AMDのHEDT向けCPU「Ryzen Threadripper」を駆逐(リベンジ)するために、インテルが急遽作り出したのが「Core X」シリーズであり、TRの頂点に立つ「1950X」を打倒しようとする意欲作が「Core i9 7980XE」だ。
1950Xより2コア上乗せして徹底抗戦するつもりの「i9 7980XE」だが、問題は1999ドルという馬鹿高い価格にある。果たして、999ドルで16コアを持つ「1950X」を倒せるほどの性能とコスパを「i9 7980XE」は持っているのか。
各種ベンチマークデータで確認してみたい。
この記事の目次
まずは「i9 7980XE」の仕様を

CPU | i9 7980XE | Ryzen TR 1950X |
---|---|---|
プロセスルール | 14nm | 14nm |
世代 | Skylake-X | Zen |
コア数 | 18 | 16 |
スレッド数 | 36 | 32 |
ベースクロック | 2.6 Ghz | 3.4 Ghz |
ブーストクロック | 4.2 Ghz | 4.0 Ghz |
Turbo Boost 3.0 | 4.4 Ghz | 4.2 Ghz |
L2 Cache | 18 MB | 8 MB |
L3 Cache | 24.75 MB | 64 MB |
対応メモリー | x4 DDR4 | x4 DDR4 |
PCIe | 44レーン | 64レーン |
CPUソケット | LGA2066 | TR4 |
TDP | 165W | 180W |
MSRP | $ 1999 | $ 999 |
仕様(カタログスペック)を確認します。「i9 7980XE」は18コア搭載で、ベースクロックは2.6Ghzと低め。最大クロックは4.4Ghzだが、これはRyzen 1950Xの4.2Ghzとさほど変わらない。
L2 Cacheは18MBもあり、キャッシュが重視されるアプリにおいてはRyzen 1950Xを圧倒するだろうが…L3 Cacheに関しては24.75MBで、相手は脅威の64MB搭載。このあたりはデータを見てみないとなんとも言えないね。
対応メモリーはどちらもクアッドチャネルのDDR4-2666である。PCIeレーン数はi9 7980XEが44本対応で、Ryzen 1950Xは64本も対応している。IO帯域幅では既に負けてしまっています。
最後にMSRP(希望小売価格)を再確認する。18コア搭載のi9 7980XEは1999ドルで、16コア搭載のRyzen 1950Xはわずか999ドル。2コアのために倍額を出せるか?
正直、厳しいだろう。2コアのためにあと追加で1000ドルも出すなんて正気の沙汰ではない。…と、結論が出そうになったが、データを見よう。
ターボブースト時のクロック周波数 | ||
---|---|---|
コア | i9 7980XE | i9 7960X |
1 | 4.2Ghz | 4.2Ghz |
2 | ||
3 | 4.0Ghz | 4.0Ghz |
4 | ||
5 | 3.9Ghz | 3.9Ghz |
6 | ||
7 | ||
8 | ||
9 | ||
10 | ||
11 | ||
12 | ||
13 | 3.5Ghz | 3.6Ghz |
14 | ||
15 | ||
16 | ||
17 | 3.4Ghz | – |
18 |
動作コア数によって最大クロック周波数が違う仕様です。18コアすべてを使う時は「3.4Ghz」が限界で、12コア動作時は「3.9Ghz」が限界ということ。
これはオーバークロック時に性能が大幅に上がる可能性を秘めていることを示唆する。
Ryzen 1950Xを倒せるか?「i9 7980XE」の処理性能
18コア搭載の「i9 7980XE」が想定している敵は当然「Ryzen Threadripepr 1950X」だ。2コアも上乗せしていることからも、インテルの「潰してやる、コノヤロー。」感がひしひしと伝わってきます。
CPUの性能は他のCPUと比較しながら見ていかないと浮き彫りに出来ない。というわけで…
- Core i9 7980XE(18コア / 36スレッド / $1999)
- Core i9 7960X(16コア / 32スレッド / $1699)
- Ryzen 1950X(16コア / 32スレッド / $999)
以上3種のCPU性能を見ていく。果たして、インテル勢はその馬鹿高いコストに見合った処理性能を発揮できるのだろうか。
PCMark 10
PCMark 10は「PCMark 8」の後継ソフト。パソコンを使う時の、ごく一般的な処理性能をスコア化します。スコアが高いほどモッサリしづらい…傾向にある。まぁ、AMD Ryzen系には当てはまらないことも多いですけど。
Essential Set Score
PCMark 10 – Essential Set Score
