「岩のように硬く」をスローガンに掲げる、主にマザーボードで大人気のASRockが電源ユニット市場についに参戦。
今回はASRock電源シリーズの中でも、かなりコスパが良さそうに見える「Steel Legendの電源」を検証します。
レビュー用にASRock Japan(@AsrockJ)さんからSL-850GWを1台提供してもらいました。割と好きに書いていいそうです。
(公開:2024/12/19 | 更新:2025/1/6)
Steel Legend SL-850GWの仕様
ASRock Steel Legend SL-850GW | |
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設計 | HEC |
容量 | 850 W |
効率 |
|
静音 |
|
ケーブル | フルプラグイン |
保護 |
|
ファン |
|
セミファンレス | 対応(切り替えボタンあり) |
サイズ | 150 x 86 x 150 mm |
規格 | ATX 3.1 |
保証 | 10年 |
参考価格 ※2024/12時点 | |
Amazon 楽天市場 Yahooショッピング |
Steel Legend電源の容量850 Wモデルが「SL-850G(白色:SL-850GW)」です。
2024年末に発売される最新の電源ユニットに見合う、ATX 3.1規格とPCIe 5.1規格(12V-2×6)に準拠します。消費電力が大きいハイエンドグラボを問題なく運用可能です。
製造元は台湾HECですが設計にASRockも関わっており、USBポートの電圧を底上げする「+5V BOOST」機能などが導入されています。
取得している認証とレポート一覧
電源ユニットの認証規格で定番の「80 PLUS GOLD」認証に合格。最大で92%超の高い変換効率を記録しています。
80 PLUSに代わる新たな認証規格「Cybenetics ETA」で「PLATINUM」認証にも合格済み。負荷率20~60%の広い範囲で91%前後の変換効率です。
電源ユニットの静音性を評価する規格「Cybenetics LAMBDA」は「A+」認証です。負荷率50%までほぼ無音を維持し、80%前後まで静かな動作音を保ちます。
一般的な常用域であれば、電源ユニットの動作音が気になる可能性は非常に低いです。エアコンの空調音や、CPUクーラーやグラフィックボードの動作音が先に問題になるレベル。
昨今の定価2万円クラスに求められる性能要件をとりあえず満たしていると言っていいでしょう。
Steel Legend SL-850GWを開封
パッケージと付属品
Steel Legend電源本体のレンダリング画像が大きく印刷されたパッケージで到着。
パッケージ底面に各種ロゴマークがズラッと並んでいます。
左から順番に
- 80 PLUS GOLD認証
- Cybenetics ETA PLATINUM認証
- Cybenetics LAMBDA A+認証
- 100%日本コンデンサ搭載
- ATX 3.1 & PCIe 5.1準拠
- iCOOL FAN対応モデル(セミファンレス対応)
- メーカー10年保証
とのことです。
マザーボードの箱と同じく、底面からめくり上げるシンプルな開封方法です。
外箱をゆっさゆっさと縦に振り回して慣性で中身を押し出すタイプじゃなく、単に指でめくるだけで開封できます。
分厚い発泡スチロール製の梱包材でバンバーグにされた電源本体と、各ケーブル類やアクセサリーが付属します。
付属ケーブルの種類と長さ
Steel Legend SL-850GWに付属する電源ケーブル類を確認します。
RTX 4000シリーズを中心に導入されている「12VHPWR」または「12V-2×6」コネクタで使える、グラフィックボード用の電源ケーブルです。たった1本のケーブルで最大600 Wまで対応します。
ケーブル(オス側)は物理的にまったく同じ規格です。だから、ケーブルに関しては単なるリネームモデルと考えて間違いありません。
(PCB側コネクタの形状が変更)
変わったのは、電源ユニット(メス側)のコネクタ形状です。コネクタがわずかに深く成形され、挿し込み不良時(半挿しなど)に通電できないように改良されています。
変な挿し方をするとそもそも通電しないから、ヒューマンエラーが原因で溶融に至るリスクを軽減する狙いです。
コネクタの先端部分を拡大すると、グラフィックボードに挿し込まれる部分が緑色に塗装されています。
わざわざ緑色に塗装した理由がこちら。視覚的に挿し込み不良が分かりやすいです。緑色が見えていれば挿し込みが甘い、と気づけるデザインです。
