点」です。空き容量100%なら793点です。
空き容量による性能変化が約10%と意外に抑えられていますが、もともとの性能が悪いから下がりづらいだけです。空き容量に関係なく一貫して酷い性能といえます。
なお、10%スコアならQLC NAND搭載の「Crucial P3 Plus」とほとんど同じです。

PCMark 10ストレージテストの細かい内訳を確認します。
そもそもの性能が非常に低いおかげで、すべての項目で空き容量による性能変化が少なく見えます。
実用スコアの内訳 Full System Drive Benchmark | |
---|---|
Adobe Score | Adobe Acorbatの起動 Adobe After Effectsの起動 Adobe Illustratorの起動 Adobe Premiere Proの起動 Adobe Lightroomの起動 Adobe Photoshopの起動 Adobe After Effets Adobe Illustrator Adobe InDesign Adobe Photoshop(重たい設定) Adobe Photoshop(軽量設定) |
Game Score | Battlefield Vの起動(メインメニューまで) Call of Duty Black Ops 4の起動(メインメニューまで) Overwatchの起動(メインメニューまで) |
Copy Score | 合計20 GBのISOファイルをコピー(書き込み) ISOファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) ISOファイルをコピー(読み込み) 合計2.37 GBのJPEGファイルをコピー(書き込み) JPEGファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) JPEGファイルをコピー(読み込み) |
Office Score | Windows 10の起動 Microsoft Excel Microsoft PowerPoint |
15分間の連続書き込みテスト
1 MBのテストファイルを15分間に渡って、ただひたすら連続して書き込み続ける過酷な検証方法です。
一般向けに販売されているほとんどのSSDは、数分ほど連続して書き込むだけで「素の性能」を明らかにできます。SLCキャッシュの有無やサイズ、キャッシュが切れた後の性能低下などなど。
15分の連続書き込みテストによって、SSDのいろいろな挙動が判明します。
テスト開始から約340 GBまで、約450 MB/s前後で推移し、pSLCキャッシュが枯渇するとTLC NANDとの混合モードに切り替わり、平均120 MB/sまで鈍化します。

キャッシュ構造 | 平均書込速度 (Average) |
---|---|
1段階 pSLCキャッシュ | 441 MB/s |
2段階 pSLC + TLC | 146 MB/s |
3段階 TLCネイティブ | 80 MB/s |
ブロックファイルを約900 GB書き込んで、キャッシュ構造をさらに深堀りします。
pSLCキャッシュによる平均440 MB/s近い高速モードから始まり、約330 GB書き込んだあたりでpSLCキャッシュが切れてTLCネイティブモードに入ります。
その後、何度か混合モード(pSLC + TLC)に切り替わるも即座にネイティブモードに戻る挙動を繰り返し、平均80 MB/s前後でテスト完了です。

(空き容量:20%時に約62 GBのpSLCキャッシュ)
実際のファイルコピーで、pSLCキャッシュの挙動をチェック。
空き容量が少ない状態でもpSLCキャッシュをスピーディーに展開でき、pSLCキャッシュの再展開も速いです。

(いったん切れると遅い)
しかし、一度pSLCキャッシュが切れてしまうと恐ろしく遅いです。約8~140 MB/sを繰り返す、SATA HDD並の遅さでファイルコピーが一向に終わりません。
本当にTLC NANDなのか疑わしい速度ですが、TLCでもQLC並に遅いNANDメモリはあります。

時間あたりの書き込み量を比較したグラフです。
Hanye Q60 ST3は15分で約360 GBを書き込みます。広大なpSLCキャッシュを展開できるため、保守的なキャッシュ制御を持つCrucial MX500より速いです。
SSDの動作温度をテスト
高負荷時のセンサー温度

- ドライブ温度:SSDコントローラの温度
- ドライブ温度2:なし
モニターソフト「HWiNFO」で表示できる温度センサーは1つだけです。サーモグラフィカメラで確認した限り、おそらくSSDコントローラの温度を表示してます。

ケースファンによるエアフローを一切与えない環境で、SSDが激しく発熱しやすい「連続書き込みテスト」を10分間実行しました。
テスト開始から急速に温度が上昇し続け、センサー読みで50℃台に達したあたりで温度上昇が停止します。
サーマルスロットリングらしい症状も見られず、安定した動作です。性能が遅い分だけ、発熱(消費電力)も少なく、結果的にサーマルスロットリングと無縁な状況が生まれます。
サーモグラフィーで表面温度を確認

テスト開始から約8~9分経過したあたりで、サーモグラフィーカメラを使ってSSDの表面温度を撮影します。
- NANDメモリ(左):49 ~ 50℃
- SSDコントローラ(中央):55 ~ 56℃
- NANDメモリ(右):50 ~ 51℃
SSDコントローラの表面温度は、HWiNFOが表示するセンサー読みから2~3℃だけズレてます。実際の温度よりもわずかに低い温度を表示するセンサー仕様です。
高めにズレている方が好ましいものの、50℃台の温度はまったく気にする必要がない極めて低い温度です。
【おまけ】SATA SSDの消費電力を測定
PCIeスロット経由でSATA SSDに電力を供給し、Cybenetics PMDを使ってSSD本体の消費電力を測定します。

