スマートフォン向けのCPU(正しくはSoC)を開発しているクアルコムの人気シリーズ「Snapdragon」に、835の後継モデルにあたる新しい最上位モデルが登場した。835は長らく最強クラスの性能を持つSoCだったが、その後継である「845」はどこまで進化してしまったのか…。
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「Apple A12 Bionic」に最強の座を奪還されました。
Snapdragon 845

Snapdragon 845は、クアルコムのハイエンドSoCシリーズ「Snapdragon 800」の最新版。「A11 Bionic」や「Kirin 970」など、競合ハイエンドSoCと真っ向勝負するために開発されたSoCです。

「845」のカタログスペック(仕様)を分かりやすくイメージ化してみた。CPUと違ってSoCは、チップ内に様々な役割を持った処理ユニットがたくさん入っているので「中身」という言い方をすると分かりやすいと思います。

Snapdragon 845は高性能な「ARM Cortex A75」(別名:Kryo 385)というコアを4つ搭載する。この高性能コアは最大2.8 Ghzで動作できる。残りの4コアは省電力性に優れた、補助的な役割を果たす「ARM Cortex A55」(別名:Kryo 385)で構成される。
A75は最大2.8 Ghzで動作するのに対して、A55は最大1.8 Ghzでしか動作できない。重たい作業やメインタスクは「A75」に担当させ、軽い作業やバックグラウンドアプリは「A55」に担当させることで、少ない消費電力で高性能を実現するのがSnapdragonのやり方。

グラフィック(ゲーム)担当は「Adreno 630 GPU」。従来の「Adreno 540 GPU」と比較して、30%もの性能アップに成功していると開発したクアルコムは言っている。

そして、普段のSnapdragonから大きく変わったのが今までとは違う新しいタイプのチップが搭載されている点。画像の右下の「Hexagon 685 DSP」がそうです。AI機能に特化したCPUで、音声認識の精度向上やカメラの処理効率アップが狙いらしい。
スペック | Snapdragon 845 | Snapdragon 835 |
---|---|---|
プロセス | 10nm LPP FinFET | 10nm FPE FinFET |
製造 | Samsung | Samsung |
搭載CPU | ARM Cortex A75 x4 | Kryo 280 x4 |
ARM Cortex A55 x4 | Kryo 280 x4 | |
クロック周波数 | 2.80 Ghz | 2.45 Ghz |
1.80 Ghz | 1.90 Ghz | |
対応メモリ | LPDDR4x | |
最大1866Mhz / 8GBまで / デュアルチャネル対応 | ||
L3キャッシュ | 2 MB | なし |
搭載GPU | Adreno 630 GPU | Adreno 540 GPU |
搭載DSP | Hexagon 685 DSP | Hexagon 682 DSP |
カメラチップ | Spectra 280 | Spectra 180 |
内蔵モデム | X20 Modem | X16 Modem |
セキュリティー | Qualcomm Secure Processing Unit (SPU) | – |
Qualcomm Processor Security | Qualcomm Processor Security | |
Qualcomm Mobile Security | Qualcomm Mobile Security Products | |
Qualcomm Content Protection | – | |
対応API | OpenGL ES 3.2 | |
OpenCL 2.0 full | ||
Vulkan | ||
DirectX12 |
Snapdragon 845 Mobile Platform – Qualcomm
詳細スペックはこんな感じ。カメラ、モデム、セキュリティーなど処理性能以外の部分でも強化が行われています。
Snapdragon 845の性能
スマホの価値はSoCの処理性能だけで決まるわけではないが、この記事では基本的にSnapdragon 845それ自体の処理性能だけに注目する。
性能はモバイル向けのベンチマークソフトで分かりやすく計測可能。スマホのベンチマークと言えば「AnTuTu」が特に有名だと思いますが、それ以外にもクロスプラットフォーム対応のベンチマークなど。
様々なベンチマークに基いて多角的に「Snapdragon 845がライバルのApple A11 Bionicや、先代のSnapdragon 835と比較してどれほど優秀なのか?」を確認していく。
Qualcomm-Snapdragon-845-SoC-Benchmarks-and-Specs
AnTuTu Benchmark v6

