インテルは第8世代でついにモバイル向けCoreを2コアから4コアへ倍増した。これに対抗するべく、AMD側も最新のモバイル向けCPU「Ryzen」では4コアを搭載し、更に内蔵グラフィックスには「Vega」を投入するという中々気合の入ったCPUを出してきた。
ミドル向けの「Ryzen 5 2500U」の性能が明らかになっていたので、競合と比較しながら解説してみる。
Ryzen 5 2500Uの仕様
CPU | Ryzen 5 2500U | Core i7 8550U |
---|---|---|
世代 | AMD Zen | 8th Coffee Lake |
プロセスルール | 14nm | 14nm++ |
コア数 | 4 | 4 |
スレッド数 | 8 | 8 |
クロック周波数 | 2000 Mhz | 1800 Mhz |
ブーストクロック | 3600 Mhz | 4000 Mhz |
L1 Cache | 384 KB | 256 KB |
L2 Cache | 2 MB | 1 MB |
L3 Cache | 4 MB | 8 MB |
PCIe | – | 12レーン |
対応メモリ | x2 DDR4-2400 | x2 DDR4-2400 |
内蔵GPU | Radeon Vega 8 | Intel UHD 620 |
GPUクロック | 1100 Mhz | 300 ~ 1150 Mhz |
TDP | 15W | 15W |
MSRP | $250~300? | $409 |
競合であるIntel Coffee Lake(第8世代)とカタログスペックを比較します。両者ともに14nm(一方は12nm相当ですが)で製造されており、搭載コア数は「4」でHTTも有効化されているので「8」スレッドを備える。
しかし、ベースクロックはi7 8550Uより200Mhzほど高いものの最大クロック周波数は400Mhzほど劣っています。キャッシュ容量も全体的に少なめで、CPUとしての仕様だけを見ればやや負けていますね。
その分、モバイル向けRyzenではダイのほぼ半分にあたる面積を内蔵グラフィックス(Radeon Vega 8)に費やされているため、Intel UHDとは別格の性能を叩き出せるはずだ。
- ライバルのi7 8550Uと同じく「4コア / 8スレッド」
- Ryzenらしく…クロック周波数はやはり低め
- 巨大な内蔵グラフィックス(Vega)を備える
- おそらく価格はかなり安めに設定されている
AMDはIntelと違って、製品の詳細情報を公開しないのが惜しいところ(Intel ARKのように、AMDも情報公開サイトを作って欲しい…)。だから推定しか出来ないが、おそらくi7 8550Uより安価のようです。
Ryzen 5 2500Uを搭載するマシンはまだまだ限られているが、確認できた限りでは600ドル台が最安価。対してi7 8550Uは、特価セールなどを除けばやはり800ドル台が目立ちます。100ドルくらいの差はあってもおかしくないだろう。
そしてもう一つ安価に仕上げやすい理由が内蔵GPUの性能の良さ。Intel CPUの場合は、グラフィックス性能を補うために「940MX」や「MX150」が使われることもある。
ただこれから見ていくように「Radeon Vega 8」は内蔵GPUとしては屈指の水準(15Wクラスの中では、という意味)に達しているため、あえて他のGPUを搭載する必要性が薄まっているんですよね。
Ryzen 5 2500Uの性能を確認する
というわけで、各種データに基づいてRyzen 5 2500Uの性能をしっかりと確認していきます。
https://www.notebookcheck.net/AMD-Ryzen-5-2500U-Benchmarks-and-Specs
Cinebench R15
CinebenchはCPUにレンダリングを行わせて、終わるのにかかった時間でCPU性能を点数化するベンチマークソフト。非常に分かりやすいので国際的にとても人気。もちろん日本でもかなり有名になってきている。
Cinebench R15 / シングルスレッド性能