ただし、コネクタ自体の耐久性は黒色のまま変えないほうが(理論上)高いため、「岩のように硬く」を掲げるASRockの設計思想にやや反するような気がします。
そもそも、2024年時点で出回っている大多数のRTX 4000グラフィックボードの場合、仮に挿し込み不良だったら通電できない構造です。
CPU補助電源に挿し込む「EPS12V 4+4 pin」ケーブルは2本付属します。それぞれ長さ64 cmです。
グラフィックボードの補助電源に挿し込む「PCIe 6+2 pin」は3本付属します。それぞれ長さ59 cmです。
今回のSL-850GWに付属するPCIe 6+2 pinケーブルの太さは「18 AWG」で、同価格帯の競合メーカーの「16 AWG」より細い線径※を使っています。
・・・18 AWGだと分岐コネクタを使うのが少し怖いですが、SL-850GWは枝分かれがないシンプルな1本タイプです。物理的に分岐を使えない構造だから、(実用上)18 AWGで問題ありません。
※ケーブルの線径が太いと電圧降下を緩和でき、電流の上昇(= 熱)を抑えられる傾向です。Intelのルールどおりに作っても(実用上)問題ないけど、ASRockブランドなら16 AWG採用の方が嬉しかったです。
完全に個人的な感想ですが、「岩のように硬く」を掲げるASRockの電源ならば、他社製品のようにあえて「16 AWG」を採用して標準規格よりもマージンを確保しました・・・などなど。
ASRockらしさを感じさせる方向性で独自設計を盛り込んでほしかったです。
たとえば、マザーボード製品なら「弊社のCPUコネクタは8 pinだけで1000 Wが可能」「弊社のコンデンサは105℃で12000時間に耐える」など。
コンポーネントやコネクタ類の圧倒的な堅牢性を強くアピールしています。マザーボードと似たような思想を、Steel Legend電源でも見せて欲しいところ。
マザーボードの補助電源コネクタに挿し込む「ATX 20+4 pin」ケーブルです。長さ60 cmでした。
ATX 20+4 pinは公差ギリギリどころか、わずかに横幅が大きめに成形されているようで、挿し込みにすごく苦戦します。硬すぎて不良品を疑うレベルで挿し込みづらいです。
SATAデバイス(3.5″ HDDや光学ドライブ)に電力を供給する「SATA」ケーブルは3本付属します。ケーブル1本につき、コネクタが3個付いています。
ケーブルの長さは69 cmで、コネクタ間が12 cmずつ離れています。
特殊仕様のサーバー向けHDDや、ケースファンコントローラに電力を供給する「Molex(ペリフェラル4ピン)」は1本付属します。
ケーブル1本につき、コネクタが3個付いています。ケーブルの長さは66 cmで、コネクタ間が11 cmずつ離れています。
電源ユニットとコンセントをつなぐ「電源ケーブル(アース線つき)」です。電源ケーブルまで白色に塗装されていて驚きました。
アクセサリー類も付属します
自作パソコンの裏配線で活躍する「マジックテープ」が4本付属します。ASRockのロゴ入りです。
細かいケーブル類をまとめるのに便利な「結束バンド」は5本付属します。
袋に4本入っている「小ネジ」は、電源ユニット本体をPCケースに固定するときに使います。予備が1本も付属しないから紛失しないように注意。
謎のATX変換コネクタは「ATX 24 pin PSUテスター」です。
全部で24ピンあるうち、2ピンだけ入っている変換コネクタで、電源ユニットの動作チェックに使えます。
初回起動時に電源ユニットだけを通電させて、電源に初期不良が無いかどうかを検証するなど、何かと使えそうな変換コネクタです。
フルモジュラー仕様のすっきりデザイン
ザラッとした粉体塗装で電源ユニット全面が真っ白にカラーリングされています。ファングリル中央に金属でできたSteel Legendロゴが入っていてクールな印象です。
すべてのケーブルを着脱できる「フルモジュラー(フルプラグイン)」方式です。使うケーブルだけ任意で取り付けられるから、配線を最小限に抑えたスッキリした自作パソコンを組み立てられます。
135 mm口径の冷却ファンを搭載。メーカー仕様表によるとFDB(流体軸受ベアリング)方式のファンです。
一般的に、FDBファンは耐久性と静音性に優れている傾向があるとされています。
本体の底面に出力表が貼ってあります。
SL-850GW(出力表) | |||||
---|---|---|---|---|---|
AC入力 | 100 ~ 240V(50 ~ 60Hz) | ||||
DC出力 | +3.3V | +5V | +12V | -12V | +5Vsb |
出力電流 | 20A | 20A | 70.9A | 0.3A | 3A |
