まったく無名の中華メーカーHIKSEMIが発売している、PCIe 4.0対応NVMe SSD「FUTURE70-01TB」を自腹で買ってレビューします。
正直買う気はなかったのですが、どうも値段の割に性能が良いらしいので本当に性能が良いのか、1500ドルのベンチマークを使って徹底的に化けの皮を剥がしてみたいと思った次第です。
(公開:2023/4/1 | 更新:2023/4/1)
HIKSEMI FUTURE SSDのスペックと仕様
HIKSEMI FUTURE NVMe SSD スペックをざっくりと解説 | ||
---|---|---|
容量 | 1024 GB | 2048 GB |
インターフェイス | PCIe 4.0 x4(NVMe 1.3) | |
フォームファクタ | M.2 2280(片面実装) | |
コントローラ | Maxio MAP1602A | |
NAND | YMTC 232層 3D TLC NAND YMTC:長江存儲科技(中国) | |
DRAM | なし | |
SLCキャッシュ | 非公開 | |
読込速度 シーケンシャル | 7450 MB/s | |
書込速度(SLC) シーケンシャル | 6600 MB/s | 6750 MB/s |
書込速度(TLC) シーケンシャル | 非公開 | |
読込速度 4KBランダムアクセス | 860K IOPS | |
書込速度 4KBランダムアクセス | 670K IOPS | 690K IOPS |
消費電力(最大) | 3.9 W | |
消費電力(アイドル) | 非公開 | |
TBW 書き込み耐性 | 1800 TB | 3600 TB |
MTBF 平均故障間隔 | 200万時間 | |
保証 | 5年 | |
MSRP | – | – |
参考価格 | 10880 円 | 17880 円 |
GB単価 | 10.6 円 | 8.73 円 |
「HIKSEMI FUTURE SSD(型番:FUTURE70-01TB)」は、中国のメーカーHikvisionが販売するPCIe 4.0対応のハイエンドNVMe SSDです。
当然ながら、Hikvisionは自社でSSDを製造できない有象無象の1社です。
決して手を出すべきメーカーでは無いのですが、中国YMTC社の232層TLC NANDメモリを搭載しているらしく、NAND自体の性能だけを見るなら確かにハイエンド級の性能に期待ができます。
2023年4月時点で、232層NANDの量産に至ったメーカーはたった2社(先発がYMTC、次にMicron)で、本来はPCIe 5.0クラスの製品に搭載されている超ハイエンドNANDです。
なぜ、ハイエンド級NANDがこれほど安い価格で放出されているのか。
商務省の産業安全保障局(BIS)は2022年10月に講じた措置を拡大し、YMTCやAIチップの設計企業Cambricon Technologiesなどの企業をいわゆるエンティティリスト(Entity List)に追加した。これによって、米国の技術で製造された半導体や製造装置の購入が阻止される。
報道によるとYMTCが米国のエンティティリストに加えられ、とある大手メーカーへ出荷予定だった大量のNANDメモリを出荷できなくなり在庫を積み上げてしまったらしいです。
Apple は、中国の軍事関連ファブである Yangtze Memory Technologies Corporation (YMTC) と iPhone 14 メモリ チップの契約を結んでいます。(2022年6月報道)
Silicon Sellout: Apple’s Chip Deal With YMTC Threatens 24,000 High-Paying US Jobs より
アップルは当初、政府が資金を提供するYMTCのチップを早ければ今年中に使い始める予定だった。
しかし、複数の情報筋によると、地政学的な圧力と米国の政策立案者からの批判の高まりにより、Apple は方針を変更しました。(2022年10月報道)
具体的な出荷先は不明ですが、複数の報道によるとYMTC製のNANDメモリはAppleのiPhone向けに出荷される可能性が高かったとのこと。
こうして余った大量の在庫をどうにか処分するため、Hikvisionなどの中華メーカーに安くバラまいて、在庫処分を進めている可能性が考えられます(※あくまでも推測で事実関係は不明)。
iPhone向けに出荷予定だったらしい情報が本当なら、少なくともAppleが要求する品質基準を満たしており、激安中華(SUNEAST等)SSDにありがちな出どころ不明の怪しいSSDよりマシな信頼性がありそうです。
SSD | 500 GB | 1 TB | 2 TB |
---|---|---|---|
HIKSEMI FUTURE SSD | – | 1800 TBW | 3600 TBW |
SK Hynix Gold P31 (SK Hynix Gold P31:レビュー) | 500 TBW | 750 TBW | 1200 TBW |
WD_BLACK SN770 (WD_BLACK SN770:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