このテスト。やっぱり処理性能が効率化されているCPUほど有利ですね。1コアあたり性能が高く、かつコア数が適量なCPUほど良い結果を出しやすいため、10コア超えのRyzen TRやCore i9は苦戦します。
この結果を見る限り、8コアまでは大丈夫そう。Ryzen 7 1800Xは意外と健闘していますから。
Productivity Set Score
PCMark 10 – Productivity Set Score
生産性のテストでは主に「文書作成」「スプレッドシート(表計算)」を中心に評価が行われる。このような分野は当然、1コアあたりの処理性能がモロに効いてしまうので…結果は見ての通りだ。やはりこの分野、Core i7 7700Kが最強である。
Creation Set Score
PCMark 10 – Creation Set Score
創造性のテストは「写真編集」「動画編集」「レンダリング」「仮想化」の分野における処理性能を検証可能。結果はこんな感じで、16~18コア勢は概ね僅差。1999ドルの価値は全く無いと言える。
Physics Score
PCMark 10 – Physics Set Score
Physics Scoreは、3DMark FireStrikeで計測されるあの「Physics Score」とほぼ同じ内容です。これは…順当にCPU性能が効くはずだが、i9 7980XEは予想外に苦戦。最強はRyzen 1950Xでした。最高~。
Corona 1.3
Corona 1.3
3ds MaxやMayaといった3Dソフトウェアを用いて光線のシミュレーションを行うベンチマーク。基本的にCoronaはスレッド数とスレッドあたりの処理性能に影響を受けるため、割りと簡単に、コロッとi9 7980XEが圧勝します。
同じ32スレッドのi9 7960Xに対しても、Ryzen 1950Xは勝てていない。このことからSkyLake-Xはやはり1コア性能が強いことが示唆されている。
Blender 2.78
Blender 2.78
Blender 2.78を使って、レンダリングに掛かる時間を計測したもの。CPU性能に順当な結果が出たが…このテストが証明したのは、やっぱりRyzen 1950Xのコストパフォーマンスは異常な水準に到達している。ということだけだ。
POV-Ray 3.7
POV-Ray 3.7
CPUレンダリングを行うベンチマーク。1コアあたり性能が効いているのがよく分かるテスト結果ですね。同じ16コアのi9 7960Xに対しても、Ryzen 1950Xは勝てていない。このあたりの原因が次のCinebench R15で判明すると思います。
Cinebench R15
Cinebench R15 – Single Thread Score
1コアあたりの性能を示す「シングルスコア」はこんな感じ。インテル勢は190cb前後を叩き出すが、AMD勢は160cb前後なんですよね。20%くらいは違うため、コア数が多けれ多いほど差が開きやすい要因に。
Cinebench R15 – Multi Thread Score
マルチスコアは…ちょっと意外な結果。てっきりRyzen 1950Xを圧倒できるかと思ったが、実際の結果はi9 7960Xがほぼ同スコアで、i9 7980XEは約9%ほどスコアを更新しただけ。1999ドルもするのに…。
7-Zip Benchmark
7-Zip Benchmark – 圧縮
圧縮はインテル勢が得意。i9 7980XEは約66000MIPSで、Ryzen 1950Xは約45000MIPS程度になっている。
7-Zip Benchmark – 解凍
一方、解凍に関してはRyzenの方が得意です。2コア上乗せしたi9 7980XEと、16コアのRyzen 1950Xはどちらも約90000MIPSとほぼ同じ水準。
WinRAR 5.40
WinRAR 5.40 – Encoding
合計1.5GB(約2900ファイル)を別の形式に変換するのに掛かった時間を計測したもの。もっとも速かったのが16コアの「i9 7960X」で、逆に「Ryzen 1950X」は最も遅い結果になってしまった。やはり圧縮は不得意なRyzenですね。
HandBrake X264
HandBrake H264 – 低品質(640×266)
無料エンコードソフト「HandBrake」を用いたテスト。まずは低品質な画質への変換速度から。「i9 7980XE」は1614fpsを記録し、「Ryzen 1950X」は1464fps程度に収まった。負けてしまったが、価格に見合う性能とは言えない。
HandBrake H264 – 高品質(3840×4320)
4K60(3840×4320)という高解像度への変換速度は大幅に遅くなってしまうものの、インテル勢は60fpsに迫るなど中々驚異的な性能を見せた。AMD勢は52~54fpsと、こちらもかなり強い。…やはり価格差に見合っているとは言えないな。
HandBrake H264 – 4K60(H264)を4K60(HEVC)