合計出力 | 120W | 850W | 3.6W | 15W | |
総合出力 | 850W |
現代のPC向け電源ユニットで定番のシングルレール方式です。CPUやグラフィックボードなど、主要なPCパーツが接続される+12Vレールにて、最大850 Wの出力に対応します。
電源ユニット側の対応コネクタをチェック。
- 1個:マザーボード用(ATX 20+4 pin)
- 1個:グラフィックボード用(PCIe 12+4 pin = 12V-2×6)
- 4個:SATA / Molex用(SATA / Molex 4 pin)
- 5個:CPU / グラフィックボード用(EPS12V 4+4 pin / PCIe 6+2 pin)
Steel Legend SL-850GW単体で、ハイエンドなゲーミングPCを構成できます。9割くらいのPCゲーマーにとって十分な拡張性が確保されています。
コンセント側のインターフェイスです。
- 1個:電源コネクタ
- 1個:電源のオンオフボタン
- 1個:セミファンレスモード切り替えボタン
「iCOOL」と書かれたボタンを押すと、セミファンレス(iCOOL)モードを切り替えられます。オンで低負荷時にファンを停止、オフでファンが最低回転します。
左右のサイドパネルは密閉され、ASRockのロゴとSteel Legendの意匠が彫り込まれています。
内部コンポーネント(腑分け写真)
「開封すると保証無効」など警告マークがどこにも見当たらないから、フタを開けて内部コンポーネントを確認してみます。
2.0 mmヘックスドライバーで4箇所の六角ネジを外して、外蓋をスライドするだけで開封できます。
では、記事の序盤にリンクを掲載したCybenetics Labsレポートと照らし合わせながら、今回の市販モデルでも同じ部品が確認できるかチェックです。
冷却ファンは「RL4Z S1352512EH-3M」です。GLOBEFAN(台湾:欣冠電機有限公司)製の135 mm径、FDB(流体軸受ベアリング)方式の静かな冷却ファンが搭載されています。
パッと見た感じのレイアウトについては、深く言及しないでおきます。電源ユニットオタク向けに、高解像度のレイアウト写真をこちらに上げておくので、他社の腑分け画像と比較してどうぞ。
なお、Steel Legend SL-850GWの製造元はCybenetics Labsのレポートに記載があるとおり、「HEC(台湾:偉訓科技股份有限公司)」社です。
日本ケミコンの大容量固体コンデンサ(容量560uF / 定格105℃品 / 2000時間)がちゃんと入っています。
黒色がルビコンの固体コンデンサ(定格105℃品)、小豆色が日本ケミコンの固体コンデンサ(定格105℃品)です。
鍋マークの入った小さなコンデンサ群が、日本ケミコンの導電性高分子コンデンサです。プラグインコネクタ側にもびっしり敷き詰められています。
細長い小豆色は日本ケミコンの固体コンデンサ(定格105℃品)です。
「FP」と書かれた赤色のコンデンサはおそらくニチコンの機能性高分子コンデンサ(FPCAPブランド)です。
なぜかCybenetics Labsレポートに記載がないコンデンサだから、部材の仕入れ状況に応じて同等品を使い分けている可能性が考えられます。
Steel Legend SL-850GWを実際に使ってみる
テストPCスペックを紹介
テスト環境 「ちもろぐ専用 Intelベンチ機(2024 / 旧)」 | ||
---|---|---|
スペック | 使用パーツ | |
CPU | Core i9 13900K | 0x12B適用済み(PL1 = PL2:253 W) |
CPUクーラー | 280 mm水冷式クーラー | NZXT Kraken 280(2023) |
メモリ | DDR5-5600 32GB(16GB x2) | Micron CT32G56C46U5 |
マザーボード | Intel Z690チップセット | ASUS TUF GAMING Z690-PLUS WiFi (BIOS ver 3901 Beta / Intel 0x12B) |
グラボ | RTX 4090 24GB | GIGABYTE RTX 4090 GAMING OC |
SSD | 1 TB(NVMe SSD) | Samsung 970 EVO Plus |
電源ユニット | ASRock SL-850GW (レビュー対象) | |
OS | Windows 11 Pro 24H2 (KB5041587適用済み) | Windows 11 Pro(パッケージ版) |
第12~14世代Intel Coreシリーズ用のベンチ機を流用します。