KIOXIA EXCERIA PLUS G2 (KIOXIA EXCERIA G2 PLUS:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
KIOXIA EXCERIA G2 (KIOXIA EXCERIA G2:レビュー) | 200 TBW | 400 TBW | 800 TBW |
WD Blue SN570 (WD Blue SN570 NVMe:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | – |
Crucial MX500 (FireCuda 530:レビュー) | 180 TBW | 360 TBW | 700 TBW |
FireCuda 530 (FireCuda 530:レビュー) | 640 TBW | 1275 TBW | 2550 TBW |
CFD PG4VNZ | 350 TBW | 700 TBW | 1400 TBW |
Plextor M10PGN | 320 TBW | 640 TBW | 1280 TBW |
Crucial P5 Plus | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
Samsung 980 PRO (980 PRO:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
WD Black SN850 (SN850:レビュー) | 300 TBW | 600 TBW | 1200 TBW |
耐久性能評価(TBW)は非常に高く、1 TBモデルで1800 TBW、2 TBモデルで3600 TBWをアピールします。
仮に1 TBモデルをゲーミングPCでシステムストレージとして使った場合、かなり過剰に見積もっても1日あたり平均50 GB程度の書き込みです。
1800 TBWを50 GB(0.050 TB)で割ると36000日で、耐久値を使い切るのに約98年もかかる計算に。おそらくNANDメモリの寿命が尽きるより先に、SSDコントローラが経年劣化で故障する確率のほうが高いです。
ライバル製品と価格設定の比較
PCIe 4.0対応のハイエンドNVMe SSDと価格を比較したグラフです。
2023年4月時点、HIKSEMI FUTURE SSDの1 TBモデルが約1.1万円、2 TBモデルで約1.8万円です。7000 MB/s超えをアピールするSSDとして文句なしの最安値です。
高いコストパフォーマンスに期待できますが、HIKSEMI FUTURE SSDはDRAMを搭載しないHMB(ホストメモリバッファ)方式のSSDです。
同じHMB方式だと、「WD Black SN770」をはじめに「EXCERIA G2」など、価格の近いライバル製品が大量にいます。価格の近いライバルを圧倒できるかどうか気になります。
HIKSEMI FUTURE SSDを開封レビュー
パッケージデザイン & 開封
今回レビューで使うサンプルはAmazon(販売ページはこちら)より、9980円にて1 TBモデルを自腹で購入しました。
意外と安っぽさを感じさせない、黒色を基調としたシンプルなパッケージデザインです。パッケージ表面に代理店の保証シールが貼ってあります。
Amazonの公式サイトに「5年保証」と記載があったはずですが、貼ってあるシールは残念ながら「3年保証」です。問い合わせ先は以下のメールアドレスです。
- hiksemi@taurus-digital.co.jp
コメント欄で教えてもらった情報によると、5年保証のシールが貼ってある個体があるようです。紛らわしいので、おそらく最近のロットに関してはシールを張り替えているかもしれないです。
説明書や小ねじが同封されています。プラスチック製のケースにSSD本体がすっぽりと収まっています。
M.2ソケット用の小ねじとプラスドライバーが付属します。
基板コンポーネント
ハイエンドSSDらしくマットブラック塗装のプリント基板上に、SSDを構成するコンポーネントを覆い隠すように製品ラベルシールが貼られています。
ラベルシールを剥がすと3年間の製品保証が無効となるリスクが高いため、別途M.2ヒートシンクを取り付ける場合はシールを剥がさずにそのまま取り付けましょう。
裏面にコンポーネントはありません。各国の認証ロゴや、交換保証(RMA)申請時に必要となるシリアルナンバー(S/N)が記載されたラベルシールが貼られています。
表面だけにコンポーネントが実装されているシンプルな片面実装のNVMe SSDです。取り付けスペースが狭いノートパソコンで問題なく使えます。
ヒートシンクを兼ねている分厚いシールを剥がして、基板のコンポーネントを目視で確認します(※5年間の製品保証が切れる行為ですので、真似しない方が安全)。
- コントローラ:Maxio Tech MAP1602A
MAP1602A-P2C AAM1Y949002 2241 - DRAM:なし
- NAND:YMTC 232層 3D TLC NAND
YMC6G004Tb74CA1C0 2245P M2BN19473
SSDコントローラとNANDメモリのみ搭載する、DRAMレス設計です。
