HGSTが製造を手掛けるサーバーグレードHDD「WD Ultrastar HC560」の20 TBモデルがグッと値下がりして買いやすくなりました。
ちょうどYoutube用の動画編集HDDに困っていたので、1台購入したついでにレビュー記事を残しておきます。
(公開:2022/8/7 | 更新:2022/8/7)
WD Ultrastar HC560の仕様とスペック
WD Ultrastar HC560 型番:WUH722020ALE6L4 | |
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容量 | 20 TB 表示容量:18.1 TB |
方式 | CMR |
フォームファクタ | 3.5 inch |
インターフェイス | SATA 3.0 |
転送速度 | 291 MB/s |
キャッシュ | 512 MB |
RPM | 7200 rpm |
消費電力 | 7.0 W |
製品保証 | 5年間 |
参考価格 2022/08時点 | 59480 円 |
「WD Ultrastar HC560 20 TB(WUH722020ALE6L4)」は、Western Digitalのサーバー向けHDD「Ultrastar DC」シリーズで最大容量のモデルです。
今年中に22 TBモデルの投入が予定されていますが、レビュー記事を書いた時点で20 TBが最大容量です。1枚あたり容量2.2 TBのプラッタを9枚重ねて、合計20 TBの容量を実現。
容量密度が非常に高く、通常のHDDで使われている空気では信頼性を確保できません。解決策として、HGSTが開発したヘリウム充填技術「HelioSeal」を用いて、空気より軽量で分子量が4~5分の1も小さいヘリウムを封入します。
さらに「HelioSeal」はただ単にヘリウムを封入するだけでなく、アルミ合金製の天板を溶接でつなぎ目なく接着して密閉性を高めたり、金属製のベース筐体を寸法精度に優れたダイカスト方式で鋳造してヘリウム漏れのリスクを低減するなど。
コストの安いコンシューマ向けのHDDでは基本的に使用されていない、高コストな製造方式をこれでもかと使っています。
記録方式は「EAMR」方式
まったく聞き慣れない記録方式ですが、それもそのはずWestern Digitalの独自名称です。
実態はCMR(従来型磁気記録方式)で、データを書き込むヘッド部分に「エネルギーアシスト磁気記録(EAMR)」技術を使っています。
CMR方式の高密度化はすでに限界に来ており、データを書き込むときに発生するわずかなブレ(ジッター)が、20 TB以上の高密度化を実現するうえで障害となっています。
EAMR技術では、データ書き込み時にヘッドの先端に電流を流し込み、強い磁場を生成します。要するに、ブレ(ジッター)が発生するなら磁石で無理やり引っ張って安定させれば良い、というゴリ押しに近い手法です。
ゴリ押しとはいえ、EAMR技術を使えば書き込み時のブレ(ジッター)を低減する目的をきちんとと果たします。
以上の技術により、WD Ultrastar HC560はCMR方式でありながら驚異の記録密度(1131 Gbits/in²)を実現しつつ、平均故障間隔(MTBF)250万時間と5年保証の高い信頼性を可能に。
障害発生時にデータを保護する「OptiNAND」技術
WD Ultrastar HC560では、512 MBのDRAMキャッシュに加えて、KIOXIA製64層 3D TLC NANDメモリ(20 TBモデルでは容量64 GB)も搭載しています。
一時期流行ったSSHDのように、SSDをキャッシュとして利用してスループットを改善する目的ではなく、停電などの障害が発生したときにデータを保護するために使われます。
Western Digitalいわく、DRAMキャッシュ単体と比較して、OptiNANDが停電時に保護できるデータは約50倍以上とのこと(2 MBが100 MB以上に)。
キャッシュとしても使われるらしく、無駄なアンロードサイクルを削減して製品寿命を伸ばす効果や、書き込みレイテンシの高速化も実現しています。
WD Ultrastar HC560を開封レビュー
簡素な茶色のバルクパッケージ
今回はパソコン工房Web通販より、約6万円(59480円)で購入しました。パッケージは簡素な茶箱で見るからにバルク品です。
しかし安心してください。バルクパッケージのような見た目はあくまでもコストカットで、正規代理店はテックウインド株式会社です※。
※WD Ultrastarシリーズの正規代理店は、テックウインド株式会社、または株式会社フィールド・レイクのいずれか。どちらもメーカーが定める5年保証を提供します。
中身を引っ張り出すと、分厚いプチプチで梱包されたHDD本体が入っています。説明書は保証書は付属しません。購入時のレシートと、バーコードが貼られた茶箱を保管しておきましょう。