最大253 W対応のCPU「Core i9 13900K」に、最大450~600 W対応のグラフィックボード「RTX 4090(GIGABYTE GAMING OC)」を組み合わせて、ピーク時900 W級の負荷を再現可能です。
各電圧レールの測定には、Cybenetics Labs謹製のPMD(Power Measurement Device)を使い、0.001 V(1 mV)単位かつ毎秒最大1000サンプル(1ミリ秒)の刻み値で記録します。
安物の8ビットマルチメーターやオシロスコープの安物プローブを、マザーボードやコネクタの隙間にぶっ刺すよりも、いくぶん精度が高いです。
容量スレスレの高負荷でも安定動作
負荷 | システム(DC側) | コンセント(AC側) | 効率 |
---|---|---|---|
平均値 | 880 W | 985 W | 89.3% |
中央値 | 881 W | 985 W | 89.4% |
上位1% | 923 W | 988 W | – |
上位0.01% | 938 W | – | – |
- CPU負荷:Prime95 Small FFTs(TDP:253 W)
- GPU負荷:FurMark 2 1920 x 1080(TGP:510 W)
以上のベンチマークで、コンセント側(AC側)で約970 W前後、システム側(DC側)で約890 Wの負荷を連続して掛けられます。
約45分間そのまま放置して、何事もなく安定してベンチマークが正常に稼働しつづけます。
つまり、容量850 Wの電源ユニットは、消費電力850 Wを多少超える程度のシステムにきちんと耐えられます。
Steel Legend SL-850GWのフル負荷付近+12Vリプル電圧はざっくり44 mV(0.044 V)前後です。
付属ケーブルにノイズフィルター用のコンデンサが入っていないから、特に問題ない変動幅です。
負荷が上昇すると、各電圧レールが分かりやすく低下します。
Steel Legend SL-850GWは「ATX 3.1」と「PCIe 5.1」規格に準拠した電源ユニットなので、各電圧レールの許容範囲は±5%で、+12Vレールは+5% / -7%、12V-2×6レールは+5% / -8%が許容範囲です。
PCIe 12V [RTX 4090] | 変動幅 | |
---|---|---|
最大値 | 12.06 V | 0.50%(< 5.00%) |
最低値 | 11.89 V | -0.94%(> -8.00%) |
EPS 12V [Core i9 13900K] | ||
最大値 | 11.94 V | -0.49%(< 5.00%) |
最低値 | 11.85 V | -1.26%(> -7.00%) |
ATX +12V | ||
最大値 | 12.08 V | 0.69%(< 5.00%) |
最低値 | 12.00 V | -0.02%(> -7.00%) |
ATX +5V | ||
最大値 | 5.14 V | 2.72%(< 5.00%) |
最低値 | 5.12 V | 2.46%(> -5.00%) |
ATX +3.3V | ||
最大値 | 3.29 V | -0.27%(< 5.00%) |
最低値 | 3.28 V | -0.58%(> -5.00%) |
すべての電圧レールが問題なくATX 3.1規格で定められた許容範囲に収まっています。
ATX +5Vレールだけ異常に高いですが、ASRockが独自に導入した「+5V BOOST」機能の影響だと思われます。
連続的で急激な負荷変動でも安定動作
- CPU負荷:Prime95 Small FFTs(TDP:253 W)
- GPU負荷:FurMark 2 1920 x 1080(TGP:510 W)
連続負荷ベンチマークを実行した状態で、FurMark 2でスペースバーを押しっぱなしにします。すると、グラフィック描画が500ミリ秒ごとにオンオフを繰り返し、連続的な負荷変動を再現可能です。
500ミリ秒ごとに負荷が止まって436 W前後まで下がり、また500ミリ秒たつと負荷が再開して886 W前後まで上昇・・・を延々と繰り返す過渡応答に似た状況です。
このとき、電源ユニット内部からレーザー銃の撃ち合いを思わせる激しい電子音(キュッ↑キュッ↓ジーッ↑ジーッ↓みたいな音)が連続して鳴ります。
結局1分くらいスペースバーを押し続けて急激な負荷変動を加えた結果、問題なく安定して動作しつづけました。
負荷の変動に合わせて、各電圧レールが分かりやすく乱高下します。
PCIe 12V [RTX 4090] | 変動幅 | |
---|---|---|