SSDコントローラはMaxio Techが自社で開発するARM Cortexベースの「MAP1602A」を搭載。
TSMC 12 nmプロセスで製造されるAMR Cortex-R5(シングルコア)を搭載し、DRAMレス(最大64 MBのHMB方式)に対応するSSDコントローラです。
最大2400 MT/sのスループットで、最大4チャネルのNANDメモリに接続できます。最大4チャネルだとスループットを稼ぎにくくなりますが、Maxioはデータシートで最大7200 MB/sのスループットをアピールします。
NANDメモリは中国YMTCが製造する「232層 3D TLC NAND」です。
2つのウェハを重ね合わせて多層化を可能にする「Xtacking 3.0」技術で製造され、200層超えのNANDメモリで最高の記録密度(15.03 Gbit/mm²)を実現します。
今回のHIKSEMI FUTUREに搭載されている「YMC6G004Tb74CA1C0」は、記憶密度が1024 Gb(= 128 GB)のチップを4枚重ねにして、合計4096 Gb(= 512 GB)の容量に。
FUTURE70-01TB | SK Hynix Gold P31 |
---|---|
|
|
= 2個使って容量1 TB (1024 x 4 x 2 = 8192 Gb) | = 2個使って容量1 TB (1024 x 4 x 2 = 8192 Gb) |
NANDメモリの構成としては、以前レビューした「SK Hynix Gold P31」とほぼ同じです。最新鋭のNANDメモリを少量だけ使って高性能化を目指す、少数精鋭的なコンポーネント構成です。
DRAMメモリを搭載しませんが、232層まで積み上げた超高性能なNANDメモリと、SRAMを内蔵するMaxio MAP1602Aコントローラの特性でTLC NAND本来の性能をうまく底上げする狙いが見えます。
HIKSEMI FUTURE SSDの性能をベンチマーク
テスト環境を紹介
テスト環境 「ちもろぐ専用:SSDベンチ機」 | ||
---|---|---|
CPU | Ryzen 9 5950X16コア32スレッド | |
CPUクーラー | NZXT X63280 mm簡易水冷クーラー | |
マザーボード | ASUS ROG STRIXX570-E GAMING | |
メモリ | DDR4-3200 16GB x2使用メモリ「G.Skill Trident Z C16」 | |
グラフィックボード | RTX 3070 8GB | |
SSD | HIKSEMI FUTURE70-01TB 1TB | |
電源ユニット | 1200 W(80+ Platnium)使用モデル「Toughpower iRGB PLUS」 | |
OS | Windows 10 Pro 64bit検証時のバージョンは「1909」 | |
ドライバ | NVIDIA 471.41 | |
ディスプレイ | 3840 x 2160@160 Hz使用モデル「Innocn 27M2V」 |
980 PROのレビュー以降、SSDをテストするベンチマーク機を更新しました。PCIe 4.0に対応するプラットフォーム「Ryzen 5000」と「AMD X570」をベースに、適当なパーツを組み合わせます。
CPUは16コア32スレッドの「Ryzen 9 5950X」です。16コア32スレッドの圧倒的なCPU性能があれば、最大7000 MB/s超のSSDが相手でもボトルネックになる可能性はほぼ皆無です。
マザーボードはASUS製「ROG STRIX X570-E GAMING」を採用。テスト対象のNVMe SSDをCPU直結レーンのM.2スロット、またはPCIeスロットに挿し込んで各ベンチマークを行います。
SSDを熱から保護するサーマルスロットリングによって性能に悪影響が出ないように、以下のような手段でテスト対象のSSDを冷却しながらベンチマークを行います。
- マザーボード付属のヒートシンクを装着
- ケースファンを使ってヒートシンクを冷やす
SSDを徹底的に冷やして、サーマルスロットリングがテスト結果に影響を与えないように対策しています。5分間の発熱テストのみ、ヒートシンクを外してケースファンも使いません。
- インターフェース:NVM Express
- 対応転送モード:PCIe 4.0 x4
- 対応規格:NVM Express 1.4
- 対応機能:S.M.A.R.T. / TRIM / VolatileWriteCache
「HIKSEMI FUTURE SSD」の初期ステータスをCrystal Disk Infoでチェック。特に問題なし。
フォーマット時の初期容量は「953 GB」でした。
Crystal Disk Mark 8
「Crystak Disk Mark 8」は、日本どころか世界で一番有名と言っても過言ではない、定番のSSDベンチマークソフトです。性能の変化をチェックするため、初期設定の「1 GiB」に加え、最大設定の「64 GiB」もテストします。
Crystal Disk Mark 8の結果※クリックで画像拡大します | |
---|---|
