米国クアルコムが開発しているスマホ向けCPU(= SoC)の大人気シリーズ「Snapdragon」に、最新モデルの「865」が登場。
最大10.5 Gbps対応の5Gモデムを搭載し、性能もAndroidで最強を目指すSnapdragon 865ですが、果たして中身や性能はどう進化したのか・・・?
Snapdragon 865の「中身」
Snapdragon 865は、クアルコムのハイエンドSoC「Snapdragon 800」シリーズの最新モデル。
Appleの「A13 Bionic」やサムスンの「Exynos 990」、最近アメリカに制裁されてるファーウェイの「Kirin 990」など。競合するハイエンドSoCに打ち勝つために開発された、意欲的なSoCです。
「Snapdragon 865(型番:SM8250)」を構成する中身を、分かりやすくイメージ化しました。
スマホ向けのSoCはパソコン用のCPUとは違い、チップの中にそれぞれ別々の役割を持つユニットがたくさん入っています。CPUだけでなく、グラフィックやWi-Fiモジュールも、小さなチップの中に内蔵です。
CPUはARM Cortexを8コア搭載
クアルコムは「CPUにKryo 585を8コア搭載」とアピールしていますが、実際の中身はARM社(イギリス)の「ARM Cortex A77」を4個、「ARM Cortex A55」を4個の合計8コア8スレッド構成です。
Snapdragon 865では、性能に差がある複数のCPUをセットで使う「ビッグリトル(big.LITTLE)」構成を採用しています。
Cortex A77は、1つが最大2.84 GHzで動作し、512 KBのキャッシュを内蔵。残りの3つは最大2.42 GHzで動作、それぞれ256 KBのキャッシュを内蔵です。高性能なA77コアで、メインタスクやゲームなど、高い処理性能が必要なタスクをこなします。
Cortex A55は、4つとも最大1.80 GHzで動作し、それぞれ128 KBのキャッシュを内蔵。A77と比べてだいぶ性能が低いコアなので、軽いタスクやバックグラウンドアプリをこなす補助的な役割を担います。
高性能なコア(A77)に重たいアプリやメインタスクを担当させ、バックグラウンドアプリなど軽い処理は低性能なコア(A55)を割り当てることで、少ない電力で高性能をかせぐ設計思想です。
加えてSnapdragon 865は、さらにワットパフォーマンスを改善するべく、CPU1つあたりのキャッシュ容量を増量しています。もっと効率アップするため、CPU専用のL3キャッシュを4 MBに倍増です。
グラフィックはAdreno 650が担当
動画再生やゲームの処理を担当するグラフィックスチップ(GPU)は、クアルコム社の「Adreno 650 GPU」を搭載です。従来のAdreno 640から約20%の性能アップを実現したとのこと。
CPUに負担をほとんど掛けずに、超高速で動画再生を処理する「VP9」および「H.265」デコーダに対応。Youtubeの4K動画もサクサクです。HDR10+、HLG and Dolby Visionなど、HDRコンテンツも対応しています。
デジタル処理はHexagon 698が担当
決められた処理だけを超高速で処理する、デジタル処理プロセッサは「Hexagon 698 DSP」を搭載。従来のHexagon 690が1秒あたり7兆回だったのが、今回のHexagon 698は2倍以上の15兆回※に進化しました。
写真編集のフィルタ効果、音声認識や顔認識の精度向上などを、デジタル処理プロセッサがCPUより遙かに効率よく処理します。
カメラの処理は「Spectra 480 ISP」が担当。4K @120 fps、8K @30 fpsの動画撮影、最大2億画素(200 MP)の写真撮影など。高解像度な写真や動画撮影をサクサクと処理できます。
現在、スマホ向けのイメージセンサーは最大108 MPですが、Snapdragon 865なら最大200 MPまで対応可能です。とはいえ、200 MPのセンサーが出る頃にはSnapdragon 875が登場してるかもしれません。
※TOPs : Tera Operations per Secondの略で、意味はそのまま1秒あたりの処理回数(単位は兆)。
Wi-Fi 6や「802.11 ay」も対応
Snapdragon 865には、Wi-Fi用の通信モジュール「FastConnect 6800」が内蔵されています。
Wi-Fi 6(802.11 ax)に対応し、最大1.774 Gbpsのスピードで通信が可能です。未来の規格である「802.11 ay」にもシレッと対応済みで、理論上は最大10.0 Gbpsという途方も無いスピードで通信できます。
モデムは「5G対応」ですが内蔵せず
回線に接続するために使うモデムは、クアルコム社の「X55 5G Modem」です。アップロード(上り)は最大3.0 Gbps、ダウンロード(下り)は最大7.5 Gbpsで通信可能な5G対応モデムです。