最大値 | 12.09 V | 0.71%(< 5.00%) |
最低値 | 11.86 V | -1.19%(> -8.00%) |
EPS 12V [Core i9 13900K] | ||
最大値 | 12.08 V | 0.68%(< 5.00%) |
最低値 | 11.82 V | -1.49%(> -7.00%) |
ATX +12V | ||
最大値 | 12.11 V | 0.88%(< 5.00%) |
最低値 | 11.97 V | -0.26%(> -7.00%) |
ATX +5V | ||
最大値 | 5.15 V | 2.90%(< 5.00%) |
最低値 | 5.12 V | 2.38%(> -5.00%) |
ATX +3.3V | ||
最大値 | 3.30 V | -0.06%(< 5.00%) |
最低値 | 3.28 V | -0.73%(> -5.00%) |
すべての電圧レールが問題なくATX 3.1規格で定められた許容範囲に収まっています。急激な負荷変動に対しても問題なく正常動作です。
各ケーブルや電源本体の表面温度
約890 Wの連続負荷テストを約45分つづけたあと、サーモグラフィカメラで電源ユニット本体の表面温度を撮影します。
ファングリル正面の表面温度です。冷却ファンが勢いよく回っているから、正常な温度をまったく取れません。
コンセント側から撮影すると、電源ユニット内部の温度を確認できます。もっとも熱いエリアで80℃台に達します。
Steel Legend SL-850GWに使われている固体コンデンサの多くが日本メーカーブランドの「定格105℃」品で、80℃程度の負荷なら余裕で耐えられる試算です。
プラグインコネクタ周辺の表面温度です。12VHPWR(12V-2×6)コネクタ付近が40℃前後、EPS 12VやATX 12V付近は25~30℃(Δ2~7℃)程度に収まります。
多くの自作PCユーザーが恐れている12V-2×6(旧12VHPWR)ケーブルの表面温度です。撮影時で510 Wもの電力が流れていますが、表面温度はたった30℃台(Δ7℃)にとどまります。
システム側の12V-2×6(旧12VHPWR)ケーブルの表面温度です。
せいぜい40℃台(Δ17℃)にとどまっていて、PCI-SIGが策定した規格最低温度(= 70℃)まで十分すぎるほどのマージンが確保されています。
筆者の長いRTX 4090運用歴の中でも、システム側の表面温度は高くても50℃台(Δ20℃)です。どちらにせよ俗に言われる「溶融」に到達するのは極めて困難でしょう。
負荷ごとの電源ユニットの騒音値
電源ユニットから約50 cmほど離れた位置に「デジタル騒音計」を設置して、負荷ごとに1秒ずつ騒音値(デシベル値)を測定します。
消費電力(DC側) | 騒音値 |
---|---|
0 W | 32.0 dB |
60 W | 32.5 dB |
120 W | 32.6 dB |
160 W | 32.6 dB |
350 W | 32.5 dB |
400 W | 32.9 dB |
450 W | 32.9 dB |
500 W | 32.8 dB |
550 W | 32.7 dB |
600 W | 33.0 dB |
650 W | 33.5 dB |
700 W | 33.5 dB |
750 W | 33.8 dB |
800 W | 34.4 dB |
850 W | 35.1 dB |
890 W | 35.4 dB |
デジタル騒音計による測定値は以上のとおりです。
でも、測定値(dB)だけだとかなり誤解を生む可能性が高い動作音だったから、負荷ごとに聴いてみた主観的なコメントを書いておきます。
消費電力(DC側) | コメント |
---|---|
0 W | 完全に無音です |
60 W | |
120 W | ほぼ完全に無音です |
160 W | ファンは回っていないものの、「ジーッ」とした冷蔵庫に似た稼働音が極小で鳴っています |
350 W | ファンは回っていないけど、160 W時より電子的な稼働音がわずかに大きいです |
400 W | 50 cmの距離でも「ジーッ」とした稼働音がほんのわずかに聴こえます |
450 W | 400 W時よりも稼働音が聴こえやすいです |
500 W | 450 W時とほとんど変わりない動作音です |
550 W | |
600 W | |
650 W | わずかに「ジーッ」とした稼働音が大きくなった気がするけれど、まだまだ「静音」といえるレベル |
700 W | 650 W時とほとんど変わりない動作音です |
750 W | ファン自体は依然として静かでも、ジーッとした稼働音がそこそこ気になってきた |