テストサイズ:1 GiB(MB/s) | テストサイズ:64 GiB(MB/s) |
テストサイズ:1 GiB(レイテンシ) | テストサイズ:64 GiB(レイテンシ) |
読み込み速度が約7420 MB/sで、書き込み速度は約6517 MB/sを記録。メーカー公称値とほぼ一致する性能です。
テストサイズを64 GiBまで引き上げると、1 GiB時より性能が悪化します。読み込みと書き込みどちらもメーカー公称値を下回り、レイテンシも下がっています。
体感性能や実用性能に影響が大きい、4KBランダムアクセスのレイテンシ(応答時間)の比較グラフです。
HIKSEMI FUTURE SSDは46.57 μsで、DRAMレス(HMB方式)SSDとして過去最速。あのSN770と互角の水準に並びます。
書き込みレイテンシも問題なし。WD Black SN770をわずかに超えて、Optane 905Pに匹敵します。
SLCキャッシュの展開が速いSSDであれば、ハイエンドモデルと大差ない書き込みレイテンシが可能です。
ATTO Disk Benchmark
ATTO Disk Benchmarkは、512 B~64 MB(合計21パターン)のテストサイズでスループットを測定し、SSDの性能が安定しているかどうかを視覚的に示してくれるベンチマークソフトです。
ベンチマーク結果からSSDの評価が非常に分かりにくいので、表計算ソフトを使ってグラフ化して他のSSDと比較します。
読み込み速度は7000 MB/s前後でピークに達したあと、安定した性能を維持します。キャッシュに収まる範囲なら、シーケンシャル公称値に近い性能です。
書き込み速度は6200 MB/s前後に達したあと、安定した性能を維持します。キャッシュの範囲内なら、おおむねスペック通りの性能を示しており、特に問題ありません。
HD Tune Pro
HD Tune Proは有料のSSDベンチマークソフトです。SSDの容量全域に渡ってテストを実行して、SSDの性能変化(SLCキャッシュの有無や、キャッシュが剥がれた後の性能など)を手軽に調べられます。
HD Tune Proの結果※クリックで画像拡大します | |
---|---|
| |
| |
|
HD Tune Proで注目するのは「書き込み速度の変化」です。
3枚目のファイルベンチマーク(250 GB分)を見ると、テスト完了まで一貫して6000 MB/s近い書き込み性能を維持します。SLCキャッシュサイズは250 GB以上の可能性が高いです。
空き容量をすべてSLCキャッシュ化できると仮定するなら、理論上は317 GBまでSLCキャッシュを展開でき、250 GB以上は無理のある数値ではありません。
なお、HD Tune Proは割りと対策されている傾向のあるベンチマークです。
PhisonコントローラもHD Tune Proに対して特殊な挙動を見せますし、Maxioコントローラも同様の特性が実装されていてもおかしくないです。
HIKSEMI FUTURE SSDを実運用で試す
ゲームのロード時間を比較
FF14:暁月のフィナーレ(ベンチマークモード)で、ゲームロード時間を測定します。ベンチマーク終了後に、ログファイルからロード時間を読み取ります。
HIKSEMI FUTURE SSDのロード時間はなんと「6.26 秒」で、あまたのハイエンドNVMe SSDを抜き去ってトップクラスに位置します。
同じHMB方式のWD Black SN770より1秒近くも速いです。
HIKSEMI FUTURE SSDがゲームロード時間で異様に速い理由としては、広大なSLCキャッシュが考えられます。基本的に、DRAMやOptaneに近い性質であればあるほどゲームロード時間が速くなります。
SLCキャッシュ状態はOptaneの一歩手前の性質を持つため、広大なSLCキャッシュを展開できるHIKSEMI FUTURE SSDがトップクラスのロード時間を出せるのも、割りとあり得る話です。
ファイルコピーの完了時間
Windows標準のコピペ機能と目視によるストップウォッチでは正確性に欠けるので、ファイルコピーに便利なフリーソフト「DiskBench」を使って、ファイルコピーに掛かった時間を計測します。
- ゲームフォルダ(容量62 GB / 76892個)
- 写真ファイル(容量113 GB / 6000枚)
- 圧縮データ(容量128 GB / zip形式)
ファイルコピーに使う素材は以上の3つ。ファイルコピーの基準となるストレージは、PCIe 4.0対応かつ書き込み性能が高速なSamsung 980 PRO(1 TB)です。
書き込み(980 PRO → HIKSEMI FUTURE SSD)速度はシーケンシャル性能に沿った結果です。
ゲームフォルダの書き込みは同じ価格帯のNVMe SSDと大差ないですが、写真フォルダとZipファイルの書き込みはハイエンド級です。
次は読み込み(HIKSEMI FUTURE SSD → 980 PRO)のコピペ時間です。
ゲームフォルダの読み出しは平凡です。EXCERIA PLUS G2より速く、WD Black SN770と同等です。写真フォルダとZipファイルの読み出しは良好で、SK Hynix Platinum P41に匹敵します。
