2017年に登場した「GT 1030」と「RX 550」は、3年近く目立った進化が見られなかったローエンドGPU市場を大きく沸かせた存在です。しかし困ったのは、両者ともに価格設定は全く同じで、処理性能もおそらくはほぼ同格だろう…ということ。
本記事ではGT 1030とRX 550、どちらを買ったほうが良いのかを解説してみたい。
この記事の目次
処理性能で対決:GT 1030 対 RX 550
やはりグラフィックボードを選ぶ上で一番最初に確かめなければならないのは「処理性能」です。フレームレートが出ないグラフィックボードは基本的に需要がない※からなぁ…。
※NVEnc(動画エンコードにGPUを使う)、GPUマイニング(暗号通貨を採掘する)など、特殊な用途は例外だったりしますが。
テスト環境
対決に使われたグラフィックボード2種 | ||
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ボード | ![]() | ![]() |
GPU | MSI GeForce GT 1030 2GH LP OC | ASUS Radeon RX 550 4G |
ダイサイズ | 74mm2 | 103mm2 |
プロセスサイズ | 14nm | 14nm |
ベースクロック | 1265Mhz | 1100Mhz |
ブーストクロック | 1518Mhz | 1183Mhz |
シェーダーユニット数 | 384 | 512 |
TMU数 | 24 | 32 |
ROP数 | 8 | 16 |
演算ユニット数 | 3 | 8 |
理論性能 | 1127 GFLOPS | 1211 GFLOPS |
VRAM容量 | GDDR5 2GB | GDDR5 4GB |
メモリーバス | 64bit | 128bit |
メモリー帯域幅 | 48.06GB/s | 112.0GB/s |
接続端子 | PCI Express 3.0 x4 | PCI Express 3.0 x8 |
補助電源 | 不要 | 不要 |
TDP | 30W | 50W |
MSRP | $79 | $79 |
性能対決に使われたのはMSI製のGT 1030(VRAM:2GB)と、ASUS製のRX 550(VRAM:4GB)の2種。一応、基本的な仕様(カタログスペック)も確認しておこう。
GT 1030の特徴は、シェーダーユニット数(CPUのコア数みたいなもの)が少ない代わりにクロック周波数は最大で1.5Ghzを超えるなど、かなり高クロックで動作する点です。
逆にRX 550は、シェーダーユニット数や演算ユニット数が50%くらいGT 1030よりも多く搭載されている。しかしクロック周波数は低く設定されていて、最大でも1.2Ghzに届かない。
- GT 1030:クロック周波数が速い & コア数は少なめ
- RX 550:クロック周波数が遅い & コア数は多め
これがどのように戦いに響いてくるのか、順番に見ていこう。なお、CPUは「Ryzen 3 1300X」(4コア4スレッド)が使われ、メモリはDDR4-3200で16GB搭載という環境。
今回はどちらもローエンドGPUなので、Ryzen 3程度で十分に性能は足りる。メモリは3200Mhzで動作しているため、Ryzen特有のメモリ由来のボトルネックを心配する必要もほぼ無い。
安心してデータを見ていい…ということだ。
eSports Benchmark: GeForce GT 1030 vs. Radeon RX 550
CS:GO

CS:GO / フルHD(1920×1080) – 最低設定
平均フレームレート最低フレームレート(全体の1%)
低性能GPUの検証だから当然「最低設定」におけるフレームレートを確認する。画質は妥協してもいいので、低予算でパフォーマンスを追求したい…というユーザー層はやっぱりいますから。
というわけで、CS:GOに関してはどちらも平均200fps超え、最低100fps超えという中々の性能を記録した。これだけのフレームレートが出ればゲーミングモニターで遊ぶのも余裕。
CS:GO / フルHD(1920×1080) – 最高設定
「高設定」に切り替えると全体的に重たくはなるが、それでも平均フレームレートは160fpsも出ている。CS:GOをゲーミングモニターで遊ぶくらいなら、GT 1030で案外余裕ということ。
Overwatch

Overwatch / フルHD(1920×1080) – 低設定
次は「Overwatch」を、低設定にて。平均フレームレートは両者ともに100前後で、最低fpsも70周辺で止めるなど、意外とやれるローエンドGPU。
Overwatch / フルHD(1920×1080) – 高設定
高設定に引き上げるとさっきまで微妙に負けていたRX 550が頭一つ抜けるパフォーマンスを見せつけた。
理由としては…VRAM容量の違いです。高設定以上になると、1.5~1.8GB程度はVRAMを食うようになるため、2GBしか無いGT 1030ではボトルネックが発生してしまったんですよ。
VRAM容量が残りわずかになるとフレームレートが急落する現象については以下の記事が詳しい。
DOTA 2