変換した高解像度の映像を、H264からHEVC形式に変換する速度は更に遅くなるが、基本的な傾向は同じ。12コアの「Ryzen 1920X」は脱落気味で、「Ryzen 1950X」とインテル勢は依然として良い戦いをしています。
まぁ、この程度の違いしか無いなら、無理してSkyLake-Xを買う必要は無さそうですね。エンコード目的ならRyzen Threadripperで問題無さそうだ。
i9 7980XE…処理性能は思っていたより速くない
ここまで見てきた通り、18コア搭載の「i9 7980XE」は突出して強い傾向は無い。むしろ、場合によっては「i9 7960X」の方が強いこともあった。
一番驚いたのがCinebench R15のマルチスレッドスコアの低さ。リークした情報では4000cb超えもあったが、実際のデータは3300cb前後しか無い。Ryzen 1950Xより10%程度高いだけで、価格差に全く見合わない。
性能あたりのコスト – Cinebench R15 / MSRP
Cinebench R15(マルチスレッドスコア)で、1スコアを得るのに掛かるコストを出してみた。Ryzen 1950Xとi9 7980Xを比較してみるとほぼ倍額の違いがあるのが分かります。今年のHEDT向けCPUで最強の座につくのは「Ryzen 1950X」で確定かもしれない。
i9 7980XEの消費電力と熱
消費電力
パッケージ全体の消費電力(Prime95 ストレステスト実行時)
TDP(公称値)は165Wだが、実際のパッケージ全体の消費電力は190Wと、25Wもオーバーしている。Ryzen 1950Xは176Wを消費し、TDP(公称値)の180Wにちゃんと収まる結果に。
コア部分の消費電力
DRAMコントローラの消費電力を抜いて、コア部分だけに限定するとこんな感じ。i9 7980XEはコア部分だけで141Wを消費しているので、1個あたり7.8Wを消費していることになる。
ターボブーストに移行する時は1コア当たり20W以上の消費電力を記録することもあったため、オーバークロックを実行すれば容易に400W以上の電力を食うことは想像に容易い。
CPU温度
CPU温度 – アイドル時 & Cinebench R15実行時
Intel Core i9-7980XE Extreme Edition – 18 cores of overclocked CPU madness
冷却には一貫して直径80mmの接合部と、240mmのラジエターを採用する「Fractal Design Celsius S24」が使われている。しかし、この80mmの円形接合部はRyzen Threadripperが持つ長方形のヒートスプレッダを覆い被せないため完璧な冷却効率ではない点は留意しておきたい。
アイドル時は25~30度くらいで推移し、Cinebench R15を実行するとRyzen 1950Xでは60度まで、Core i9 7980XEは56度くらいまで上昇する。
Ryzen TRは「TR専用」を謳うクーラーじゃないと最適な冷却効率を得られないが、Core i9 7980XEに関しては「LGA 2011-v3」に対応したクーラーで問題ない。
今回テストに使われた「Fractal Design Celsius S24」もLGA 20111-v3対応モデルなので問題なく冷やせています。
i9 7980XEのオーバークロックは意外と…
オーバークロック時のCPU温度
CPU温度(オーバークロック) – アイドル時 & Cinebench R15実行時
円形の接合部にも関わらず、意外と冷やせていることに驚き…Fractal Designすごい。そして、i9 7980XEのオーバークロック耐性の高さにも驚く。18コアも入ってて4.60Ghzまで引っ張れるとは。
現状、Ryzen Threadripper 1950Xは上位5%の選別品を使用しているにも関わらず、4.10Ghzに大きな壁が存在していて4.1Ghz以上のオーバークロックが現実的ではない状態だ。
オーバークロック時 – Cinebench R15 Multi Score
4.60Ghzまでオーバークロックすることで、Cinebench R15のスコアは3300cbから4400cb前後まで向上させるられる。対するRyzen 1950Xは4.00GhzあたりのOCで3400cb前後が上限。
オーバークロックまで考慮するのであれば、i9 7980XEは約40%~50%くらいは高い性能を発揮でき、HEDT向けCPUとしては今年最強の処理性能に達する。1.5倍のために倍額を支払うかは別だが、少なくとも選択肢にはなる。
クロック別の消費電力とCPU温度
クロック周波数 / コア電圧 | CPU温度 | 消費電力 |
---|---|---|
定格 @ 1.005VID | 46 | 275 |
3.6Ghz @ 1.000VID | 47 | 310 |
3.7Ghz @ 1.030VID | 51 | 330 |
3.8Ghz @ 1.050VID | 54 | 350 |