Premiere Pro:4K素材プレビュー
動画編集ソフト「Adobe Premiere Pro」で、1秒あたり448 MBの4K動画素材をプレビューします。Premiere Proのプレビューは、素材を配置しているストレージの性能に影響を受けやすく、SSDの性能が不足すると「コマ落ち」が発生しやすいです。
コマ落ちしたフレーム数はPremiere Proの標準機能「コマ落ちインジケータ」で3回測定して平均値を出し、動画素材の総フレーム数で割り算してドロップフレーム率を計算します。
4Kプレビューのドロップフレーム率は約13.2%です。
単なるシーケンシャル性能だけでなく、応答速度も求められる複合的な読み出しテスト内容ですが、広大なSLCキャッシュを展開できるHIKSEMI FUTURE SSDにとって朝飯前のようです。
Samsung 980 PRO、SN770、983 ZETなど名だたるNVMe SSDを押しのけて、Optane 905Pにつづくプレビュー性能を発揮します。
PCMark 10:SSDの実用性能
PCMark 10 Professional Editionの「Storage Test」を使って、SSDの実際の使用シーンにおける性能を測定します。
- PCMark 10(UL Benchmarks)
Storage Testには23種類のテストパターン(Trace)が収録されており、パターンごとの転送速度や応答時間を測定し、SSDの実用性能をスコア化します。
なお、SSDは空き容量によって性能が大きく変化する可能性があるため、空き容量100%だけでなく容量を80%埋めた場合(= 空き容量20%)のテストも行いました(※2回:約2時間)。
HIKSEMI FUTURE SSDのストレージスコアは「2701点(空き容量20%時)」です。空き容量100%なら3660点で、空き容量による性能低下は約26%です。
空き容量20%スコアを比較していくと、WD Blue SN570(1830点)やSK Hynix Gold P31(2184点)を超え、WD Black SN850(2903点)やSK Hynix Platinum P41(2918点)に迫る性能に。
DRAMレス(HMB方式)でありながら、DRAMキャッシュ搭載のハイエンドNVMe SSDに実用スコアで迫る性能を発揮しており、HIKSEMI FUTURE SSDに搭載された232層NANDの実力を証明します。
PCMark 10ストレージテストの細かい内訳を確認します。
基本的に、同じ価格帯のSSDに対してHIKSEMI FUTURE SSDが勝利を収めます。Adobeスコア、ゲームロードスコア、OfficeスコアでSK Hynix Platinum P41に匹敵する性能です。
ファイルコピースコアのみ、他社ハイエンドNVMe SSDに大きく差をつけられます。ハッキリ言って、価格からはとても想像できない驚異的な高性能です。
実用スコアの内訳 Full System Drive Benchmark | |
---|---|
Adobe Score | Adobe Acorbatの起動 Adobe After Effectsの起動 Adobe Illustratorの起動 Adobe Premiere Proの起動 Adobe Lightroomの起動 Adobe Photoshopの起動 Adobe After Effets Adobe Illustrator Adobe InDesign Adobe Photoshop(重たい設定) Adobe Photoshop(軽量設定) |
Game Score | Battlefield Vの起動(メインメニューまで) Call of Duty Black Ops 4の起動(メインメニューまで) Overwatchの起動(メインメニューまで) |
Copy Score | 合計20 GBのISOファイルをコピー(書き込み) ISOファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) ISOファイルをコピー(読み込み) 合計2.37 GBのJPEGファイルをコピー(書き込み) JPEGファイルを作成してコピー(読み込みと書き込み) JPEGファイルをコピー(読み込み) |
Office Score | Windows 10の起動 Microsoft Excel Microsoft PowerPoint |
15分間の連続書き込みテスト
約1 MBのテストファイルを15分間に渡って、ただひたすら連続して書き込み続ける過酷な検証方法です。
一般向けに販売されているほとんどのSSDは、数分ほど連続して書き込むだけで「素の性能」を明らかにできます。SLCキャッシュの有無やサイズ、キャッシュが切れた後の性能低下などなど。
15分の連続書き込みテストによって、SSDのいろいろな挙動が判明します。
HIKSEMI FUTURE SSDと競合しうる代表的なNVMe SSDと比較しました。テストを開始してわずか数秒(約23 GB)で、書き込み性能が1640 MB/s前後まで下がります。
その後も安定して1640 MB/s前後を維持しつつ、たまにキャッシュが完全に切れる挙動もありますが、15分間ずっと1640 MB/s前後の書き込み性能です。