800 W | ジーッとした稼働音が50 cmの距離でもはっきり聞き取れて「静音」とは言い難い状況 |
850 W | 800 W時よりわずかに動作音が大きくなった感あり |
890 W | 850W 時より少しだけ動作音が大きく、もう「静音」とは到底言えない状況 |
おそらく150 W前後が、「ジーッ」「ジリジリ・・・」とした冷蔵庫に似た電子的な稼働音が鳴り始める閾値です。
Cybenetics LabsのLAMBDA認証いわく、負荷400 Wまで「< 6.0 dB(無音)」表記でしたが、今回のレビュー機はおそらく「ジーッ」と鳴りやすい個体だった可能性があります。
負荷350 ~ 890 Wまで、基本的にファンの風切音よりも電子的な稼働音の方が一貫して大きい傾向です。ファンがうるさい訳ではなく、常に電子的な稼働音がファンの動作音を上回っています。
せっかく冷却ファンが凄く静音なのに、電源ユニット内部から鳴ってくる「ジーッ」とした稼働音が惜しいです。
急激な負荷変動時にも「キュッ↑キュッ↓ジーッ↑ジーッ↓」と鳴いていて、グラフィックボードも同期するようにコイル鳴きします。
しかし、何度も言うようにファンの動作音自体は一貫して静かです。ファンの動作音以上に、電源内部の電子的な稼働音が常に上回るイメージ。
「+5V BOOST」機能の効果
(平均4.5 Wの負荷を掛けて電圧変動をチェック)
ASRockがアピールする「5V BOOST」機能は、シンプルに説明するなら「昇圧」です。
+5V電圧を許容範囲内(±5%)に収まるかたちで基準値より少し高めに出力して、USBポート経由の+5V電圧を底上げします。
USB 5V | 最大変動 | ブレ幅 | 5Vの偏差 |
---|---|---|---|
ASRock SL-850GW (5V BOOST) | 215.6 mV | 0.03 mV | 0.26% |
KRPW-GA850W/90+ | 209.9 mV | 0.10 mV | 3.64% |
Corsair HX850i 2021 | 172.0 mV | 0.07 mV | 3.03% |
USB Type-Cポートが標準で対応する「4.5 W(5 V x 0.9 A)」の負荷を掛けて、USB 5V電圧の変動を比較しました。
負荷がかかった瞬間の電圧降下幅や、負荷がかかっている間のブレ幅はどれも大差ないですが、5V電圧とのズレ(偏差)はASRock SL-850GWがもっとも抑えられています。
玄人志向のKRPW-GA850W/90+だと、規格の下限値(4.75 V)スレスレです。
USB 5 Gbps以上のType-Cポートで対応している「7.5 W(5 V x 1.5 A)」負荷も検証します。
USB 5V | 最大変動 | ブレ幅 | 5Vの偏差 |
---|---|---|---|
ASRock SL-850GW (5V BOOST) | 313.4 mV | 0.03 mV | 2.87% |
KRPW-GA850W/90+ | 312.9 mV | 0.56 mV | 6.20% |
Corsair HX850i 2021 | 277.8 mV | 0.10 mV | 5.36% |
電圧降下幅がさらに拡大してしまい、ASRock SL-850GW以外の電源ユニットはどれも規格の下限値(4.75 V)を下回ります。
5V BOOST機能で+5Vレールを底上げする意味が最初こそ理解できなかったですが、USB 5V電圧を±5%の幅に収めるやすくなるメリットがあります。
電圧降下幅が大きすぎると、USB機器が必要とする電力を十分に満たせない※など、実用上のデメリットが生じる可能性を考えられます。
- ASRock SL-850GW:平均7.23 W
- KRPW-GA850W/90+:平均6.97 W
- Corsair HX850i 2021:平均7.05 W
USB Type-Cポートにつないだ機器が要求した電力「7.5 W」に、もっとも近い数値を出せたのがASRock SL-850GWです。
※7.5 Wも消費するUSB機材には、おそらくACアダプターが付属するはずだから、実用上あり得るシチューエーションかどうか不明。
ASRockの一部マザーボードについている「Ultra USB Power」ポートと似ているようで違う構造です。Ultra USB Powerは+12V電圧をマザーボードのVRMを経由して+5Vに降圧する構造です。
だから電源ユニット側の電圧変動をVRMで吸収し、安定したフラットな電圧を常に供給できます。一方、5V BOOST機能は単なる昇圧ですから、電源ユニット側の変動をモロに受けます。