3.9Ghz @ 1.077VID | 56 | 365 |
4.0Ghz @ 1.100VID | 60 | 390 |
4.1Ghz @ 1.124VID | 64 | 415 |
4.2Ghz @ 1.148VID | 68 | 450 |
4.3Ghz @ 1.175VID | 71 | 485 |
4.4Ghz @ 1.203VID | 74 | 525 |
4.5Ghz @ 1.203VID | 75 | 540 |
4.6Ghz @ 1.203VID | 78 | 550 |
定格運用ならCPU単体で300Wくらいを想定すれば問題ない。オーバークロックまで入れると600Wは想定しておかないと危ないため、電源ユニットは80PLUS認定を受けており、1000W以上の容量がある製品で無ければ厳しいと言える。
それにしても…ただただオーバークロック耐性の高さに驚愕です。VIDも多くて1.20V程度なので、やはり設計が成熟している…と言えるのかも。Ryzen TRは4.1Ghz付近になると1.40Vを突破するからねぇ。
結論、OCするなら「i9 7980XE」は選択肢になりうる
性能あたりのコスト – Cinebench R15 / MSRP
オーバークロックも考慮したコストパフォーマンス比較。4.60Ghzにオーバークロックしたとしても、やはり50%程度は「割高」なCore i9 7980XEですが。現状、4000cbを突破できるHEDT向けCPUは他にない。
エンコード速度(HandBrake)も4.6GhzまでOCすれば15~20%は高速化できるため、Ryzen 1950Xを超えて圧倒的に最速なCPUにもなります。定格では全く魅力を感じなかったが、OCすると化けるということです。
最速を求めるなら、悪くはない
定格運用では10%程度の性能アップに倍額を払うという、中々厳しい状態だった。しかしオーバークロックまで含めば、50%(Cinebenchだが…)の性能アップに倍額を出すことになるため、若干マシになりました。
史上最速の処理性能のために、50%余分なプレミアムを払っても構わない…という人は多分いても違和感が無いので、そういうユーザーにとっては悪くない選択肢ではないかな。個人的には無理だけれど。
価格だけで勝負すればどうしても「Ryzen 1950X」の999ドル(国内:12万円前後)は強烈なので…。
個人的には「Ryzen 1950X」推しは変わらず

というわけで、「スリッパ推し」のポジションは変わりません。仮に「i9 7980XE」が1699ドルくらいで来ていれば文句無しでヤバかったと思うけれど…やっぱり約2000ドルをCPU1個に払うのは高すぎる。
以上「18コア搭載のCore i9 7980XEはRyzen TRを駆逐できるか。」について書きました。
CPU~な話題
i7 7700Kの後継「i7 8700K」の性能がリーク。依然として強烈なシングルスレッド性能を持ち、更に今回は6コア化。ゲーミング性能では最高のCPUになる可能性を秘めています。
Coffee Lake世代のラインナップを知りたい方はこちらの記事も。4コア搭載のCore i3、6コア搭載のCore i5など、第8世代は意外と見どころが多いですよ。
10万のCPUとか20万のCPUとかは完全に普通の人は使いませんよね。
性能がトップのほうがプライスリーダーになって価格の決定権を持つのでこの辺は意地の張り合いなのでしょうが・・・。
ゲーマーならこのCPUを買うならもう3ランクくらい落としてGTX1080Tiあたりを買ったほうが幸せになれる気がします。
どっちにしてもお金の有り余ってる人か金に糸目をつけない人用のものですね。
そうこうしてるうちに、“Cannon Lake”を2018年末に延期するという話が出てきました。
やはり、intelにとっても10nmは大変な難産のようで、すんなりは行かないようです。
7980XEのCinebenchR15スコアって全コア4.2GのOCじゃないの?
CPU-Zで見ると6950Xまでの上位は8-8-8-20 L1(I/D)コア×32KB×8way、L2 コア×256KB×8way、L3 20wayでしたけど7000の上位はL2 1024×16way、L3 11wayで8-8-16-11になってL3は敷地外になりました。キャッシュの最適化とメッシュ構造による遅延の解消と帯域幅の増加が1ダイに拘っている理由なのかも知れません。まあ10n待ちですね。
impressのベンチ結果との乖離が凄い
CINEBENCH 3300程度でしたよ
PCWatchで正確なのが出てるようです
7980XEは全コアフル動作時3.4GHzのクロックで3386cbでした
4204cbにするためには単純計算で4.2~4.3GHz必要になるでしょう
記事の内容をすべて刷新しました。OC耐性が意外と高いため、オーバークロックもゴリゴリやる…という人には選択肢になりうる(かも)。CPU単品に20万も出せるか、というのが最大の問題ではあるけど。