項目 | アイドル時 | 書き込み | 読み込み |
---|---|---|---|
消費電力 中央値 | 0.29 W | 1.55 W | 1.15 W |
性能 平均レート | – | 379 MB/s | 426 MB/s |
電力効率 1ワットあたり性能 | – | 244 MBs/W | 371 MBs/W |
何も負荷を掛けていないアイドル時で平均わずか0.29 Wです。
連続書き込み(約64 GB)は約1.55 W、平均379 MB/sから、1ワットあたり244 MB/sのワットパフォーマンスです。
連続読み出し(約64 GB)なら少し下がって約1.15 Wで、平均426 MB/sを出せています。1ワットあたり371 MB/sのワットパフォーマンスに。
最新世代のNVMe SSD「WD Black SN7100」と比較して、書き込み効率が5分の1程度、読み込み効率は4分の1程度に過ぎません。
旧世代の遅いNANDメモリとTSMC 28 nm製の古いコントローラだから、ワットパフォーマンスも当然ながら型落ちです。
まとめ:キャッシュ範囲内なら意外と悪くない性能

(最安値に近い価格として十分な性能)
「Hanye Q60 ST3」のデメリットと弱点
- 遅いシーケンシャル性能(0.5 GB/s)
- DRAMキャッシュなし(HMBなし)
- ランダムアクセス性能が遅い
- ゲームロード時間も遅い
- 素の書き込み性能が非常に遅い
- 空き容量による性能低下あり
- コスパは良くない
- おそらく「闇鍋」な中身
「Hanye Q60 ST3」のメリットと強み
- 広大なpSLCキャッシュ(約330 GB)
- 高負荷時でも温度がとても低い
- サーマルスロットリングしづらい
- 十分な耐久性(320 ~ 640 TBW)
- 大容量モデルあり(最大2 TB)
- SATA規格だから増設しやすい
- 価格が安い
- 5年保証
「Hanye Q60 ST3」は、最安値クラスに近いSATA SSDの割に意外と悪くない性能です。
しかし、あくまでもSATA SSDの話です。すでに主流になったNVMe SSDと比較してしまえば、たとえ最安値モデル同士の戦いでもSATA SSDが完全に負けてしまいます。
NVMe SSDならCPUに直結して効率よく性能を稼げる一方、SATA SSDはどうやってもチップセットを経由してからアクセスする都合上、全体的に性能が悪いです。
どうしてもNVMe SSDを使えない特殊な事情がある場合や、SATA SSD程度の性能で十分に事足りる用途なら、Hanye Q60 ST3がそこそこ悪くない選択肢です。
当然ながら「Crucial MX500」や「Samsung 870 EVO」がずっといい選択肢だと分かっていますが、価格が2倍近くてコストパフォーマンスがさらに下がりますし、性能を求めるならSATA規格を除外します。
Hanye Q60 ST3は「最悪じゃない性能」を非常に手頃な価格で売ってくれるからこそ、一定の価値が認められ、根強いニーズに支えられています。

M.2スロット非対応の古いノートパソコンや、SATA対応のゲーム機(PS4など)に、SSDを増設またはHDDから換装したい方に検討の余地あり。
以上「Hanye Q60 ST3レビュー:最近もっぱら貴重な「格安なSATA」SSDを試す【謎中華NAND】」でした。

「Hanye Q60 ST3」を入手する
レビュー時点の価格は1 TBモデルが約7600円、2 TBモデルが在庫切れ(価格不明)です。
定番モデルに挙げられるSamsung 870 EVOが約1.6万円、870 QVOですら約1.3万円もかかり、Crucial MX500は生産終了で入手できません。
おおむねコストパフォーマンスに優れたSATA SSDです。
「Hanye Q60 ST3」の代替案
今後レビューする予定の「Crucial BX500」が代替案です。メーカーのブランド力を優先するなら魅力的です。
おすすめなSSDを解説
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win10機に載せてオフラインで業務用プログラム走らせるのに丁度いい性能
安かろう悪かろうでも事務用には最適
真夏でも温度気にしない電力食わない大容量でゴリゴリ使わない
Excel.Word.添付メール程度なら良いかもしれない
SATAで手頃というとExceria SATAも似た価格だったような気がします。
EXCERIAは手頃だけど、容量が約5~6%少ないのが微妙に思えてしまった。
デカくて安くて壊れないなら、NASに突っ込んでしまうという手がありそうです。が、2.5ssdは流石にそこまで安くもないという…u.2の需要もありそうだし。
SSDの値段は結局容量で決まるところが大きいから他の部分ケチってもコスパ上がらないよなあ
自作動画保存用にはいいかもしれない
こういうのは、性能もそうだがデータ突然死とか怖いんだよなぁ…
古いNANDメモリのリスクですね。
72層NANDを今も製造してるのか、あるいは当時製造された在庫の余りを流用してるのか。これで突然死のリスクが変わってきます。半導体にとって「経年劣化」は避けられない現象なので。