時間あたりの書き込み量を比較したグラフです。
15分間の書き込み量で比較すると、SK Hynix Gold P31につづく性能です。10分までの比較ならHIKSEMI FUTURE SSDの方がむしろ速いです。
しかし、いくら232層 3D TLC NANDといえど、DRAMレス(HMB方式)のSSDとしては少々出来すぎな性能です。もっと強制的な方法でキャッシュを剥がしてみましょう。
128 GBサイズのブロックファイルを合計6回書き込み、性能の変化を記録しました。
- 1段目:平均2504 MB/s
- 2段目:平均1496 MB/s
- 3段目:平均621 MB/s
となり、3段階のキャッシュ構造を確認できます。
それぞれの段階が切り替わったときの空き容量は次の通りです。
- 1段目:-
- 2段目:空き容量662 GB(69%)
- 3段目:空き容量494 GB(52%)
利用できる空き容量(953 GB)に対する比率を見ると、69%の時点で2段目に切り替わり、52%から3段目に切り替わっている様子が分かります。
空き容量を巧みに活用し、3段階のキャッシュ構造でTLC NAND本来の性能をうまく隠蔽※しており、非常に賢い挙動ができるSSDコントローラです。
※ここで言う「隠蔽」は悪いニュアンスではなく、技術的にどうやってTLC or QLC NANDの性能をうまく高性能に見せられるか?という観点で使っています。理論上、100%完璧な隠蔽ができるなら、消費者にとって損がないです。
SSDの動作温度をテスト
高負荷時のセンサー温度
モニターソフト「HWiNFO」で表示できる温度センサーは2つです。
- ドライブ温度:NANDメモリの温度
- ドライブ温度2:SSDコントローラの温度
激安SSDなだけに温度センサーにまったく期待していなかったですが、まさかのデュアル温度センサー搭載。
SSDコントローラの温度はNANDメモリより高く表示されるため、NANDメモリだけに温度センサーを搭載するのが一般的な対応です。
にもかかわらずHIKSEMIはあえてSSDコントローラにも温度センサーを搭載しています。消費者に対して良心的な姿勢を取っているメーカーと受け取っていいでしょう。
参考までに、NANDメモリとSSDコントローラそれぞれにセンサーを搭載するメーカーは(筆者の知る限り)サムスンとSK Hynixの2社だけでした。
今回のHIKSEMI(Hikvision)を足して、デュアル温度センサー組は3社になります。
ヒートシンクを取り外し、ケースファンによるエアフローを一切与えない環境で、SSDが激しく発熱しやすい「連続書き込みテスト」を5分間実行しました。
テスト開始直後に1640 MB/s前後に書き込み性能が下がり、その後ずっと1640 MB/s前後の性能を維持します。
NANDメモリ側の温度はほとんど上昇せず、SSDコントローラ側の温度もおだやかです。もちろん、サーマルスロットリングらしい症状も確認できません。
次はサーモグラフィーカメラを使って、実際の温度を確認します。
サーモグラフィーで表面温度を確認
テスト開始から5分経過したあたりで、サーモグラフィーカメラを使って撮影。
- SSDコントローラ:61 ~ 62℃
- NANDメモリ(右):62 ~ 63℃
- NANDメモリ(左):56 ~ 57℃
NANDメモリの表面温度が60℃台で、SSDコントローラの表面温度も同じく60℃台です。
HWiNFOに表示される温度と表面温度が合わない理由は、SSDコントローラの熱がヒートシンク全体にまんべんなく分散されているからです。
結論、別売りのM.2ヒートシンクは必要ないです。エアフローを与えない環境で使っても、サーマルスロットリングらしい症状が見られず、温度もおだやかです。
マザーボードにヒートシンクが付属しているなら装着するくらいでOKです。ただし、マザーボード付属のヒートシンクはネジの締めすぎに要注意。締めすぎると基板に圧力がかかりすぎてSSDの故障につながります。
まとめ:中華メーカーに抵抗なければ・・・アリ
「HIKSEMI FUTURE NVMe SSD」のデメリットと弱点
- DRAMキャッシュなし
- 空き容量による性能変化あり
- いつも同じ部品が入っていれば嬉しい
※未だにADATAのトラウマを引きずる筆者 - SLCキャッシュが限定的(わずか数秒)
※書き込み3000 MB/s以上を維持できる範囲 - 素の書き込み性能は平凡
「HIKSEMI FUTURE NVMe SSD」のメリットと強み
- 最大7450 MB/sのシーケンシャル性能
- 低価格ながらハイエンド並の実用性能
- やや速いランダムアクセス速度
- トップクラスのゲームロード時間
- 3段階のキャッシュ構造で書き込み性能を維持
- 耐久性が非常に高い(1800 ~ 3600 TBW)
- 大容量モデルあり(最大2 TB)
- 極めて高いコストパフォーマンス
- YMTC製232層 3D TLC NAND搭載
- 5年保証
HIKSEMI FUTURE NVMe SSD(FUTURE70-01TB)は、極めてコストパフォーマンスの高い、低価格でハイエンド性能なNVMe SSDです。