スマホ向けのベンチマークソフトとしては、恐らく一番知名度が高いかもしれない「AnTuTu」。SoCに色々な種類のテストを行わせ、分野ごとに集まったスコアを集計することで「総合スコア」を算出するのが特徴。
AnTuTu Benchmark v6
結果はAnTuTU最強を塗り替えたA11 Bionicすら超えるスコアを叩き出して、今のところ(2018/5時点)は世界最高クラスのスコアを持つSoCということに。
Snapdragonの最上位モデルは常に世界最高の総合スコアを叩き出してきたが、今回の「845」も期待を裏切らない結果となった。
Geekbench 4.1

Geekbenchはクロスプラットフォーム対応のベンチマークソフト。SoCの「CPU性能」だけを調べることが出来るので、Snapdragon 845がCPUとしてちゃんと進化しているのかどうかが分かりやすい。
Geekbench 4.1 – 64 Bit / Single Score
1コアあたりの性能である「シングルスレッド性能」は、835と比較して30%も高くなっている。一方のApple A10とA11は、1コアあたりの性能が非常に高い。
Geekbench 4.1 – 64 Bit / Multi Score
全てのコアを使った「マルチスレッド性能」では、ライバルのA11 Bionicにあと一歩というところまで迫っている。1コアあたりの性能で負けていても、Snapdragonは8コア搭載なのでマルチスレッド性能は高くなりやすい。
3DMark Ice Storm Unlimited

グラフィック性能を調べるベンチマークは「3DMark」が有名。スマホの場合は、その中の「Ice Storm Unlimited」という軽量なプリセットを使ってSoCのGPU性能をスコア化できる。
3DMark – Ice Storm Unlimited @Graphics Score
クアルコムによれば「Adreno 630は540と比較して30%の性能アップ」と言っていたが、この結果を見る限りウソでは無かったようだ。先代と比較して43%もグラフィック性能が向上している。
しかし、ライバルのA11 Bionic GPUには更に41%も抜かされてしまっています。ゲーミング性能で最強の座に就くのは、まだ先になりそうですね…。
Mozilla Kraken 1.1

ウェブブラウザ上で動作するベンチマーク。Javascript系の処理を行わせ、処理が終わるまでに掛かった時間でSoCの性能を評価できる。
Mozilla Kraken 1.1
Snapdragon 845は2401ミリ秒で、835から約300ミリ秒(約11%)速くなった。
なお、A11 Bionicが725ミリ秒で圧倒的に速い結果が出ていますが、A11の性能よりiOS標準ブラウザ「Safari」の最適化が極めて優秀な可能性は否定できない。
デスクトップPCのCPUを使っても1000ミリ秒を割り込むのは「i7 8700K」など、一部のハイエンドCPUに限られている。なのにスマホ向けCPUであるA11が700ミリ秒を出せるのは…直感的にちょっと理解しにくいですよね。
Octane V2

Octane V2も、Mozilla Krakenと同じくブラウザ上で動作するJavascript系のベンチマーク。Krakenと違って、ミリ秒ではなく「スコア」で性能を示してくれる。
Octane V2
内容自体はそこまで変わらないので、概ねKrakenと同じような傾向になった。A11 Bionicが異様に速いのは置いておいて、重要なのは先代と比較して845は約42%も高速化したということです。
シングルスレッド性能の向上により、ウェブ閲覧のような単純な処理をこなす速度が確実に進化しています。
まとめ:一部を除き、スナドラ845は現行「最強クラス」
ここまでのベンチマークをまとめると、
- SoCとしての総合性能は過去最強クラス
- シングルスレッド性能がちゃんと伸びている
- ゲーム性能は約40%の伸び
- ただしゲーミング最強は「A11 Bionic」
以上の4点が分かった。
Snapdragon 845はSoCとしての総合性能では、それまで最強に位置していたAppleの「A11 Bionic」を超えて、過去最高スコアを更新。あの先代「835」から約28%もスコアを伸ばすという快挙です。
一方で、GPU(グラフィック)の性能は依然として「A11 Bionic」が立ちはだかる現状。845は先代の835から約40%グラフィック性能を進化させたけれど、A11は更に40%上を行く。
なお、スナドラ搭載ノートPCは上手く行ってません
Snapdragon 835はノートパソコン並の性能を持っている割に、消費電力が少ないという理由からたびたび「スナドラ搭載ノートPC」というモノが計画されてきた。