意外と重要なシングルスレッド性能(1コアあたりの性能)はこんな感じで、i7 8550Uには20%も引き離されてしまいました。最大クロックが400Mhzも違うので、仕方がない部分ですね。元々Ryzenは1コア性能にすぐれないですし。
Cinebench R15 / マルチスレッド性能
しかし、マルチスレッド性能は意外な結果を出している。両者ともに8スレッドのはずだが、なぜかRyzen 5 2500Uの方が効率よくマルチスレッド性能を発揮できるようだ。よってノートパソコン用としては、十分すぎる性能に達しました。
Geekbench 4.0
Geekbench 4.0は国際的に有名なベンチマークソフト。複数のタイプが違うテストを連続で行い、すべての処理が終わる時間でCPU性能を評価する。マルチプラットフォーム化されているのが最大の特徴でもある。
Geekbench 4.0 / シングルスレッド性能
Cinebenchと同様に、やはりシングルスレッド性能ではIntel勢に押されてしまっている。
Geekbench 4.0 / マルチスレッド性能
ではマルチスレッド性能はどうかと言うと…、こちらも負けています。デスクトップ版のRyzenでもそうでしたが、RyzenはGeekbenchではあまりいいスコアを出せない傾向にある。
PCMark 10
パソコンの生産性(PCとしての性能)をスコア化するベンチマークの最新版「PCMark 10」。基本的にシングルスレッド性能が優位に働きやすいベンチマークです。
PCMark 10 Score
結果はこの通りで、インテル製が圧倒していますね。
wPrime
円周率を計算させるテスト。計算速度でCPUの性能を測ることができる。
wPrime 2.0X – 10億2400万桁
時間の掛かる10億桁の計算では、Ryzenが大幅に健闘している。やはり優れたマルチスレッド性能が効いている。
wPrime 2.0X – 3200万桁
すぐに終わる3200万桁の計算でも、やはりRyzenが圧倒的なパフォーマンスを見せた。
SuperPi
Super Pi Mod – 100万桁
100万桁の円周率を計算させると…、意外なことに10秒は割れませんでした。モバイル向けCPUで10秒を割れたら相当にスゴイのですが、現状10秒割れはi7 8550Uの専売特許のようです。
Mozilla Kraken
Web上で動作するベンチマーク。Javascriptの実行処理速度でCPU性能を評価します。単位はミリ秒なので、数値は低いほど優秀ということ。
Mozilla Kraken 1.1
インテルの方が速い結果に。1000ミリ秒(1秒)割れはi7 8550Uのみ。
Octane V2
Krakenと同様、Javascriptの処理速度を測りスコア化するベンチマークサイト。
Octane V2
Krakenとおおむね同じような結果になっている。Java系はシングルスレッド性能の方が効きやすいため、Ryzenにとってはやや苦手な分野だ。
どちらにせよ、モバイル向けCPUでこれだけの速度が十分だとは思います。
Ryzen 5 2500UはトップクラスのCPU性能
IntelのCore i5 8250Uやi7 8550Uと互角に渡り合える処理性能を見せた。TDPが15Wの省電力モデルとしては、今のところは最高クラスの部類に入ってると言っていい。
若干シングルスレッド性能で劣っている傾向があるものの、ノートパソコンにやらせる作業はそこまでシビアな内容ではないため実用上はほとんど気にならない差だ。
マルチスレッド性能ではi7 8550Uをやや上回るので、ほとんどの作業はサクサクとこなすはずだし、マルチタスクも問題なく実行していける。そしてコスパもインテルより少しだけ優秀です。
内蔵された「Vega」グラフィックスの脅威的性能
CPU性能は現状、ほぼインテルの第8世代と十分に渡り合えることがわかった。次はRyzenに内蔵された「Radeon Vega 8」のグラフィックス性能を見ていきます。
なお、比較対象としてインテルの内蔵GPUだけでなく、NVIDIAのモバイル向けローエンドGPU「MX150」(GT 1030)も入れておいた。
3DMark – Ice Storm Unlimited