HDD本体は帯電防止袋で完全に密閉された状態です。
HelioSeal技術で鋳造された堅牢な筐体
WD Ultrastar HC560の筐体デザインです。パッと見で分かるほど、凹凸で少なく全体的に平坦で、隙間ができる要因になりうるネジ類がまったく使用されていません。
コンシューマ向けHDDの「WD80EAZZ」と筐体を比較。凹凸の多さやネジの数に大きな違いがあります。
側面から見ると、アルミ合金製の分厚い天板が目立ちます。隙間なくベース筐体に溶接され、密閉性を高めています。HelioSeal技術の特徴的なデザインです。
ベース筐体の高さそのものは、普通のHDDとほとんど同じですが、HelioSeal技術で追加された分厚いアルミ合金天板の分だけ背が高いです。
底面はキャッシュやコントローラが搭載された緑色の基板が、星型のネジでベース筐体に固定されています。
接続インターフェイスは「SATA 3.0(最大6 Gbps)」と、L字型のSATA電源コネクタです。サーバーグレードHDDですが、普通のデスクトップPCで問題なく使えます。
WD Ultrastar HC560の本体重量は実測で668 gです。WD80EAZZが実測699 gで、2.5倍も容量が違うのに重量はむしろUltrastarの方が軽い事実に衝撃を受けています。
WD Ultrastar HC560の性能をベンチマーク
ちもろぐ:ベンチマークPC |
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ちもろぐベンチマーク機を使って、WD Ultrastar HC560 20 TBの性能をテストします。
- インターフェース:Serial ATA
- 対応転送モード:SATA/600
- 対応規格:ACS-5
- 対応機能:S.M.A.R.T. / APM / NCQ
「WD Ultrastar HC560 20 TB」の初期ステータスをCrystal Disk Infoでチェック。「20000.5 GB」のインパクトが大きいです。
ちなみに実容量は「18.1 TB」でした。20 TBとなると、天使の取り分が無視できないサイズに感じます。実容量で20 TBを見るには22 TBモデルが必要です。
Crystak Disk Mark 8
「Crystak Disk Mark 8」は、日本どころか世界で一番有名と言っても過言ではない、定番のHDDベンチマークソフトです。性能の変化をチェックするため、「64 MiB」から「32 GiB」までテストします。
Crystal Disk Mark 8の結果※クリックで画像拡大します | |
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テストサイズ:64 MiB(MB/s) | テストサイズ:1 GiB(MB/s) |
テストサイズ:8 GiB(MB/s) | テストサイズ:32 GiB(MB/s) |
一番小さいテストサイズ「64 MiB」の結果が230~240 MB/s程度と、512 MBもキャッシュがある割には性能が遅いです。
テストサイズを大きくすると、読み込み速度が250 MB/s前後、書き込み速度が242~244 MB/sで全体的に安定した性能を見せます。しかし、メーカー公称値の291 MB/sには届いていません。
4Kランダムアクセス性能は、書き込みが高速です。WD80EAZZが1 MB/s台に対して、WD Ultrastar HC560は最大で10 MB/s近く、書き込みレイテンシを高速化するOptiNANDの効果が出ているようです。
ATTO Benchmark
ATTO Disk Benchmarkは、512 B~64 MB(合計21パターン)のテストサイズでスループットを測定し、HDDの性能が安定しているかどうかを視覚的に示してくれるベンチマークソフトです。
ベンチマーク結果の評価が非常に分かりにくいので、表計算ソフトを使ってグラフ化して他のSSDと比較します。
読み込み速度は240~250 MB/s前後で安定します。WD80EAZZより1割ほど高速で、回転数の差が出ています。
書き込み速度も240~250 MB/s前後で、安定した性能を維持します。
HD Tune Pro
HD Tune Proは有料のHDDベンチマークソフトです。HDDの容量全域に渡ってテストを実行して、HDDの性能変化を手軽に調べられます。
読み込み速度は平均209.6 MB/s、最大280.7 MB/s、最低120.5 MB/sです。HDDはディスク(円盤)状のプラッタにデータを記録するため、中心に行くほど速度が遅くなります。
アクセスタイムは6.77 ミリ秒で、一般的なSATA HDDより2~3倍ほど速い応答時間です。IOPSの高速化を目的に導入されたトリプルステージアクチュエーター機構(TSA)の恩恵かと思われます。