DOTA 2 / フルHD(1920×1080) – 最低設定
1日のアクティブユーザー数が70万人を超える人気タイトル「Dota 2」はこんな感じ。最低設定なら全然余裕ですね。RX 550は安定性にやや難がありそう。最低fpsで14も差がついてしまっている。
DOTA 2 / フルHD(1920×1080) – 最高設定
最高設定に切り替えると平均60fps前後で落ち着くように。しかし、RX 550はどうも最低fpsが同じ水準にならず、不安定な様子。
Rainbow Six Siege

Rainbow Six Siege / フルHD(1920×1080) – 低設定
R6Sでは、GT 1030が平均60fps超え、RX 550は微妙に超えられていないが許容範囲内だろう。と言っても、やはり最低fpsは落ち着きがない様子で、スムーズが快適さを追求するならGT 1030の良さそうだ。
Rainbow Six Siege / フルHD(1920×1080) – 高設定
高設定に切り替えても傾向は変わらない。
World of Tanks

World of Tanks / フルHD(1920×1080) – 最低設定
World of Tanksの最低設定は200fpsに迫るパフォーマンス。傾向としてはやっぱりGT 1030の方が強い。
World of Tanks / フルHD(1920×1080) – 高設定
高設定に切り替えると途端に重たくなって、60fpsすら維持できなくなり、更にGT 1030とRX 550の差は開いてしまった。
Quake Champions

Quake Champions / フルHD(1920×1080) – 低設定
スポーツ系FPSでは有名なQuakeの最新作でのテスト結果。残念ながら、AMD製GPUとの最適化は良くないようですね。理論性能はほぼ同格なのに、実際の処理性能は20%ほど開いてしまっている…。
Quake Champions / フルHD(1920×1080) – 高設定
高設定にすると更に差は開いて、40%前後の性能差が出た。Quake ChampionsをプレイするつもりならGT 1030で確定だな。
Battlefield 1

Battlefield 1 / フルHD(1920×1080) – 低設定
BF1ではRX 550の方が15%ほど高いフレームレートを出せています。最低フレームレートでは20%も引き離しており、最適化されていればRX 550はちゃんと優秀。
Battlefield 1 / フルHD(1920×1080) – 高設定
高設定になると両者ともに性能不足な結果。ほぼ平均30fpsしか出ていないが、1世代前のGT 730と比較すれば大幅に進化したと言える(3年近いブランクがあるので当然ではあるか)。
PUBG

PlayerUnknown’s BattleGrounds / フルHD(1920×1080) – 最低設定
Steamでアクティブユーザー数が最も多い超人気タイトル「PUBG」は…やっぱり重たい。最低設定ですら平均30fps前後を出すのがやっと…。しかも、PUBGはVRAMを4GB以上使えるので、おそらくボトルネックも発生してるだろう。
以前作った自作PCで、GT 1030を使ってPUBGをプレイしたことがありますが。やはり実際の数値以上に、体感上の動作は酷いものだったからね。頻繁にフレームレートが急落し安定しないのです。
PlayerUnknown’s BattleGrounds / フルHD(1920×1080) – 中間設定
中間設定にすると更に酷い状態に。ここまでフレームレートが下がってしまうとマトモに勝てないと思います。ガタガタなので。
消費電力で対決:GT 1030 対 RX 550
Crysis 3 / WQHD(2560×1440) – 最高設定
ゲーミング時の消費電力アイドル時の消費電力
ボート全体の消費電力を、Crysis 3を実行中に計測したもの。GT 1030は125Wで、RX 550は137Wを消費した。9%程度しか違わないので、ほとんど気にしなくていいレベルですね。
アイドルではGT 1030は62W消費し、RX 550は68W消費した。こちらも10%程度の差でしか無いため、消費電力の違いは両者を選ぶ上での理由には成りえない…。
GPUエンコードについて
「別に気にしないけど。」という人のほうが多そうだが、一応大きな違いがあるので書いておきます。NVIDIAの場合は「NVENC」が、AMDの場合は「VCE(Video Coding Engine)」というエンコーダが用意されている。