そして実際にHP(ヒューレット・パッカード)がSnapdragon 835搭載のHP Envyを発売したが…、せいぜいCeleronくらいの性能しか出ないということが明らかになっています。
ベンチマーク上では、インテルの「Core m5 6Y54」などCore i5クラスのCPUと互角のマルチスレッド性能を持っているにも関わらず、実際にWindowsマシンに載せてみるも無残な結果になってしまった。
もともとWindows前提に開発されているわけではないので、Windows側でエミュレートしてSnapdragonを動かすわけですが。このエミュレートという過程がまだまだ未成熟なのが現状です。
Snapdragon 845搭載のスマートフォン
ASUS ZenFone 5Z 【日本正規代理店品】 6.2インチ/SIMフリースマートフォン/スペースシルバー (6GB/128GB/3,300mAh) ZS620KL-SL128S6/A
カメラやデザインまでハイエンドの機種だと10万円前後がザラの世界。カメラなどにこだわらなければ、スナドラ845搭載スマホは7万円台が現状の最安値っぽい。

特に、SIMフリー版を国内正規代理店がマジメに売っている「ZenFone 5Z」はかなり売れそう。デュアルSIM対応で、最大6GBのメモリ、MicroSDは最大400GB対応、多めの3300mAhバッテリーなどなどコスパ良く仕上がっている印象がすごい。
画面占有率90%超えのディスプレイもキレイだし(iPhone Xのパクリだが)、カメラは画素数こそ少ないが一応デュアルカメラなので、2つのカメラで撮った画像をHexagon 685のAI機能で合成して…それっぽい写真を作り出す仕様になっているはず。
というわけで、以上「Snapdragon 845の性能がスゴイ…総合性能は世界最高。 」でした。
その他、スマホやSoCの話

24000円という価格を考えると「異質な存在」。カメラ性能など、やはりハイエンドスマホに敵わない点はあるけれど、それらを考慮しても24000円という価格を考えると非常に魅力的。現時点でコスパ最強のスマホ。

ARM製のCPUを無理やりWindowsで動かすのは、まだまだ無理があった…という話。Celeron以下なのに約10万円のノートパソコンなんて、需要ないだろう(知らずに買ってしまう人を除き)。
S845の製造ファブがTSMCとなってありますが、これはマジなのですか?
こちらのソースですとSAMSUNGになっていますが・・
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/408/408383/
こちらも色々と確認してみましたが、たしかにサムスンが製造しているようなので訂正しました。
Samsung Starts Mass Production of its 2nd Generation 10nm FinFET Process Technology
845のスマホでpubgやりたいよおおお(810民)
ios Kraken 1.1強すぎ オデの8700K 4.5Ghzよりスコア高い
ほとんどの個別スコアでA11にぼろ負けしてるのに何故総合スコアはA11を抜いてるの?
金の力が働いているとしか思えないんだが笑
iPhoneXのパクリ…そもそもiPhoneXがAndroidパクってノッチ採用したんじゃないの?
ZenFone 5Zのデュアルカメラは合成方式ではなく、画角が標準/広角で別々のモノを載っけてるだけですよ。
[…] ちもろぐさんの『「Snapdragon 845」の性能がスゴイ…総合性能は世界最高。』という記事ではこのGalaxy Note9に搭載されている「Qualcomm Snapdragon 845」と、iPhone XS MAXの前機種のiPhone Xに搭載さ […]
[…] 詳しく知りたい方はちもろぐさんのページが非常にわかりやすくまとめてあります。 […]
シングルスレッド性能とマルチスレッド性能、どっちの方が大事なんでしょうか?
ネットサーフィン、youtube、写真撮影、ベンチみてニヤニヤ、ゲームが主な用途ですね
(まあこんなハイエンドは要らないんだけどw)
855も出ましたね〜
Huaweiも頑張ってほしい…ですがこの情勢だと厳しいですかね
いっそのこと欧米とかでHuaweiを受け入れてやれば良いと思うのですが…
政治が絡むので難しいですね