グラフィックボードのベンチマークとして有名な「3DMark」。デスクトップPCでは主に「FireStrike」が使われるが、モバイル向けのCPU(SoC)には「Ice Storm Unlimited」の方が傾向は分かりやすい。
3DMark – Ice Storm Unlimited Physics 1280×720
UHD 620よりも20%ほど高いスコアを叩き出した。さすがにMX150(GT 1030)には敵わないが、15Wクラスの内蔵GPUとしてはほぼ最高クラスの性能に達している。
10万点オーバーを出せる内蔵GPUは、一部のMacBookにのみ搭載されているIris Pro Graphics 580(18万点)など。45Wクラスのモバイル向けCPUに搭載されているため、あまり比較にはならない。
Radeon Vega 8は15Wクラスの中で今のところ「最高」です。
Overwatch
Overwatch / 低設定(1280×720)
Overwatchを低設定(HD画質)で動かすと、平均90fps前後とかなり安定したゲーミング性能を発揮した。
Ashes of the Singularity
Ashes of the Singularity / 中間設定(1920×1080)
Ashes of the Singularityは重たすぎてUHD 620とほとんど差のない結果に。
Rise of the Tomb Raider
Rise of the Tomb Raider / 低設定(1024×768)
Rise of the Tomb Raiderでは非常に優秀。UHD 620は20fps前後だが、Radeon Vega 8は約50fpsと2倍以上のパフォーマンスを見せつけている。
Metal Gear Solid V
Metal Gear Solid V / 高設定(1920×1080)
MGSVも、同様にRadeon Vega 8は非常に高いフレームレートを叩き出せている。UHD 620をここまで引き離せるのはちょっと意外だが(3DMarkでは2万点差しか無かったため)。
The Witcher 3
The Witcher 3 / 低設定(1024×768)
Witcher 3も画質を限界まで落とせば30fps以上を出せる。インテル系はどれもダメダメ。
F1 2017
F1 2017 / 低設定(1280×720)
F1 2017では60fpsを達成し、UHD 620の2倍ものパフォーマンス。Vega 8は重量級のゲームを低画質でプレイするくらいなら問題なく動かせるということが分かった。
15Wクラスの内蔵GPUとしては「最強」かも
3DMarkでは20%程度の差しかつけられなかったが、いざゲーミングになると圧倒的な性能を発揮した。Intel系の内蔵GPUはベンチマークでは良いスコアを出しても、実際のフレームレートは今ひとつな傾向が強い。
それに対してRadeon Vega 8は2~3倍も高いフレームレートを叩き出しており、明らかにIntelの内蔵GPUとは性質が違うようです。…いやー、違いすぎるのでカタログスペック(仕様)を確認しましょうか。
内蔵GPU | Vega 8 | UHD 620 |
---|---|---|
コードネーム | Vega 10 | Kaby Lake GT2 |
ベースクロック | 300 Mhz | 300 Mhz |
最大クロック | 1100 Mhz | 1050 Mhz |
メモリクロック | 800 Mhz | 共有 |
シェーダーユニット数 | 512 | 192 |
TMU数 | 32 | 24 |
ROP数 | 16 | 3 |
演算ユニット | 8 | – |
動作クロック自体はほとんど変わらないが、メモリクロックをCPUと共有しない点や、そもそも入っているシェーダーユニットやTMU / ROPの数が全く違うことが分かります。
このあたりの違いが、大幅なゲーミングパフォーマンスの差に影響を与えているのは間違いないだろうね。さすが、グラボ屋が作る内蔵GPUといったところだ。
バッテリー駆動時間はよろしくない
バッテリー駆動時間 / HP Envy x360 15 (分)
アイドル時Wifi / Web閲覧画面(最大輝度)