ただし、5Gに対応できるほどの性能を実現したかわりに、Snapdragonの中に入らないほど巨大かつ発熱の激しいチップになってしまいました。
Snapdragon 855の「X50 5G Modem」と同様、今回のSnapdragon 865でもモデムをチップ内に内蔵しません。SoCとモデム、それぞれ別々のチップをセットで使用する方式です。
Snapdragon 865の詳細スペック
スペック | Snapdragon 865 | Snapdragon 865+ |
---|---|---|
プロセス | TSMC製7 nm+(N7P) | TSMC製7 nm+(N7P) |
CPU | ARM Cortex A77 : 4コア | |
ARM Cortex A55 : 4コア | ||
クロック周波数 | 2.84 GHz(A77) | 3.10 GHz(A77) |
1.80 GHz(A55) | 1.80 GHz(A55) | |
L2キャッシュ | 1.8 MB | |
L3キャッシュ | 4 MB | |
対応メモリ | LPDDR5 @2750 MHz | |
LPDDR4x @2133 MHz | ||
最大16 GBに対応 | ||
GPU | Adreno 650 GPU最大クロック : 587 MHz | |
DSP | Hexagon 698 DSP処理速度 : 15.0 TOPs | |
内蔵モデム | なしX55 5G Modemをセットで使う | |
Wi-Fi | FastConnect 6800Wi-Fi 6 : 最大1.774 Gbps | FastConnect 6900Wi-Fi 6 : 最大3.60 Gbps |
Snapdragon 865と865+(Plus)のスペックをまとめておきます。上位モデルの「865+」は、865のオーバークロック版と考えて問題ないでしょう(※Wi-Fiが強化されてますが、実用上はそんなに変わらない)。
Snapdragon 865の性能を解説
ここからは「Snapdragon 865」の性能を、客観的なベンチマークデータにもとづいて解説します。
現時点で競合する他社のフラグシップSoCはもちろん、過去のSnapdragonの性能もいっしょにグラフにまとめました。
Snapdragon 865 SoC – Benchmarks and Specs
総合性能:AnTuTu Benchmark v8
スマホ用のベンチマークで一番知名度が高い「AnTuTu Benchmark」の総合スコアです。
「865」のAnTuTuスコアは平均574589点。同じ8コア8スレッドのまま、1世代前の855から約28%の性能アップを実現しており、キャッシュの増量など設計の最適化が大きく効いています。
CPU性能:Geekbench
Geekbenchはマルチプラットフォーム対応のCPU用ベンチマークです。スマホ以外のCPUも参戦できるので、参考程度に「Core i7 10510U」を比較グラフに入れてます。
「865」はマルチスレッドで約13300点、シングルスレッドで約4280点です。サムスンのExynos 990より高性能で、A13 Bionicにあと一歩追いつかない結果。
ノートパソコン用のi7 10510Uはさすがにトップですが、Snapdragon 865との性能差は22%で意外と狭まっています。ただし、ARM製CPUはWindows上で効率よく動かないので、参考程度の性能差と考えてください。
Geekbench 5.0のスコアもほぼ同じ傾向です。「865」はシングルスレッドこそApple Aシリーズに追い抜かされますが、マルチスレッド性能は互角の水準に迫ります。
ゲーム性能:3DMark for Android
Snapdragon 865に内蔵されているグラフィックチップ「Adreno 650 GPU」のゲーム性能をチェック。ベンチマークソフトは3DMark for Androidを使って、グラフィックススコアで比較します。
「Ice Storm Unlimited(1280 x 720)」は、グラフィックの粗いゲームアプリを前提にした3Dベンチマークです。「865」のグラフィックススコアは約149000点で、ノートパソコン用のCore i7すら超える性能。
従来モデルの855から約2倍も性能アップしていて驚きました。しかし、これだけの性能アップを果たしても、ライバルのApple A13 Bionicは20万点を軽くオーバー。GPU性能の差はそう簡単には埋まらないです。
処理の重たいゲームアプリを前提とした「Sling Shot OpenGL Unlimited(2560 x 1440)」では、「865」はAndroid勢でトップ性能です。Apple A12 ~ A13 Bionicとの性能差はさらに開いています。
ブラウザの処理速度:JavaScript系ベンチマーク