YMTC製232層 3D TLC NANDを採用し、3段階のキャッシュ構造も組み合わせて、DRAMレスとは思えないハイエンドNVMe SSDとほとんど遜色ない性能を発揮します。
書き込み耐性も1800 ~ 3600 TBWと非常に高く設定され、普通に使っていれば生きているうちに使い切るのは不可能です。
ただし、本製品を販売しているメーカー「Hikvision」への信頼性は不透明です。
ADATAやKingstonのように、発売初期のみ高性能パーツ採用で販売し、人気が出てから安価なパーツに置き換える「おみくじ商法」を取る可能性がゼロとは・・・とても言い切れません。
測定された性能にもとづいて、HIKSEMI FUTURE SSDをおすすめできますが、信頼性については完全に未知数です。あとから購入して性能が違ったら返品してください。
以上「HIKSEMI FUTURE NVMe SSDレビュー:コスパの良さは認めざるをえない」でした。
HIKSEMI FUTURE NVMe SSDを入手する
2023年4月時点、HIKSEMI FUTURE NVMe SSDの国内販路はAmazonとYahooショッピングで確認済み。
何かしらタイムセールがあると1割引に近いセールが行われ、実質1万円を切る価格で買えます。2 TB版は実質1.3~1.4万円です。
コストパフォーマンスが非常に高く、中華メーカー品に抵抗がなければ、買ってみてもいい・・・と思います。書き込み性能より実用性能を重視する方は「WD Black SN770」をどうぞ。
追記:もっとコスパがいい2TB版レビュー
2 TBモデルも自腹でレビューしました。価格が6000円以上も高いSamsung 980 PROよりも高性能で、コスパの良さがさらに際立っています。
NVMe SSDのおすすめレビュー記事
おすすめなSSDを解説
価格比較の表おかしくないですか?
修正しました。ブラウザキャッシュをクリアすると新しい画像に差し替わります。
amazonのレビュー欄に保証について問い合わせた人がいて5年保証みたいですね。
書き込みが本当なら実際は3年保証って部分は変えた方が良いかもしれません。
2TBを購入しましたがシールには5年保証と書かれていました。
コメントありがとうございます。たぶん、ごく最近のロットについては5年保証シールに張替えが進んでいるのかも?
2TB版がまだ届いていないので確認できませんが、一応、記事に追記しておきます。
ここ最近は安価で速いSSDばっかりで選ぶの困るな
ソリダイムのP41 Plusのレビューもお願いします
プラスドライバーとネジが付いていてもこの価格は脅威に感じます
複数買うと逆にドライバーが邪魔になってしまうジレンマ
よし。次はADATAとSUNEASTが意外とイケてるということを検(以下略)
そんなSSDで大丈夫なのか?
おお
安くてこんなにいいなら買っちゃおっかな
一般にSSDは大容量の方がより高性能になると言われています。このSSDも2TBはより高パフォーマンスを期待して良いのでしょうか?2TBの追試をぜひよろしくお願いします。
はじめまして、きんちゃんさん
2TB版も購入済みですので、届き次第テストをしてレビュー記事をアップする予定です。
Hikivision → Hikvisionに訂正しました。ご指摘ありがとうございます。
やかもちさん、ご返答ありがとうございます。追試レポート楽しみにしています。
細かいことで恐縮ですが文中、
Hikivision
ではなく
Hikvision
だと思います。
販路はAmazonのみというかモンスターストレージ経由のみです。
Amazon以外にもヤフショや楽天でも購入できます。
実質14000円ちょいです。
モンスターストレージはsuneastと同じ系列会社で中華SSDやらを仕入れて国内販売してるようです。
ブツもsuneastと同じ住所から発送されてました。
ヤフショで在庫を見つけられたので記事に追記しました。
楽天市場は「モンスターストレージ」「HIKSEMI」で検索しても、割高なモノしか出てこないですね。売り切れで一時的にページを閉じている可能性あり?
次は、Hanye のgen4のSSDもレビューは如何ですか?
SUNEASTもこっそりYMTCのNANDに切り替えてるらしいですね。
保証なんかいらないって割り切れる人なら
AliExpressでCT300 ってのが7400円くらいで売ってる(ちょっと前のセールだと色々合わさると6400円で買えた)
構成はFUTURE70-01TBとおなじで YMTC製の232層(型番は違います)+ MAP1602A+TBWも同様に1800TB
書き込みレイテンシのグラフが読み込みレイテンシの内容になっています。
失礼、これはまたひどい凡ミスを・・・。たった今、修正しました。
ブラウザキャッシュをクリアすると新しい画像に差し替わります。
張ってあるシールは公式によるとグラフェンヒートシンクみたいですね。
グラフェンかどうかを確かめる術が無いのでなんとも言えないですが、M.2ヒートシンクがいらない程度に、付属のヒートシンクシールはよく冷えてます。高負荷時でも60℃ちょっと、十分です。
HIKVISIONって防犯カメラの世界2位の企業ですよね?