NVENCはPascal世代には問題なく搭載されているはずなんだが、GT 1030は例外でNVENCに対応していません。

逆にRX 550(Polaris世代)は問題なくVCE 3.0が搭載されているため、A’s Video ConverterなどVCEに対応したソフトを用いたH264 / H265の動画エンコードが可能です。
GPUエンコード目的でローエンドGPUを探している人は、GT 1030がNVENCに対応していない点に注意したい。
総合的に見ると「GT 1030」の方がオススメできる

現状はNVIDIAに最適化されているソフトのほうが多く、クロック周波数も依然としてパフォーマンスに与える影響が大きいため、ゲーム用途であるなら「GT 1030」で間違いないです。
実際に低設定においてRX 550が勝てたのは「Battlefield 1」のみで、それ以外のタイトルでは全てGT 1030がRX 550よりも高いフレームレートを叩き出した。性能重視なら本当にGT 1030で良いだろう。
「RX 550」は価格面でもアドバンテージを抱える
2GB版なら、RX 550もGT 1030も同様に「79ドル」で購入可能。しかし、国内の場合はRX 550の方がかなり割高な価格設定になっていて、せっかくのコストパフォーマンスが台無しになっているんです。
- GT 1030:8000円前後
- RX 550:11000円前後
こういう事情もあって、尚更「GT 1030」の方が選択肢として魅力的になってしまっている。11000円出すなら、あと2000円追加して「RX 460」や「GT 1050」に手が届くからねぇ。
「GT 1030」の悩ましいところ…
一方で、GT 1030もある欠点を抱えている。予算厳守と決めている人なら問題にはならないだろうが、「あと少し出せば、一気に性能が伸びるのか…」と考えてしまう人には悩ましいところです。
PlayerUnknown’s BattleGrounds / フルHD(1920×1080) – 中間設定
これを見ての通り、GT 1030からワンランク上のGTX 1050にするだけで平均23fpsが一気に平均48.9fpsまで改善する。50%くらいの追加コストに対して、性能は倍以上に伸びているのである。
Amazon最安値 / 平均フレームレート = 性能あたりコスト
そこで、Amazonでの最安値を、PUBG(中間設定)の平均フレームレートで割り算し、性能あたりのコストを出してみた。数値が低いGPUほどコスパに優れていることを示します。
「GTX 1050」と「GTX 1050 Ti」はほぼ拮抗しており、「GT 1030」はやや割高な状態ですね。しかもGTX 1050以上になればNVENCも使用可能になるので、GPUエンコードを考えている人にとっても最適だ。
まとめ
「GT 1030とRX 550のどちらが良いのか?」という戦いになれば、GT 1030で問題ないという結論です。
- ローエンドGPUが好きな人
- GT 730から乗り換えたい人
- グラボには絶対1万円以上は出せない人
こういう人にとって、GT 1030は最良の選択肢と言える。GT 1030は1万円以下のGPUとしては最高の性能(2017年時点)を持っていますから。
- NVENCを使いたい
- 重量級タイトルをプレイしたい
- 多少予算はオーバーしてもいいから、性能を重視したい
逆にこういう人にとってはGT 1030は悩ましいライン。かなり確率でGTX 1050 ~ GTX 1050 Tiなどを検討した方が、QOLは高いと思われます。
オススメなGT 1030搭載ボード
ASUS NVIDIA GT1030搭載ビデオカード GT1030-SL-2G-BRK
GT 730と同じく、やはり王道はASUSが製造しているファンレスモデルだ。高負荷時(PUBGなど)には温度が80度近くまで上昇するが、音はビックリするくらい静か(ファンレスだからね)。
特にハードなゲーミングをするつもりは無い、という人ならASUSのファンレスモデルで問題ない。
無難にしっかり冷えるモノが良いなら、シングルファン搭載のMSI製GT 1030がオススメ。
GT 1030搭載BTO

「GT 1030が搭載されている安価なPCってあります?」という人には、ドスパラが売ってる「Magnate IC」がコスパ良好でオススメ。
一応、パソコン工房とマウスコンピューターでも似たような構成を探したんですが、そもそもGT 1030搭載BTOが無かったり、あるけれどSSDにカスタマイズする差額が大きすぎるなど問題が多かった。
「Magnate IC」だと、「HDD 500GB → SSD 120GB」と「メモリ 4GB → メモリ 8GB」を施しても価格が1万円以上変化しなかったので、一番コスパは良いですね。
以上「ローエンドGPU対決、GT 1030とRX 550はどちらが買いか?」について解説しました。
[…] ローエンドGPU対決「GT 1030」と「RX 550」はどちらが買いか? 更新日2017.10.01 […]