書き込み速度は平均176.3 MB/s、最大274.8 MB/s、最低85.1 MB/sです。アクセスタイムはわずか0.39 ミリ秒、SATA SSDに匹敵する超高速応答です。
書き込みレイテンシを最適化するOptiNANDの効果が顕著です。
ゲームのロード時間を比較
FF14:暁月のフィナーレ(ベンチマークモード)で、ゲームロード時間を測定します。ベンチマーク終了後に、ログファイルからロード時間を読み取ります。
SATA HDDのゲームロード時間は悲惨です。WD Ultrastar HC560ですら、FF14のロード時間が合計およそ28秒に達します。
スペック的に劣っているWD80EAZZの方が、なぜか3秒ほど速い理由はおそらくキャッシュの使い方に差があります。
キャッシュの範囲内に収まるファイルサイズに対してSSD並の速度で処理するWD80EAZZに対して、WD Ultrastar HC560はキャッシュをあまり効かせてくれない傾向が原因でしょう。
どちらにせよ、SATA HDDをゲームロード用に使うべきではないです・・・。特にロードが頻発するオープンワールドゲームは厳しい動作に陥りがち。
約62 GBのゲームフォルダをコピペ
約62 GBのゲームフォルダを実際にコピペ(書き込み)して、書き込み速度を記録したグラフです。
書き込み速度は平均で184.9 MB/sで、62 GBのコピーに5分45秒(345秒)かかりました。
並のHDDなら平均120 MB/s程度まで落ち込む場合もありますが、OptiNAND技術で書き込みレイテンシを効率化しているWD Ultrastar HC560は書き込み性能の低下をうまく低減している様子です。
WD Ultrastar HC560の動作状況をチェック
WD Ultrastar HC560の動作温度やシーク音を確かめます。テスト時の部屋の気温は26~27℃です。
動作温度と表面温度
HDDは電源が入っているだけで、ある程度は勝手に温度が上昇します。アイドル時のまま放置して1時間で、31℃から45℃まで温度が上がりました。
ベンチマーク開始後の温度はまったく変化が見られません。ピーク時に47℃で、テスト全体を通して45~46℃に収まります。
スペックシートによると、通電時の動作温度は5~60℃です。上限まで13℃しかなく、PCケースやNASに閉じ込めて運用するなら冷却に気を使う必要があります。
中央部分の表面温度は42~43℃です。
コネクタ部分の温度は39~41℃です。
基板の表面温度は全体的に44℃前後ですが、コントローラやOptiNANDが位置する箇所は46~48℃とやや高めです。
HWiNFOに表示される温度と一致しているのは、おそらくコントローラの温度です。
読み書き時のシーク動作音
TASCAMのレコーダーをHC560の至近距離に設置して、HD Tune Proをテスト中にシーク動作音を録音しました。
自分の耳で聞いた限りでは、以前レビューしたWD80EAZZよりも静音性に優れています。ランダムアクセス時に特徴的な連続したシーク音は健在ですが、全体的に音量が控えめなイメージです。
サーバーグレードHDDは騒音まみれのブレードで運用される前提に設計されていて、正直静音性はまったく期待していなかっただけにいい意味で驚きです。
ヘリウム充填方式のHDDはしばしば静音性に優れているとの謳い文句を見かけます。本当にそうなのかは置いておくとして、少なくとも今回買ったHC560に限っては比較的静かでした。
まとめ:手に届く価格で買える最上級HDD
「WD Ultrastar HC560」のデメリットと弱点
- 動作温度は若干の注意が必要
- 並の動作音
「WD Ultrastar HC560」のメリットと強み
- たったの1台で20 TBもの大容量
- 「CMR + EAMR」方式を採用
- 250 MB/s前後のスループット
- HDDの割にレイテンシが速い
- 512 MBのキャッシュを搭載
- 作りが良い「HelioSeal」筐体
- OptiNAND技術を採用
- HGST製
- コストパフォーマンスが高い
- 5年保証
Western DigitalのサーバーグレードHDD「Ultrastar」は、一般人の手に届く価格で買える最上級のHDDです。
発売当初は約10万円でさすがに高すぎる印象でしたが、レビューを書いた時点では約6万円まで値下がりしています。単純な容量単価はWD80EAZZにこそ届かないものの、Ultrastarの性能と品質は確かなモノです。
HGSTが生み出したヘリウム充填技術「HelioSeal」とCMR + EAMR方式によって実現した高い記録密度(1131 Gbits/in²)、トリプルアクチュエーター機構とOptiNAND技術による安定した高速動作は値段なりの価値があります。