ノートパソコンによってバッテリー容量は違うので、直接的な比較にはならないが…、Ryzen 5 2500Uはi7 8550Uより省電力性に優れていない。内蔵GPUがパワフル過ぎたのかもしれない。
i7 8550Uが搭載されているDell XPS 13は60 Whのバッテリーで、Ryzen 5 2500Uが入っているHP Envy x360は55.8 Whです。前者の方が7.5%ほどバッテリー容量が多いので、その分を考慮して算出してみると。
バッテリー駆動時間 / HP Envy x360 15 (分)
結果はやはり同じで、i7 8550Uの方がバッテリーの持ちは良い。Web閲覧の場合、3時間ほど差をつけられているのは携帯性を重視するユーザーにとっては課題となりうる。
モバイルバッテリーを使えば解決するのは確かだが、携帯性を求めているのに持ち物が増えてしまうのは本末転倒だからだ。7時間と10時間、ここは大きく評価が分かれそうなところですね。
今後、Ryzen 5搭載ノートPCが出たら「買い」
まだ日本ではRyzen 5 2500Uを搭載したノートパソコンやタブレットは発売されていないが、発売されたら選択肢として十分に魅力的なCPUであることが分かった。
- 第8世代のインテルCPUとほぼ互角のCPU性能
- UHD 620を凌駕する圧倒的な内蔵グラフィック性能
- 省電力性は20~30%ほど劣る
- 総合的に見て、コストパフォーマンスは明らかに高い
これだけの要素が揃っているわけですから、ノートPCを選ぶ時にRyzen搭載マシンも候補として考えてまったく問題ないと断言できる。
今後、インテルはモバイル向けに6コア搭載の「i9 8950HQ」などを投入する予定だが、i7 8550UやRyzen 5 2500Uはほとんどのユーザーにとって十分な性能を提供できているため、6~10万円くらいの価格帯は競争が激化しそう。
個人的な勝手な想定では、5~6万円クラスのノートパソコンにおいてRyzen 5 2500UはIntelにとってかなり脅威的な存在だろうね。内蔵グラフィックの性能が強いというのは、価格帯が低いほど「強み」になるわけですから。
というわけで以上「Ryzen 5 2500Uの性能解説:脅威的な内蔵GPUでIntelを攻める」でした。
ノートを省スペースデスクトップとして、ACアダプタ駆動で動かす分には消費電力を気にする必要はないんでしょうけど…
やはり問題なのはモバイル用途でバッテリー駆動で運用する場合に、性能と駆動時間の兼ね合いをどこで取るかでしょうね…いろいろ意見が分かれるところです。
性能重視でがんがん動かせば電池があっという間になくなりますし、かといって駆動時間重視でのんびり動かせば性能がしょぼいという…。
まあそこが各メーカーの腕の見せ所でしょうね。
https://www.notebookcheck.net/AMD-Radeon-RX-Vega-8-GPU-Benchmarks-and-Specs.260180.0.html
一応こちらにVega8のベンチマークのスコア載ってるみたいですね
これで内蔵とは凄い
< これで内蔵とは凄い
本当にそうですよね…。来年はインテルとAMDがコラボしたCPUが登場する予定なので、デスクトップ用CPUに内蔵されるVegaがどこまでスゴイ性能なのか、とても興味深いです。
Ryzen 3 2200GとRyzen 5 2400G、本日発売!(By AKIBA PC Hotline!)
Ryzen3 2200Gの性能
4コア/4スレッド、クロック3.5GHz(ブースト時 3.7GHz)
TDP 65W、8コアRadeon Vega 8(クロック1,100MHz)
Ryzen5 2400G
4コア/8スレッド、クロック3.6GHz(ブースト時3.9GHz)
TDP 65W、11コアRadeon Vega 11(クロック1,250MHz)
https://akiba-pc.watch.impress.co.jp/docs/news/news/1105705.html
https://akiba-pc.watch.impress.co.jp/docs/dosv/kaizou/1105990.html
Ryzenはピークの発熱量が高くないのが特徴なので、温度の比較が気になります。