半導体にも手を出したんですかね?
それとも同名の別企業?
HIKSEMIはHIKVISIONの子会社, YMTC+ MaxioのDRAMレスは決まった形で,特に技術も必要なく,資本があれば,気軽くに参入できるみたいので,HIKSEMI以外にも色んなとこから中身が同じなやつが販売されてる.
ってよくよく調べたら結構前からSSD売ってるんですね。意外
でついでに知ったのが、世界2位どころか1位になってるってことと、
米国のエンティティリストにモロ載ってる企業だってこと。
全く違う箇所で心配になったんですけど大丈夫なんですかね…?
2020年から記憶関係取り扱い開始だから
かなりの新参企業かと…
「事情」があるとはいえ安くて高性能には惹かれますね
ゲームするだけなのもあってm.2はgen4ですらいらないから値崩れしてるgen3の安いのでいいかな…てなってしまう派なんですが体感の差はあるものなんでしょうか?
gen3の人気モデルと4の人気モデルでのゲームでの比較がみたいです
正直出来が良すぎてアメリカが難癖つけて規制したようにしか思えない
もうWDやサムスンの時代では無いんだなぁ
micronがアメリカの国会に遊説したことで,アメリカがymtcを規制し始めたらしく,またそれが原因で,最近,micronが中国に規制を受けたみたい.
意味があるかはさておきLEDが搭載されててアクセス時に光るのが個人的にうれしくなっちゃいますね、意味があるかはさておき
Hikvisionが防犯とか言ってる勘違い人がまだいるんだなぁ。中国政府直轄の「監視」部門ですよね。民族弾圧リストにもろに入ってますよね。何も入ってないといいですが…こんなのが日本にしれっと入ってきちゃうのは、逆に心配になってしまいますよね。
何も入ってないといいがとか言い出したら中国製のものは全部疑うことになるわけで…
真実に目覚めるのは自由だけど程々のところで折り合い付けないと生きづらそう
初めまして、HIKSEMI FUTURE PCIe 4.0 SSD 2TBのTRIM機能があるかどうかの記述がある記事はこのレビューだけでしたので助かります。ちなみに出荷状態でTRIMはONということで良いのでしょうか?
WindowsXPじゃないなら、今はもうどこもTRIM自動ONですよ
ご返信ありがとうございます。気付くのが遅くなりました。助かります。
よく店の入口に置いてある検温機能付きカメラはHikvision製を割りと見かけます。
地味に日常生活を支えてる(?)メーカーだったりします。
YMTC純正が1200TBWで
HIKSEMI FUTUREとCT300が3600TBWなのがよく分からないんですよね
想定ワークロードが違うんだと思いますが
結局これって言ったもん勝ちなだけの数字なのかと
本家の方が控えめな表示の上,HIKSEMIがさらに適当な表示にしてるというらしい.
まとめサイトのコメント欄で謎のHiksemi推しコメントだらけだったので
調べてたどり着きました
チップやコントローラーの仕様まで詳しく調べてあって参考になりました
ADATAやKingstonのおみくじ製品を経験すると不信感拭えないのよくわかります
Gigabyteもリビジョンで製品別物になることあったり
ともかく、ソリダイムP44proと迷っていたので、
何かあっても良い&速い・安い・低発熱だからPS5ユーザーには良さそうですね
Gドライブとして認識させた後、プロパティでイベント確認したら、「デバイスの設定が移行されていません」と出て、PCエラーかなって一通りの改善方法やったけどどうしても治らなくて
公式サイトからファームウェアインストールして、デバイス再インストールしようとしたら、商品の概要だけでファームウェアが見当たらないんだが…?
買ってなんだけど、本当にこの商品、大丈夫か?
先日4TB版を購入しましたが、まだYMTCの232層のようでした。
片面実装4枚, Maxioコントローラー , DRAMレス
性能はこのレビューとほぼ同程度した。このレビューのお陰で良い買い物ができました。
ありがとうございます。
今AmazonのMonster Storage公式からHIKSEMI 4TBを購入すると詐欺られる可能性が高いのでやめたほうがいいです。
製造元不明の128GBの偽物が入っていて返品処理中です。偽物が入っていたとレビューしても、送ったのは本物だったのでレビュー消しました、と確信犯のようなことをしています。
[…] HIKSEMI FUTURE NVMe SSDレビュー:コスパの良さは認めざるをえない | ちもろぐ 中華メーカーHIKSEMIが発売しているPCIe 4.0対応NVMe […]