HGST製のUltrastarで、しかも1台で容量20 TBが約6万円は意外とコスパが良い価格設定です。
並行輸入や個人輸入を駆使すれば、SeagateのサーバーグレードHDD「Exos 20 TB」を安く入手可能ですが、今回レビューしたUltrastar HC560は正規品です。
リスクの高い個人輸入をせずに、5年保証の付いた容量20 TBのUltrastarが買えます。Exosの正規品は約10万円、IronWolfですら約8万円ですから、約6万円のUltrastarは間違いなくコスパが良いです。
以上「WD Ultrastar HC560 20TBレビュー:HGST製ヘリウム充填サーバー向けHDD【1台で20TB】」でした。
HDDはこのクラスならNASに使うことも多いだろうから、それだけに数年後の耐久性は重要
EAMRやOptiNANDなどずいぶん新技術を取り入れてるが、それだけに信頼性的にはいくばかの不安はある
とはいえヘリウム充填HDDが出始めた時も同じように言われてたので、実際にどうなるかはその時が来ないとわからないわけだが
> 信頼性的にはいくばかの不安はある
メーカー公称値の故障率(AFR)は0.35%で、ぼくが3~4年前に買ったUltrastar HC310の0.44%からさらに下がっています。
HGST He充填モデルの実績故障率については、まだ20TBのデータが上がっていないのでなんとも言い難いですね。
12TBは0.30~0.60%、14TBが0.10%、16TBが0.30~0.34%で、おおむねWDの公称値に近いAFRが出ているように見えます。平均的には、同じ容量の他社モデルより低い故障率です。
https://www.backblaze.com/blog/backblaze-drive-stats-for-q2-2022/
最低ヘリウム入りの手の届くHDD買おうと思ってたら丁度良く記事出てきてOptiNANDとか面白そうなの書かれてて困る。データ単価高くても手が届くやつか、安くて技術もりもりか・・・WDゴールド20Tが千円ぐらいしか変わらないけれど何が違うのだろう?
後ニッチなことですがHDDはアロケーションユニットサイズ(ブロックサイズ)256KB以上がいいと聞きましたがそちらのベンチマークはされますか?
16TBのUltrastarなんてさらにコスパ良くて4万円で買えちゃいますね
見たところ赤や金より明らかに安いようだけど一体どういう事なんでしょうね
WD GoldとUltrastarは似ているようで、微妙にスペックが違います。
【Ultrastar vs Gold】
・4Kn対応 vs 512eのみ
・291 MB/s vs 269 MB/s
・ロードサイクル600K vs 非公開
製造元はどちらもHGSTのはずですが、最大スループットにけっこう差がついています。Ultrastarになりきれなかった個体をWD Goldに回しているのかな・・・?
1000円の差額ならUltrastarで良さそう。1割くらい5~10%安ければGoldもアリに思えるのですが。
もし壊れたら20TB分のデータが消滅…恐ろしい。
これをRAIDで運用したら…金額がががg
レッド、ゴールド、ウルトラどれも大容量のはNASとかに使う目的のなので、壊れるようならそもそも初期不良か、よほどひどい運搬されたものですぐに壊れるのでそこまで気にしなくていいと思う。
少なくともウルトラは医療とかそういう重要すぎるデータ入れるの作られてるから堅牢なはず。
読み書き込みで壊れるようなら5年の保証きくぐらい使う使用環境なはずだしそういうとこはRAIDでデータ守ってるよ。
このクラスの容量になるとバックアップ目的ならテープのがいいな
PCIeボードのは見かけるけれどQNAP QDA-A2ARみたいなのでSATAで3つ以上をRAIDしてSATAにつなげるやつってないのかなぁ
2ドライブだったらこういうのは結構昔からあるんだけど…
https://www.mtg.co.jp/araid5000.htm
これの3ドライブ以上のやつはないのかなぁ…
家のPCからHDD追い出して久しいけど、こういう手の込んだシステムかつ最大容量ってだけでロマン感じて欲しくなるw
何故かSSHDは記念枠で保存してあったり。
パソコン工房のセールで2千円安くなってて草。
損した気分だ・・・
容量については、18.1TiB(テビバイト) = 19.9TB(テラバイト)なので単位の違いではありませんか。1000を基準にするのがテラバイト(TB)で、1024を基準にするのがテビバイト(TiB)です。
ULTRASTAR、アクセスしていない時に何故か数時間ごとにガリガリ鳴るんですけど似た症状出てないですか
追記、バックグラウンドで何かがアクセスしているわけではなく、リソースモニタで見てもディスクには全くアクセスしていません