まとめ:ASRockブランドで統一するならおすすめ
「Steel Legend SL-850GW」の微妙なとこ
- ATX 20+4 pinが挿し込みづらい
- PCIe 6+2 pinは太さ18 AWG
- 「ジーッ」冷蔵庫のような稼働音
- 急激な負荷変動時にピーキーな音
- 完全な無音状態は150 Wまで
(※気温や周辺温度に左右されます) - フル負荷時の動作音が気になる
「Steel Legend SL-850GW」の良いところ
- 日本メーカー「105℃」個体コンデンサ
- 容量850 Wを110%使えます
- 許容範囲内に収まる安定した電圧
- ファンの動作音が全体的に静か
- セミファンレス対応(切り替え可能)
- 変換効率が全体的に高い
- USBポートの電圧が昇圧されます
(USB 5Vの規格範囲内に入りやすい) - 白色モデルはケーブルまで全部「白色」
- まったく問題ない表面温度
- 柔らかくて扱いやすい各種ケーブル
- 12V-2×6ケーブル付属(最大600 W対応)
- メーカー10年保証
容量850 Wを超える強烈な連続負荷から、400~900 Wの激しい負荷変動まで、たいていの用途に問題なく耐えられる「マトモな電源ユニット」です。
筆者がよくおすすめしているCORSAIR RMxシリーズや、XPG Core Reactorシリーズと同様に、ASRock SL-Gシリーズも流行りのハイエンド構成に耐えられる良い電源ユニットと評価できます。
ASRock電源独自の「5V BOOST」機能のおかげで、マザーボードのUSB 5V電圧が規格内(±5%)に収まりやすい効果も付いてきます。
なお、今回のレビュー個体は負荷時に「ジーッ」と電子音が鳴りやすいです。何度も書くように、冷却ファン自体の動作音やセミファンレス制御にほとんど問題が無いだけに惜しいです。
以上「ASRockの電源「Steel Legend SL-850GW」を使ってみた感想【鋼伝説の電源】」でした。
「Steel Legend SL-850GW」を入手する
参考価格 ※2024/12時点 | |
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2024年12月時点、定価が約2万円です。Yahooショッピングのポイントアップ込で、実質1.5万円(約15400円)から買えます。
おすすめ電源ユニットまとめ
マザーボードのレビュー記事まとめ
これの1000w以上のモデルが出てくれればなぁ
850 W → 1000 Wで約1万円も値段が上がるから、コスパ的に850 Wでいいような気がします
ご存じかもしれませんが、一応Steel Legendシリーズには1000W版があります。
Taichiシリーズ(1650W、1300W)とPhantom Gamingシリーズ(1600W、1300W、1000W、850W、700Wのうちいずれか)もそのうち国内販売されるらしいですが、どんな価格になるんでしょうね……
「堅若磐石」は、本家ASUSのスローガンの気が…
ASRockの広報資料(ファンミーティングなどイベントで使う資料)だと、「岩のように硬く」というスローガンを見かけます。
ASRockの中の人にも確認したけど、そういうスローガンはあるそうです。
ASRockって社名自体がAs Solid as Rock(岩のように硬い)に由来するって原口アニキが先日質問箱で回答してましたね。
情弱や初心者ほど使用電力の2倍の電源が必要とか大した証拠も示さず一生脳死で言い続けながら棺桶の中に入り死んでいく
そもそも4090は850Wで充分
給電能力ギリギリまで使うと瞬電でPCがダウンする場合があるし騒音のグラフを見ても定格の70%を超えたあたりから急に音がデカくなってて電源への負担が重たくなってるのが見て取れるけど
初期状態なら増設を見越して50%に抑えるってそれなりに理に適ってるんでないかな
昔は50%ぐらいで転換効率が最大になるですから
知らんけど
レビューありがとうございます。
特に稼働音(コイル鳴き?)のレビュー助かります。ここレビューしてくれるところ少ないので…
最近、コンセントに繋いでいるだけでもジーというコイル鳴きが出てくる電源多いですね。CWT系や紫蘇系はあんまりないのですが、CoolerMasterやCorsairで製造元不明のものは比較的高いラインでも出る傾向があるようです。(手持ちの個体ですが)
Corsair RMe(HEC製)はコイル鳴きが多いそうです。
Corsair RMxとHXi(CWT製)は過去に4~5台買ってますが、コイル鳴きのない凄まじい静音性でした。なんとなくHECが手掛けた電源はコイル鳴きが多いような評判ですね。