mozilla kraken 1.1は、ウェブブラウザ上で動作するJavaScriptの処理速度を競うベンチマークです。
「865」は2043 ミリ秒で処理を完了し、ライバルのExynos 990やKirin 990とほぼ横並びの結果になりました。
1000 ミリ秒を下回ったCPUは、インテルのノートパソコンCPU「i7 10510U」と、Appleのモバイル向けCPUのみ。A12 BionicとA13 Bionicは500 ~ 600 ミリ秒台でテストを完了してます(速すぎる !!)。
Octane V2も、krakenと同じくウェブブラウザ上で動作するJavaScript系のベンチマーク。順位に若干の違いはありますが、「865」の性能はおおむね同じ位置です。
日常的な使用:PCMark for Android
テキスト作成、ブラウザや動画再生、写真や動画編集など。スマホの日常的な使用における処理性能を、おおまかにスコア化するベンチマークが「PCMark for Android(Work 2.0)」です。
トップの座は「865」が見事に奪還です。日常的な使い方において、Snapdragon 865はAndroid勢で最高のパフォーマンスを発揮します。
消費電力とバッテリー時間
消費電力はチップ本体だけでなく、スマートフォンの設計そのもの(パネルの種類やリフレッシュレートなど)の影響を受けるため、直接的な比較ではありません。
それでも比較して明らかな事実は、少なくともSnapdragon 865は思ったほどワットパフォーマンスを改善できていないようです。
巨大化した5G対応モデムの存在や、過酷な性能競争に打ち勝つために、多少の消費電力アップはいとわない姿勢が感じとれます。
一方で、A13 Bionicを搭載するiPhone 11 Proの消費電力は、わずか3.13 W。Snapdragon 865より約44%も少ない消費電力です。特定のハードウェアに専用設計された強み※をこれでもかと発揮しています。
※Apple Aシリーズは実質iPhone専用SoCなので、ワットパフォーマンスは良くて当たり前。とも言えます。
まとめ:スナドラ865はAndroid用SoCで最高峰
「Snapdragon 865」の良いところ
- Android勢で「最高性能のSoC」
- Adreno 650のゲーム性能も強力
- サムスンの「Exynos 990」より効率的
- 「Wi-Fi 6」で最大1.744 Gbpsに対応
- 「5G」対応モデムを搭載
- 動画は8K / 写真は200 MPまで対応
「Snapdragon 865」の微妙なとこ
- 内蔵できないほど巨大化した「5G対応」モデム
- ゲーム性能は「A13 Bionic」に追いつけない
Snapdragon 865は、Android向けでは最高性能のSoCです。グラフィックチップ「Adreno 650」もパワフルなゲーム性能を発揮し、ライバルのExynos 990やKirin 990に付け入るスキを与えません。
性能以外の「接続性」や「機能性」も、Snapdragon 800シリーズの最新モデルに相応しい強力な内容です。モデムは5G対応、W-Fi 6は最大1.733 Gbps、カメラの対応スペックもほぼ最高の水準。
微妙なところは5G対応モデムが巨大で、「865」に内蔵できない点でしょう。しかも5G通信プランはまだまだ高価で、対応エリアも限定的かつ通信局の性能もイマイチ安定性に欠けているのが現状です。
8K動画撮影もそうですが、5G通信も現状ではマーケティング的な意味合いが色濃く、ユーザーにとってそれほど必要ではない機能性のためにムダな設計が増えてしまった感はあります。
スナドラ865が入ったスマホを紹介
スナドラ搭載スマホで無難といえば、サムスンの「Galaxy」シリーズです。グローバル市場(中国除く)におけるシェアは、Androidスマホで世界1位。デザインやUI設計、カメラの画質やスマホの性能はバランスよく安定しています。
個人的にはメインカメラがフラットに埋まってる「S10」シリーズが好きですが、最先端のパフォーマンスを求めるなら「S20」シリーズが良いのは間違いないです。
ちなみにS20シリーズのカメラが飛び出てしまった理由は、(使うかどうかイマイチよく分からない)強力な光学ズーム機能を「潜望鏡」を用いて実装したから。
コスパに特化したスマホはOnePlusやXiaomiが有名ですが、Galaxy S20シリーズと真っ向勝負できるほどスペックが強化されたせいで、残念ながら「低価格でハイスペック」では無くなりました。
とはいえ、OnePlusもXiaomiも価格なりにマトモな内容に仕上がっているので、好みで選んでいいレベルです。IP(防水防塵)ボディで選ぶなら、OnePlus 8 Proがコスパ優秀ですね。
以上「Snapdragon 865の性能がスゴイ・・・Android用で最高峰のSoC」でした。
S845の製造ファブがTSMCとなってありますが、これはマジなのですか?
こちらのソースですとSAMSUNGになっていますが・・
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/408/408383/
こちらも色々と確認してみましたが、たしかにサムスンが製造しているようなので訂正しました。
Samsung Starts Mass Production of its 2nd Generation 10nm FinFET Process Technology
845のスマホでpubgやりたいよおおお(810民)
ios Kraken 1.1強すぎ オデの8700K 4.5Ghzよりスコア高い
ほとんどの個別スコアでA11にぼろ負けしてるのに何故総合スコアはA11を抜いてるの?
金の力が働いているとしか思えないんだが笑
iPhoneXのパクリ…そもそもiPhoneXがAndroidパクってノッチ採用したんじゃないの?
パクリ云々の話を出しちゃダメ
パクリパクられで進化し続けるんだから…
ZenFone 5Zのデュアルカメラは合成方式ではなく、画角が標準/広角で別々のモノを載っけてるだけですよ。
[…] ちもろぐさんの『「Snapdragon 845」の性能がスゴイ…総合性能は世界最高。』という記事ではこのGalaxy Note9に搭載されている「Qualcomm Snapdragon 845」と、iPhone XS MAXの前機種のiPhone Xに搭載さ […]
[…] 詳しく知りたい方はちもろぐさんのページが非常にわかりやすくまとめてあります。 […]
シングルスレッド性能とマルチスレッド性能、どっちの方が大事なんでしょうか?
ネットサーフィン、youtube、写真撮影、ベンチみてニヤニヤ、ゲームが主な用途ですね
(まあこんなハイエンドは要らないんだけどw)
855も出ましたね〜
Huaweiも頑張ってほしい…ですがこの情勢だと厳しいですかね
いっそのこと欧米とかでHuaweiを受け入れてやれば良いと思うのですが…
政治が絡むので難しいですね
もうスマホ関連の記事は書かれないのですか
Snapdragon855等の記事も見たいです
PC系なだけあってスマホSoCの解説に関しては他のどんな記事よりも分かりやすいと思っています
Wi-Fi 6 は、802.11 ax ですよー
ご指摘ありがとうございます。axに修正しました。
WiFi6はax
つい先日スナドラの脆弱性に関する記事が出ましたが
気になるところですね。スマホメーカーが積極的に
パッチを配布してくれたら良いのですが。
最大の問題は価格のような・・・
A13最強!!
Snapdragon 865は5G対応モデムとセットで売られるため結果的に高くなってしまう
Kraken1.1はOSやブラウザの影響をあまり受けない(win10とubuntu、chromium系とfirefoxでの比較。octane2.0はだいぶスコア違う)と思っているのですが、A13のkraken1.1のスコアはiOS、safariの最適化なんでしょうか。ここまでやれるならapple silicone積んだmac miniとか出たらDebian入れて使いたい!
A13すごい…/消費電力ってどんな条件でどうやって測ったんですか?
NoteBookCheckさんの測定方法は、高精度なマルチメーター「Gossen Metrawatt METRAHIT ENERGY」を使って実測しています。
測定時の条件(負荷の掛け方)は、画面を最大まで明るく設定し、アプリ「Stability Test」を実行します。
ありがとうございます!
mediatek Dimensity 1000+がコスパ凄いからなあ
AMDの第2世代ryzenみたいな感じで
Dimensity 1000+は採用スマホがまだまだ少ないですが、性能はすごいですよね~。
(´-`).。oO(REDMI k30 ultra最強)
AnTuTu v8は本体のハード的な違いを拾ってしまう仕様なのでSoC比較には向きません。
やるなら、例えばCPU, GPU, MEMなどセグメントごとに分けて比較すべきです。
SONYは採用した製品出さないのかな
スナップドラゴン845の記事に飛んだと思ったら865だった・・・
スナップドラゴン865の周波数ですが正しくはcoretexA55×4 1.8GHz coretexA77×3 2.42GHz coretex A77 ×1 2.84GHzでは。
“特定のハードウェアに専用設計された強み※をこれでもかと発揮しています。
※Apple Aシリーズは実質iPhone専用SoCなので、ワットパフォーマンスは良くて当たり前。とも言えます。”
これよく言う人がいるけど、スマホは何でもできてしまうので当然スマホのCPUは汎用的であることが求められるし、独自の命令セットで特定の処理を高速化なんて真似もArmのライセンス的に不可能(といっても大口顧客なので口出しはできるが…)だから、この話はちょっと違うんじゃないかなあ。
古いコメントに対して書くのもちょっと野暮ったいけど
>独自の命令セットで特定の処理を高速化なんて真似もArmのライセンス的に不可能
不可能ではないです。
アーキテクチャライセンスというもので、QualcommやNvidiaが使ってます.
AppleはA6以降らしい。